☆3青因子が出ないので初投稿です。
レース。それはウマ娘にとっての本分であり最大の目的だ。
普通の人間と比べ、彼女たちは競争に対する意欲が強い……とかく闘争本能が強いと言えばいいのだろうか。ひとたびレースに出たなら勝つことだけを考えるのがウマ娘だ。
「そういえば午後から実力測定のための模擬レースするらしいよ?」
「そうなのかぁ」
「覇気が無いねぇ……」
しかしぼくはロバ娘なので勝ちよりお金の方を重視していたりする。
無事
もっとも、ぼくの場合は覇気が無い風に見えるのは別の事情があるのだけど、そこは置いておこう。
入学式を終えた直後、学内の施設紹介なども行われて精神的疲労などもあるだろうということで、前日はレースの練習などは行われずに解散となった。
その翌日……つまり今日。一般教養の授業開始に合わせてレースに関わる授業も始まる。
今は午前中の授業を終え、食堂。周りを見るとオグリキャップ先輩のチョモランマじみた食事の盛りにとにかく圧倒される。嘘みたいだろ。三十秒もあれば消えるんだぜあれ。
「オグリキャップ先輩、すごい食べるね……」
「他の人の盛りも大概じゃないか……まともなのはぼくだけか……!?」
「ストライプは盛り少なめにして何度もおかわり行ってるだけじゃないですかね」
「テヘペロでやんす」
盛り多めにするとこぼれそうだからあんまりしたくないんだよね。あれを綺麗に食べられるみんな凄いね……。
「ここ、お邪魔していいかしら?」
「ん? どぞどぞー」
「うぃ」
と、そこでやってきたのはまさしくそんな盛りのご飯を持ってきたスカーレットだ。周りの席が埋まってるらしい。
なんか印象違うな……と思ったんだけど、そうか、普段は猫被ってるんだっけ。アニメやゲームだと猫被ってないシーンの方が多くてこう……お嬢様然とした感じのスカーレットは新鮮だ。
「あら……? ストライプ、ご飯の量、それで大丈夫なの?」
「あはは……この子めちゃめちゃおかわり行ってるから大丈夫だと思うよ……」
「
「それだと効率が悪いんじゃない?」
「こぼしちゃうと勿体ないから……」
「あ、お箸持つの苦手……じゃないみたいね」
中身は日本人なもので。
「そういえば上手だ……いやホント上手いなどっかで習ったの?」
「ん、ん……まあ、そんなところ」
習ったは習ったよ。前世で親に。
こういうのはちゃんとしておかないと人に良くない目で見られると言われてたから、意識して直すようにもしてたし。
「日本通って割といるんだよ」
「へぇ~……」
ぼく自身のことである。
・・・≠・・・
午後になると、ぼくらはジャージに着替えてレース場の方にやってきていた。実力を測るための模擬レースを行うためだ。
中央と言うだけあって、トレセン学園に所属している生徒の多くは小学生や、下手をすると幼年期からすら頭角を現してきたウマ娘たちばかりだ。
この中にロバ娘が割り込む余地があるだろうか。いや、ない。(反語)
ぼくは安全に金を稼ぎたいんだよ!
「なんだか感無量だな……」
初めての日本の芝のコースだ。適性を見るためもあるのだろうが、今回は1000m程度で流すことになっているのだけど、それでもずっと目指してきた環境なだけになんとなく嬉しさがある。
しかしながら……だ。
(……マヤノトップガンとマーベラスサンデーもいるし……)
マーベラス! って言ってるからすぐ分かる……。
別の教室だから気付かなかったんだけど、あのふたりも同じ学年か……。
1997年三強のうちのふたり、マヤノトップガンとマーベラスサンデー。マーベラスサンデーは度重なる骨折でデビューが遅れ、爆発的な能力には欠けるとの寸評こそあるが堅実かつ着実に勝利を重ね続ける強豪だ。
そしてマヤノトップガン。4つのGIレースをそれぞれ異なる戦法で勝利するという異次元の脚質を持ち、十年近く春の天皇賞におけるレコードを保持していた天才。ちなみに当時の3200mの世界レコードだったとかなんとか。
ディープ某やらキタちゃん某というちょっと理解できない超天才が後にレコードを抜いていったものの、作戦をその場の気分で決めてしかも全部勝つというのはまさしく天才と言う他無い。後の世になればなるほどノウハウも蓄積されていって当時できなかった調練とかできてるはずだろうし、レコードを更新しているからと言ってどっちが、という比較も難しいだろう。確実に言えるのはどのウマも天才だという事実だけである。
「次! ダイワスカーレット、プラネットバリスタ、ヨーグルトーレル、スノウワルツ、マーベラスサンデー――――」
出走順は全クラス合同のくじ引きで決まった。正直、順番は後であればあるほどいいとぼくは思っている。その方が今のみんなの実力を正確に把握できるからだ。
情報を制する者がレースを制する。フッフッフ……さあ見せてくれキミたちの実力を……成長曲線を予測してカチ当たりそうなレースをことごとく回避してくれるわフフフ……。
「よーい、スタート!」
スターター役になった子が旗を振り下ろすと共にスカーレットたちが走り出した。
「お……?」
「速い!」
すぐにスカーレットは前に出た。逃げの姿勢か、いやこれは……。
「スカーレットのやつ、かかってんな」
と、先に走り終え、座っていたウオッカが正確に状況を見抜いた。
やっぱかかってるかなぁ。トレセン学園に入学して初めてのレース、その上元々「一番」に対する意気込みと執着心が強いから、嫌でも緊張させられてたのかも。
「っ!」
けれど、スカーレットはそこで崩れない。
元々の脚質が逃げにも向いていることは、誰あろうスカーレット本人がよく分かっているはずだ。スイと脚に注がれていた無駄な力が抜けて逃げの姿勢に戻るのが目に見えて分かった。
「んん~……マーベラス☆」
同時にその立ち直りを目にしたマーベラスのボルテージが上がった。凄い勢いで抜けてスカーレットに迫っていく!
すごい。視覚の暴力がすごい。躍動感すごい。
スカーレット、マーベラス、スカーレット、マーベラス……二人の間を交互に視線が動く。なんだあれすげえ。中1の胸か……? あれが……。
「完璧な仕上がりですね」
「急にどうしたんですのストライプ……」
「言っておかないといけない気がして」
――その後、一着を取ったのは僅差でスカーレット。武インパクト某の言っていた、一着になると少し気が抜けてしまうマーベラスの悪癖が影響を及ぼした形だった。
というかどっちかって言うとあれだな、マーベラス! な走りを見せていたスカーレットが突然視界からいなくなったことでちょっと冷静になってしまって、感情のボルテージがちょっと落ちて差し返されてしまったというところ。良くも悪くも感情のノリに左右されがちなのだろう。
しかし………………なんというか………………うん。
スターター役の子が胸を押さえて打ちひしがれている。強く生きてほしい。
さて、それはともかくそろそろぼくの番になるはずだ。
準備運動代わりに軽くジャンプしたりへそ回し体操をする……が、その時不意に周囲がざわついた。同時になにかピリッとしたものを感じる。
「あっ、カイチョー!」
そこでテイオーの口から答えが示された。
皆の視線を辿っていくと、コースの外、観客席の最前列に騒ぎの原因となったウマ娘がいる。
――皇帝、シンボリルドルフ。
あの特徴的な鹿毛は見間違えようもない。というかつい先日入学式の挨拶で見たばかりだ。
ぱたぱた尻尾を振って会長のもとに駆けていくテイオーは微笑ましいが、会長は何をしに来たのだろうか。やはり、新入生の走りを見に来たということだろうか。
テイオーと個人的に面識があるだけに目当てはテイオー……とも考えたけど、あの生真面目な会長がひとりの様子を見るためだけにわざわざ午後のトレーニングの時間を割くとは思えない。やっぱり全員のレースを見たかったけど、生徒会の仕事やらで少し遅れて見に来たと考えるのが自然か。
「すまない。騒がせるつもりは無かったんだ。レースを続けてほしい」
会長は微笑を浮かべ、涼やかにそう告げた。周囲の空気が引き締まる。
流石、七冠の皇帝……存在感がまるで違う。あれでダジャレ大好きなお姉さんだってんだからウマ娘は見た目によらない。
「……次のレースを始める。サバンナストライプ!」
「あ、はい!」
少しだけ騒ぎが収まったタイミングで、全体トレーニング担当の教員からこちらに水が向けられた。
ぼくのグループは、テイオーたちのように名を知っているウマ娘はいない。けど、それだけだ。それは彼女たちの実力がテイオーたちより落ちるということじゃない。まったくの未知数だということを示している。
油断なんてできるはずが無い。ぼくは
暫定的なスタートラインにつき、低く構える。
「よーい。スタート!」
そして――旗が振り下ろされる。
マヤノとマーベラスの年齢についてですが、ネイチャが育成イベント開始時に「1歳の差ってでっかいからね~」という発言をしてます。
普通に読んだ場合ネイチャが一学年上ということになるのですが、マヤノの誕生日が3/24の早生まれ、ネイチャの誕生日が4/16とほぼ一年の差があるということで(実質)1歳差という解釈のもと本作では同学年に設定しております。ご了承ください。
ダスカ出走時に出てきたウマ娘の名前はアニメでよくある変名です。本編にはあまり関与しません。
Q.ストライプは雨乞いの呪文は使えますか?
A.できます(効果があるとは言っていない)