~子供の頃に学校で学んだことが今の自分にどうつながっているか~ 今回は,俳優,ボクシング解説者と幅広く御活躍されており,文部科学省「こどもの教育応援大使」である香川照之さんにインタビューしました。 |
僕は東京出身ですが,子供の頃住んでいた辺りは多くの畑がいっぱいあり,自然も豊かで虫も多くいる環境でした。カマキリは動くものに対して目が動く体質なのですが,僕もカマキリと一緒で,動くものを瞬時に目でとらえるのが得意なんです(笑)。例えば,運転している時にすれ違う車の運転手の顔を一瞬で認識するとか・・・。子供の時も,たぶん自分の周りで動くものを見ているうちに,身近にいた昆虫が好きになっていったんだと思います。
中学校の国語がとても印象に残っています。
国語は,実はあまり好きな教科ではなかったのですが,分かりやすく教えてくださるW先生との出会いで国語が好きになりました。教科の好き嫌いには,教科の内容とともに,授業の仕方や先生自身の魅力などの影響が大きくあるように思います。W先生の授業を通じて,質問されたことに対し,真っ直ぐ正確に答えることの楽しさ,面白さを教えてもらいました。
ただ,そのせいなのか,僕は今でもインタビューとかでも真っ直ぐに答えてしまうので,面白くならないんですよね。それがちょっと難ですね(笑)。
先生の影響は大きいと思います。うちの息子も,中学校の部活動でバドミントン部を選んだのは顧問の先生の影響のようです。息子は球技が苦手で,運動部にさほど興味をもっているとは思えなかったのですが,選んだのはバドミントン部。理由を聞いてみると,どうも顧問の先生で部活動を選んだみたいなのです。先生の魅力が子供たちの部活動選びにも影響を与えるんだなぁと思いました。
さっき話したW先生の話ですが,中3の時,自習時間でうるさくしていた生徒たちを,W先生が一言も発しないで,前に立ち自然と生徒を静かにさせたんです。「静かにしなさい」と言葉で注意しなくても伝わるんだ,すごいな,と思った記憶があります。
また,H先生という体育の先生はとても厳しかったのですが,ある時,「俺は素早く眠ることに関しては誰にも負けない自信がある」と自信満々の姿を見せてくれたことがありました。厳しいH先生が「自信がある」とおっしゃったのが「素早く眠ること」。そのギャップに驚かされつつ,そうやって自信をもって生きていくのはいいものだな,と感じました。
何かを他人に伝えたい時,言葉よりも言葉以外のものの方がその人の心理に訴えかけることができるのではないか。先生方の姿からそう感じました。そして,そのことは今,役者として演技する瞬間に役立っています。ドラマでも芝居でも,見ている人は意外とセリフを聞いていないんです。セリフの裏にある,役者からにじみ出てくる様々なものがお客さんに感動を与えているのではないかと思っていますし,僕はそれを意識して役を演じています。
先生に限らず,結局どの仕事も一緒だと思うのですが,“人間力”が大事なのではないでしょうか。どの世界においても,活躍している人は“人間力”がある人,人間として魅力的な人だと思うんです。子供であれば全員,“100%”児童生徒になれるわけですが,先生になれるのは一握りの大人だけです。この一握りの先生たちには,“人間力”を子供たちの前で大いに発揮して,子供たちを導いてほしいなと思います。
自分が子供の頃は,やらされていると感じる授業もありました。そのおかげで諦めないという根性は養えたと思うんですが,これからは,子供たちが自分から考え,学ぶことが大切だと思います。
子供たちが授業内容に興味をもてるような工夫を先生がすることは重要だと思います。先生が一方的に話すだけの授業は,子供たちにしてみれば50分とか45分ずっと「トークショー」を見ているようなものですよね。「自分は子供を眠くする授業ではなく,子供を前のめりにさせる授業をするぞ」という気概を先生がもって,先生がそこに注力すれば,授業を面白いと感じる子供が増えるのではないでしょうか。
僕自身がそんなに意識できていたわけではないですよ。でも,これからの時代は,自ら思考して自らの言葉で伝えていくこと,表現していくことが大切な時代になってくると思っています。
ただ,自分で考える力っていうと,「自己発信する」という日本人が弱い部分を頑張ろうというメッセージだととらえられがちですよね。僕が言いたいのはそういうことではなくて,自分一人で考えるのではなく,みんなで考えたほうがいいこともあります。自分一人で考えるだけでなく,他人の意見を聞くことも大切だと思います。自分の考えを頑なに貫き通すだけではなく,信念はもちつつ他の人の意見や考えを素直に取り入れる。子供たちがそんな力をもつようになってほしいですね。
10年後,20年後も子供たちの中に残るものを身に付けてほしいです。勉強している時には問題に答えられるけど,試験が終わったら完全に忘れてしまう,あるいは何の役にも立たない。そうではなくて,学校で学んだことが子供たちの血となり肉となり,子供たちの人生に役立つといいなと思います。
※新しい学習指導要領リーフレット(裏面)「オリンピック・パラリンピックのメダルをつくるなら」(※PDF)
確かに,このリーフレットに示された「各教科等を通じて得た力」は,学校を卒業した後も子供たちに残るものですね。でも,「そこにいる人全てを幸せにする」,あるいは「地球のためになることをする」。そのように考えた上で,いい方向にその力を働かせられるようになってほしいですね。
「オリンピック・パラリンピックのメダルをつくるなら」のような話をする時に,算数・数学で学んだことを生かして「何枚必要か」「予算はどれくらいかかるか」と考えるのはそのとおりだと思います。でも,例えば「何枚作れば自分はもうかるか」という利己的な考えばかり働かせるのはよくない。子供たちには「皆を幸せにするためにどうするか」ということを考えた上で行動できるようになってほしいと思っています。
自分の子供だけではなくて,クラスやグループ何でもよいのですが,そこにいる子供の全員を「自分の子」だと思って全員の親が接したら最高だなと思っています。
叱るところも叱れるし,褒めるところも褒められるし,目も行き届きますよね。保護者を超えている立場で自分の子だけじゃなくて全員に目を配る,実はそれが大人としてもあるべき姿なのかもしれません。僕も到底できてこなかったし今もできていないけど,そういうのが理想ですよね。そういう親が一人でも多くいてほしいです。
全ての子供に対して自分の子のように接することができる親は強いと思います。そういう大人がコミュニティに数人いるだけで,子供の成長は大きく後押しされると思います。ましてや,大人全員が全ての子供に対して自分のこのように接することができたら最高ですね。
※ 初等教育資料7月号,中等教育資料7月号で,ここに掲載しきれなかった香川さんのお話を紹介しています。香川さんが“メタ認知”について語る?!詳しくは誌面を御覧ください。
「こどもの教育応援大使」委嘱状の交付式の様子(平成30年12月25日,文部科学省にて)
初等中等教育局教育課程課