ロバ娘:ファンディングストライプ   作:桐型枠

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 勢い半分で書き始めたので初投稿です。



しかしシマウマはウマではなくロバでは?

 ウマ娘。彼女たちは、走るために生まれてきた。

 様々な思いが込められた別世界の名前と魂を受け継ぐ彼女たちは、いつでもただその瞳に映るゴールだけを目標に走り続ける。

 

「しかしシマウマはウマではなくロバでは?」

 

 ケニア最大の都市ナイロビ。その一角に設けられた練習場で走るぼくはそんなことを一つぼやいた。

 ウマ目ウマ科ウマ属サバンナシマウマ。大きな括りの中では同じウマ目ウマ科の生物だが、生物学的により近縁種と言えるのはいわゆるサラブレッドよりもロバである。

 これではロバ娘では? ぼくは訝しんだ。

 けれど、まあそのように生まれてるからいいんだろう、ウマ娘で。少なくとも「この世界」でウマ科の動物がいないあたり別世界の名前と魂(ウマソウル)とは正確にはウマ科ソウルだったというだけの話である。たぶん。

 

 ふるり、ふるり。尾先からだけ長い毛の生えている尻尾が揺れる。

 ぼくの名はサバンナストライプ。いわゆる転生者というやつ……なのだと思う。

 経緯はよく覚えてないが、かつてこことは異なる世界で命を落としたはずのぼくは、気づけばこの世界に生まれ落ちていた。

 サバンナストライプ、というのはあちらの世界における創作、「JAPAN WORLD CUP」に登場した架空の競走バ(シマウマ)だ。

 しかしなにぶん架空のシマウマである。元々は電子世界でのみ存在が確立していたわけだから、存在自体は希薄なものだ。憑依するためのウマソウルが確立しきれなかったのかもしれないし、それで存在を補強するような「何か」を求めていたのかもしれない。その過程で異世界の何者かの浮遊霊か何かと結びつくことで、結果このように異世界の知識と記憶を継承したウマ娘が誕生したのではないか……と、いうところがぼくの立てた簡単な仮説。

 元々は日本人、それも男性だった身としては大いに戸惑ったものだが、12年以上もウマ娘として過ごせば体にも言葉にも慣れた……はずだ。きっと。

 ごめんなさい嘘ついた。未だに慣れない。

 

「ヘイ、ストライプ!」

 

 ふと、コースの外から声がかかった。街の方に住んでいるベテランのトレーナーさんだ。

 第一線から退いてはいるけど、今も指導能力は高く、専属のトレーナーさんがついていなかったり、ジュニア級よりも更に下の年代のウマ娘に正しいトレーニングの仕方などを指導している人である。

 あちこちのウマ娘専門学校にも顔がきくため、ナイロビのウマ娘の多くがお世話になっている。ぼくはロバ娘だが。

 柵を飛び越え彼のもとに向かうと、どこか惜しそうに苦笑いをされた。

 

「やっぱり障害競走の方が向いているんじゃないか」

「跳ぶのは好きだけど、走る方がもっと好きだから」

「そうか。ま、無理にとは言わんよ」

 

 肩をすくめて、封筒を手渡してくる。そこに記されている送り主は――日本ウマ娘トレーニングセンター学園。

 ぼくは思わず、小さく笑っていた。

 

「合格おめでとう。しかしなぜ日本へ?」

 

 ケニアから見れば、日本はやや縁遠い国だ。仮に海外の専門学校に通うとしても、UAEやフランスなどの方が距離的にも近い。指導者として勧めるならそちらということは分かるけど、これは個人的な問題だ。サバンナストライプ(ぼく)の魂に刻まれた憧れを果たしたいんだ。

 

「あの国のターフで走ってみたいって思ったんだ」

「はぁ? ……そ、そうか」

 

 困惑させてしまっただろうか。でも仕方ない。

 日本で走りたい。芝、1600m(マイル)。あの舞台へ――そう、ジャパンワールドカップという舞台に上がってみたいという衝動は抑えきれないのだから!

 

 

 ・・・≠・・・

 

 

「ジャパンワールドカップって存在しないのォ!?」

「……無いですよ……ジャパンカップはありますけど」

 

 後日。

 日本トレセン学園栗東寮。ぼくは同室になったハッピーミークによって勘違いを正されることとなった。

 なんてことだ……なんということだ……。

 いや確かにサバンナストライプは現実の存在じゃなかったから知らなくって当然だし、ぼくもアニメやゲームのウマ娘から原作(けいば)を少しかじっただけのにわか野郎。今は娘。なんとなく、海外勢が出場するものだから実装されなかったのかな? とか思って脳内で勝手に完結していたんだけど、そうか……そうなのか……。

 あとナイロビの環境だとネットに繋いでも日本の情報なかなか得られないし、調べられなかったし……仕方ないかもしれないし……しししし……。

 脳内でシマ未確認生物(UMA)が「クソボケがーッ!!」と空き瓶で殴りつけてくる光景が浮かんだ。

 ごめんよストライプ。

 

「…………頑張ればそういう名前のレースも……作れると思いますけど」

「冠協賛レースのこと?」

 

 ミークは小さく頷いた。

 地方競バ場では冠協賛レースというものがある。「○○記念」などの冠名の命名権を得られるということで、前世では時々……たまに……いや割とオタクのおもちゃにされていた。

 そこに関してはハードルが高くない、お手頃な値段だったというのもあるだろうけど。たしか数万円くらいで命名権は買えたはず。

 

 しかし、この世界のレースにおいてはそうもいかない。

 そもそも個人冠協賛レースというのは地方競馬場――元の世界の話なのであえてこう表記する――の売上難を解消する取り組みの一環として行われたものだ。芸能活動と融合合体して強化変身を遂げたスポーツ・エンターテイメントレースバトル、トゥインクルシリーズでは地方のレース場であっても売上難は縁遠い。

 よって、一般人が個人的な立場からトゥインクルシリーズに協賛を行う手段は、企業を立ち上げるという途方も無い方向でか、クラウドファンディングのように多くの人を集めお金を持ち寄り、規模の小さなレースの命名権を買う、という方向性になるだろう。

 

 

「個人単位でそれをやろうとすると、……少なく見積もっても数百万……」

「…………にんじんが何本買えるでしょうか」

「何本っていうか……一週間くらい学園の食事が賄えちゃいそうだよ」

「わあ……」

 

 賄える……いや待ってほしい。オグリキャップ先輩がいるのにその程度で本当に賄えるか?

 あの異次元の胃袋を抱えたウマ娘を……いやそれだけじゃなくて他に何百人も生徒がいるのに……たった数百万円で……?

 

「一日分くらい学園の食事が賄えちゃいそうだよ」

「……どうして言い直しを?」

 

 原作(けいば)の知識は無くともウマ娘についての知識なら少しある。

 更に12年以上付き合ってきた自分の体ということもあって、よりよく分かっていることなのだけど、平均時速50kmオーバーで走るウマ娘の燃費は非常に悪い。なんというか普通の人と比べると文字通りケタ違いなくらい食べる。グラムじゃなくてキロ単位で食べる。オグリ先輩はそれに輪をかけてよく食べる。聞くところによると原作(ウマ)の時は体重を絞るために食事量を減らしていたら、寝藁まで食べてたとか。飼い葉を入れる木桶まで齧ってたという話も聞く。あのひとその内コンクリートにバター醤油からめて食べ始めるんじゃないだろうか。

 閑話休題。

 

「で、でもとにかく、お金と人を集められたらそういう名前のレースも開催できる可能性があるわけだ、うん」

「……それでいいの?」

「それでいいのだ」

 

 というか他に方法が無い。

 ……考え方を変えよう。むしろこれは新たな枠組みを作り出すチャンス。仮にJWC(仮)が盛り上がって大きな経済効果が見込めると判断された場合には、学園やひいてはURAを説得して恒例の行事くらいに格上げをしてくれる可能性は無いわけじゃない。そうと決まればフツフツとやる気も湧いてくる。

 トゥインクルシリーズのライブはプロスポーツ競技であると同時に芸能活動だ。汚い話だけど、当然そこにはお金のやり取りが発生してくる。

 トゥインクルシリーズの先にあるドリームトロフィーリーグについてもこれは同じことが言え、あちらの方が規模が大きいだけにお給料や賞金は良いとのこと。だったら非現実的と言うほどではない。

 ……やれる!

 

「よし、頑張るぞ……!」

「……おー」

「……合いの手どうも」

「ぶい」

 

 ミークは相談に乗ってもらっただけで、今後主に頑張るのはぼくの仕事になるのだけど、同調して共感を持ってもらえたのはやっぱり嬉しかった。

 

 

 ・・・≠・・・

 

 

 後日、登校初日。ぼくは意気揚々と学園へ向かった。

 日本トレセン学園は見れば見るほど大きな学校だ。校舎だけでも相当なものなのだけど、本当にすごいのはそれだけだとあくまで学園の敷地面積の一割にも満たないということだ。

 巨大にんじん農園があったり、複数のチームが練習を行う余裕が持てるほど多くの練習場(トラック)が用意されているし、プールやウイニングライブのためのレッスンスタジオなども併設されている。こんな国内外合わせて見ても最高峰の養成機関を作り上げるなんて理事長は誇らしくないの?

 

 さて、ともかくぼくはこの春からの入学なので、学年としては中等部一年。この年代に誰がいるかは分からないけど、早めにデビューをするに越したことはない。

 メイクデビューの出走条件は二つ。専属のトレーナーさんがつくか、チームに入るかのどちらかだ。

 専属トレーナーさんがつく……ことは難しいかもしれない。言ってはなんだがぼくはシマウマである。最高速はサラブレッドと比べると遅い、と思われる。元々のJWCに登場するサバンナストライプは血統も重視されていたし、他のウマと比べても遜色ない走りを見せてはいたけど……種族的な差異は当然出てくるだろう。総合的に見て才能は微妙なところだと思う。選抜レースの結果次第になるけど、こちらは保留。

 となると一番に目指すべきは、チームに入ることか。チームといえば……アニメで登場した「スピカ」、「リギル」、「カノープス」。ゲームだと「シリウス」だっけ。とはいえいずれも押しも押されもせぬ名バたちが所属している一流揃いのチーム。トレーナーさんの指導力は確かなものだけど、入れる可能性は低い。……それでも入部テストは受けてみよう。初めから無理だと決めつけるべきじゃない。

 

 どっちにしろ、まずはクラスに馴染むことから始めよう。外国から来ていたりそもそもシマウマというのもあって今のぼくはかなり浮いている。

 これから先、JWCという名前を冠するレースの開催を目指すなら、周りのひとたちの協力は不可欠だ。個人が企画しているレースだから出走者を募らないといけないし、何かあった時のために頼れる人脈も欲しい。あと単純に友達も欲しい。

 入学初日の教室。ウマ娘たちがひしめきあっていて、皆も強い意志のもとトレセン学園にやってきているのが熱気から伝わってくる。

 まずは自己紹介から頑張ろう……!

 

「ウオッカだ。最高にカッコいいウマ娘になりに来たぜ。よろしくな!」

 

 うん?

 

「ダイワスカーレットといいます。皆さん、よろしくおねがいしますね」

 

 ううん?

 

「ツインターボだよ! ターボはね、サイキョーのウマ娘になるからね!」

 

 うううううううんんん!?

 

「ボクはトウカイテイオー! カイチョーみたいな強くてかっこいい無敗の三冠馬を目指してるんだ。よろしくね!」

 

 ホワアアアアアアアアアアアアアアア!!

 テイオー!? テイオーナンデ!?

 

「ナイスネイチャでーす。えっと、ほどほどによろしくね?」

 

 待って、待ってくれ。ちょっと待って! 脳が破壊される!

 頼むから整理する時間を……時間を……。

 

「メジロマックイーンと申します。メジロ家のウマ娘として天皇賞の制覇を目指しております。皆様、どうぞお見知りおきを」

 

 ………………よし!

 

 何も聞かなかったことにして寝よう。

 

 






 なおクラスメートについてはアニメの描写(テイオー、ネイチャ、ターボが同じ教室)とゲームの描写(ウオッカ、スカーレット、テイオー、マックイーンが同じ教室)が混在しています。

 ハマったのでほぼ勢い任せで書きました。
 一番の推しはライスですが何やかや育成した子みんな好きになってる気がします。
 すぐに続きを書くか分かりませんが反響があれば早めに書く、かも。


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