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この作品「元の世界に帰りたい! 第4話 後編」は「一次創作」「ファンタジー」等のタグがつけられた作品です。
元の世界に帰りたい! 第4話 後編/レジェメントの小説

元の世界に帰りたい! 第4話 後編

8,130文字16分

異世界に飛ばされた男の子が頑張って元の世界に帰ります。

注意事項などは第1話の説明文を参照してください。

2022年8月29日 14:49
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「音が波・振動でできてるのって知ってますか?」
「もちろん」
「その振動の数が多いほど音も高くなるのは分かってます?」
「ああ」
(そこまでは分かってるのね…。まあ楽器は作れるんだから当然か)


「それじゃあ今から、みなさんに"十二平均律"の説明をさせていただきます。前もって言っておきますが、僕の知識も間違っている可能性があるので、鵜呑みにせず話半分で聞いてください」
「「おー」」

 優莉は集まった皆の前に立ち、十二平均律…ドレミの構造について話し始めた。白い大きな石板に、黒鉛のような黒い石をチョーク代わりにして図を描く。
 翻訳魔術書は、対応している言語同士なら読み書きも可能にした。しかし別の世界の言語である日本語には当然対応していないので、優莉はこの世界の言語を読みも書きもできなかった。石板には図のみを描き、説明は口頭で行う。


「これ… 音符、僕の国の音色の記号です」

「ある音があったとします。例えば、この音の振動数の2倍の振動数の音は、高くは聞こえますが種類は同じに感じるんです。同様に1/2の振動数の音も、低いんですが種類は同じに感じます。種類が違く感じるのは、この2倍の間の振動数の音です」

「僕の国の昔の偉い人は、この振動数2倍の間を12分割する事を考えました。12等分すると2倍の関係が崩れてしまう、例えばここと…ここの音は同じ種類に聞こえないといけないのに、振動数が2倍になりません。だから、分割は"12回掛けると2になる数"の比で行われました。12√212乗根2または2^(1/12)2の1/12乗ですね。この比で振動数を分けると、同じ種類に聞こえる音が全て2倍の関係になります」
「なるほどなぁ」
「・・・?」

「実際に聴いてみる方が早いでしょう」


「これは"チューナー"といって、これに音を聞かせると、振動数がさっきの計算の値とどれだけ違うかを教えてくれます」

 優莉はポケットからチューナーを取り出して皆へ見せた。元の世界から唯一持ってきていた機械。チューナーにも種類があるが、優莉の物は一番簡素なタイプだ。
 前面のボタンを押すと、「ブーー」というブザー音が大きめの音量で鳴った。

「なんだあれ…」
(あの箱の中に魔術文が詰まってるのか?)
「こうやって簡単な音も鳴らすことができます。これは442HzのAアーの音です」

「12分割された内、7つの音には名前が付けられました。まずこの基本の音だけ鳴らしますね」

 優莉はチューナーのボタンを押して鳴る音を変え、Cツェー(ド)から半音を飛ばしながら順番に1オクターブ上のCまで鳴らしていった。聞いていた皆は、まずチューナーの存在に驚きながらも、優莉の説明した音の種類の違いを確かに感じ取った。その後、今度は半音も飛ばさず全ての音が鳴らされた。


「…こんな感じで、僕の国では音を12種類とその高さ違いに分けておいて、それらを組み合わせることで音楽を作っています。みなさんの音楽との違いの1つですね」
「へぇ~」

「で楽器職人のみなさんにお願いがあるんですけど、この12音が鳴る楽器って今から作れませんかね?」
「ええ… 祭りまでにかい?」
「既にある楽器の改造とかでいいんです」
「あーまあそれなら作れるか…」

「ベルリスだけに良い格好させるわけにはいきません。よろしくお願いします!」





 説明が終わった後、優莉は各楽器の出せる音を調べ始めた。奏者の人に低い音から1音ずつ出してもらい、チューナーで近い音名を割り出してメモする。
 優莉は、最後にチューナーの電池を交換した時期を覚えていなかったため電池切れを心配していた。電池が切れても交換することはできない。せめて12音の出せる楽器が完成するまで持ってほしいと、切実に願っていた。


 ふと、ニーナの姿が目に留まる。彼女はここに来てから、時間さえあればベルリスを練習していた。ベルリスが好きなのか楽しいのかは分からないが、あれだけ熱心に取り組むという事はそれだけ興味があるのだろう。優莉は、彼女が関心の持てる物を見つけてくれて嬉しかった。

「どう? 調子は」
「ユーリ」

「音を出してみるから聞いてて」
「うん」

 ニーナがベルリスを吹く。まだ1度の呼吸で1発しか音を出せないが、始めたばかりにしては十分しっかりした音を出せていた。


「…どう?」
「良いんじゃないかな。音がちゃんと出てる」

「息吸う時ってどうやって吸ってる?」
「息吸う時…?」
「"腹式呼吸"…って吹奏楽や合唱ではみんな言われるんだけど、寝る時横になった時みたいにお腹を膨らませて、へこませて息した方が良いんだ」

 優莉は彼女の前に横を向いて立つと、腹に手を当てながら呼吸をしてみせた。

「・・・」
「はは…。と、とにかく、楽器吹く時は、こうやってお腹が動く息の仕方をした方が良いの。今から意識してみて」
「分かった」

 彼女はベルリスを置き、腹に手を当てながら呼吸の練習を始めた。








「隣町の知り合いが作ってる楽器でね」
「これ・・・」

 優莉が見せられたのは、鍵盤を有し、こと・琴を思わせるように弦が張られた、横に長い持ち運びのできる鍵盤楽器だった。鍵盤を押してみるとピアノとはまったく異なる、それこそ箏やギターなどの撥弦はつげん楽器に近い音色が響いた。

「"クラード"っていう名前だよ」
「クラード…」
「音が小さいから合奏には参加できないけど、これならすぐ改造して12音にできると思うんだ。どう? 要る?」
「はい! 楽譜を作るのにあったら助かります!」
「よしじゃあちょっくら行って相談してくるわ」

 素人の優莉が曲を耳コピするには、音程を確認する為の楽器が必要不可欠だった。このクラードをピアノのように使うことができれば、元の世界でやるのと同じ感覚で耳コピできる。優莉は喜んで楽器改造を依頼した。








 楽器職人達は楽器の改造、フレーとアリーは魔術で動く自動演奏システムの開発、ユキとニーナは楽器の練習に励む。優莉は、ニーナの練習に付き合いながら祭り本番で何の曲を演奏すべきか考えた。


 優莉の世界の曲といってもたくさんある。その中から、この世界の人達が聴いて良いと感じてくれるものを選ばなければならない。まあその点は、優莉が最初に吹いてみせたゲームの曲のように、優莉が素晴らしいと思っている曲を選べば間違いないだろう。おそらく音楽に対する感じ方はこの世界の人達も同じだ。
 だいたい、優莉の記憶を頼りに耳コピする以上、優莉がよく覚えている曲である事が大前提だ。そして優莉は耳コピ等が得意というわけではないので、耳コピしやすそうな、旋律のはっきりした分かりやすい曲が望ましい。耳コピ精度と演奏環境によりハーモニーの十分な再現も難しいので、選曲は主旋律の良さを重視する。

(耳コピっていうか簡易アレンジなんだよなぁ…)

(う~ん…。良い曲でも悲壮な感じのメロディーじゃダメだし… 明るくないと)



「ユーリ?」

「む? ああごめんごめん! なに」

 集中していた優莉はニーナに声を掛けられようやく気が付いた。

「どうしたの」
「いや~、みんなで何の曲を吹こうかな~って考えてたんだよ」
「そっか…」


「ねえ、Cツェーから上のCまで出すから聞いてて」
「うん分かった」

 彼女は、半音を飛ばして順番に1音ずつ出していく。音は前よりもブレない均一なものになり、別の倍音の口への移行もスムーズになった。

「どう」
「良くなってるよ。始めたばかりでこれだけ吹けて、ニーナは筋が良いのかもね」
「・・・」
「じゃあん~…。次は音の切り替え方を練習しようか」
「はい」








 改造ができたクラードを見せてもらう。12音が鳴るようになったのはもちろん、鍵盤を元の世界の鍵盤楽器のように白鍵と黒鍵に分けてもらった。

「あ^~ ちゃんとドレミが出る~」

「知り合いが言ってたよ。鍵の一部を小さくして間に入れるのは、鍵全体が細長く窮屈にならないで済む良いアイデアだって」
「ああそうなんですか」

 優莉としては弾きやすいようにピアノに似せたかっただけなのだが、鍵盤のデザインにはそういう理由もあったのだと言われて気付かされた。


「他の楽器はもうちょっと待ってね。今他の奴らが頑張って作ってるから」
「一緒に演奏できそうですかね?」
「数日中に完成しそうだし、練習の必要はあるけど既存の楽器の延長だから、たぶんできるでしょ」
「よかった~」
「ユーリは楽譜作るの頼んだよ」








 演奏する曲を全員で練習できるようになるまで1週間半かかった。


 新しく作られた楽器含む全楽器が、専用の台に固定されていく。台には紙を留める場所もあり、楽器ごとの演奏方法等を記した魔術文が留められていた。中央の台の上に開発用の大きな魔術書が鎮座し、その魔術書には楽譜が挟まれている。

 優莉がブックヴァレットを台の溝に挿すと、魔力が全体へ伝わり、魔術による楽譜通りの自動演奏が始まった。全ての楽器が同調し人の手なしに音楽を奏でる。フレー達や演奏メンバーは、自分の世界の音楽を過去にするその1曲を心に刻んだ。


 祭り本番で演奏する曲は、最終的に優莉が最初に吹いたのとは別のゲームのメインテーマ曲に決まった。有名な作曲家が作った曲で元の世界での評価も高い。そして、明るく楽しく、主旋律が良く、これ1曲だけ演奏しても綺麗に締まる。
 耳コピ・採譜は、なんとか人前での合奏に堪えられる及第点まで持っていく事ができた。我ながらよく頑張ったと、優莉は心の中で自分を労わった。


 楽器達の自動演奏が終わり、優莉はブックヴァレットを外す。

「いや~ 良い曲だね」
「聴いた事のない素晴らしい音楽だ」


「この曲をみんなで吹きます!」



 優莉が高らかに宣言すると、なぜか演奏メンバー達は感想を話すのをやめ、静かになった。練習部屋は神妙な空気に包まれる。

「な、なに、どうしたんですか…」


「…自分達が演奏しなくてもこの自動演奏でよくない?」
「はあ?」

「いや… なんかもうこれで十分良い感じになってるし、祭りでは途中でこれに演奏させればいいかなって」
「なに言ってるんですか! 自分達で演奏するから意味あるんでしょ!」
「それに練習の必要が無くなれば他にもいくつか曲を用意できるでしょう…?」
「いや、ダメです、みんなでこれ吹きます」

「だいたいみなさんは分からないかもしれないですがこの自動演奏は所詮自動演奏ですよ! 強弱やテンションが全然なってない! 人間味が無くて曲の良さが出きってないんです! どっかミスってでも絶対人が吹いた方が良い! こんなん素打ちのMIDIミディですよ!」

 そう優莉は声を荒立て力説しながら楽譜の写しを皆へ配った。

「さっそく曲の練習に入ります! 各自、前渡したサンプルの楽譜の時のように運指やメモを記入してください! 1時間半後にサビのE部分を合奏してみます!」
「「は~い・・・」」


 優莉はぷんすかしながらフレーとアリーのもとへ寄る。

「いや~ ユーリ、様になってますね」
「ごめんねフレー… アリー…。頑張って演奏システム作ってもらったのにあんな風に言っちゃって」
「大丈夫大丈夫。人間味無いってのは僕達も感じるから」

「で、フレーにお願いがあるんだけど…」
「なんですか?」
「フレー、指揮者やらない?」
「僕がですか?」
「僕は本番ベルリス吹くし、誰かやるなら魔導師のフレーがやれば格好つくんじゃないかなと思って」
「たしかに兄さんはピッタリかも」
「分かりました。指揮の仕方、教えてくださいね」
「お願いします!」

「ねえ、僕はなんかやる事ないかな?」
「アリーはね~…、パーカッション(打楽器)が楽器余ってるって言ってたよ」
「分かった! 訊いてみる」


 2人との会話を終え、優莉は自分の席へ戻った。

(はぁ…)
「・・・」

 くたびれ下を向く優莉をニーナが見つめる。








 その日の夜。優莉は、1人だけ練習場所の平屋に戻ってベルリスを吹いていた。オイルランプの明かりで手元や譜面台を灯し、担当する楽譜を練習する。


 いったん吹くのをやめると、窓の外にニーナの近づいてくる姿が見えた。彼女が窓を開けるよう軽く叩くので、優莉は立ち上がり、窓を開ける。


「今日も遅くまでやるの」
「まあね~」

「…昨日までも楽譜作るのに起きてたでしょ。今日は早く寝たら」
「う~ん…」

 優莉は12音クラードができてから昨日まで、毎晩ここに残って耳コピ・採譜をしていた。自動演奏システムが完成してからは、皆に楽器を置いていってもらいユキに借りたブックヴァレットで自動演奏させて確認しながら楽譜を作った。

 連日の疲れは当然感じている。


「ユーリは他の人より上手いから、無理して練習しなくてもいい」
「・・・」

 それでも優莉はできるだけ練習しておきたかった。
 今、演奏メンバーの皆を引っ張れているのは、優莉に元の世界の音楽の知識と技術のアドバンテージがあるからだ。今日のあの反応、もし優莉が全体練習で拙い姿を見せてしまったら、皆の士気が下がり自動演奏で済ませようという話になりかねない。
 また、ベルリスの練習を始めてからニーナの腕は急速に上達していた。既に簡単な曲なら暗記すれば吹ききることができる。もし彼女に演奏技量で追い抜かれてしまったら、格好がつかなくなってしまう。優莉は無意識に危機感を抱いていた。



「・・・」

 ニーナが優莉を見て何も言わない。

「なに」


「楽器のこと嫌いじゃなかったの。そうは見えないけど」


 気付けば、この街で吹奏楽を始めてから、楽器を吹くのが、楽譜を作るのが、練習するのが、嫌だと思うことはなかった。中学に入って吹奏楽を始めてから、今が一番熱心に取り組んでいる。



 優莉はニーナの顔を見た後、俯いた。

「結局自分がやりたいかやりたくないかって事か…」
「?」


「街のみんなにはちゃんと自分達で演奏してほしいし、フレー達の努力に応えたいし、…ニーナの良い思い出になってほしいからね」
「だから、嫌じゃない…?」
「うん。自分が周りにそうなってほしいから、頑張れるんだと思う」



「でも、今日はニーナの言葉に免じて終わろうかな。あんまり無理しても身にならないだろうし」
「そっか」

 優莉は楽器等を片付け、ニーナと共に宿へ帰った。








 街の中心に近い道の突き当りに用意された舞台で、演奏メンバーの皆がこの世界の曲を演奏する。その演奏をBGMに、祭りは大きな賑わいを見せていた。今日は祭り当日だ。

 舞台の裏のお店の中で、優莉たち5人は最初の演奏前の最終確認を行う。優莉、ニーナ、ユキは小さい音を吹き、アリーは手を動かして慣らす。


「いや~、なんだか緊張してきた…」
「兄さんは棒振るだけでしょ。僕達は楽器を演奏するんだよ! 緊張するのはこっちさ…」
「そうだね…」
(指揮者も粗相があったら目立っちゃうから、そりゃ緊張するよね…)

 ユキは兄達の話を一切無視して楽器を吹き続けた。


(ニーナ・・・)


「ねぇニーナ」
「ん」
「本番直前だけどどう? ニーナは緊張してる?」

「…その緊張っていうのがよく分からない。普通に吹けばいいんでしょ?」
「そうそう、そうだね」

 ニーナの様子はいつもと変わらなかった。


「みんな」

「言うの忘れてたんだけど、僕の世界ではよくね、『練習は本番のように、本番は練習のように』って言うんだ。だから、まあ… 練習だと思って気楽にね」
「うん」
「ああ」
「分かりました」





 時間になり、演奏が中断される。5人はそれを合図に舞台へ上がった。皆が譜面台や必要な楽器の準備を行う。観客達は空気が一変した事に気付いたが、何が始まるのか見当もつかなかった。舞台に注目が集まる。

 準備が落ち着いたところでフレーが指示し、皆でBベー(シ♭)の音を出して最後のチューニング(音合わせ)をする。本来調整を指示する指揮者のフレーは細かなピッチの違いが分からないし、そもそもBを出せない楽器もある。なので形だけだ。


 楽器の音が消える。観客達は声を上げずに静かに待つ。

 フレーが全員を見渡し最後に優莉と目を合わせると、指揮棒を振り始めた。












 曲の演奏が終わる。


 割れんばかりの歓声、拍手、あらゆる称賛が演奏した皆に贈られた。


 全員での合奏なんて練習の時に何度も聴いている。元の世界でも吹奏楽部、大会や演奏会で合奏はした事があるし、拍手も歓声もたくさんもらった。しかし、この時の優莉は、今までに感じたことのない喜び・感動・達成感で満たされていた。

 皆、自分達を称える観客の姿に目を輝かせる。


 優莉はニーナの方を見た。ニーナも優莉の方を見る。

 彼女は喜びも驚きもしなかったが、その顔を見て、彼女は失っていた大切な気持ちをひとつ取り戻したと、優莉は感じた。



 こうして、優莉の世界の音楽は人々に受け入れられ、演奏は大成功を収めた。








 祭りから2日後の朝、出発の準備に取りかかろうとした時の事だった。

「私、ここに残る」
「えっ…」

 ニーナは、旅をやめてこの街に残ると言い出した。

 実はニーナは以前から、ベルリスの人に楽器吹きとしての素質を買われ、自分達のもとで楽器職人にならないか誘われていた。最初は優莉も誘われて嘘の実家業を理由に断ったが、ニーナは"身寄りがない"とだけ明かしていたため執拗に迫られた。勧誘をやめてもらうため、盗みをしていた過去を優莉達に内緒で打ち明けたが、ベルリスの人はなおさら「手に職をつけよう」と楽器職人の道を勧めてきたと言う。

「他の街の人達もいいねって」
「あっ… やっ…」


「賢者様の山まで行かないの!? 旅しないの!?」


「…遅かれ早かれ、ユーリが元の世界に帰って、旅が終わったら、私はフレー達から独立しないといけない」

 ニーナはフレー達の方を見る。

「ここには私を、盗みをしていた事を承知で受け入れてくれる人達が居る。帰る場所が無い私には…貴重な存在でしょ」


「私達が居なくても大丈夫ですか…?」

 何度も優莉の顔色をうかがうユキが口を開いた。

「この街に来てからしてた事に、楽器作りの修行が加わるだけだから、大丈夫」
「盗みなどの悪事は絶対しない?」
「衣食住があるならする必要が無い」
「・・・そうですか」

 フレー、アリー、ユキの3人は少し話し合った後、彼女の意向を了承した。



 優莉は、「最後まで一緒に旅をしないか」と言い出したかった。賢者の山に着くまで、自分が元の世界に帰るまでは、一緒に。


 しかし、それは自分勝手な願いだと思い留まった。人・社会を信じられないと言っていたニーナが自分からここで生きると言っているのだ。彼女の事を本当に考えているのなら、引き留めず応援すべきだ。

 優莉は彼女にかける言葉を絞り出した。

「ニーナ… 頑張ってね」

「うん。ユーリも賢者に会えるといいね」





 優莉たち4人は賢者の山への移動を再開する。優莉の心の中では、この街の吹奏楽の経験も、楽しかった思い出も、すべて消えてなくなっていた。








― 第4話 後編 終わり ―

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