めにゅうとじる

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未来日記~あさやけレンジャーズ篇~

2020.5.13

INFO

Introduction


西通り商店街の坂道を走る一人の青年、小峰純(23)。
お笑い事務所、笑響芸能事務所の所属通知を握りしめ、相方、福士遥(23)のもとへ。
今日から彼ら「あさやけレンジャーズ」は、正式にプロの“お笑い芸人”となった―――。

時は空前のお笑いブーム!…と、呼ばれていた時代はもはや一昔前。
ネタ番組は減り、まさに若手芸人達にとって冬の時代が到来した。
しかしそれでもなお、彼らがお笑い芸人を目指す真の理由、それは………

ない!特にない!お笑いが好き!ただそれだけ!それはまさに、お笑いブームを学生時代にモロに直撃した世代の、若さゆえのエネルギーからくる「漠然としたヤーツ」だった!
「お前となら、こっから先、絶対面白いことになる!!」―――。

小峰純と福士遥。
同級生の2人は地元静岡から、ここ東京へ進出!過酷な芸人の世界へ!!

だが、そんな若さと元気が売りの彼らの前に、早くも大きな壁が。
所属半年で…まさかの契約解除!?

自分達だけにしかできないお笑いは何なのか?
どうやったら爆笑をとれるのか?
そして…「芸人として生きるということ」の意味とは?

膨れ上がる数々の難題。
予想以上に過酷な笑いのプロの世界で、二人は成長していく。

この時彼らはまだ23歳。これは2人が大人になっていく物語でもある。

第1章第2章第3章


第1章


第1話

晴れて笑響芸能事務所への所属を決めた「あさやけレンジャーズ(以下あさやけ)」。
実家のみかんが大好物、初対面の人にみかんを配ってまわるほどのお人よし…そんな明るい青年、小峰純。そして…「死ぬ」が口癖、超ネガティブだが笑いにひたむきな青年、福士遥。そんな同級生凸凹コンビは養成所の審査を軽々突破!初めて出演した事務所内のライブで好成績を勝ち取り、先輩達にも一目置かれる存在に。若手チームにはグラシッククラシック、グッドバッティング青春、ま・み・む・メルシーズやまるおみすみなど、個性的な先輩達が。社長、和田笑喜の人柄もあり、笑響芸能事務所は大手では無いが、アットホームで人情味のある事務所だった。

ライバルは一年上の先輩ハピネスコマンダー。双子の兄弟コンビで、やはり最若手の注目株だ。他の芸人達と積極的につるまないそのスタンスも、彼らのカリスマ性を高めている。あさやけがデビューライブでハピネスコマンダーよりも好成績だったため、ハピネスコマンダーの2人があさやけをライバル視するようになり、それに対抗しあさやけ(特に福士)もかなり意識するようになっていく。物語の序盤は、そんなあさやけとハピネスコマンダーとのライバル関係を中心に描いていく。

ある日、小峰は和田とハピネスコマンダーが話をしているところを偶然にも聞いてしまう。なんと彼らの父親は超大物芸人、赤星大次郎だったのだ。(2人は他の芸人達にそれを黙っていた)、「親の七光りかよ…」と愚痴る福士。しかしハピネスコマンダーの明は、父大次郎とは生まれてから会ったことが無いし、このことは誰にも言わないで欲しいと口止めする。ハピネスの2人は、父親が大物だということで天狗になっているわけではなかった。むしろその重圧にをバネして戦っていたのだということを知るあさやけの2人。(明も、自分の辛い胸の内を明かしたことで、あさやけに対し戦友という意識が芽生え始める。ただし、仲良しになるわけではない)

その後、ハピネスコマンダーの成績は上がりはじめ、あさやけが逆に押され始める。あさやけはデビューライブの出来が良かったため、それを超えられないネタ作りに悩まされていた。趣味でやっていた学生時代とは違う、ルーティーンでネタを量産しなければいけない感覚に襲われる毎日。常に高クオリティのものを出し続けるのは大変なのだ。他のコンビのことも研究し始める福士。しかし、福士は生来の超絶ネガティブ気質がたたり、自分たちのネタの粗ばかり見てどんどん自信を失っていく。ネタも、色々な芸風が中途半端に合わさった平均的なものばかりになっていくあさやけレンジャーズ。その経過を、社長の和田は、じっと静観していた。

第2話

今日は事務所主催の中間審査ライブ。あさやけレンジャーズは、用意したネタの設定がハピネスコマンダーとかぶってしまうというハプニングに見舞われる。出順はハピネスの方が先。2人は急きょネタを変更し、その焦りから思わぬミスをしてしまう。結果は全く奮わず、対するハピネスコマンダーは優勝。大きく水をあけられる結果となった。

それだけではない。審査から2週間後、社長の和田はあさやけと先輩コンビのグッドバッティング青春の2組を呼び出す。和田はいつになく神妙な面持ちで言う。「君達はうちの事務所で預かる実力に達していない。一度フリーに戻り、今一度自分達の芸を見つめ直してくるんだ…」晴天の霹靂。その通知をもって、彼らは笑響芸能事務所を解雇されてしまう。2人はこの結果だけで判断してほしくないと和田に食い下がるが、和田は、この半年を総合した結果だと言う。小峰と福士は、納得できないまま事務所を去ることに。

ハピネスコマンダーの2人は、あさやけが急きょネタを変更したのを知っていた。罰が悪い明。あさやけは、事務所の前でハピネスコマンダーの2人と対峙するが、何も言えず、黙って去っていく。

× × ×

「自分たちは中間審査でミスをした。だからたまたま落とされただけだ」最初はそんな風に甘く見ていたあさやけの2人であったが、徐々に自分たちの認識の甘さに気付かされていく。かつてまだ事務所に所属する前に通っていたフリー芸人達のライブを久々に観に行った2人は、後輩芸人達のレベルの高さに圧倒される。所属できたという甘え、そして自分たちが「誰でもできる」漫才をしていたということに二人は気付くのだった。

しかし、問題点が見えてもすぐに解決できるとは限らない。二人の苦行の日々が始まった。
フリーの身では、ライブも自分でエントリーしなくてはいけない。客も入らないライブに出ては、ウケたのかウケなかったのか分からない反応をもらっては帰る日々。徐々に2人は自信を失い、次第にぶつかるようになっていく。そしてついに福士から、暫くライブを休もうという提案が。あさやけレンジャーズのコンビ仲は過去最悪になっていた。

やっぱりお笑いの道は険しいんだ…そう落ち込む小峰に、ある時、一本の電話が。それは同じく解雇通知を受け一時実家に帰省していたはずの先輩芸人、グッドバッティング青春の春山であった。

第3話

あさやけの小峰は所属した当初から春山と仲が良く、ま・み・むメルシーズ(以下メルシーズ)石井と3人で良く飲みに行っていた間柄。そんな春山から小峰は突飛な提案を受ける。

春山「一緒に合同単独ライブをやろうぜ!」
小峰「合同…単独っすか?」

普段自分たちがエントリーして出ているお笑いライブではなく、ライブハウスの予約からスタッフの手配まで全て自分たちでプロデュースする。そこで死ぬ気でお客さんを呼んでライブハウスを満杯にし、珠玉のネタを5本ずつ披露する――春山の目は輝いていた。
以前、石井のコンビ、メルシーズの単独ライブを観に行って感動した春山は、兼ねてから自分達も単独ライブを打ちたいと思っていた。(契約解除後、石井にも単独やりなよと言われて)自分たちの世界観をもっと自らの力で発信しなくてはいけないんだ!と強く主張する。

春山「でもよ~!祭りをやるなら人数は多いほうがいいだろ!」
   (本当は飛び道具的なネタばかりの自分達だけでライブがもつのかどうか不安だったからなのだが、春山は決してそういう後ろ向きなことは言わない)
小峰「…やりたい!俺、やりたいです!」

小峰は大賛成し、その話に乗ることを即決。しかし相方の福士は、春山のお笑いスキルを根本的に疑っており、小峰との仲も悪くなっていたということもあったので申し出を拒否。結局グッドバッティング青春と小峰の3人で合同ネタをやるライブで話がまとまった。

そんな時、ネタを見てやろうかと声をかけてくれたのがグラシッククラシックの関崎だった。関崎は、先の中間審査ライブで、あさやけがネタを急きょ変更せざるを得なかった一部始終を裏で見て知っており、2人のことを気の毒だと思っていたのだ。それともう一つ―――。関崎は和田からあさやけとグッドバッティングの2組のケアを密かに頼まれていた。契約解除はいわば愛のムチ、和田も本当は彼らのことを気にしていたのだ。

かくしてお笑い戦闘狂の異名を持つ男、関崎がこのライブの「総合演出」を名乗り出た。「小峰!お前が福士に捨てられないように…俺がお前らを鍛えぬいてお笑いアーミーに改造してやる!覚悟しろ!!!」こうして関崎指導のもと、お笑いフルメタルジャケットが幕を開けた。(石井も自身がコントの賞レースにエントリー中なのでがっつりは関われないものの、制作の手伝いとかならやるよと申し出る。先輩たちの愛情を感じる小峰であった)
過酷な関崎のお笑い指導に耐えながら、それでもネタを自由に出し合う面々。死ぬ気のビラ配りも功を奏し、お客の予約も増え始める。チームは徐々にまとまりはじめていた。
一方…福士はバイトで淡々と日々を過ごしていた。「死にたい…」気づけばそう呟く一番まずい状態。心の支えは芸人達の深夜ラジオだけだった。福士の夢…それはいつか芸人としてラジオの冠番組を持つことだった。まだ始まったばかりじゃないか。こんなところで終わって良いはずがない。頭ではそう思っていても行動に起こせず、悶々と日々を過ごしていた。

ライブの本番が近づいて来た。小峰は福士を呼び出す。「次の合同ライブ…必ず観に来てほしい」小峰は福士への想いを全力のライブパフォーマンスで訴えかけようとしていた。福士は躊躇した。小峰の想いは分かったが、それを自分が受け止められるかが怖かったのだ。そこを更に後押ししてくれたのが関崎だった。関崎を芸人の先輩として尊敬していた福士。その関崎が福士に頭を垂れた。「あいつらは頑張った。頑張って報われる世界じゃない。だが相方として、あいつらが今の力でつくりあげたステージを…見てやってくれ…」

そして迎えたライブ当日。会場には沢山のお客さんが集まる。その中には福士の姿も。そして遂に、3人の合同単独が開幕。そこで福士が見たのは、がむしゃらに笑いを取ろうとする、元相方の超カッコいい姿。妥協など一切ない、縦横無尽に笑いを取るその姿から福士は、お笑い業界に殴り込みにいくぞと言わんばかりの小峰の覚悟を見た。ろくに挨拶もせず、福士は会場を後にする。自分はこのライブの申し出を断った。小峰に合わせる顔がない…。

しかし次の日(この日は3人の合同ライブの2日目でもあった)、関崎から福士に一本の電話が。相方の武島がリハ中にケガをしたらしい。福士は急きょ、代役を頼まれてしまった!当然断ろうとするが「もう時間が無いんだ。初日を見ていて流れが分かっている福士だけが頼りなんだ!」と関崎は懇願する。決心がつかないまま会場に向かう福士。そして小峰と久々の再会。ばつが悪い。しかし小峰の言葉はシンプルで明快なものだった。

小峰「福士…。俺は、お前とネタをやりたい」

本番。福士は武島の代役として舞台に立っていた。舞台に立つことを選んだのだ。が、しかし、やはりハプニング発生!!福士の代役は完璧だった。しかし、急に相手役が福士になったことで違うテンポが生まれ、そのせいで小峰の方がセリフを飛ばし、そのせいで福士もその先のセリフが出て来なくなり窮地に…!地獄絵図になりかけたその時―――。とっさに福士の口をついて出たのは、最初に2人でつくったあさやけレンジャーズ想い出の漫才。小峰も瞬時にそれに乗っかった。この窮地をなんとしても笑いに変えてやる!かつてない意地がシンクロした瞬間だった。そしてこの時小峰と福士がとっさに付け足したアドリブのボケが思わぬ大爆笑を勝ち取る。

こうして、ライブはなんとか成功。久しぶりに小峰と一緒にネタをやった福士は、終演後の楽屋で「ひやひやさせんな!」と憎まれ口をたたくが、久々に一緒に全力投球出来た喜びを感じていた。当然小峰もそれを肌で感じる。再出発できる…小峰はそれを確信した。
そして…笑響芸能事務所の他コンビも皆このライブを観に来てくれていた。特にハピネスコマンダー。彼らはもともと来ないと聞いていたが、当日券で見に来ていたのだった。楽屋挨拶で、素直に面白かったと言う明。実はこの日の午前中、ハピネスコマンダーは父大次郎の出演番組に共演するも、圧倒的な格の差を見せつけられ大きな挫折を味わったばかりだった。明はめったに言わないセリフを言って楽屋を後にする。

明 「…絶対コンビ続けろよ。笑響の小屋で…待ってるからな!」
2人「…」

× × ×

その後2人は再び話し合い、再結成を決意。フリーの芸人のみのお笑いコンテスト(各事務所の関係者が見に来て、新人発掘の場とするイベント)にエントリーすることに。2人は、合同ライブでウケが良かったネタを改良してコンテストに臨む。その結果…なんと彼らは2位に。優勝こそしなかったものの、審査員の一人だった和田は2人を呼び出し言う。「芸人の唯一の原動力は、やれるという自信とやらなければならないという覚悟。今から、あさやけレンジャーズの笑いが始まったんだ。頑張ろう。おかえり…」


こうして事務所に再所属する2人。彼らの芸人としての再スタートが始まった。

第1章第3章


第2章


第4話

笑響芸能事務所への再所属を果たした「あさやけレンジャーズ」の2人。新しい芸も手に入れ、ライブの成績も好調…しかし、売れるために不可欠なテレビ番組のオーディションにはひっかからず、事務所内でしか評価されていないという現実がのしかかってくる。2人も2人なりに何かを変えたいという思いが強まるが、その方法論が小峰と福士で異なってくる。

小峰はもともと芸にストイックな方では無いが、芸人仲間との飲み会で色々な情報を仕入れてきた。そこで感じたのは…「自分たちを売り込むことの大切さ」。例えば、グラシッククラシックは、人知れず収録の見学に行ったり、プロデューサーに挨拶に行って顔を覚えてもらう努力をしているらしい。人とのつながりで着実に仕事を取ってくることの大切さを、大人達から学ぶ小峰。「マネージメントだけに頼ってるだけじゃダメ。関係者に積極的に自分たちを売り込まなくちゃいけないんだ…」という考えを抱き始める。

しかし相方の福士は人とのつながりを重視して飲み会ばかり顔を出す相方に、まずは来るべき賞レースに向けてネタを研磨し実力をつけるべきだと主張する。小峰の言っていることも分かる。しかし福士にはどうしても、小峰がネタの練習を怠り、自己PRだけに目を奪われているように見えてしまうのだった。2人の考えは次第に対立し、コンビ仲の悪化につながってしまう。

第5話

そんな中行われた全日本漫才グランプリ。あさやけレンジャーズは満を持してエントリーするが…なんと、彼らは予想だにしない1回戦敗退という残酷な結果を叩きつけられることになる。これにより互いの不満は爆発し、あさやけレンジャーズは事務所に内緒でいったん解散状態に。

そんな時、小峰は、たまたま居酒屋で知り合った放送作家、岡沢にそのトークの腕を買われ、岡沢主催のトークイベントのMCをやらないかと誘われる。有名番組を多く手がけたことのある作家とのつながり――。ついに営業の成果が出始めたと喜ぶ小峰であったが…そのイベントで小峰は、自分の気持ちを完全に無視された理不尽なキャラ付けでMCを強要される。地下アイドルのライブのMCで、変な猫耳を付けて妖精という設定でMCしなければいけない。その上、アイドル達からいじられるという残念な役回りであった。勿論ギャラも出ず――。
(この時、ライブの合間に路地裏でうなだれる小峰を見てひとりの青年が缶コーヒーをおごる。この男がまるおみすみの元相方、箱崎である。)
仕事としてやらねばならないという気持ちと、本当にやりたかったことの狭間で苦しむ小峰。その小峰の悩みを聞いてくれたのは、先輩ま・み・む・メルシーズ(以下メルシーズ)の石井奇跡だった。実はメルシーズもコンビ間ですれ違いがあったばかり。しかし奇跡は相方のYUのネタが大好きで、あいつに釣り合う相方に俺がならなきゃいけないんだ…と小峰に言う。それを聞いて小峰も、過去を振り返り、相方福士の大切さを思っていた。帰宅しベットに横になる小峰。「福士と一緒に天下とる!」年始に部屋の壁に貼った書初めを見つめ、ほぼ連絡を取り合ってない相方の顔を思い浮かべながら、小峰は一人、涙する。「俺、何やってんだよ…」

一方福士は別の相方を探すべく動き始め、他の芸人と組んで暫定コンビでライブに出演したりする。しかし、いくら面白い台本を書いてもうまく行かない。なぜならそれは「小峰がやると面白くなるネタ」だからだ。小峰にこの台本を見せたい…あいつなら絶対、もっとこの漫才を面白くできる…!2人の想いは強まっていく。

第6話

そんな折、2人に転機が。実は2人は今年、コント全国大会へのエントリーもしていて、自分たちの専門は漫才だからと半分実力試し程度にエントリーしたのだが、予選成績が思う以上に反応が良く、なんと準決勝までいってしまう。審査はだいぶ前で、準決勝手前でほとんどが落とされることで有名な大会だったため、2人もこの大会にエントリーしたこと自体を忘れていたほどだった。自分たちが思う方向に評価されない一方で、意外な方向で活路を見出だしつつあった2人に、社長の和田は本気でコントをやってみないかと提案する。はじめは乗り気ではなかった2人だったが、一からネタ作りを始め、徐々に形にしていく。未知なる挑戦に素直な態度になれた二人は、結成当初一緒にネタ合わせをしていた頃の自分達と今の自分たちを重ね合わせ、もう一度二人で頑張ることを決断。一人ずつ活動した修業期間を経て、ひとまわり大人に成長した彼らは準決勝に臨み…ついに決勝進出の10組に残ることに!

第7話

大会決勝の時――。そこで彼らは初めて生で憧れの芸人、赤星大次郎と藍月凍に出会う。かつては伝説のコンビと称された二人。彼らはこの大会のMCだったのである(二人が番組で共演することは今では本当に珍しく、それゆえ今年のこの大会は、ひときわ注目された)。2人にネタを見てもらえる…それだけであさやけレンジャーズのテンションは最高潮に。そして迎えた決勝戦の本番…。残念ながら結果は奮わなかったものの…これからはコントも悪くない、新境地をこれからは積極的に開発していこう、と確信できる成果を二人は得た。収録後、スタジオの廊下で赤星とばったり会う2人。目の前に立つのは伝説の芸人…「今日はありがとうございました!」しゃんと胸を張って挨拶する2人に赤星はあっけらかん言う。「頑張りや。もっともっと芸人になれるで!君たちは」。良い意味にも悪い意味にもとれる言葉を残し去っていく赤星。

「もっともっと芸人になれる」――この言葉が後々重くのしかかってくるということを、この時の彼らは、まだ知らない。

第1章第2章


第3章


第8話

コント大会の決勝に進出し善戦した「あさやけレンジャーズ」。コントと言う新しいジャンルを自分たちの中で開拓できた彼らは、ちょくちょくネタ番組の若手コーナーなどにも呼ばれるようになった。しかし、所属から@年。何か一つ突き抜けるような成果を出さなければ、この業界の競争に勝つことはできないことを肌で感じていた。実はあさやけの2人にはあるコンプレックスがあった。それは、実力こそ若手の中では認められてきているのにどの大会も優勝経験が無い、という事実。二人は焦り始めていた。

そんな折、2人のもとに舞い込んできた大型長寿番組の新メンバーオーディション。2人はこれでさらなる飛躍を夢見る。最終審査に残ったのはあさやけと、なんとメルシーズ。彼らはついこの間、2度目の単独ライブを成功させたばかり。業界関係者にもそのネタは評価されており、若手芸人界の中でもかなりメジャーな存在になっていた。メルシーズに負けるわけにはいかない…小峰は、メルシーズの石井と仲が良いだけに複雑だったが、自分を奮起する意味も込め、メルシーズの二人に「負けませんから!」と宣言!しかし石井の相方、YUの反応は意外なものだった。YU「優勝すんのかな~僕達。もしこの優勝が特急のトロッコだとして…それに乗ったらさ、僕達はその後どこに行くんだろうな…」そのつかみどころの無いYUの態度に横で見ていた福士はイラっとする。「負けてたまるか!」(この時のYUのセリフは、自らの進路に思い悩んでいたことによるものなのだが、それをあさやけの二人は知らない)

後日、新メンバーオーディション最終審査で見事優勝を勝ち取ったのは、僅差でメルシーズだった。僅差…しかし、これをきっかけにメルシーズは芸人として大きく飛躍することに。半年と経たないうちに深夜の冠番組が決まり、もはや若手芸人として確実にテレビの顔になりつつあった(実はメルシーズ自身には不本意な形ではあったが、他の芸人達からすると羨ましい)。それに対しあさやけの二人は、いつもと変わらぬ日々を過ごす。次のオーディションの話が来る。ネタを持っていく。結果を待つ。落ちる。またオーディションが来る。ネタをやる。結果を待つ。落ちる―――その、繰り返し。

「惜しい」は何の意味も無い。それが番組オーディションであれば、出演できなければ意味が無い。かなりの倍率の中を勝ち上がり、出演できたとしても、そこでハネなければ、意味が無い。いつまでも続く不安定な生活に、漠然とした疲れを、彼らは感じていた。福士が呟く。「このヒリヒリした感じがずっと続くんだ。きっと…」しかし見方によれば夢はある。ついこないだまで一緒にライブに出ていたメルシーズが、今はテレビの顔に。同じ事務所の後輩としては誇らしいことだ。「いつか俺達もああなろう!」そう小峰は福士に、明るく言って励ました。福士が創作に集中できるよう、小峰は不安な顔一つ見せないようにした。

第9話

事務所内の芸人達を取り巻く状況も、徐々に変化が起き始めていた。今年新設されたお笑い異種格闘技大戦では、ハピネスコマンダーとメルシーズが決勝進出、事務所ハコ推しのファンは盛り上がった。しかし勿論、全員がうまくいっているわけではない。グラシッククラシックはクイズ番組ブームの波に乗っかり、関崎の相方、帝大出身の浅宮が売れてはじめていた。レジェンド芸人、満天の藍月に見出されたという。事務所的には浅宮をピンで売り出した方がいいのではないかという話になっているらしい…などとあらぬ噂も飛び交い始める。お笑い戦闘狂と言われた関崎はかつてのギラつきを失い、ただただぼやく。お笑いを一生懸命やり続けている関崎が売れず、無欲の浅宮がテレビで売れた現実を――。同じく事務所の先輩、まるおみすみは、ずっと失踪していた箱崎(元相方)の居場所を遂につきとめたらしい。トリオになる説も飛び交ったが、それは本当か。あと、グッドバッティング青春。春山は落語家に転身して活動していたが、師匠がキツ過ぎて辞めるらしい。熱しやすく冷めやすい春山の最近の口癖は「やっぱり俺には海人だった!」

それぞれに事情はあるものの、皆、昔のような感覚でお笑いを続けることはできなくなっていた。あさやけが決勝に出場したコント全国大会。あの大会の優勝コンビ(他事務所)は、大会後も仕事が増えず、その年の末に解散したという。大会の優勝者でさえ、仕事が増えず、辞めていく…。そういう世界。そしてその不安はもっと具体的な形で、あさやけの2人に突きつけられることになる。

第10話

小峰の実家から連絡が入る。父が病気で倒れたらしい。(小峰の実家は静岡のみかん農園を経営している)静岡に帰ってきてほしいと親に懇願された小峰。これまで、不安がる福士を側で励ましてきたのは小峰の方だったが、ここにきて小峰自身も将来について考えなければならなくなった。お笑いは好きだ。福士も、福士の書くネタも好きだ。しかし今まで好きなことをやらせてくれたのは親が応援してくれたからだ。何より小峰は地元静岡と家族を愛していた。家族を裏切ってまで夢を貫くわけにはいかない…。小峰の葛藤の日々がはじまった。息もできないくらい苦しい日々。この想いを福士に打ち明けるのもキツい。なぜなら、超ネガティブな福士のことだ。この小峰の葛藤を知ったらまた「死ぬ!」と言って自暴自棄に陥るに違いない。しかし福士がその小峰の葛藤を側で気付かないはずがなかった。ある日小峰は福士に呼び出される。福士は黙って1枚の紙を差し出した。

福士「これ、出とかないと…絶対後悔する」

それはかつて辛酸をなめた全国漫才グランプリのエントリー用紙だった。

福士「最後にもう一回、出よう!」
福士は、小峰の気持ちを理解した上で、彼の中でつとめて明るくそう言った。彼らにとってこれが最後の漫才――。

第11話

小峰は、静岡に帰り実家を手伝いながら、時間を見ては東京に行き、福士と漫才の練習をした。夜はテレビ電話をしながらセリフの練習。ネタ合わせの時間が少なければ少ないほど、濃い練習ができている気がした。福士も今までの後ろ向きな自分を封印し、努めて前向きにふるまうよう努力する。福士には小峰に対する感謝しかなかった。どれだけネガティブなことを言っても、どれだけくじけようとも、小峰は明るくいてくれた。それがずっと支えだった。今度は俺が助ける番だ。

そして福士は、この大会が終わったら、ある提案を小峰にしようと思っていた。それは、笑響芸能事務所を辞め、静岡に自分も帰るということ。自分の地元も静岡だ。小峰と一緒に帰れば…全国区への夢は無くなるかもしれないが、大好きな福士との漫才は続けることができるかもしれない…。福士は一人社長の和田に相談した。和田はしばらく黙った後でおもむろに語り始めた――。

先日、ハピネスコマンダーの二人がお笑い異種格闘技大戦で優勝し、その際、自らの父親が赤星大次郎であることをメディアの前で公表した。彼らは実力をつけ、遂に父親と切っても切れない運命を受け入れ、先に進むことを選択したのだという。

和田「人に与えられる境遇は様々さ。それが拒んでも変えることができないものなら、
   受け入れて進んでいく方法を見つけるしかない。死に物狂いでね」
福士「…」
和田「満天だってそうさ」

驚きの事実。実は和田はかつて、赤星と藍月のコンビのマネージャーだったのである。ここで語られるのは、かつての若かりし日の赤星と藍月、そして担当マネージャー和田のエピソード。彼らも同じように悩み、お互いに芸人として生きていく方法を死に物狂いで模索したという。そしてその答えが見つかった時、満天は真の「芸人」になれた…そう和田は言う。私生活も何もかも、全部が一つの生き方に収斂されていく。そこではじめて、職業とかそういうものを全部超えた、本当の芸人になれるのだ、と。「もっともっと芸人になれるで!君たちは」――。あの時の赤星の声を反芻する福士。最後に和田は福士に語りかける。

和田「君達は、考えることを諦めちゃいけない。
あさやけレンジャーズとして、どう生きていくか、それを考え抜くんだ」

福士は再び考える。
あさやけレンジャーズを続けていく、最善の策を―――。

第12話

全日本漫才グランプリの結果。あさやけの二人は惜しくも準決勝で敗退した。しかし悔いはない。前回は1回戦で敗退。それに比べたらずいぶん成長したもんだ。小峰と福士は固く握手を交わし会場を後にする。本来ならここでお別れ…だが、福士は諦めたくなかった。福士は小峰に、ある提案をする。毎晩、テレビ電話で漫才をやってそれをネットで配信したいと。遠距離で離れている2人が漫才を発信するためにはどうしたらよいか。考え抜いた福士の提案だった。この数か月、漫才コンクールのために幾度となくテレビ電話でネタ合わせしたことから着想を得た。小峰の実家のことは仕方ない。でも漫才は続けたい。だったら全て受け入れて、前に進む策を考える…!それが芸人として生きるということ。これが福士の出した答えだった。小峰は福士がここまで自分のことを考えてくれていたということを知り涙する。小峰は言う。「やろう…」それがあさやけレンジャーズの出した結論だった。

第13話

最初はうまく再生回数も伸びない配信活動。しかしあさやけの二人は諦めない。小峰は地元静岡で実家を手伝いながら、空いた時間で地元のイベントMCの仕事などをしてファンを少しずつ増やし、福士も東京でピンとして活動する。そして夜になれば毎日漫才を配信。この遠距離恋愛ならぬ遠距離漫才が今までない漫才だと話題となり、あさやけは徐々にネットで人気者に。それだけではない。2人の活動に目をつけたラジオ局が、東京と地元静岡をつなぐラジオ中継のレギュラーの仕事を二人にくれることになった。福士の夢であったラジオのレギュラー。福士はこのスタッフに食らいつき、いつかメインパーソナリティーになれるよう、ラジオトークのスキルを本格的に磨き始める。

全てのチャンスに全力になる。最初、芸人になれたとへらへらしていた頃の自分達とは明らかに違う感覚だ。だが、これが芸人になるということなんだ。生きる。芸人として、最後まで生き抜いてやる。

そして夜が来る。

「もっともっと芸人になれるで」――。そう言った赤星の言葉を思いながら、小峰は今日も、
200キロ先にいる相方と、ステージに立つ。

「はいどうもーーーー!!!!!!」

結成秘話キャラクター情報