【社説】自民“絶縁”宣言 信教の自由軽んじる愚行だ

信教の自由、思想・信条の自由は、人類が歴史の中で学び取った重要原則である。憲法19条、20条にも保証され、戦後の日本が自由世界の一員として守り続けてきた中心的な価値である。それを軽んじ、危うくさせることがあってはならない。

家庭連合の問題で謝罪

岸田文雄首相は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党議員の関係がメディアなどで批判されていることから「率直におわび申し上げる」とし、茂木敏充幹事長に関係断絶の徹底やチェック体制の強化などを指示した。これを受け、自民党は家庭連合や関連団体と今後関係を持たないことなどを基本方針とすることを確認。茂木幹事長は「仮に守ることができない議員がいた場合には、同じ党では活動できない」とまで述べた。

政権政党の自民党のトップが、特定の宗教団体を名指しして関係を絶つと宣言することは、当該団体への宗教差別、弾圧に繋(つな)がる。信教の自由を軽んじる愚行である。

かつて共産党が国会で中曽根康弘首相(当時)に家庭連合の関連団体である国際勝共連合と「自民党総裁として、きっぱり手を切るか」と迫ったのに対し、中曽根氏は「一部団体と、自民党は縁を切れとか言っておられますが、これは思想と行動の自由に対する重大な侵犯発言」と一蹴した。

もともと自民党はさまざまな信仰や思想・信条を持つ人々が、自由と民主主義の価値を中心に結集した政党である。その多様性と懐の深さが国民から支持される所以(ゆえん)であった。その自民党が、国会議員に「踏み絵」を踏ませる江戸時代の宗門改めのようなことを行い、思想や行動の自由を抑圧・制限することは自殺行為と言わざるを得ない。

今回の“絶縁”宣言は、安倍晋三元首相の暗殺事件で、家庭連合が「社会的に問題がある」団体としてメディアの批判の的となり、その関連団体も含め自民党をはじめとした政治家との結び付きをメディアが誇大に報じたことを受けてのものだ。

ただ、家庭連合は今回の事件で違法行為が摘発されたわけではない。献金をめぐるトラブルなど弁護士会への相談が最近も寄せられてはいるが、件数は激減している。関連団体においては、さまざまな形で社会貢献を行っていることも事実である。

これら客観的な立場での実態調査を行った上で、自民党は信教や思想・信条の自由に関わる重大決定を行うべきである。あまりに拙速な決定はメディアや世論への迎合であり、政権政党としての主体性を欠くものだ。

このような前例を認めれば、一部メディアが「反社会的」あるいは「社会的に問題がある」とのレッテルを貼ることで、さまざまな団体が弾圧の対象となる。こうしたメディア・ファシズムを横行させてはならない。

本紙への対応に問題なし

また、関連団体の定義が極めて曖昧だ。メディアは「世界日報」もその中に含めているが、政治家が独立した報道機関である世界日報の取材に応じるのは、ごく当たり前のことである。それを問題視すること自体、言論・報道の自由を脅かす暴挙であることを強調しておきたい。