2022/09/0114:00
連載「温故知新」

白井元調教師と学ぶ血統学【47】欧州で当時ナンバーワンの種牡馬サドラーズウェルズを全否定 向こうのヤツも「コイツ、アホちゃうか」と

 元JRA調教師の白井寿昭氏を指南役に迎え、さまざまな角度から血統を考える好評連載の47回目。〝顕彰馬騒動〟も記憶に新しいアーモンドアイに対し、こちらがセレクトした種牡馬で架空の配合を実現。その可能性を白井氏が語るという、これまでになかったパターンで話を進めていく。

 進行は東スポ競馬・関西地区本紙担当であり、白井氏との親交も深い松浪大樹記者。これまで以上に興味深い話の数々を堪能していただきたい。

 松浪大樹(東京スポーツ記者=以下、松浪)先週はフランケルについての話をしていたんですよね。アーモンドアイのような最高級の繁殖であっても、日本向きでないとされるのであれば、フランケルの産駒を日本に持ってきても、金額以上の活躍は難しいかもしれない。こんな結論でした。

 白井寿昭氏(元JRA調教師=以下、白井)あくまで僕の個人的な見解ではあるけどな。ただ、フランケルの産駒は高いし、それに見合った金額を稼ぐのは難しいと思うよ。

 松浪 ソウルスターリング、モズアスコット、グレナディアガーズと日本では3頭のGⅠ馬を出しているフランケルですが、確かに期待外れの産駒も多い気がします。一部の馬を除くとピリッとした切れがないんですよね。

 白井 全然切れへん。重たい馬場でジワジワくる感じ。

 松浪 距離に関しては? 欧州ではこなしている産駒もいますが。

 白井 フランケルはガリレオの産駒やし、距離をこなしても不思議はないよ。血統もそんな感じやし。

 松浪 確かに。フランケルはスピードと言われますけど、血統の中のスピードはダンジグ系のデインヒルくらいです。

 白井 そうや。レインボウクエストもそんなにスピードがないもん。せやから、アーモンドアイにはちょっともったいないねん。ジリっぽくなるかもしれんしさ。日本で走っているフランケルはそんなのが多いし。

 松浪 では、最後に南半球のほうにいきましょうか。オーストラリアのリーディングはリトゥンタイクーンという馬なんですけど。

 白井 正直、それはあまり知らんな。

 松浪 僕も一緒です。でも、ラストタイクーンの血統ですから、地味にセックスアピール(トライマイベストの母)のインブリードが成立するんですよね。そこが感慨深いかな。

 白井 牝馬のクロスはそこまで気にする必要もないよ。掛け合わせの基本になるのは牡馬で、牝馬はベースをつくるものと考えたらええんちゃうかな。

オースミタイクーンに魅力を感じる理由

 松浪 この配合にはトライマイベストとロッタレースの異父兄妹がいますけど、イメージはトライマイベストで持つべきということですか?

 白井 セックスアピールに掛けている馬を見たら分かるけど、トライマイベストがノーザンダンサーで、ロッタレースもノーザンダンサー系のヌレイエフ。結局、目指すべきところは一緒なわけ。こうなってほしい、こういう馬が出てほしいという生産者の思いが出ている。

 松浪 確かに生産者の考えがすぐにわかりますね。セックスアピールにはノーザンダンサー系の配合が正解。

 白井 そう。いいのを掛けている。常にね。

 松浪 で、ラストタイクーンをちゃんと出している。これもポイント。

 白井 繰り返しになるけどさ。幸四郎で重賞を勝ったオースミタイクーン。ラストタイクーンの産駒なのでええなあ、やりたいなあ、と。そう思うのも血統表を見れば、あの馬が出てきた経緯が分かるからであってさ。そこに引かれる。で、こういうことばかりを考えているから、フサイチパンドラも走らへんかなあ、と思える。そういう背景があるわけよ。

 松浪 なるほど。フサイチパンドラの血統を見て、オースミタイクーンの活躍も知っていて、あれと同じセックスアピールの血統ですね、と言われると先生はうれしいわけですね(笑)。

 白井 そうそう。記者にそんなことを言われたら、キミはよく知っているな、勉強しとるやんか、という雰囲気になって、実はオースミタイクーンってな…という話にもつながっていく。

 松浪 そこで「あの馬、俺も狙っていたんやで」というエピソードを聞けるわけですか。いくつになっても勉強は大事ですね。僕らのような仕事は特に(笑)。

 白井 フランケルのときにさ。サドラーズウェルズはアカンよ、という話をしたろ? あれにもつながる話がこのときにあってさ。

 松浪 へえ。それもオースミタイクーンに絡んだものなのですか?

 白井 そう。オースミタイクーンを探しに行ったときにさ、実は牧場から「サドラーズウェルズがええよ」と言われた。まあ、当然やけどな。でも、僕は「いや、こっちのほうがええわ」と。

 松浪 購入する馬の候補にサドラーズウェルズ産駒も入っていた?

 白井 もちろん、そういうのも入ってた。当時はサドラーズウェルズが牧場のメインやもん。なので、馬も見せてくれた。でも、いかにも重たそうやった。

 松浪 で、違う馬にした。

 白井 そう。で、僕が「ノー・サドラーズ」と言ったらさ。牧場のヤツは「オマエだけやで。サドラーズがダメなんて言うのは」と。ビックリしとったわ(笑)。

 松浪 まあ、そうなるでしょうね(苦笑)。サドラーズウェルズこそが、当時は一番の種牡馬だったんですから。

 白井 そう。日本で言ったら、「サンデーサイレンスの産駒は嫌」と言うのと一緒やもん。当時、そんなヤツはおらんかったし、そんなことを言ったら、牧場に「コイツはアホか」と思われる。実際、向こうのヤツも「コイツ、アホちゃうか」という顔をしとったわ(苦笑)。

アーモンドアイに合うのは?

 松浪 オーストラリアの馬との配合をしているタイミングで、日本で調教師をしていた先生から、全く違うアイルランドのエピソードが出てくる。何というか、競馬の話はワールドワイドですよね。スケールがとてつもなく大きい。

 白井 ホンマにそうやな。そう考えると面白いな。

 松浪 では、ここでまとめましょうか。ちょっとないような架空の配合の話を、この数回はさせてもらったわけですが、アーモンドアイと配合するのであれば、やっぱり日本の競馬に合うディープインパクトの系統がいいんでしょうかね? それとも産駒が誕生しているエピファネイアのほうがいいですか?

 白井 エピファネイアかな。で、それからコントレイル。この順番。キズナにモーリス。これも配合的にはA級と思うけど。

 松浪 キタサンブラックもいましたね。

 白井 ああ、それも良かった。あれもA級。

 松浪 分かりやすいところにいったこともありますけど、僕のチョイスもあながち悪くなかったわけですね。ホッとしました。

 白井 いやいや、興味がある配合ばかりやったよ。ホンマ、胸が躍る内容やったし、こういう話も面白いね。将来的なもの。予想みたいなものやけどさ。

 松浪 確かに。繁殖牝馬を替えて、近いうちにまたやりましょうね。

 白井 繁殖牝馬を読者の方にリクエストしてもらうのも面白いかもしれんね。アーモンドアイのような、僕にゆかりのある血統のほうが話はしやすいけど。

 松浪 そうですね。これは東スポ競馬Web案件としときます。

☆白井寿昭(しらいとしあき)1945年生まれ。広島県呉市に生まれ、大阪で育つ。1968年に上田武司厩舎の厩務員となり、1978年にJRA調教師免許を取得。1979年に開業した。1995年のオークスをサンデーサイレンス産駒のダンスパートナーで制してGⅠ初勝利。1998年日本ダービーなど、GⅠ4勝を挙げたスペシャルウィーク、国内外でGⅠを6勝したアグネスデジタルなどの名馬を管理した。2015年、定年により調教師を引退。現在は競馬評論家として活動している。

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この記事を書いた記者

松浪 大樹
松浪 大樹

 1972年生まれ、東京都出身。「スピードが命、バランスこそがすべて」が身上。マンチェスター・ユナイテッドの熱心な信者だが、音楽のルーツはビートルズで競馬のルーツは家から自転車で20分だった東京競馬場。競馬に関係のないラジオのDJをするのが夢。

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