作詞家の藤林聖子さんが初めて『仮面ライダー』の作詞を担当したのは、2000年に放送された『仮面ライダークウガ』。10年間のブランクを経てのテレビシリーズ復活の作品だった。再出発の大役を任せられた当時を、藤林さんはこう振り返る。
「仮面ライダーはもちろん知っていましたが、子どもの頃の記憶にあるのはどちらかというと『シャリバン』や『ギャバン』などのメタルヒーローでした(笑)。でも作詞をするにあたっては、かつてのシリーズをあえて見直すことはしませんでした。先入観にとらわれず、それまで担当してきたアーティストやアニメの作詞の経験を活かし、当時の自分が持っているものでやってみようと。
かつて大ヒットしたシリーズで、さらに新世紀という節目なのだから、絶対に失敗できないという暗黙のプレッシャーがあったのだなと今ならわかります。振り返ってみると、『クウガ』は生みの苦しみを最も味わった作品で、思い入れの強いものの一つです。
作詞の段階でできあがっていた台本は1、2冊で、2〜4話ほど。ストーリーの展開がわからない中、手探りでの創作でした。打ち合わせをして、書き直す……これを何度も繰り返しましたね。環七通りのロイヤルホストで、夜中の2時からプロデューサーの高寺成紀さん、マネージャーさんたちと集まって明け方まで話し合ったのも今ではいい思い出です」
昭和の「戦え」から、「戦おう」「戦うんだ」へ。“ヒーローソングの達人”藤林聖子が語る仮面ライダー歌詞の変遷
『仮面ライダー』シリーズは昭和・平成・令和の3時代をまたぎ、今年で50周年。9月4日からは最新作『仮面ライダーギーツ』(テレビ朝日系)の放送が始まる。6月には、歴代のテレビシリーズ・劇場版の主題歌や挿入歌322曲を収録したCDボックスセットが発売。その収録曲の半数以上、実に167曲の作詞を手掛けたのが作詞家の藤林聖子さんだ。“ヒーローソングの達人”が、時代を超えて描いてきた仮面ライダーの世界観とは?
環七のロイホで明け方まで詞を議論
藤林聖子が“預言者”といわれる理由
作詞した主題歌がのちにストーリーと符合することが多いことから、ファンの間では「藤林聖子は“預言者”」といわれる。序盤のみの台本を手掛かりに、どのように詞の世界観をつくっていくのだろう。
「主題歌の作詞はテーマパークの大枠をつくるようなものではないでしょうか。なんとなく歌詞から書き始めてしまうと全体のイメージがブレてしまうので、まずはタイトルを先に決める。タイトルは、それぞれのライダーを象徴できるように心掛けています。
全体の進行スケジュールの都合で、毎回、渡されるのは台本1〜2冊のみなのですが、それだけの手掛かりでは具体的に核心をついたことは書けません。かといって、抽象的な言葉ばかりでも締まりがなくなってしまう。その加減が難しく、考えに考えた結果、“捉え方によってはこうも解釈できる”という表現に着地することがたびたびあります。プロデューサーさんに、番組が続く中でストーリー展開に困った時は主題歌を聴き直してスターティングポジションを思い出すと言っていただいたりしました」
藤林聖子
作詞家
1995年、作詞家デビュー。自身が造詣の深いR&B、HIPHOP系を中心にサウンドのグルーヴを壊さず日本語をのせるスキルで注目され、独特な言葉選びの“藤林ワールド“にも定評がある。安室奈美恵、E-girls、三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE、GENERATIONS from EXILE TRIBE、JUJU、ジャニーズWEST、Hey! Say! JUMP、平井堅、西川貴教、BOYS AND MEN、三浦大知、水樹奈々、May’n、ももいろクローバーZ、TWICE、BIGBANG、BTS、TXTなどのポップスから、スーパー戦隊、仮面ライダーシリーズの特撮、『ONE PIECE』、『ジョジョの奇妙な冒険』などのアニメ主題歌、「ヲタクに恋は難しい」などのミュージカル映画、CMソングまで多岐にわたり活躍。
小林悟
フリーライター
1981年、福井県生まれ。週刊誌『サンデー毎日』(毎日新聞出版)、『週刊文春』(文藝春秋)などで食にまつわる話題を中心に執筆。
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