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この作品「元の世界に帰りたい! 第2話 後編」は「一次創作」「ファンタジー」等のタグがつけられた作品です。
元の世界に帰りたい! 第2話 後編/レジェメントの小説

元の世界に帰りたい! 第2話 後編

6,657文字13分

異世界に飛ばされた男の子が頑張って元の世界に帰ります。

注意事項などは第1話の説明文を参照してください。

2022年8月13日 14:59
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 優莉たち5人は目的の国に到着していた。しかし、町に入ろうとしたところ、検問所のような場所で衛兵?の人達に足止めされた。

「そんな・・・ 入っちゃダメですか…?」
「いやだって怪しいし…」

 言われてみれば優莉達の格好は怪しすぎる。優莉は元居た世界の冬学生服だし、シフィ達は獣耳を隠すために4人ともフードを被っている状態だ。4人にフードを取ってもらって事情を説明する事もできるが、今話している衛兵?達の感じが良くないため、優莉は説明しても理解を得られると思わなかった。

「僕達、どうしても魔導師に会いたいんです!」
「魔導師? たしか魔導師は今この国には誰もいないよ」
「えぇ…」

 シフィ、ミアー、セーグ、アルアの顔を見る。皆不安そうな表情だ。
 魔導師が居なかったとしても、シフィの治療や食料など必要な物の調達の為に、町には入らなければならない。

「でも、町に入って買い物とかしたいんです。どうか入れてもらえませんか…?」
「う~ん、でもなぁ」

「やっぱり、本来止めるべき奴らを通すのはこっちもリスクを負うしぃ…」
「・・・え?」

 相手がニヤついて手のひらを差し出してくる。

「まさかチップですか!?」
「あー!あー! 俺は何も言ってないよ。でも気を利かせてやるんだから見返りはないとなぁ?」
(こいつら… 公務員じゃないんか! チッ…)

 優莉はこの世界のお金を入れている袋を取り出し、2番目に価値の高い硬貨を彼に渡した。ミアーが彼らにあからさまに嫌な顔をするのをシフィがやめさせる。

 こうして5人は町の中に入った。





 最初に寄ったのは診療所だった。おじいさんの先生に4人の獣耳や尻尾を見せると驚かれはしたが、事情を話すとちゃんと理解してくれた。一番状態の悪いシフィの治療をお願いする。

「これはなぁ… やっぱり魔導師の力がないと難しいの。医者だけじゃ耳や尻尾を無理矢理切り落とすぐらいしかできん」
「そうですか…」
「簡単な手当しかできなくてすまんの…」
「いえいえ… 治療してくださりありがとうございます」

 優莉はシフィの言った事を通訳した。4人は改造の影響か言葉が上手く発音できない。翻訳魔術の使えない人と話す際は、優莉が聞き取って仲介する必要があった。

「隣の国には魔導師の拠点がある。大きい国で良い病院もあるから、きっとそこならみんな治してもらえるはずじゃ」
「ホントですか! 良かった~」

 4人が顔を見合わせて喜ぶ。ゴールが見えたことでひとまず安堵でき、次の移動への気力が湧いた。魔導師に会えそうで優莉も安心する。
 先生は他の3人にもできる限りの治療を施してくれた。





 元気になった4人と優莉は街の市場に飛び出す。優莉は皆の通訳に専念した。
 市場を見て回り、お店の人と話したり買い食いしたりする4人の姿はとても楽しそうだった。今まで大変だったのだから無理もない。アルアも他の3人と一緒に街を満喫していた。そこに夜に聞いた警戒感など、優莉は微塵も感じなかった。
 また、4人の服装の怪しさを少しでも紛らわす為に、布屋でパステルカラーの生地を購入しフードや傷んでいた場所と付け替えてもらった。これだけでも見た目の印象は大きく違い、提案したミアーは自慢気にしていた。


「あっ… やっべ…」
「えなに、その嫌な感じは」

 5人はお店の中で昼食をとっていた。

「・・・ここのお代払ったら僕のお金もう…無い」
「ええーーー!!」

 優莉はお金の袋をテーブルに投げる。すると軽い音が鳴った。
 楽しそうな4人と一緒に夢中になっていたため、優莉は次の移動の事をすっかり忘れていたのだ。さらにチップ、生地の件で出費がかさんだ。このままでは、次の移動に必要な食料等を調達するどころか夜を越すこともできない。
 5人はとりあえずお代を払い、店を出た。

「もうどうするのユーリー! このままじゃ出発できないじゃん!」
「いやぁ… 最初に準備済ませとくかお金分けとくべきだったなぁ…」
「今さら嘆いてもどうにもならない」
「そうそう。とにかくお金をどうにかしないと」

「「う~ん・・・」」

 皆は悩みながら街をうろうろした。

(また町の役場に行って仕事紹介してもらうか~…)


「あれ? アルアは?」
「あれ」

 気が付くとアルアは、道の端に居たおばあさんと警備員のような人の会話を聞いていた。そこへ4人が駆けつけ、ミアーが訊く。

「どうしたのアルア」
「いや… このおばあさんが…」


 話を聞くと、おばあさんが財布を失くしてしまい困っているらしい。警備員のような人は町の治安官で、おばあさんの相談を受けていたところをアルアが気付いた。

「探してあげようよ」
「そうだね。やる事も無いし手伝ってあげるか~」

 優莉が、自分達も探すのを手伝うと2人に説明した。おばあさんと治安官は喜ぶ。しかしその間に4人は揃って同じ方向に探しだしてしまった。

「えちょっと! 探すなら別れた方が良いって!」

 しかし4人はどんどん進んでいく。仕方なく優莉達は4人についていった。





「これは… わたしが通ってきた道じゃのう」
「そうなんですか?」

(あっ… まさか4人とも、改造された嗅覚でおばあさんの匂いを辿ってる? それでこんな迷わず一直線に向かってるのか?)

 優莉の察した通り、4人はおばあさんの匂いを頼りに財布を探していた。4人の嗅覚は改造によって獣並みの力を得ており、それを無自覚に駆使していた。


 しばらくして、おばあさんが寄ったお店の花壇の溝からセーグが財布を見つけ出した。ミアーが中身を取られてないか確認するよう言うので、優莉が代わりに伝える。中身も全て無事だったようだ。
 おばあさんは何度も礼を言うと、お金を少し優莉達に渡して笑顔で去っていった。皆見返りは求めていなかったが、人の役に立てた証としてお金を喜んだ。

 すると一緒に居た治安官が4人を称える。

「ありがとう! 君達のおかげでおばあさんを助けられたよ」
「いえいえ…」
「えへへ」
「しかし4人はどうしておばあさんの来た道が分かったんだ? 魔法? それとも鼻が利くのかい?」
「あー、ええっと・・・」

 シフィ達の顔色をうかがう。優莉は、この人になら事情を話せると感じた。







「そりゃあ… 大変だったね」

 治安官の事務所で、シフィに翻訳魔術書を渡して今までの事を話してもらった。フードも取って獣耳を見せる。治安官は同情してくれた。

「それで、今お金使い切っちゃって困ってるんです。おばあさんのお礼だけじゃ隣の国まで持たないし…」
「そうなの?」
「お金を工面できる方法、良い稼ぎ口ご存じないですか?」


 治安官は少し考えた後、優莉達に話し始めた。

「実はね、今この町では窃盗が毎晩起きてるんだ」
「窃盗… 泥棒ですか」
「うん。みんなの寝てる間を狙った忍び込み」
「それが毎晩やられてるんですか?」
「そうなんだよ… 僕達も全力で犯人達を捕まえようとしてるんだけど、追いかけると変わった魔法を使われて逃げられるし、手がかりを残さないから正体やアジトを突き止める事もできないんだ」

 治安官は4人の方を見る。

「みんなの能力があれば、きっと犯人達を捕まえられると思うんだ。ぜひ協力してくれないか。もちろん報奨金は出るし、捕まえられなくても協力報酬は出すよ」

 4人はやる気に溢れた顔で頷いた。お金を得られて町の人も助けられるならやらない理由は無い。優莉も同じ気持ちだった。








 昼の賑わいが嘘かのように街の静まった深夜。5人は治安官に貰った腕章を着ける。ミアー、セーグ、アルアはフードと、尻尾を隠すための腰の布も外していた。

 あの後、被害者宅を訪れた4人は匂いを辿ることで、犯人達が盗んだ物をしまっている小屋を発見した。さらに匂いを辿ると誰の被害者宅でもない、犯人達のアジトと思われる家も発見した。
 4人の嗅覚は確かだが犯罪の証拠にはできない。また、犯人達は一人残らず同時に捕まえたかった。一部だけ捕まえると残りの犯人に逃げられる可能性があるからだ。

 よって、夜にアジトから出てくるであろう犯人達を尾行、誰もいなくなったであろうアジト内にも侵入し窃盗の証拠を捜索。犯人達が他人の家や店に侵入するかアジトで証拠を見つけ次第、尾行班が奇襲確保するという作戦が立てられた。
 シフィと優莉は証拠捜索班、ミアー、セーグ、アルアの3人は尾行班になった。3人が獣耳や尻尾を出しているのはもしもの時に運動能力をフルに発揮する為である。


 アジトから4人が出てくる。格好は特に怪しく感じなかった。ミアーたち尾行班が尾行を始める。シフィたち証拠捜索班も、治安官の先導で家の中に侵入した。


 証拠捜索班。治安官が忍び声で優莉とシフィに話しかける。

「誰も居なさそうだね…」
「そうですね…」
「どうだいシフィ君。何か感じるかい?」
「こっちから、たぶん家に住んでない人の匂いがします」
「『こっちから匂いがします』って」
「よぉし・・・」

 いちおう大きな音が鳴らないように扉を開ける。中は汚い物置部屋だった。シフィは部屋を見渡した後、ある引き出しに近づいて手を掛けた。治安官の方を見る。

(開けていいですか)
「…開けていいよ」

 引き出しの中には3,4つ程の金細工が入っていた。それを見た治安官は、持っていた資料を取り出して同じ物を探す。

「それ… 過去に盗まれたやつだ」
「よし! 証拠みっけ! これであの人達が犯人で確定ですね!」
「たぶんね。これで身柄は確保できる」
「やったねシフィ!」
「誰かこっち来る!」
「え!」

 3人が身を隠す暇もなく扉が開いた。現れたのは女性だった。寝ぼけているようで顔がふにゃふにゃしている。

「あんたたちまだ~… 出てってなかったのぉ・・・」

「あ… ああ…」

「・・・?」

 女性はしばらく3人を見つめると、だんだん目が覚めて自分に不味い状況だと気付いてきたのか後退りしだす。反転して逃げようとした瞬間、治安官が飛びついて彼女を確保した。

「ああああああ!!」
「お前達が夜に盗んでた泥棒だな!」
「くそなんでバレたんだ!」

 優莉とシフィは女性を押さえる治安官を手助けしようと慌てた。





 一方そのころ、尾行班はアジトから出てきた4人を追っていた。セーグは治安官達と地上を、ミアーとアルアは建物の上を伝って移動している。

「あいつら絶対怪しいじゃんこんな夜に4人でまとまって歩いて! さっさと捕まえて問いただした方が良いと思わない!?」
(コソコソうるさいなぁ…)

 不満を漏らしまくるミアーにアルアは困り果てていた。


 すると、アジトのある方向から鈴の音が聞こえる。治安官達は気付かなかったが獣の耳を持つ3人は確かに聞き取った。シフィ達が証拠を見つけた時に鳴らす事になっている、連絡用の鈴の音だ。

「アルア聞こえた!?」
「うん。あいつらが犯人だね」

 ミアーと地上のセーグが顔を見合わせると、セーグが治安官にハンドサインを見せて証拠が見つかったと伝えた。治安官から奇襲のGOサインが出る。
 しかし犯人達4人はいつの間にか走り出していた。

「おい走り出したぞ」
「あこっち見た尾行バレてる!確保しろ確保おおおおお!!」

 治安官の声で全員一斉に追いかけ始める。奇襲作戦は失敗した。

「魔法届くか!?」
「やってみます!」

 そう言い治安官が魔術書を使うと犯人達4人に派手な光の印が出た。これは追跡用のマーカーで、犯人達が姿を晦ませても魔術的に位置を特定し追えるように新たに開発されたものだった。ただし時間が経つと魔力が薄まって消えてしまう。

「おおあいつすげえ!」

 セーグが気持ち悪いほどの爆速で走る姿に治安官達は驚かされた。治安官の中には体力強化魔術を使って足を速くしている者もいたがそれでも及ばなかった。ミアーとアルアも建物の上を次々と飛び移り、犯人達との距離を詰めていく。

 ついにセーグが追いつき犯人の1人に飛びついて拘束した。ミアーとアルアも持っていた網を地上に放ち、残る犯人達3人を網にかけた。全員確保だ。息を切らしながら治安官達も合流する。

 その瞬間、急に一帯が暗闇に包まれて視界を奪われた。マーカーも見えない。

「なになになに!?」
「まずいぞ魔法が使われた! 逃げられるぞ!」

 犯人達は魔法で皆の視界を奪い、混乱している間に逃げ出そうとした。
 しかしセーグは逃げようとする犯人を再び掴んだ。ミアーとアルアも地上に降り、網から抜け出そうとする犯人達を妨害する。3人は改造により視界が無くても聴覚や嗅覚だけで充分周囲を把握できたのだ。

「どうなってるんだ!」
「大丈夫か君達!」

 治安官達もがむしゃらに網を上から押さえつける。犯人1人は絡めておくことができたが、2人が抜け出してしまった。気付いたミアーとアルアが追う。


「えやあああああああ!!!」

 視界が戻ったタイミングでミアーが1人に飛びかかり捕まえた。

「クソッ! なんなんだよこいつら!」
「アルア!あいつをお願い!」
「うん!」

 残る1人をアルアが追う。



 アルアの追う犯人は足は速くないものの、街の路地や構造物を巧みに利用してアルアを引き離していた。マーカーも消えかかっている。

(このままじゃ見失っちゃう! 早く捕まえないと!)

 焦ったのが油断となった。犯人は急に止まり振り返るとアルアの体に触れ魔法を発動した。アルアの下半身が凍ったように地面に拘束される。

「しまった…!」

 犯人はニヤけた顔で逃げていく。すると、道の先の角から誰かが出てきた。

「ユーリ!」

 出てきたのは優莉だった。優莉はシフィと連絡用の鈴を鳴らした後、尾行班の皆を探して1人歩いていた。その途中で謎の光、犯人に付けられたマーカーの光を目にし、気になって駆けつけたのだ。優莉はマーカー魔法の事を聞かされていなかった。

「え?」
「このぉ!」

 犯人はとっさに魔法を使い閃光を生じさせ優莉の目を潰す。

「がああああ!! 目が、目がああああああああああいいい!!!」
「うぐっ…!」

 アルアも閃光を喰らうが音で犯人と優莉の位置を掴む。

「ユーリ左!!」
「うあ! うおああああああああああ!!!」

 優莉は"自身から見た左"か"彼女から見た左"か迷ったが、無我夢中で自身の右に飛びかかった。奇跡的に勘は当たり、優莉は犯人の足を掴むことに成功する。

「こいつ離せ!」
「んんんんんんんんんんんん!!」

 蹴られ踏まれするも、優莉は離すまいと必死に犯人の足を掴み続けた。顔面血だらけになる優莉をアルアが心配する。

「ユーリ!!」
「お前その子を蹴るんじゃない!」

 尾行班の治安官が追いついて犯人を拘束した。












 捕まえた犯人達は罪を認め収監された。彼らは国中から集まった盗みの経験者で、魔法を駆使することで完璧に盗みを行っていた。アジトから出てきた時に格好が怪しくなかったり治安官達に顔の見覚えが無かったのは、証拠捜索班の確保した女性があらかじめ強力な認識改変魔術で周囲の人の認識を狂わせるように施していたからだった。彼女が眠たそうにしていたのもその魔術を使った反動だった。


 翌朝、優莉達は治安官から協力報酬・報奨金を受け取った。それは次の移動の準備には十分すぎる程の額だった。朝一番に市場で買い出しを済ませ、町を出発する。

「お金もなんとかなったし、悪いやつらも捕まえれたし良かったわ~」
「獣の能力も捨てたもんじゃなかったって事かぁ」

「ユーリ大丈夫か? まだ傷痛い?」
「ああ、まあ大丈夫だよ…」

 セーグが優莉を心配する。優莉の頭は綿布や包帯でいっぱいだった。



「ユーリ」

 アルアが声を掛け、優莉を見つめる。

「ん? どうしたの」





「…ありがとう」








― 第2話 後編 終わり ―

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