メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

09月02日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

  • 【災害大国】あすへの備え

    関東大震災 学ぶべき教訓

     日本の地震災害で最多の犠牲者を出した1923年(大正12年)の関東大震災。90年後の今も未曽有の災害から学ぶべきことは多い。10万5千人余の犠牲者の9割近くの原因となった火災は、ちょうど日本海側にいた台風による強風で拡大し、逃げ場を奪った。揺れや大津波、山崩れ、地盤の液状化による被害も大きい、複合災害だった。関東大震災で何が起きたかを知り、現代ならどんな被害が出るかを考え、いずれ見舞われる都市直下の大地震の備えにしたい。

【1】複合被害 各地に爪痕

れんが造りの工場、倒壊相次ぐ
倒壊した東京・浅草の「十二階」凌雲閣=東京・浅草
 「十二階」とも呼ばれ、当時、東京で最も高かった浅草の凌雲閣(りょううんかく)。50メートル余の高さで、電動エレベーターも備えていたが、揺れで8階より上が崩落した。壁面の一部がぶら下がって残り、危険なため、爆破して解体された。
 地盤の弱い隅田川の東岸などで建物の倒壊率が高かった。中心部の赤坂から日比谷、丸の内、大手町や神保町、水道橋へと続く帯状の地域も震度6強~7相当と推定される強い揺れに見舞われた。
 丸の内に建設されたばかりのビルも被害を受け、建設中だった内外ビルディングが倒壊して多数の作業員が圧死した。当時の基幹産業だった紡績工場も、れんが造りの建物が倒壊し、神奈川県を中心に工場で約2200人が犠牲になった。富士瓦斯(がす)紡績の保土ケ谷工場では、れんがの壁が倒壊して女子従業員ら450人余が死亡した。
 当時の東京府で約2万4千棟の住宅が揺れで全壊。3500人余が犠牲になった。揺れが強かった神奈川県では6万3千棟余が全壊、約5800人が犠牲になった。

90年経ても通じる教訓

 【編集委員・黒沢大陸】9月1日午前11時58分に発生した関東大震災は、マグニチュード(M)7・9の巨大地震だった。震源域は神奈川県から房総沖に及ぶ、長さ130キロ、幅70キロの範囲におよんだ。
 大きな余震が相次いだ。発生から5分で東京湾北部と山梨県東部でM7級の余震が起きた。東京・上野で地震に遭った物理学者の寺田寅彦は「最初にも増した烈(はげ)しい波が来て、二度目にびっくりさせられた」と書き残している。
 M7級の余震は2日までに計5回。その後も、翌年1月の丹沢地震(M7・3)など、阪神大震災級の余震が6回。気象庁のまとめでは、1年間でM6以上の余震は29回に達した。関東大震災の研究を続けてきた武村雅之・名古屋大学教授は「本震は一級、余震は超一級だった」と表現する。
 東京の中心部でも現在の震度6~7に相当する地域があった。住宅の倒壊による死者は全体で1万1086人、阪神大震災の犠牲者の2倍だった。
 大震災が起きたとき、台風が新潟県付近にいた。台風に吹き込む形で、関東地方には強い南風が吹いていた。今の大手町では秒速10メートルを超えた。さらに、深夜には20メートル以上の風が観測された。炎が起こす風が加わったとみられる。台風の移動とともに風向は変わり、延焼につながった。全体の犠牲者10万5385人のうち、火災が9万1781人を占めた。
 震源域は陸上にも及ぶ直下型地震だったが、本来は相模トラフ沿いで起きる海溝型地震だった。震源域が海底にあるため津波が発生、伊豆半島東岸や神奈川県の相模湾岸、房総半島を大津波が襲った。山崩れや地盤の液状化も広範囲で起きた。多様な地震被害が同時に起きた複合災害だった。
 学ぶべき教訓も多い。
 都心部で大きく揺れたのは元禄地震(1703年)や安政地震(1855年)と同じ場所。次の地震でも大きく揺れる恐れがある。今は、企業の本社や官庁など災害時に司令塔となる施設が密集している。土地の開発で、揺れやすい場所はさらに増えている。
 当時の東京市での134件の火災のうち、初期に消し止められたのは57件。都心部の大地震では消防力を超える火災が起きる恐れがあり、延焼の危険が大きい木造住宅の密集地域の対策が急がれる。
 避難場所となった軍服工場である被服廠(ひふくしょう)跡地では荷車で持ち込まれた家財道具が火災で燃え、人々は身動きできなかった。東日本大震災では、大津波から逃げようとした自動車による渋滞が発生した。社会の変化と災害の起き方を踏まえ、避難のあり方や避難場所の安全性を改めて確認する必要がある。
 横浜や横須賀であった石油タンクなどの火災は、現代では社会を支える湾岸部のコンビナートのリスクを示している。
 神奈川県の大山では地震から2週間後に降った雨で土石流が発生した。直接被害だけでなく、大地震では土砂崩れや治水施設の損壊が多発する恐れがあり、復旧が進む前の台風や豪雨を想定する必要がある。大きな余震も含め、地震後も相当期間は警戒を怠れない。

【2】想像力働かせて対策を

明治大・中林一樹(なかばやし いつき)特任教授

■中林一樹・明治大特任教授(都市防災)
 この90年間で、関東地方は大きく変わった。当時の日本の人口は約6千万人、東京圏には600万人足らずだったが、今は1億2千万人のうち南関東地方に3500万人が暮らす。
 関東大震災の後、郊外の田んぼや畑に復興事業で区画整理された都心部から多くの人が移り住んだ。農道に長屋が建ち、消防車が動き回れる道路もないまま木造密集市街地が広がっていった。
 首都直下地震が起これば、木造密集市街地で火災の被害が大きくなる。内閣府は2004年、揺れなどによる全壊は20万棟、火災での焼失は65万棟と試算している。
 当時はラジオもなく、災害情報を出す機関もなかった。震災で人々は右往左往し、デマが流れ、朝鮮人が虐殺されるという不幸なことが起こった。人が人の命を奪った災害でもあった。
 今は情報時代なので、うまく情報を活用することで混乱は避けられるはずだ。ラジオや携帯電話のワンセグ機能がある。電話は不通でも、メールなど文字情報は見られるかもしれない。落ち着いてどう活用するか、どういう心構えを持つかが大切だ。
 大都市では地下に空間が広がり、高層ビルや地下鉄、高速道路もある。高層階の火災など当時とは違う被害も考えられる。生活が全て電気によって維持され、ライフラインが途絶えると思わぬ支障も起こりうる。大切なのは阪神大震災や東日本大震災などを振り返り、災害をイメージしてみることだ。想像することで我が家の対策がとれる。市民が過去の災害から学ぶことで、災害に強い街になっていく。
 被災後の復興を事前に考えておくことも必要だ。当時は人口増加を前提に都市を近代化させたが、人口が減る時代に質の高い生活が可能な都市やまちを造ることが求められる。被害想定を前提に、迅速に復興するため、今から復興計画にも取り組む「事前復興」が大事になっている。(聞き手・合田禄)

PR情報

災害大国 被害に学ぶ

◆【災害大国】被害に学ぶ・特集へ

過去の災害の被害や将来の被害想定から、必要な対策を探り、備えに役立つ情報をお伝えします。

◆【災害大国】あすへの備え・特集一覧

タイムライン・熊本地震(4月14~15日)

写真、SNSの反応などをまとめてタイムラインで

タイムライン・熊本地震(4月16~17日)

写真、SNSの反応などをまとめてタイムラインで

福島からの母子避難

原発事故のあと福島県外で避難生活を送る母子。負担に耳を傾けました

農業用ダム・ため池、510カ所で耐震不足

震災で決壊した藤沼ダムの解説映像

被災地から一覧

被災者と同じ空気を吸う記者たちが、リレー方式でつづります

やっぺし 大槌の日々一覧

大震災の被災地、岩手・大槌駐在の記者が現地から報告します

銚子電鉄から見た震災々一覧

自主再建を断念した銚子電鉄の沿線をめぐる

【2016 震災5年】

「震災5年特集・別刷り紙面」ビューアー

紙面別刷り特集!あの日から、重ねた5年

検索データが語る大災害

災害時にどんな言葉を、どんなタイミングで検索しているのでしょうか

【2015 震災4年】

 ふるさとの復興への思いを語る西田敏行さんインタビューや「データで見る被災地」「原発の現状」など特集紙面がご覧いただけます。

 発生から2年までの復旧・復興への歩み、原発事故のその後を、この特集でさぐる。多くの困難なのか、それでも前を向く人々。「忘れない」という誓いを胸に、これからも支えたい。

 かつて「野鳥の森」と呼ばれた福島第一原発敷地内の森は、汚染水をためるタンクで埋め尽くされそうとしている。

(阪神大震災20年)遺族の思い

朝日新聞社と関西学院大人間福祉学部による遺族調査

【阪神大震災20年】レンズの記憶

被災直後の神戸の街や人々の写真を公開

会員限定 阪神大震災・「あの日」の紙面

阪神大震災 阪神大震災

 1923年9月1日の関東大震災から1年たった24年(大正13年)9月15日、大阪朝日新聞は、付録として「関東震災全地域鳥瞰図絵」を発行した。絵図は吉田初三郎画伯が描いたもので、関東大震災の主要な被害のほか、当時の交通網や世情も反映され、裏面は「震災後の一年間」と題して、被害状況と復旧状況をまとめ、各地の写真を載せている…[続きを読む]

  • 「表面・関東大震災俯瞰図絵」ビューアーへ
  • 「裏面・震災後の一年間」ビューアーへ

◆ 地震動予測地図

地震調査研究推進本部の資料から

◆ 女子組版「災害時連絡カード」

印刷して切り抜き、財布などに入れてお使いください

 鹿児島県・口永良部島で29日、噴火があった。箱根山では火山性地震が増え、噴火警戒レベルが引き上げられた。昨年は御嶽山が噴火、桜島や西之島は活発に噴火を続け、蔵王山でも地震が増加、日本が火山列島だと痛感している。…[続きを読む]

著者:朝日新聞社 価格: ¥1,680

 朝日新聞のシリーズ企画「災害大国 迫る危機」が本になりました。活断層、津波、地盤、斜面災害、インフラ、火山のリスクを地域ごとに示した大型グラフィックや対策の現状などを収録。書籍化のために各地域の災害史を書き下ろしました。いつ見舞われるか分からない災害の備えとして役立ちます。B4判変型(縦240ミリ、横260ミリ)でオールカラー、120ページ。

日本列島ハザードマップ 災害大国・迫る危機

PR注目情報

注目コンテンツ