元の世界に帰りたい! 第1話
異世界に飛ばされた男の子が頑張って元の世界に帰ります。
異世界モノは読んだこと無いです。異世界モノで見たことがあるのは、
・異世界オルガ
・デスマーチオルガ
・このすばオルガ
・リゼロのWikipedia記事のあらすじ項
だけです。思いついたアイデアに起源を主張したく小説化しますが、もしかしたら先駆者の方が居たり既に出涸らしのネタかもしれません。被ってたらごめんなさい。
全部の脚本というか、行動・発言・描写の一覧は全話分できています。故にあとは小説化するだけなので、とりあえず全話投稿し終えるまではコメントが付いたとしても読まないでおきます。ご了承ください。
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まばゆい夕日が地上を照らし、木々や竹に遮られた光がアスファルトの道に線を描く。その芸術に目もくれず足早に通り過ぎる1人の少年がいた。
彼の名前は鈴木優莉。この前中学三年生になったばかりの、普通の男の子。
未だ慣れない新しい教師による授業、ついに始まった入試対策課題、彼の所属する吹奏楽部の新一年生の相手や夏の大会に向けた練習で、彼の心は疲労に満ちていた。
(・・・お腹空いた)
口の中に金管楽器の味が残る。連日の下校時は、目の前にある肉体的疲労と空腹を解消する事しか頭になく、周囲に満ちる自然も、交差点の情景も目に留まることは無かった。
しかし、そんな優莉の足を止めさせる物が現れた。
「えっ…」
気が付くと優莉は、のどかな草原の上に立っていた。知っている場所ではない。
「えっ」
先程まで夕方だったのも青空の広がる昼になっていた。
(!!!!!?)
状況が理解できず体を異常にそわそわさせる。周りを見渡しても草木しかなく、気が動転している優莉を落ち着かせる要素は1つも無かった。
なぜこうなったのか振り返る。そう、下校途中、川の斜面の中にあった謎の光が気になって降りて行ったのだ。最初は捨てられた鏡か何かだと思ったが、近づくにつれて違うと分かった。そして…こう。
優莉は自分の頬をつねってみるが、痛みを感じる。
既に夢じゃないとは分かっていた。この動悸や恐怖はハッと目覚める悪夢と明らかに違う。しかし、今の状況を現実だと受け入れたくない気持ちがそうさせた。
「・・・」
見知らぬ土地を歩み始める。あの謎の光を探すことにした。
危機的な状況に陥ったことで優莉の疲労や空腹感は失せ、異様な冷静さがもたらされていた。移動する時間と共に、自分に何が起こったのか、どういう原理でこうなったのかを考えさせる。
考えるうちに優莉は、「この世界は起きないと証明されていない事はどんなに低い確率でも起きる可能性がある」という事を思い出した。どこで知ったのかは覚えていないが、子供が不自然に消える"神隠し"も量子的な働きによって人が別の場所に飛ばされている可能性があるという話だった。
自分は極低い確率で瞬間移動してしまった。優莉はなんとなくそう思った。
また、優莉は自分の居場所を把握すべく考えを巡らせた。
ここの気候は日本と同じようなので太陽の傾きも日本と同じくらい、だとすると今の太陽の位置的に時刻はだいたい正午で夕方と約6時間差、つまり日本より1/4日遅い地域なので、日本の西側へ行った日本とブラジルのちょうど中間、ヨーロッパ~インドぐらいの間のどこかに自分は居ると考えた。ただし、移動したことに気付くまで数時間以上が経過していたというような事は考慮されていない。
しだいに優莉の目標は謎の光を見つける事から人と会う事に変わった。
(おっ? おお人だ!)
空腹が再び目立ち始めた頃、ついに現地人らしき子供とその母親?の女性に遭遇した。格好ではどこの国や地域かは分からない。
「おーい! あのー!」
「?」
優莉は、その母子が自分を警戒しているとか、母が子を守るために危害を加えてくるとか、そういった事は特に考えず嬉しさに任せて不用意に近づいた。実際その母子は(なんなんだろうこの子?)と警戒はしなかったが、非常に危険な接し方だ。
優莉は不思議に思う2人にお構いなしで話しかける。
「Excuse me. Hello! こんにちは!」
「?」
「I'm Japanese. What is... this country name? Where am I?」
合っているのかどうか分からない英語でとにかく喋ってみるが、反応は乏しい。
「・・・?」
「お! Sorry! Sorry! I'm Yuri! I'm from Japan.」
「」
「I... want to go home! in Japan. Please help me!」
「・・・&<*/$^?」
「あー・・・」
「#<*'+**:¥^&=&'<¥/*"-」
「=</:"-%*^@'?」
(英語も普及してない発展途上国とかなのかな…)
何者か分からない相手の話に付き合ってくれる人に失礼な事を思いながらも、自分のおかれた状況を打開するため続けて説明を試みる。
「なんか… 急にここに来ちゃったんです! どうすればいいか分からなくて… 誰か助けてくれる人が必要なんです! お願いします!」
「\-%^@#'=-#-^>:%/?」
「^*~&,>?-@=#"%-'」
「@<=;-%-@+。/#`|`*^%~"%」
女性はそう言うと道を進み始め、優莉に対し「こっちこっち」というような合図を送る。話す必死さやボディランゲージから言いたいことが伝わったと思い、優莉はひとまず安堵し2人についていくことにした。
2人に連れてこられたのは街の中にある建物だった。中に入り働く人達の様子を見た優莉は、ここは市役所のような役場だと察した。母?は事務員らしき女性を呼び止めると、優莉の方をチラチラ見ながら話す。事情を説明しているのだ。母子が話を終え外へ去っていくので、優莉は伝わらないかもと思いながらも2人に頭を下げた。
事務員?の女性に促されて席に座ると、女性は紐付きの分厚い本を持ってきて優莉に首に掛けるよう促す。優莉は何も不思議がらず、促されるまま本を首に掛けた。
「私の言ってること分かります?」
「おお! はい! 分かります!」
「ふふっw そんなに不安でしたか?」
「これすごいですね! ウェアラブルの翻訳機ですか?」
「ウェアラブル?」
女性の反応を見て優莉はようやく事のおかしさに気付く。女性とは、あたかも自分がその言語に堪能になったかのように話せた。翻訳機の間に割って入る動作も無く。そもそも、こんな本形状の端末があるだろうか。首にかけるだけでこんなに高度な翻訳ができるのか。
「それは翻訳魔術書ですけど」
「へ」
優莉は急に立ち上がると周囲で働く人達を見回す。よく見ると確かに、機械っぽくない見た目の物が機械のように動いているし、怪しい光を操って手を使わず書類を棚の高い位置にしまう人が居た。
「もしかして魔術も普及してないような田舎から来られました?」
「・・・みたいですね」
優莉は異世界に転移した。その事を思い知らされた。
「えっ! 信じてくれるんですか!?」
役場職員の女性にもらったパンを食べながら優莉が驚く。あの後、自分が別の世界の住人である事や謎の光によってこの魔法のある世界に来てしまった事を説明した。説明と言っても、優莉自身も状況を完全に把握できているわけではなかったが。
「私の実家が服屋をやっているんですけどね、あなたの服やリュックの生地、見たことありません」
「あ~ なるほど」
「どうやって作っているのかも見当がつきませんし。勘ですが少なくとも、魔術の発達していない土地なんかが作れる生地じゃありません」
「こっちは科学が発達してるんで…」
「科学?」
「えっ、機械とか電気とかありますよね!?」
「あ~。魔術の要らない方の機械とかが発達すればその生地も作れるようになるんですか」
「さすがにありますよね…」
「もしかしてあなた、未来人?」
「なんでそうなるんですか」
「非魔術機械が発達した後、使えない人もいる魔法技術は消えてしまった…」
「えっ」
「私の妄想ですよw」
微妙に噛み合わない会話をする2人だったが、女性が切り出す。
「まあ、あなたが未来人でも異世界人でも、頭の病人だったとしても私の仕事は変わりませんけどね。これからどうするんです?」
「これからって・・・」
「元の世界に… 帰りたいです」
2人は無言になった。
「え~っと… この世界には、"賢者"って人が居るんですよ」
「賢者?」
「賢者様は高い御山の上に住んでいると言われていて、何でもできる凄い人と言われています。もしかしたらあなたを元居た所へ戻せるかも」
「・・・それって実在する人物なんですか?」
「誰も会ったことが無いので分かりません。『運命で定められた者しか会えない』と言われています」
「ええ…」
「あなたが本当に他の世界から来てしまった人なら、"運命で定められた者"って可能性も十分あると思いますけど」
「まあ・・・」
あの謎の光にもう一度近づくのが最善の手だが、最初この世界に来た場所に無かった時点でこの世界側にも謎の光がある可能性は低い。一方通行か、それとも消えてしまったのか。謎の光以外に、優莉は元の世界に帰る方法を思いつかない。
「分かりました。他に宛も無いので、その賢者様に会いに行くことにします」
「それかここにずっといます?」
「いや帰ります」
「はい…w 分かりました」
役場職員の女性のフランクさは、知らない土地に来てしまい落ち着くことができなかった優莉の心を和らげた。どの国どの世界でも人の温かさは変わらないのかもしれない、そう優莉は感じていた。
「じゃあ旅の準備をしなくちゃですね。賢者様の山までは結構な距離がありますし」
「旅・・・」
「あの、この世界のお金持ってないんですけど」
「じゃあまず軍資金集めからですね」
「あの… この役場からちょっと出してもらえたりしませんか?」
「いやぁ… 私はあなたが嘘をついてるとは思いませんけど、町としては得体の知れない人にお金を出すのは…」
「そ、そうですよね」
「でも稼ぎ口ならいくらでもありますよ! 翻訳魔術書買って旅の準備するぐらいのお金ならそう時間かかりませんって」
「えっ!? この本くれるんじゃないんですか!」
「それ町の備品ですよあげれるわけないじゃないですか! それに結構な値段するし作る時間もかかるんですからね、その厚さの魔術書は」
(げぇ… そんな)
「ま、まあこの町にあなたが居る間はお貸ししますし、私も町の担当としてサポートしますから…」
「…はい」
「あっ、あと魔導師の方に協力をお願いしてみる事ですね」
「魔導師?」
「えっと、魔導師っていうのは――」
この世界には、魔術を高度に扱える、または魔術を専門に扱う仕事を職業としている"魔術師"という人々がいた。魔術師の中でも抜きん出て魔術に長けており、国からその技量・人格・実績を認められた者を"魔導師"という。
魔導師達は、特に一般レベルで解決できない困難を抱えた人々を助けることを使命としており、世界中を巡っていた。女性は、他の世界から来たという優莉になら彼らが協力してくれるだろうと言う。
「この国に居る間に巡回が来てくれるといいですね」
「はえ~」
「ま、この国で会えなくても賢者様の山に行くまでに寄った国のどこかできっと会えますよ」
優莉は、最初に会った母子の家にお世話になることとなった。再び会った2人に改めてお礼を言い、事情を話し、仕事を教わる。
優莉は触れている人の魔力を吸って勝手に動く翻訳魔術書が使える事から、魔力を持っていることは分かったが、魔法はどれだけ練習しても使えなかった。そのため、魔術が使えなくても大半の仕事ができる酪農家の母子達の家にやってきたのだ。牛?のような動物を相手にしている。
まずは分かりやすい仕事から始めた。当然、疲れる仕事だし朝も早いが、今までろくに動物と接してこなかった優莉には新鮮で苦ではなかった。また、母や子供達が優しく、元の世界、家に帰れない寂しさを紛らわすことができた。
子供達には元の世界の事を話してあげたり、唯一持っていた機械のチューナー(楽器の音の高さを確認する為のツール)を見せてあげたりした。また、町の頭の良い人達に理科の教科書を見せて、元の世界とこの世界の差異を確認したりもした。
この世界に来てから、優莉は過ごした日数を記録している。しかし元の世界と時間経過は同じなのか、元の世界は時間が進んでいなかったり、もっと月日が流れていたりするのか、優莉は気になっていた。
「でも、ユーリは本当に賢者に会いに行くのか」
父が言う。ある夕食の時に話になった。
「それしか今のところ望みがありませんからね」
「賢者なんか本当に居るか分からないぞ? 俺は信じてない」
「お父さんはそうなんですね」
「けんじゃ様はいるよー!」
「わからないね~」
母が子供達の言葉を受け流す。優莉は後から知ったが、賢者の事は宗教的な話題であり、人によって賢者が存在するか否か意見は分かれていた。
「わざわざ旅なんか行かなくてもここにずっと居ればいいじゃないか」
「えっ、良いんですか? お世話になって食べさせてもらって… ずっと居たら迷惑じゃありません?」
「なーに7人が8人になった所で変わらんよ」
「私達はユーリ君が居てくれて構わないけど、ねぇ?」
「ちょっとお義母さん! あなたも!」
(ユーリ君は家族のもとに帰りたいはずなのにそんな事言ったら良くないでしょう!)
「ユーリお兄ちゃんいっしょにいようよ~!」
「帰っちゃだめ~」
「あは、あはは・・・」
ここにはスマホもゲームもテレビも無いが、生活は充実していた。優莉が元居た世界だって昔はそんなもの無かったのだから当然だ。
優莉は考えた。元の世界に戻れば、半ば嫌々やりくりしてきた生活にまた戻ることになる。学校で勉強はしないといけないし、いやこの世界でも勉学の必要に迫られるかもしれないが、元の世界のように使うかどうか分からない知識を無理矢理学ばされる事は無いだろう。また元の世界に帰れば、今後進学して、就職して、社会の荒波に揉まれていく事は確実だ。この世界はそんな難しい社会には思えない。
それに今、自分を大切にしてくれる人達がいる。ここに居てくれていい、居てほしい、そう言ってくれる人達が。
(でも・・・)
元の世界には両親や家族、学校の先生、同級生、大勢の知り合いがいる。元の世界とこの世界の時間経過に差があったとしても、あの後1時間でも自分が家に帰らなかったら皆心配するはずだ。優莉はそう思った。元の世界で待っている皆の為に、自分は帰らなければならない。
そもそも賢者が実在するのか分からないし、賢者が自分を元の世界に戻せるのかも分からない。やるだけやってみよう。
「お父さん」
「ん~?」
次の日の朝、仕事の時に優莉は父に伝えた。
「僕、やっぱり賢者様の所まで行って、元の世界に戻れるか頑張ってみようと思います。元の世界には親が、大切な人達が居るので」
「・・・そうか。分かった、頑張れよ」
「はい。旅へ出発するまでよろしくお願いします」
「まあ、もし行ってダメだったらその時は戻ってきて一緒にやろうや」
この世界にやってきてから1カ月ほど経った頃、優莉は父から仕事の報酬として旅の準備に十分な額のお金を受け取った。このお金を使い、旅に必要な物と自分の翻訳魔術書を購入し、借りていた翻訳魔術書も役場に返却した。
旅の準備にあたり、学校のリュックに入っていた教科書やノートは理科の教科書以外捨てた。優莉は良く思っていなかったが、移動のほとんどが徒歩になると考えられたため重量はなるべく減らさなければならなかった。
魔導師には結局会えなかった。しかし、賢者の山まではいくつもの国を渡る。以前言われたようにその間に会えるだろうと、優莉は前向きに考えていた。
お世話になった家の皆や役場の女性に見送られて、優莉は隣の国へ出発する。元の世界で最後に何気なく見た空を思い出させる、綺麗な朝焼け空が広がっていた。
― 第1話 終わり ―