自作ギターエフェクターの作り方を一覧で紹介自作したエフェクトペダルの一覧ページを作りました。好きなエフェクターの自作記事を探してみてください。 基板のタイプ(万能基板、スルーホール/面実装プリント基板)や、ケースのサイズ(ノーマル、ミニ)ごとに、どのように自作したかの記事が見られます。 |
Centaur(ケンタウルス)とは、オーストラリア製のギターエフェクター、オーバードライブペダルです。Charをはじめ国内外のギタリストが使っています。そのサウンドは、太くツヤがあり、まさしくオーバードライブの王様と呼ばれています。ただ残念なことに、価格も王様で、8万円近い値段で取引きされており、素人にはちょっと手が出ない代物です。
そこで、インターネットで入手した回路図と基板レイアウトを使わせていただき、自作してみることにしました。このページは、自作開始から完成までのレポートです。
本物のCentaurは、基板上の部品を樹脂で固めて見えなくしており、回路の定数や部品の種類を隠しています。そのため、基板から回路図を作るのが困難なためか、現在ちまたには2種類の回路図しか見あたりません。
● 回路図1: 部品点数が微妙に少なく、欠品しているかも知れません。
● 回路図2: シリアル698の本物から抽出してるらしく、本物である可能性は高いです。
今回は、回路図2の部品定数を使って自作することにししました。ただし、これが本物の部品定数と同じなのかどうかは、確かめる方法がありません。ただ、この回路図で自作したものと本物を弾き比べた記事をインターネットで見つけることができます。ほとんど同じ音が出るとのことですので、確度は高いかも知れません。
基板はプリント基板は興さず、ポイントtoポイントで手配線するつもりですので、基板パターンは自分で作っても良いのですが、今回はSHA-KEさんのブログにあるレイアウトを使わせていただきました。2020年の今では、いろいろなところからプリント基板が売られていますので、こちらの方が確実で楽だと思います。「Centaur PCB」でググると、山の様に出てきます。
Centaurの回路は独特の構成になており、ゲルマニウムダイオード(IN34)でクリッピングした一般的なディストーションサウンドと、原音をスルーしたサウンドを、オペアンプのMIXING回路でミックスする構成です。また、中音を盛り上げるためと思われる、CRで組まれたフィルタを通したラインがさらにミックスされるようになっており、ディストーションのゲインとこのフィルタミックス量が、2連ポッドで比例してコントロールされ、ゲインが上がるとミックス量が下がるようになっています。これは2連ポットである必要があり、独立させてしまうと、ゲインを上げたときにフィードバックループが起こり、発信してしまうと思われます。
オペアンプはローのイズタイプのオペアンプ(072CP)ですが、これは一般部品です。さらに、抵抗定数値が特殊な物が多く、カーボン抵抗には設定がない値があり、金属皮膜抵抗にする必要があります。また、金属被膜抵抗は定数誤差が1%(カーボンは5%)なので、フィルタの特性などを決めている部分は、金属被膜の方が良いと思われます。
今回の自作で特殊な部品は、電圧を2倍に昇圧するチャージポンプと言われるICです。Centaurの音がクリーンでダイナミックである理由の1つが、このチャージポンプによる昇圧にあります。最終段のMIXING回路に使われているオペアンプは、+18V、-9Vで駆動されており、通常の9Vの回路に比べ3倍のダイナミックレンジがあります。ピーク音が来た場合でも、オペアンプ自体で歪んでしまうことが少なく、アンプにストレートに音が伝わることが、Centaurの音を決めているように思われます。
Centaurは、直接真空管アンプに接続し、アンプで歪ませることが前提のエフェクタです。チャージポンプで得られた高い電圧出力でアンプを歪ませることで、独特の音を作り出しています。
Centaurの回路を詳細に解説しているサイトを見つけました。電子回路に強い方は参照してみてください。
部品は全てインターネットの通販で入手しました。Ginga Dropsさん(2020年に確認すると、残念ながら閉店してしまったそうです。)では、チャージポンプICなど特殊な物を含めて電子部品がすべて揃っており、一度の注文でOKでした。
Ginga Dropさんのサイトは、特にコンデンサ類の選択がわかりやすく、予算に合わせて部品の種類を選べます。今回は、最も安い部品で全てを作りました。また、Ginga Dropさんの部品の仕分けや梱包はとても丁寧で、定数をすべてパッキンの袋に手書きしてくれます。カラーコードをいちいち調べる必要がないので、重宝します。
ケースとスイッチは、タッキーパーツドットコムで買いました。特にケースは焼き付け塗装したものがあり、素晴らしく仕上がります。
※部品については、GigaDropさんの代わりというわけではないですが、最近は「Garrett Audio」さんで買っています。品番ごとに部品をラップしてくれて丁寧ですし、エフェクタ部品なら何でも(塗装済みケースも)あります。
基板は万能基板によるポイントtoポイントの手配線です。私は手配線が好きで、プリント基板は作ったことがありません。部品を取り替えたり試行錯誤するにはプリント基板の方が良いですが、今回は回路が決まっているので、手配線でも十分です。
ポイントtoポイントの手配線での要領は、まず基板の表面に油性マジックでパターンを書いておきます。手配線では、基板とパターン図を交互に見ながらの作業になるため、基板にパターンを書いておくと間違えにくくなります。
基板の穴に部品を挿したら、部品のリードの余りをラジペンで曲げながらパターンを作っていきます。できるだけ部品のリードを利用してパターンを作ります。パターンにする部分が無くなった時点でリードをカットします。リードとリードをつなぐ必要がある部分のみ半田付けします。この要領は文章で表すのは難しいですが、それ程難易度は高くありません。要は、パターン図通りにつなぐだけですので。
(雑で汚いですが参考に)
特に電解コンデンサの極性の向きに気を付けます。また、Centaurには、タンタルコンデンサが1つ使われています。極性のないセラミックコンデンサに似ていますが、タンタルには極性がありますので、注意して下さい。
自作する場合、スイッチの配線はトゥルーバイパスにするのが良いのですが、本物のCentaurはトゥルーバイパスではありません。エフェクトをOFFにしたときは、入力のオペアンプ(072CP)でバッファされた信号が出るようになっています。インピーダンスが下がるので、その後のエフェクタの接続やノイズの面でも良いかも知れません。今回は、この通りにしました。
基板が完成したら、まず電源の電圧をテスターで確認します。テスターは必需品で、安い物なら2000円以下で買えます。電圧を測るのがほとんどなので、高級な物は必要ありません。
今回の基板の場合、まず確認するのは、チャージポンプICで昇圧された電圧です。+V2が電池の電圧の約2倍、-Vが電池の電圧のマイナス値になります。ショートしている可能性もありますので、ACアダプタをつなぐよりは、電池で行った方が無難です。ここがOKであれば、音出ししてみましょう。
私の場合、初めての音出しの時は、ケースに組み込まない状態で行います。段ボールや、プラスチック系のケースのふたなど、絶縁されたものの上に、テープで固定して行います。ここで、音が出ればOK。出なければ、パターンを見直すしかありません。
よく間違えるのが、ポッド(可変抵抗)の向きです。時計方向に回すと大きくなる方向になっているかを確認します。
私の場合は、唯一、タンタルコンデンサ(回路図のC16)の向きを間違えてしまい、見つけるのに苦労しました。現象としては、最初は音が出ているのですが、5~10分後に、音量がだんだん小さくなり、最後に全く出なくなりました。C16に逆に溜まったDCの成分で、オペアンプのレンジを外れてしまったのだと思います。間違いを見つける方法は、レイアウト図と回路図と基板をにらめっこするしかありません。根性です!これがいやなら、プリント基板を作る方法を考えて下さい。
オーバードライブ系のエフェクタでは、クリッピングダイオードを変えて、音作りをするのが定番です。ダイオードの部分は、ソケットにしておくと、取り替えがやりやすくなります。
音の感想としては、BOSSのSD-1と比較すると、音の丸みやこもりはなくストレートで、ピッキングやフレットと当たったときのおとがカリカリしており、まさしくクリーンな音です。ドライブを回しきっても、SD-1の歪みの半分くらいしか歪みません。ですが、ストラトの音が良くなったような錯覚を覚えるほどです。
Centaurの回路仕組みから考えれば、ギターからスルーした音が、昇圧回路による27Vの電源レンジによりCentaurの中で歪むことなくアンプに伝わり、チューブアンプの歪みがストレートに出力できます。それに加えて、Centaurの中のディストーション回路によって、独自の歪み感が「味付け的に」加えられるのだと思います。単独で余り歪まないとか、ブースター的な使い方が良いとか、「ガツンと音が出る」とか巷で言われていますが、この様な評価にもマッチしていると思います。
さらに、設計者の定数のチューニングによって、加えられる歪みの部分や回路によるイコライジングにより、クリーンなイメージのオーバードライブに完成しているのだと思います。
GAINを「0」にして、クリーンブースターにすると、単に音量が上がるだけでなく、ギターの音に艶っぽさが加わり、音が元気になります。前に出る(音が抜ける?)感じがします。Centaurの回路では、パイパス時にもバッファを通りますので(トゥルーバイパスではない)、ギターのインピーダンスの違いではなく、Centaurの回路によるものと思います。VOLUMEを同じ音量にして、スイッチをON/OFFすると、違いが分かります。
GAINを9時以上に上げると、この辺りから音が変わってきます。ハイが落ち、歪が加わり、ビンテージオーバードライブの音になります。GAINをフルにしても、ディストーションの様には歪みません。
ケンタウルスは、単体で歪ませるエフェクターというより、チューブアンプを歪ませるためのプリアンプのような使い方が本来は正しいと思います。OUTPUT(ボリューム)を上げても、昇圧回路による27Vの電源レンジを持つため、歪むことなくギターの信号がアンプに伝わり、他の9Vエフェクタに比べて3倍の力でアンプをドライブできます。そう考えると、アンプの直前にケンタウルスを置くべきで、私のようにケンタウルスのあとに、他のエフェクタをつないでしまっては、本来の力を出せないのかもしれません。
私のエフェクタボードでは、ケンタウルスのあとにJan RayやBB-Preamp、SD-1などの歪みモノをおいているため、これらの歪モノエフェクタをドライブするクリーンブースターになっていますが、ON/OFFを比較すると、明らかに音が良くなるため、効果アリと思っています。
自分が作った物は本物と違うのかも知れませんが、これはこれで、とても満足できる音です。
動作が確認できたら、ケースに組み込んで完成させましょう!今回は、タッキーパーツドットコムで売られている焼き付け塗装済みのケースを買いました。Bplusサイズで、MXRなどのコンパクトペダルよりも少し大きめの物です。色はビンテージイエローを選びました。
これから自作して見ようという方向けに、自作のためのツール選びのページを作りました。参考にしていただければ、幸いです。 :-)
2回同じフレーズが流れますが、前半がOFF(バッファードバイパス)、後半がONです。
録音環境:フェンダーストラト → 自作Centaur → ZOOM G3X(フェンダーTwinReverb クリーン) → UR22mkII → DAW(Studio One)
自作Centaur: Gain 0, コード(MP3)ー ストラトハーフトーン、音が元気になります
自作Centaur: Gain 0, フレーズ(MP3)-ストラトネック側シングル、音が太くなります
自作Centaur: Gain 12時, フレーズ(MP3)-ストラトネック側シングル、単体の歪です
あるとき、私が気に入って使っている古いチューナー「BOSS TU-12」を通すと、音の減衰時にノイズが乗ることに気が付きました。ギターからの信号をチューナのINにつなぎ、チューナーのOUTから、ブースターとして使っている自作CentaurのINにつないでいましたが、ケーブルをつなぎ変えてチューナーをバイパスするとノイズが消えるため、ノイズの犯人は完全にこのチューナーでした。そこで、最初の自作Centaurにバファー後のTHRUアウトを付けて、これをチューナーにつなぐことにしました。
チューナーでスルー出し(左)していた接続を、パラアウトからチューナーにつなぐ(右)様にした
自作Centaurの改造での問題は、THRUアウトのジャックを付ける位置です。現在は、エフェクタボードに入れており、電池駆動では使っていないため、電池スペースを犠牲にして、ここにつけることにしました。改造は簡単で、Centaurのアウトプットを保護抵抗(56k)を介してパラに出すだけです。
改造後はノイズは消え、さらに若干あった音痩せがなくなり、大幅に出音が改善しました。
上記の自作Centaurで何の不満もないのですが、私が自作した際に使った回路図がアップデートされていることを知りました。そこで、アップデートされた部品定数で、もう1台作って見ることにしました。
今回は、プリント基板を自分で設計し、$25で10枚制作してくれる中国深センの「FusionPCB」に発注してみました。
基板設計はすべての工程をフリーウエアの「KiCAD」を使って行いました。回路図の入力、両面2層基板の設計を行い、「ガーバーデータ」と呼ばれる標準化された基板設計データを出力し、FusionPCBに送りました。
製造料金はなんとたったの$5です。ただし、DHLによる配送料が$20かかるため、トータルで$25です。それでも、一昔前では、一般には数万円かかっていた自作基板が¥2,500で作れますので、十分に安価です。データを送ってから、1週間程度で届きました。
部品を実装し音出しをしてみました。私は、全てのエフェクタの前に入れて、ギターそのものの音を良くする目的で、クリーンバッファとして使っています。音の印象は、前作に比較すると、多分ですが低域が増し、音の太さがましたように感じます。
ただし、残念なことに、チャージポンプのICの発振ノイズ(10kHzくらいのヒィーと聞こえるノイズ)が前作より大きく、電源のバイパス電解コンデンサ容量を増やしたり、積層セラミックでバイパスしたりしてみましたが、完全に取ることはできませんでした。多分ですが、設計した基板のIC配置位置が悪く、チャージポンプICからオーディオラインに飛び付きが起こっているものと思います。
最終的には今回の自作Centaurは、チャージポンプICを取り去り、+9V仕様のCentaurにしました。私は、Centaurを直接アンプにはつないでいないので、実機(27V幅)の1/3の電圧でも、他のエフェクタと同様に十分に動くものと思います。改造点は、チャージポンプICをソケットから抜き去り、回路の2箇所をショートするだけです。+4.5VのRef電圧は、チャージポンプの有無に関わらず同じですので、回路の変更の必要はありません。
ゴールドのケース(茶色っぽく見える)に入れてみました。1台目のCentaurと比較して見ましたが、ほとんど差はなく、気分的には2台目のほうが、特にストラトの音が太くなったように感じます。チャージポンプICをを取り去ったため、ノイズは1台目よりも小さくなりました。GAIN、LEVELをMAXにすると、ホワイトノイズが乗りますが、通常使用では、皆無と言っても良いと思います。
Centaur自作直後のエフェクターボード
上の写真からアップデートした最新のエフェクターボードはこちら。
上で紹介したケンタウルスは、私はエフェクターボード初段のクリーンブースター(バッファ)として使っています。最近になって、同じ目的に「Xotic EP Booster」を使う人が多くなってきており、気になっていました。そこで、面実装部品を使って、「EP Booster」と、「MXR MICRO AMP」を1つのケースに入れ、切替式にしてみました。「Orange Booster Duo」と命名しました。気になる方は、下のリンクに記事を掲載しています。
■EP BOOSTER & MICRO AMP チップ部品ミニサイズエフェクタ自作レポート
以上、みなさまの自作の参考にしてください。