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未来日記~グラシッククラシック篇~
2020.4.28
INFO
Introduction
一度きりの人生、自分が望むステージで戦わなくてどうするんだ―――。
脱サラ芸人、関崎の口癖はいつもこうだ。
憧れて入ったテレビ業界。だが求めていたものはそこには無かった。
身一つで笑いを取る、そんなお笑い芸人の姿に憧れ、退職。
表舞台で戦うことを彼は選んだ。
そんな彼の熱量に唯一ついてこれた相方は、
関崎と真逆も真逆!草食系帝大出身の超エリート、浅宮!
頭脳明晰な彼が、どう考えてもリスクしかないこの業界でやっていこうと思える理由。
それは相方、関崎への「信頼」によるものだった…。
そんな絵に描いた凸凹コンビ、グラシッククラシックが、お笑い界に食らいつく!
ハングリーな司令塔、関崎と、
その関崎を信じる自己主張ゼロの浅宮の分かりやすいコンビのバランス。
そして…目指すは正統派漫才の頂点!
しかし…そんな2人の関係は徐々に崩れ始める。
思わぬ売れ方で世に出る浅宮。そこから生じるコンビ間格差…。
お笑い界が与えた残酷な試練を彼らはどう乗り越えるのか?
やがて2人が本当の自分と向き合い、互いの存在の大切さに再び気付く時…
新たな関係性、新たな芸風が確立する!
そしてやってくる漫才の大会。
その戦場で、腹をくくった2人の新たな戦いがはじまる――。
第1章
第1話
あさやけレンジャース他、若手芸人達が、居酒屋で熱い話をしている。その中心にいるのがこの男。業界人然として、パチパチ指を鳴らしながら吠える―――。関崎「いいかお前ら、例えばな…すぐコンビを解散するとか言う奴いるだろ。あんなのはダメ芸人だ。だってよく考えてみろ。その相方と組んだ時は、そいつといけるって思ったんだろ?っていうことは、その相方を選んだ自分のセンスが間違ってたってことになるんだ!だから俺は絶対解散しない!絶対にな!」
爛々と目を輝かせ語る熱い男。関崎秀治。お笑い事務所笑響芸能事務所の若手の中でも最も熱い男(お笑い戦闘狂と言われている)。コンビ名はグラシッククラシック。漫才師だ。この物語は、このシーンの直後に関崎が相方に解散を切り出されるところからはじまる。関崎の相方、浅宮輔。彼は最高学府、帝大理学部を卒業した超エリートだ。有名企業にコンサルタントとして就職するも、ミーティング中に飴を舐めていてクライアントに激怒され、クビにされてしまう。常にボーっとしていて何を考えているか分からないタイプ。そんな浅宮は、今の事務所が開くお笑いセミナーで関崎と出会う。
そんな浅宮が、関崎との解散も考えているという。(しかもそれもシリアスでなく、やはりボーっとしたテンションで。やはり飴を舐めながら)どうやら、浅宮の両親が本気でお笑いをやめて欲しいらしい。
関崎「それで?お前はどうしたいんだよ!」
浅宮「うーん、親の言うことも一理あるなとは思ってる。こないだ計算したんだけど僕達の売れる確率は年々下がってきている。この曲線のグラフを見て欲しいんだけど…」
関崎「なんだその冷静な分析は!」
聞けば、ライブに親を呼んだことが無いと言う浅宮。浅宮をやめさせたくない関崎は、まずはお笑いライブに親を呼べ、全力でぶつかっている俺達の姿を見れば必ず分かってもらえるはずだ!と熱く説得する。しかし、その判断が間違いであった。浅宮が親を呼んだライブというのが、自分たちの本ネタを試すライブではなく合同コントライブ。たまたま変な衣装(全身タイツ)を来て演じているところを、浅宮の母、和歌子に見られてしまう。発狂する和歌子。「輔は…あなたはこんなおぞましいことをしているのね…!ひぃぃぃ!」ライブハウスを飛び出す和歌子。
浅宮「あーこのライブじゃない方が良かったかな…」
関崎「このライブじゃない方が良いに決まってるだろ!!!!なんでこんな変なライブに呼ぶんだよ!お笑い素人のマダムが観る1発目のライブにしては刺激が強すぎるだろ!」
春山「ん?このライブが、なんだって?」(このライブの主催者のグッドバッティング春山)
第2話
関崎は後輩のあさやけレンジャーズとよく飲みに行く間柄。最初の事務所ライブで一気に周りの注目を集めたあさやけレンジャーズだったが、日々熱いお笑い論を語り合う。福士は「なんで関崎さんは浅宮さんと組んだんですか」と聞く。「それはな…」待ってましたとばかりに語り始める関崎。実は関崎にとって、浅宮は唯一3年も続いた相方だったのだ。今までコンビを組んだ奴らは皆、関崎の熱量についてこれなかった。しかし浅宮は良い意味でその関崎の熱さを受け流す力を持っている…だから関崎は、浅宮を手放したくない。帝大出身の浅宮の「静」のボケに対し、鋭いツッコミを入れる「動」の関崎。関崎の理想とする漫才において、浅宮は無くてはならない存在だった。一方浅宮は、母親を説得(というか論破)し、なんとか次の事務所のライブに見に来る約束を取り付ける。そして迎えたライブ当日―――。グラシッククラシックは新ネタを披露して見事3位に。実はこのライブで、関崎は和歌子も分かるような題材のみで漫才を構成していた。キャッチ―さには欠け、1位のハピネスコマンダーには及ばなかったものの、母和歌子を笑わせることには成功したようだ。和歌子は浅宮のやっていることに一定の理解を示し始め、そればかりか同日出演したま・み・む・メルシーズ石井のファンになってしまい、それ以後足しげく笑響の主催ライブに顔を出すことになる。普段はお笑い戦闘狂の関崎があえて若い客層向けではなく、和歌子にも刺さるようなネタを書いてくれたという優しさを浅宮は実感する。関崎にとって唯一予想外だったのは、一緒に頑張って来た福士のコンビ、あさやけレンジャーズが契約解除になるという結果だった。
第3話
「でな、俺は浅宮の母ちゃんにも分かるようにあえてネタをチョイスしたんだ。笑いっていうのはな、常に需要と供給。客があっての演芸である以上は、客によってやるネタも変えないといけないっていうことなんだな。プロはそこまで考える。赤星さんのエッセイにも書いてあった…!」そう熱く語る関崎が、この直後のシーンでまたも浅宮に解散を切り出されるまさかの展開から、第1クールの後半がはじまる。「なんでだよ!あんだけお母さんがハマってくれたじゃないか!」と訴える関崎。実は、浅宮が解散を考えている最大の理由は、母の方よりも、父、信義の反対によるところが大きかったのである。父、浅宮信義は、財政省勤務の国家公務員、帝大卒の超エリート。信義自身も多忙を極める中、長男の輔がまだ前職を辞め、ちゃらついたお笑いをやっていることをみっともないと思っているのである。その反対の仕方は無言の圧力ともいうべきもので、輔もそれはひしひしと感じ取っていた。浅宮は関崎に等身大の思いを告白する。
浅宮「法事とかあってもさ、行きづらいんだ。親戚の人みんな帝大出身だし。毎回、何してるんだって聞かれるし…それも僕にみんな聞かずに父さんや母さんに聞くんだ。それで口ごもる二人を見てると…やっぱり辛くてさ」
関崎は、そんな浅宮を勇気づけようと、中規模の賞レースを軒並みエントリーし、次々タイトルをとっていく。少しでも自分たちの自信に繋がればという思いであった。
そんな中、関崎は笑響芸能事務所社長の和田に呼び出され、先のライブで事務所をクビになったあさやけレンジャーズとグッドバッティング青春のケアを頼まれる。和田は彼らを見捨ててはいなかった。むしろあえて試練を与えるつもりで和田は彼らの契約を解除したのだ。事務所は敵になろう、君は先輩として2人を影で支えてやってくれないか…。それが、和田からの頼みであった。関崎は快諾し、彼らの主催する合同単独ライブの「総合演出」を自ら申し出る。あさやけとグッドバッティングをしごく関崎。しかしそこで頑張る3人の姿勢を見て、関崎の方こそ勇気づけられていた。同期のグッドバッティング青春、武島は、やはり親の反対でやめようかどうか迷っている様子。みんな悩んでいるのだ(関崎は自分達のコンビが解散の危機であることを事務所や他の芸人達にも黙っていた)。不安そうな表情の武島に関崎は言った。
関崎「悩む気持ちは分かる。だがここで悩んでいたら客に伝わる。
解散するなら、やるだけやってから解散するべきだ」
この言葉を関崎は自分自身に向けても発していた。
あさやけ達の合同ライブは無事成功。彼らの指導教官として機能していた関崎は、愛すべき鬼軍曹として彼らから称えられたが、彼らから勇気をもらったのは他ならぬ関崎自身であった。
第4話
関崎は、浅宮を呼び出した。関西ローカル局主催の漫才コンクール若手の部。当然ながら関西芸人達が圧倒的に有利とされ、関東芸人にとっては鬼門と言われるこの漫才大会にあえてエントリーし、ここで優勝しようと浅宮によびかける。結局俺達には漫才しかない…だからこそ、もっと強い実績をつくって、周りに「漫才師」の自分達をアピールしなければ!そう関崎は浅宮に訴えた。グラシッククラシックのボケツッコミの応酬は若手の中でも高レベルな方。十分てっぺんを目指せる状態にあった。関崎はさらにネタを磨き、浅宮には「決勝に父親を呼べ、無理ならDVDの録画を家に送ろう」と言った。
そして…結果的に2人は見事、若手の部で優勝をおさめることになる!が、しかし…浅宮の父、信義はそれでも反対。そればかりか2人の漫才のDVDを見て一蹴。「何が面白いのかわからないな」関崎もこれには限界…しかし、関崎の態度はいままでの彼とは違った。彼は信義に土下座して頼み込む。「輔は…本当に才能がある奴なんです!この世界で一緒に頑張らせていただけないでしょうか!」土下座なんてテレビ局員時代、わがままな女優に頭を下げた時以来。もう2度と土下座なんてしないと言っていた関崎は、相方浅宮のために土下座し、懇願する。しかし、信義には最後まで関崎の熱意は伝わらなかった…。
と、その時、浅宮が声を出す。「決めた…僕はグラシッククラシックを続ける」浅宮は、父信義と絶縁してでも漫才コンビを続けることを宣言した。浅宮にとって、漫才の結果も、あるいは親の反対も、もはや関係が無かった。自分のために、親にここまで頭をさげてくれた関崎の姿勢に、浅宮の心は動かされたのだった。浅宮は家を出ることを決断する。浅宮の父との確執はまだ埋まらない。いつか認めさせてやる…。静かに2人は誓い合った。
第2章
第5話
浅宮との絆を強くした関崎は、活動を再開するが、徐々に伸び悩みはじめる。王道の芸風にありがちな壁…そう。彼らの芸風は競合相手が多いのである。他事務所で台頭してきたコンビ、まきびしパンチは、グラシッククラシックに非常に近い芸風。関崎から言わせれば、全く違う芸風なのだが、一般視聴者レベルではその違いは分からない。何か新しい要素をグラシッククラシックに取り入れなければ…そう関崎が感じていた時、彼はある人物と再会する。泉啓太郎。彼の局員時代の同期であった。第6話
ここでは関崎がこの仕事に就く前のエピソードが中心になる。泉は関崎と同期で、たがいに切磋琢磨しながら、厳しいAD業務に耐える日々を送っていた。配属は共に希望していたバラエティ班。しかしその仕事の実態は想像以上に苛烈なものだった。更に関崎は極度の機械音痴であり、他のAD達より群を抜いて仕事が遅かったため、怒られまくりの地獄の日々を過ごしていた。そんな中、とあるお笑い番組のADについた際、出演の大御所芸人達に心動かされた。彼らは自由だ。手ぶらでスタジオにやってきて、ひとたびオンエアがはじまると爆笑をかっさらって帰っていく。かたや俺達は弁当配って走り回っているだけ…はがゆかった。関崎には自分が本来いるべき場所は別にあるということを確信した。こうして、関崎は局を退社することになる。だが、それは面白い番組づくりを諦めたわけではない。あの時憧れた芸人に自分がなって、出役としていつの日か必ず、この笑いの戦場に帰ってくる。そう関崎は誓った。テレビ局に就職するのだって相当大変なのである。それを蹴って、芸人の世界に飛び込む…普通はとらない選択だった。だからこそ関崎はお笑い戦闘狂になった。この業界に飛び込んだ年齢も若くはない。モチベーションでカバーするしかないのだ。だが、その関崎の覚悟は、同期の泉のそれとは少し違っていた。泉は根っからのバラエティ番組好き。厳しい今を乗り越えて絶対面白い番組をつくりたいと思っていた彼にとっては、出役に憧れて局を退社した関崎の姿勢も「攻め」ではなく「逃げ」にしかうつらなかった。過酷なAD時代を一人乗り越えた彼は、数年たった今、ようやくディレクターに躍進しつつある。
そんな泉の担当番組で芸人のオーディションがあり、その会場で再会することになる2人。以前は同期、しかし今はオーディションを受ける側、見る側の立場の違いがある。グラシッククラシックは自信のある鉄板ネタを披露。しかし泉の反応は冷ややかだった。「いやー面白かったなー」と口先では言うが、今のグラシッククラシックでは、テレビでの使いどころが無い。泉は結局そのオーディションでまきびしパンチを起用した。
第7話
そんなグラシッククラシックに転機が訪れる。レジェンド芸人藍月凍がMCをつとめるゴールデンの大型クイズ番組に出演が決まったのである。ネタ番組ではないが、まあいいか…キャリアとしてひとつ番組に出られるだけでもありがたい、クイズ番組だろうがそこで縦横無尽に笑いを取って、爪痕を残すしかない…関崎と浅宮は意を決して収録現場へ向かう。回答するのは帝大の浅宮。浅宮のクールなおとぼけぶりに、関崎がすかさずツッコむ。現場ではそこそこウケた。いい結果を残せたに違いない―――。しかし、その番組のオンエアを観て、関崎は愕然とする。
第8話
オンエアでは、ほぼ浅宮のコメントのみが使われており、関崎はほぼカットされていたのである。情報バラエティの番組で求められるのはコメントの情報性。無駄なツッコミやボケはオンエア上ではカットされてしまうのである。その放送では、「帝大卒のルーキーが遂に現る!」のようなスーパーもつき、大々的に浅宮の初登場を煽っているような印象もあった。幸い浅宮のコメントはとても的確で、次回もグラシッククラシックの出演が決まった!喜ぶ関崎。しかし次の収録では、クイズに答えるのが浅宮のみで、関崎は別場所のひな壇に座らされ、離れてしまった。関崎「あの…俺のツッコミあった方が…こいつがもっと生きる気がするんです」
番組P「まー大丈夫よ。視聴者がツッコんでくれるから」
次の収録から関崎は呼ばれてさえもらえなかった。
更に、関崎にとってショッキングな出来事が。この頃、グラシッククラシックは全日本漫才グランプリの準決勝にコマを進めていたのだが、入り時間になっても浅宮が来ない。クイズ番組の収録がおしているらしいということだった。今日は準決勝の最終日。日程を振り替えることはできない。ぎりぎりまで関崎は待ったが、浅宮は来なかった。グラシッククラシックは、準決勝を棄権せざるを得なかったのである。
浅宮はどんどん露出が増え、番組からも愛されているようだった。浅宮自身は複雑だった。自分は特に関崎のように気の利いたコメントも言わなければ、ボーっとしていることも多い。そのキャラクターが良いんだよ、としか言われないが、果たして本当にそうなのか自分では分からない。今まで自分は関崎ばかりとやってきた。関崎がいなければ不安であるのは当然だった。そんな悶々とした日々を過ごしている時、浅宮はMCの藍月に声をかけられる。レジェンド芸人、藍月凍。その藍月に声をかけられるというのは極めて名誉なことだった。藍月は浅宮の飾らない性格は武器だとしたうえで、他の番組にも出てみないか、と言う。
グラシッククラシックに、間違いなく転機が訪れようとしていた。
第3章
第9話
グラシッククラシックの浅宮がレジェンド芸人藍月に気に入られている、という噂は、たちどころに芸人界に知れ渡った。最もピンとしていないのは浅宮本人である。一体自分の何が評価されているのか浅宮には分からない。ただ少なくとも言えることは、浅宮の学歴は、クイズ番組や情報番組では引く手あまただったということである。お笑い番組ではないが、この群雄割拠の時代、ネタ番組以外で活路を見出す芸人も少なくない。現に、浅宮の知名度は急上昇。単純な顔ファンも一定数生まれた。徐々に周りの関係者たちは「解散してピンでやった方が良いんじゃないか」と囁きはじめる。浅宮自身はそうは思わなかったが、「そもそも漫才向いてるの?」とか「このまま一本立ちできるようになるよ」などの言葉をかけられると、いかにもそうなのかなと思えてくる…関崎のことは尊敬している。が、逆にこのままのコンビ関係で、関崎の理想とする漫才ができるのだろうか?そう思うと、徐々に浅宮の心はぐらつきはじめる。たしか、満天(藍月のコンビ)の2人は、それぞれの仕事が増え始めて解散した、と聞く…。お世話になっている藍月さんはどう思うのだろう。そう思い、浅宮は藍月に聞いてみる。すると、藍月はこう答えた。「解散だけは、何があってもしちゃだめだ」
そんな中、驚くべき出来事が起こる。なんと浅宮の父、信義が、テレビでお前を見かけたぞ、と電話をくれたのだ。信義は依然として浅宮がお笑いをすることに反対しており、ずっと音信不通だった。浅宮は嬉しかった。芸人の仕事を完全に認めてくれたわけでは無いのかもしれないが、わざわざ電話をくれると言うことは、少なからず理解を示してくれた、と言うこと。テレビの力を浅宮はひしひしと感じ始めていた。「ありがとう」そう言って浅宮は電話を切ろうとする。すると、信義はこう付け加えた。
信義「あと…。相方の彼にも、礼を言わなきゃな…」
浅宮「?」
信義「あの時は息子のために、頭まで下げてくれて、ありがとう…ってな」
浅宮「…」
× × ×
浅宮が芸人を続けることを決心したのは、関崎が必死に頭を下げた、あの日があったからだ。
関崎「輔は…本当に才能がある奴なんです!この世界で一緒に頑張らせていただけないでしょうか!」
× × ×
あの時の関崎の叫びが心の中で蘇る。浅宮は父との電話を切り、解散するなと言う藍月の言葉を反芻しながら、一人、これからのことを考える。
第10話
一方その頃…。相方の関崎は、どんどん自暴自棄になっていった。浅宮と会うことすら難しくなっており、コンビで漫才をやることも今はほぼなかった。当初は、浅宮がテレビで頑張っているうちに、自分は新ネタを量産しようとポジティブに考えていた。しかし今は、そもそも浅宮にとって漫才が必要なのかどうか、それすら怪しいところである。関崎はもともと事務所内でも頼りがいのあるヤツだった。それが今や見る影もなく、毎日番組やら他コンビの悪口を言う悲しみ溢れるモンスターになってしまった。関崎を慕っていたあさやけレンジャーズ福士は関崎を励まそうとするが、あさやけレンジャーズ自身が今、小峰の実家の問題で解散の危機に瀕しており、福士もまともなアドバイスができず、飲み会は負の感情をぶつけ合う最悪の場になってしまう。関崎は「うるせえ、俺が一番不幸なんだよ馬鹿野郎」等とどんどん無残なクソ発言を連発し、手に負えなくなっていく。しかしそれはそれでいじられキャラ的な部分があり、愛くるしかった。これを見た周りの芸人達は、これをむしろネタに取り入れられるのでは…?と思い始める。
第11話
調子が良くなった浅宮、徐々に態度が変わり始める。芸能人の知り合いも増え、今の自分は無敵だと感じはじめる。出演番組も徐々にクイズ系からお笑い寄りの番組にオファーがかかりはじめていた。一方関崎には、とどめの一撃とも言えるべきショックなニュースが舞い込んできた。事務所の後輩、ハピネスコマンダーが赤星大次郎の息子だったという報道。ずっと身近にいた後輩があの憧れ続けたレジェンド芸人の息子だった…!?それを知らされなかったこともショックだったが、何よりも………お笑いの大会に優勝し、かっこよく赤星との関係をカミングアウトしたハピネスコマンダーと、落ちぶれ果てた自分を比較し、もう立ち直れないくらいのダメージを食らったのである。(なお、ハピネスコマンダーが赤星と親子だったと言う情報は、これ以前から少しずつあさやけレンジャーズを筆頭に徐々に笑響メンバーに伝わっていたのだが、このタイミングまで知らなかったのは関崎と、事実を勘違いして覚えていたグッドバッティングの春山だけであった)事務所社長の和田に、解散したいと打ち明けに行く関崎。和田は、浅宮には言ったのかと問う。関崎はまだ言えずにいた。すると和田は、ため息をつき、今から一緒に浅宮の現場に行こうと言う。浅宮が出演するトークバラエティ番組の現場に和田と一緒に行く関崎。
それは奇しくも、泉が演出をしている番組だった。実は浅宮と会うのも久しぶりだった関崎。なかなか言葉が出て来ない。浅宮には、なんとなく関崎がここに来た理由が理解できていた。そうこうしているうちに、収録が始まる。
ところがこの収録で、浅宮はミスを連発してしまう。ここはお笑いのトーク番組、まさに笑いの戦場であった。浅宮はそのステージには慣れていない。爪痕を残せない浅宮。焦る。その時だった。他の芸人が浅宮をイジりはじめる。ピン芸人も大変だな…みたいなイジり方。
浅宮「いや、相方はいるんですけど」
一同「へえ~相方何してんの」
浅宮、言葉に詰まる。そのコンマ1秒の瞬間を、お笑い戦闘狂は見逃さなかった。
関崎「ぃぃぃぃいいいやここここ~!!!!」
段取りを無視し勝手にスタジオに乱入する関崎。驚く一同。関崎は今までのドロドロした思いを全て爆発させしゃべりまくった。その勢いに目を丸くする番組スタッフ。何より話が面白い。かつての関崎は浅宮に対して「駄目だなお前は」というスタンスのツッコミ方だった。しかし今では関崎の方ががむしゃらだった。そして、がむしゃらの人間は面白い。しかし関崎もまた見切り発車過ぎた。エナジーが切れそうになる。そこで浅宮がそろそろと関崎に近づく。ゼエゼエ…と息を切らす関崎に浅宮が一言「はい。水」
これが謎のフォローツッコミ的な空気になり関崎の不満大演説のくだりにオチがついた。
第12話
収録現場にいた泉は感動していた。関崎は本当に苦しかったのだと。まさに戦地の窮状を訴えんとする迫力がそこにはあった。オンエアでは、泉の判断で、ここがほぼノーカットで放送された。関崎の実力が世に出た瞬間だった。後日、藍月に呼び出される浅宮。今日は関崎も一緒だった。たまたま例のトーク番組のオンエアを観たという。藍月は2人のコンビ間の話を聞いた後、2人にこう言った。
藍月「試しに、ボケとツッコミを逆にしてみないか」
藍月はここで初めて、浅宮を気に入った理由を明かした。実は藍月は、浅宮の呟くボソッとしたツッコミ台詞に光るものを感じたのだと言う。キャラも雰囲気もツッコミ寄りでは無いが、的確なワードチョイスができるのだから、あとはキャラに沿った言い方ができれば良いだけ。そのため、先の収録のようなフォロー系のツッコミがお前に合ってるんじゃないか、と藍月は提案する。
浅宮は関崎に謝った。僕は関崎を裏切りかけてしまった…許してほしいと。(浅宮は感情を表に出すタイプでは無かった。これは浅宮の心的な成長ともいえる)長い活動休止期間を経て、グラシッククラシックの本格活動が再び始まろうとしていた。
× × ×
そして数か月後。迎えた全日本漫才グランプリ決勝の舞台に2人はいた。笑響芸能事務所の中で唯一の決勝進出。キャラはたしかに変わらず凸凹コンビの良いバランス。しかし同じようでも、関係性が少し変わるだけで魅力の出方が何倍にもなっていた。結果は3位。これからネタ番組の話も間違いなく増えていくだろう。この決勝の放送を見ていた浅宮の父、信義からも祝福の電話が入る。二人は近々あらためて、お笑いの世界でずっとやっていくことを、信義に報告しにいくつもりだ。浅宮のために土下座をしてくれた関崎が思い出される。やっぱり彼と組んで正解だった。浅宮は切にそう感じていた。
こうしてグラシッククラシックは大きく再スタートを切った。これからも2人は戦い続ける。この笑いの戦場で―――。