義叔父と義甥
互いに悪意も敵意もないし、何なら好感情があるけれどちょっと複雑な間柄です。
ゼファールも人のよさそうな笑みを崩さず、歩きながら話すふりをして宴の場から遠ざかっていく。
(ミカエリスやジュリアスにも声が掛かっているだろうな。僕たちは王に推薦された『王配候補』だ。貴族たちが担ぎ上げようとしている候補者たちとは一線を画す)
元老会はキシュタリアを退けようとしていた。
元老会は王位継承者の選別に大きな発言権が伴う。だが、王配として申し分のない候補者を国王が推薦したのを独断で却下できない。
家柄、血筋、教養、人脈と様々に持った候補者を正当な理由もなく蹴れば、元老会の失墜にも繋がる。
キシュタリア当主の座につくのを邪魔していたのも、その妨害の一つだろう。ラティッチェ公爵家の力は凄まじい。ラティッチェからの重圧を振るわれてしまえば、大木であっても朽ちた枯れ木ならば折れる。
アルベルティーナはラティッチェの出身であるから、近すぎると訴えられたとしても「正当なラティッチェの血筋を奪ったのはそちらだ」と叩き返せる。そこらの弱小貴族ではなく、四大公爵家の訴えは無下にできないだろう。元老会が最初から良い顔をしないのは承知の上だ。
体調を崩しがちなアルベルティーナを支えるためにはラティッチェの人材やフォローは欠かせない。
露骨には敵に回しにくい。もし、元老会側にアルベルティーナが気を許す人間がいれば話が変わった。だが、キシュタリアの見ている限りその素振りすらない。
(でも、流石にフォルトゥナ側には気を許し始めているな。あそこはジュリアスが世話になっているし、あそこの髭のおっさんと熊爺はアルベルにメロメロだしな)
追加で言うならば、ジブリールと同類かそれ以上の気がするパトリシアとアンナと同類の気配がするベラがいる。
ひたすらに猫可愛がりしたいとうずうずしている。しかも、バイタリティが強烈な女傑タイプが揃っている。
そこで、ふとキシュタリアは気づく。
(ああ、だからか)
アルベルティーナを愛し、守りたいと思う人々。それはラティッチェを思い出させたのかもしれない。
キシュタリアは王宮を見上げる。荘厳な魔窟だ。皆、微笑の裏で毒を滴らせている。雨に濡れた薔薇園が、夜闇も相まって陰鬱な雰囲気を漂わせていた。
アルベルティーナには本当に似合わない。彼女が似合うのはラティッチェの明るい庭だ。
ふと、先導するゼファールを見た。ヴァユの離宮に向かっているが、随分と迂回しており特殊な道筋を通っている。
「ごめんね、最短ルートや通常ルートには少し面倒があるから」
ゼファールはキシュタリアの視線に気づき、申し訳なさそうな顔をする。
キシュタリアは納得した。オーエンの件も、王配の件も問いただしたい人間がうようよいるのだろう。少しでも情報を搾り取ろうと、物腰が柔らかなゼファールに狙う人は多そうだ。
しかし、キシュタリアは知っている。ゼファールは物言いや態度こそは柔らかいが、かなりのやり手だ。
一部の分家はキシュタリアの継承に激しい反発を示したが、一番回って欲しくない古参重鎮たちは静観していた。その裏で、ゼファールの口添えがあったのは察している。
本人は田舎伯爵でも十分だと言っているが、過去三回結婚したことのある彼はその人柄ゆえに入り婿先の佳人や当主に悉く気に入られている。
実子たちの奔放な振る舞いにより離婚となったのが大半であり、実子に任せるくらいなら義息子のゼファールに頼るし相続させると日々バチバチとやり合っているという。
ゼファールは実子や分家筋に継がせた方がいいと説得しているが、成人済みの実子たちは自分に尻拭いをさせて金を食い尽くすのが目に見えているので義父らは頷かず事態は膠着している。
(まあ、遊び惚けている実子に任せられなくて、元義息子のクロイツ伯爵が魔物討伐の遠征に行って、領地の視察を代行しているって聞くしなぁ)
実子に継がせたら家が消えるどころか、自分の入る墓すらなくなると危惧しているそうだ。キシュタリアはその実子たちを見たことがあるが、否定できない酷い出来なのである。
その時は招待状もなく夜会に乱入し、金をせびりに来たのだ。断られると暴力で訴えようとしたところでゼファールが取り押さえていた。
噂によると元義父らはゼファールにすべてを託すと遺言を作成済みらしい。
正式には伯爵のゼファール。その彼が一部で辺境伯と呼ばれるのは、元義父の一人が辺境伯であるがかなり体調が悪くゼファールが実質管理者だからだ。ちなみにこの伯爵も婿入り先から譲り受けたものだ。
魔物が強く管理が難しい土地だ。弱者には務まらない。ゼファールはそれを難なくこなして、他の領地にまで気を配っている。
辣腕とは言われないが、この特殊な状況で彼の評価はすこぶる良い。
グレイルやジュリアスとは違う方向で、彼は優秀であった。
(敵に回られなくて良かった)
そんな内心をおくびにも出さず、キシュタリアは懐き始めながら戸惑っている義甥を演じる。
なんでここまでよくしてくれるかは分からない。キシュタリアはまだ、ゼファールの人となりを完全に理解はしていない。悪意なく善良だとは思っているが、まだ完全に信用できない。
それでも、利用価値は高く敵対するデメリットは多い。
だから愛嬌のある笑みで『公爵』であるより、『年下の親族』として振舞う。
たとえ背中に鳥肌がばっちり立っていてもその鉄壁の演技は崩れないのであった。
読んでいただきありがとうございました。
八月ももう終わりですね。早く涼しくなって欲しいです。
皆さまも体調にお気を付けて。
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