「無縁社会」のなかにいた山上徹也の孤独とは?

統一教会批判だけでは解決しない
伊藤 博敏 プロフィール

蓄積されていった少年期の怨念

無縁は孤独、孤立に直結、自殺や孤立死という現実的問題のみならず、飲酒、薬物などの中毒、貧困による強盗などの犯罪、拡大自殺という言葉で表記される大量殺人などに繫がりやすいとして、政策対応が世界的に求められるようになってきた。

ヨーロッパに多いソーシャルインクルージョン(社会的包摂)は、貧困のみならず社会から落ちこぼれる層を抱え込むことによって、社会を安定さえ安全にするという福祉の発想だ。

イギリスでは一歩進めて2018年1月、孤独担当相を設置した。人口6600万人のイギリスには900万人の孤独を感じる人がいて、他人と1ヵ月以上、会話していない老人を主体とする孤独者が20万人以上存在するという。

日本でも21年2月、イギリスに次いで世界で2番目の孤独・孤立担当相が置かれ、内閣官房に孤独・孤立対策担当室が設置された。対策担当室では有識者会議での意見聴取、フォーラムを通じて得たNPO(非営利組織)など現場の意見などを反映させ昨年12月、次のような「重点計画」を策定した。

1. 孤独・孤立に至っても支援を求める声を上げやすくする社会の構築
2. 状況に合わせた24時間切れ目ない相談支援の推進
3. 見守り・交流の場や居場所作りの確保と繋がりを実感できる地域作り
4. 孤独・孤立に取り組むNPOへの支援と官民NPOの連係

総花的ではあるが、最初の対策はソフト面でのキメ細かい支援ということになろう。まず「繫がること」である。新自由主義経済のもと自己責任原則で放置され続けた概念だ。

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早稲田大学文学学術院文化構想学部の石田光規教授は、社会学者として孤独・孤立の研究に取り組んでおり、『孤立の社会学』『孤立不安社会』などの著作がある。孤独・孤立対策担当室の有識者会議メンバーとして各種対策にも関わっている。

 

山上容疑者による安倍元首相銃撃の第一報を聞いたとき、石田教授の頭に浮かんだのは2008年6月、加藤智大死刑囚(今年7月死刑執行)が秋葉原で7人を死亡させ10人に重軽傷を負わせた秋葉原無差別殺傷事件だった。

「最初は思想犯によるテロ、『民主主義への暴力』と反応しました。でも、すぐに41歳で非正規の恵まれない世代、といった人物像が伝わり、秋葉原事件をイメージしました。違いは秋葉原の事件が大人になってからの恨みであるのに比べ、(山上容疑者の場合)少年期の怨念が、成人して決行までの20年以上の間に、蓄積されていたことでしょう。

(宅建免許の)資格を取ったりして修正を試み、苦しい境遇から脱却しようとした節はうかがえます。親が宗教から脱却するという期待もあったかも知れません。でも結局、軌道修正はできず母親にも変化はなかった。20代から40代は可能性が削られていく時代です。好転しない事態に苛立ち、ますます恨みを募らせたのでしょう」

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