たった12人の会社で7ヵ月の男性育休(育児休業)を取得!加藤たけしさんの軌跡

たった12人の会社で7ヵ月の男性育休(育児休業)を取得!加藤たけしさんの軌跡

たった12人の会社で7ヵ月の男性育休(育児休業)を取得!加藤たけしさんの軌跡

男性5.14%、女性83.2%

みなさんは、この数値がどんな意味を持つかおわかりですか?

こちらは国内における2017年度の「育休取得率」です。なかなか広がりを見せない男性の育児休業。

そんな中、男性でありながらも、たった12人のベンチャー企業で7ヵ月もの「育休」を取得されたのが、株式会社ループス・コミュニケーションズの加藤たけしさんです。

特に育休取得が難しいとされる中小企業、かつ育休取得者自体が初めてだったこちらの会社で、どのようにして長期の育休を取得できたのか?

共働きが加速する日本において大事なカギとなる「男性の育休」をテーマに、お話を伺ってきました!

加藤 たけし (かとう たけし)

ソーシャルシフトチーム コンサルタント ソーシャルメディアのビジネス活用コンサルティングを手がける株式会社ループス・コミュニケーションズに所属するマーケティング コンサルタント。一般社団法人 Work Design Lab 共同創業者・理事、一般社団法人 ソーシャルシフト・ラボ 事務局長を務めるなど、本業外でもNPO、マーケティング、地域活性、コミュニティデザイン、新しいワークスタイルに関連する講演や執筆を行う。准認定ファンドレイザー(ACFR=Associate Certified Fundraiser)。慶應SFC卒。一児の父。

福田 浩至(ふくだ こうじ)

取締役副社長 ソーシャルシフトチームリーダー 1984年 大学卒業後、株式会社日立製作所入社。1993年 同社を退社。以降、システム開発ベンチャー企業2社の開発責任者を歴任。2005年 株式会社ループス・コミュニケーションズを創業。取締役副社長に就任し、今日に至る。ソーシャルネットワークサービスの開発、ソーシャルメディアの企業導入コンサルテーションに従事。

「育休」をとった理由と経緯

まず育休の取得にあたって、会社とはどのようなやりとりをされたのでしょうか?

加藤:直属の上司である福田には、「子どもが産まれた際に、自分の生活の中での子どもの優先度を高く考えたい」旨を産前のタイミングから相談していました。妻の妊娠がわかった際も、安定期に入るか入らないかのかなり早い段階で報告をしました。

子どもが産まれてからしばらくは、在宅勤務や有給を多く使っていたのですが、やはり育休をきちんととりたいという思いがあったので、福田に相談して、正式に取らせていただきました。

期間については、具体的に「何ヵ月」というよりは「最大日数」取りたいと考え、結果的に7ヶ月になりました。

育休の取得に関して、奥さんとはご相談を?

加藤:もちろんです。僕としては、妻とのコミュニケーションを何より重要視していましたので。そもそも取得した方がいいのか、そうではないのかも含めて2人でよく相談し合いましたね。

育休を取得しない男性も多い中で、なぜ加藤さんは取得することを決めたのでしょうか?

加藤:産後に改めて、子どもと一緒にいられる時間をできるだけ多く作りたいと考えたからですね。子どもって、実際に生まれてみると想像していたよりもずっと可愛くて(笑)

それに加えて、妻は僕と同じように仕事が好きなタイプなので、早めに復帰して仕事を頑張りたいのもわかっていました。また、妻はフリーランスなので「産前・産後休業」や「育休」がないのも大きな理由の一つです。

であれば、会社員である僕が育休を取り、そのぶん妻が仕事に割ける時間を捻出した方がいいだろうと、なるべく長期で育休を取得する方法を考えました。

たった12人の会社で、どう育休取得を実現した?

加藤さんが育休期間に入られる際、担当されていたお仕事はどのように引き継がれたのですか?

加藤:社内で調整できそうな仕事については社内で、それでは賄えなさそうな仕事については、新たに外部へ業務委託でお願いしました。

あと、これはどこまで汎用性があるのかという懸念はありますが…実はそのメインの業務委託先が僕の“妻”だったんですね。

へ…!? あ、そうだったのですね!

加藤:妻は以前にも弊社の別案件を担当していたこともあったので、今回もちょうどいい“業務委託先”だったんですね。僕たちの場合はやや特殊なケースかもしれませんが、業務の引き継ぎについては、社内に限らず外部へ業務委託先を探すなど、会社の状況に合わせて色々と工夫できると思います。

そんな加藤さんの上司である福田さんに伺います。直属の上司という立場から見て、社内の調整で苦労された点などありましたか?

福田:正直、特にないんです(笑)我々としても彼の奥さんの人柄や能力をよく知っているので、不安すらなかったです。そもそも引き継ぐ人間が一緒に住んでいるので、コミュニケーションはバッチリだし。うん、何も苦労がなかった(笑)


▲終始和やかな雰囲気の中、取材が行われました。(左:福田 浩至さん/右:加藤 たけしさん)

福田:さらにいえば、彼の場合は育休を取得するかなり前から、ゆとりをもって意向を伝えてくれていたのも大きかったですね。また、どうすれば周囲やお客さんたちに迷惑をかけないようにできるか、自主的によく考えてくれていましたからね。お世辞抜きに、本当に苦労はありませんでした。

私から社内の他のメンバーに対しては、情報をすべてオープンにして極力丁寧に説明するというのは心がけましたが、経営者からすると加藤くんの枠を他の人にお願いすることで、リソースの選択肢が増えました。そういう点は、会社にとってもプラスに働いたなと感じています。

福田さんのような理解ある上司と、会社の柔軟さは大きいですね!

加藤:本当にそれが一番大きいと思っているんです。うちの会社の場合は、社長の斉藤と副社長の福田が50代中盤で、30代の僕らから見ると結構、年齢が離れているんですね。

年が1周り以上離れていると時代背景も違いますし理解しがたいという話もよく聞くんですが、斉藤も福田も50代とは思えないくらい考え方も柔軟(笑)ですし、性善説で僕たちのことを考えてくれています。さらに、二人からも “変化を恐れずに常にチャレンジしていく姿勢” を頻繁に見せてもらっているので、新しい挑戦をしやすい環境というのも大きなポイントだと考えています。ここ2~3年の間は特に、仕事以外でもいろいろチャレンジしてるから、社長と副社長がほとんど会社にいないんですよ(笑)

夫婦間のコミュニケーション「夫婦未来会議」

さきほど、育休に関して奥さんとのコミュニケーションを最も重視していたと伺いました。夫婦間でのコミュニケーションで何か工夫されていることはありますか?

加藤:定期的に「夫婦未来会議」というものを行っています。これは5年くらい前に始めたもので、子どもが生まれた今は「家族未来会議」と名称を変更して行っています。

月に一度、2時間を目安に、お気に入りのカフェなどワクワクする好きな場所に行って、未来のことを考えようという趣旨です。今は子どもがいるので、家で一緒にやることが多いですね。

テーマは、自分たちのキャリアや今後学びたいこと、健康、お金、最近読んで面白かった本、家族のことなど、8つに分けて話しています。

会社で行う「経営会議」に近い印象ですね。忙しい中でも、大事なことは夫婦でしっかりと時間を確保して話し合うのはとても重要なことですね。

加藤:「育休」にどこまで関わるかは別としても、「共働き世帯の育児」としては非常に重要だと思っています。家庭内の幸福度やお互いの自己実現、子どもの未来を良くすることに非常にいい影響があるのではないかと考えています。

まさに「世帯経営」の考え方で言うと、「世帯経営ノート」というものがあります。僕らが以前から行っている「夫婦未来会議」のさらに先を行く素晴らしい内容で、とても影響を受けています。もし御存知でなければ、ぜひこちらもご覧いただけるとよいかと思います。


【夫婦会議ツール】夫婦で産後をデザインする「世帯経営ノート」より

もっとみんなに知って欲しい!育休をとって気づいたこと、理想の社会

加藤さんはすでに職場復帰を果たされていますが、改めて “育休取得を経験されたからこそ感じた想い” について、お聞かせいただけますか?

加藤:今回の育休取得を通じて、本当にさまざまな想いが強く芽生えました。

まず「保活」の部分では、強者でも弱者でも、変わらず保育園に入れる社会になって欲しい!」ということです。

たとえばですが、お金があると、入園審査にあたって有利な状況に持っていきやすい現状があります。そういう強者が勝ち抜きやすい今の状況は、格差がより広がってしまいますし、やっぱりおかしいと感じています。

また「子育て」でいうと、各家庭に頼り過ぎな今の日本に非常に危機感を抱いています各家庭が頑張って対応するのが当然かのような現状ですが、ひとり親や近くに近親者がいない家庭、いても頼れない家庭も多くあります。もっと「社会全体で子育てをしていく世の中」にしていくべきだと思います。

社会全体で子育てをしていくためにも、「男性の育休」は大きなポイントになってくるのではないでしょうか?

加藤:まさに「男性の育休」も、基本的には全員取得にするべきだと考えています。というのも、身の回りの会話で違和感があるのが、ママが「パパをいかに戦力化するか」という考え方です。実際、ママが家事・育児の大部分を担っているケースが多いからだと思いますが、これだと、まるでパパがママの部下であることが前提のような印象がありますよね。

経験や情報に格差があると、どうしてもそういった考え方に陥りがちですので、子どもが産まれたら、きちんと夫婦一緒に子育てをスタートしないとダメだと強く思います。

夫婦が「共同経営者」になるには、初めて向き合う課題に対して一緒に問題解決をし、試行錯誤の過程を共有することが重要だと感じますね。

まだまだ子育て世帯を取り巻く環境には、課題が多いですね。

加藤:とはいえ、実は国も自治体もすごく頑張っています待機児童の定義を変えて少なく見せるようにしたり、遠方の園に無理やり申し込みさせたりといった悪い例は改善しないといけませんが、たとえば兵庫県明石市がとても素晴らしい子育て政策をしているのをご存知ですか?

実際に出生率も上がり、移住する人も増えているのに、残念ながら身の回りでは全然知られていません。そういう良い例を広がって、横展開していくといいなぁと思っています。

また、民間ももっと試行錯誤できるといいと思っています。課題が山積している行政と比べても、最もイノベーションを起こせる可能性があるセクターだと思いますし。

最後に、今後の子育て環境について、加藤さんが期待すること、実践していきたいことを教えてください。

加藤:僕は1983年生まれで30代中盤ですが、1980年生まれくらいを境に、以降の人たちはガラっと価値観が変化しているという印象を持っています。「男性の育休」もそうですし、社会全体で子育てをするというようなことを当たり前に考える人たちがマジョリティになるように、できることをやっていきたいです。

出生率が急速に2.07にまで回復しても、2090年までは人口が減ると言われています。そんな時代背景の中でも、子どもたちが未来に夢を描ける明るい社会をつくるために、自分たちの持ち場でしっかりとそれぞれが役目を果たしていきたいと思います。

編集後記

男性が育休を取得することが当たり前の世の中」になったら、社会はどう変わっていくのだろう…!? 加藤さんのお話を伺いながら、そんな“希望ある社会”に想いを馳せました。

男性が育休を取得するには会社側の協力が不可欠ながら、日々の良好な関係構築、会社や家族との密なコミュニケーションを大切にすることがとても重要だと感じた今回の取材。

「各々が声をあげ続けて、自分の持ち場で自分ができることをやっていく」。一歩一歩、社会全体で子育てできる世の中に近づけていきたいものですね。

執筆:富塚沙羅
編集:たくみこうたろう(@kotaro53