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おなかの赤ちゃんの障害、新型出生前検査「NIPT」でどこまでわかる? 「正しく受けるため」に知っておきたいこと

新たな認証制度が始まり、より受けやすくなった新型出生前検査(NIPT)。しかし無認定施設の広がりなど様々な問題も存在します。今回は専門家である産婦人科医2名に検査の受け方や考え方についてお話を伺いました。

7月より多くの妊婦にとってより身近になった、新型出生前検査(NIPT)をご存じですか?

正しくは「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査(Non-Invasive Prenatal genetic Testing, 以下NIPT)」の略で、妊婦から採血して、胎児に障害をもたらす染色体異常があるか、その可能性を調べる検査です。

血液検査だけで調べられる手軽さがあるものの、結果をどう解釈すればいいのか十分に情報提供がなされない問題や、結果を十分理解しないまま中絶につながる問題が指摘されてきました。

そんな中、今年の7月1日から、このNIPTの新たな施設認証制度(※1)が始まり、この検査のあり方が大きく変わろうとしています。

事実上、全ての妊婦が一定の基準が保証された認証施設で検査を受けられるようになるほか、母子手帳をもらう時に全ての妊婦にNIPTについて伝えられるようになります。

今回は、出生前検査の現場におられる産婦人科医2名に話を聞きながら、課題を考えていきましょう。

新型出生前検査(NIPT)とは?

NIPTは妊娠10週以降に採血を行うことで、胎児の染色体異常の可能性について調べる検査です。

染色体異常のうち、一番多く、有名なのが21番目の染色体が3本になる、ダウン症候群です。

このように常に2本の対になっている23組の染色体のうち、ある組が3本に増えたり(トリソミー)、1本に減ったりする(モノソミー)ことを染色体数的異常といい、NIPTでは母体の血液から胎児の「染色体異常(13トリソミー、18トリソミー、21トリソミー(ダウン症候群))」の可能性を調べます。

ただし、この検査の結果で、確実に赤ちゃんがその病気になると確定するわけではありません。

なぜでしょうか?

NIPTも含めた出生前検査は大きく「確定的検査」と「非確定的検査」に分けられます。「確定的検査」は絨毛検査・羊水検査・臍帯血検査があり、胎児の病気を診断できるものの、子宮内に針を刺したりしなければならず、検査による流産の可能性があります。

これに対し「非確定的検査」はNIPTやエコー検査などが含まれ、胎児の病気の診断はできないものの、採血やエコー検査のみで可能なため流産のリスクはありません。

NIPTは胎児の染色体異常の可能性を調べますが、非確定的検査であるため、陽性の場合であっても「胎児に染色体異常がある可能性が高い」までしかいえません。

診断を確定させるためには、さらに先述の羊水検査など、「確定的検査」を行う必要があるのです。

無認定施設の問題点

現在NIPTで大きな問題になっているのが、「無認定施設」による検査です。

2013年に日本産科婦人科学会から出された「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」(※2)により、NIPTは一定のカウンセリングができる専門家や、追加検査をできる設備を備えた認定施設で行うことが定められました。

また検査の対象も過去に胎児染色体異常があった妊婦や高齢妊娠などに限られ、認定施設も多くないため、検査を望んでいるのに受けられない妊婦が出てきてしまいます。妊婦の望みを満たすべく、無認定施設による検査が増加したのです。

NIPTは採血だけで検査できるため、「手軽に行える」「安心が得られる」といった宣伝文句が使われやすいのが現状です。

しかしクリニックで採血のみを行い、結果を適切な説明をせずに書類のみで返し、妊婦さんが結果をどう考えたら良いかわからず悩んでしまうような無認定施設もあちこちで見られます。

さらにこれらの施設では、13・18・21トリソミー以外の検査を行い、「本当に病気の可能性があるか分からない項目も陽性と結果を出す」など、後述する様々な問題を生み出しました。

NIPTで、全ての異常がわかるわけではない

胎児の検査・診断・遺伝相談を専門に扱う、FMC東京クリニック院長の中村靖医師は、「NIPTを受ける妊婦には、『胎児に何もないことを知って安心したい』妊婦と、『ダウン症なのかどうかが知りたい』妊婦が多い」と語ります。

しかし重要なのは、「胎児の病気はダウン症だけではない」、そして「全ての病気をNIPTだけで調べることはできない」ということです。

確かに「生まれてくる染色体異常」の中で、ダウン症は半数近くを占めます(※3)。

しかし、生まれつきの病気全体のうち染色体異常が占める割合は4分の1に過ぎず(※4)、様々な原因から病気は生じます。

また生まれつきの病気の中でも、長く生きることが難しい病気もあれば、出産前後で適切な治療を行えば、その後、順調に育っていくことが望める病気もあり、この判断はNIPTだけでは行えません。

つまり、「NIPTで陰性だから、元気で病気のない赤ちゃんが生まれてくる」と安心するのは、危ないのです。

中村氏は「『NIPTで安心を手に入れる』というのが、本当の安心につながるかどうかはわからない」と警鐘を鳴らしています。

ダウン症以外の、NIPTだけでは分からない生まれつきの病気があることを理解し、その一部をNIPTで調べている、という考え方が大事です。決して「NIPTで陰性=胎児に何も病気がない」わけではありません。

実際に起きている問題

胎児診断・胎児治療を専門とする、宮城県立こども病院産科部長の室月淳医師は、現場で起きている問題について以下のように指摘しています。

「無認定施設で検査を受けた人が、その後どうなったかを心配しています。おそらく無認定施設で多数の検査が行われていると思いますが、私達専門家の元に来る人数は少なく、羊水検査などの確定的検査を行わずに人工妊娠中絶などの選択肢を取っている方が多いのではないかと考えています」

前に述べた通り、生まれつきの病気の中には適切な診断・治療が行われれば、元気に育っていけるものもあります。しかしそれを判断するには、専門家が超音波検査・羊水検査なども含めた様々な検査を行い、両親に情報提供する必要があるのです。

本来、胎児の障害を理由とした人工妊娠中絶は母体保護法で認められていませんが、実態としてNIPTにより「陽性」と判定された妊婦の8割が妊娠中絶を選択しています(※5)。

これは日本産科婦人科学会による認定施設の集計ではありますが、無認定施設でもこの割合が大きく変わる可能性は低いでしょう。

本来であれば、陽性/陰性などそれぞれの結果に応じ、「どのような病気の可能性は低く」「どのような病気の可能性が高いのか」、そして「次にどういう検査・行動をとるのか」を適切に専門家と相談する必要があります。

適切なカウンセリングを受け、適切な検査をしなければ、育てられるかもしれない命の芽を、何も分からないまま摘んでしまうことにもなりかねないのです。

宮城県においてNIPTの認証施設は室月氏が所属する宮城県立こども病院のみで、ここでの相談件数が少ないという実態は、「きちんとした情報提供や判断に基づかずに、中絶を選択せざるを得なくなっている妊婦」が増えている可能性があるとみられます。

検査とどう向き合ったらいいか

それでは、このような出生前検査を受けようと思ったときに、妊婦さんはどうすればいいのでしょうか。

まずは、「自分が何を心配しているのか」を考え、検査の前に臨床遺伝専門医などの専門家に相談してほしいと二人の先生は語ります。その上で医師と共に「それに対して適切な検査はなにか」を考えていくのが重要です。

(臨床遺伝専門医:日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会により認定される。世代を超えて問題となる遺伝性疾患に対し、幅広い専門知識を持つと認定された資格)

出生前検査も、NIPTのみではなく、超音波検査など様々な手法があります。逆に「1つの検査で全てをカバーする」のは不可能です。NIPTは胎児の先天性の病気の一部しか判定できませんし、診断を確定させることもできません。

そして、大事なのは、今あるどんな検査を組み合わせても、「生まれてくる胎児の病気のリスクをゼロにする」ことはできないということです。

だからこそ、「とりあえずこれを受けておけば安心できるだろう」という考え方で受けるのは、偽りの安心につながりかねません。

特に、無認定施設のNIPTでは「よりたくさん調べれば、より安心が得られる」という触れ込みで、未だにその意義が不明の、13・18・21トリソミー以外の染色体異常などが調べられていることがあります。

技術的にはこの3病気以外も調べることは可能ですが、例え「陽性」という結果が示されても、それが生まれた後にもたらす影響については分かっていないものも多く、現時点でこれらを調べることは医学的に勧められていません(有用な可能性があるものについては、引き続き研究が進められています)。

つまり「陽性」と書かれて妊娠中ずっと不安なまま過ごしたけれど、生まれてみたら特に何もなかった、ということもありうるのです。

「赤ちゃんの病気が分からないかもしれない不安」でより多くの項目を受けることは、より多くの費用や精神的負担をもたらす反面、先天性の病気のすべてを調べるにはほど遠いのです。

「赤ちゃんの病気を調べて不安を解消する」にはほど遠い、いわゆる「不安につけ込んだ商売」とも言えます。

確かに検査を受ける側からすると、「病気があるのかないのか、1%でも多く調べてほしい」という動機は当然ですし、医師も可能な限りそれには応えようとするものです。

しかし、そのためには「この患者にどのくらい、どんな病気の可能性があるのか」を推測し、「その診断の可能性を高める/下げるにはどの検査が最適か」を考え、その結果で「どの程度の可能性があるのか」を判定し、伝えるという作業が必要です。

決して、「検査そのものがすべてを判断している」わけではありません。検査はあくまで「可能性の高低を判断する1つの材料」なのです。

だからこそ、闇雲に勧められて多く受けるのではなく、「何を心配しているのか」を考え、検査の前に適切な専門家と相談し、その上で適切な検査を受けることが重要です。

そしてもう一つ重要なのは、検査をうけることも、その結果からどういう選択をするかも、「決めるのは検査ではなく両親」だということです。医師・医療施設はその考え方・要望から、理解や決断を支えるのが役割なのです。

どれだけ「精度」が高い検査であっても、その結果からの判断を間違えてしまえば意味がありません。

(注) 統計学的には「精度」という表現は正しくなく、「感度・特異度」などの指標を用いるが、敢えてここでは一般的に使われている「検査精度」という表現を用いた。

「胎児になにか問題があったら中絶を考えたいので、とりあえずNIPTを受ける」というのは、「NIPTが全ての生まれつきの病気を判定できるわけではない」という性質を無視しており、どれだけNIPTの結果が正確であっても、間違った判断につながりかねないのです。

もちろん、NIPTを受けること自体は、妊婦それぞれの考え方に応じて選べるのが望ましいでしょう。今回の新制度においても、まず「妊婦が出生前検査・診断について知る」ことが重視されています。受けるという選択も、あえて受けないという選択も、しっかり検討した上での判断なら望ましいことです。

出生前検査・診断により「わかる」ことは全てではありません。しかし知ることにより、選択肢は広がります。近年の技術の進歩と共に、お母さんのお腹の中にいる状態のまま病気の治療をする「胎児治療」という選択肢も出てきています。

生まれる前に子宮内にいる胎児を治療することも可能ですし、そうでなくても出生後に治療できる病気も多くあります。

妊娠中に胎児の病気を知ることができれば、準備をした上で出産し、速やかに治療を行うことにもつなげられます。「『胎児に異常がある=中絶』と単純に考えてしまうのは、本来得られたはずの子どもを失うことにもなりかねません」と室月医師は強い危機感を抱いています。

このような胎児診断・胎児治療については、日本ではまだまだ実施できる病院・医師は少ないのが現状です。

しかし認定施設における「遺伝カウンセリング」では、このような選択肢についても提示することが求められており、適切な治療にたどり着ける可能性は格段に上昇します。こういった可能性の面からも、ぜひ認定施設で、適切な相談の上で受けてほしいと思っています。

(遺伝カウンセリング:専門家である臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラーが、遺伝性の病気などについて必要な情報をわかりやすく説明し、意思決定などを支援する。認定施設のNIPTでは検査前後で適切に行うことが求められている)

困ったら、認定施設に相談して

今回、NIPTの問題を取り上げ、2人の専門家に取材をしましたが、最後に二人の医師が共通して伝えてほしいと語ったメッセージがあります。

「無認定施設の検査結果についてでも何でもいいので、困ったら専門家である臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーに相談に来てください」

こうした染色体異常や遺伝性の病気についての専門知識やカウンセリングの訓練を受けた臨床遺伝専門医として、出生前検査・診断で悩む妊婦に多数接してきたお2人だからこそ、どんな検査を受けたとしても、しっかりフォローしていくという姿勢を見せてくださいました。

現在、NIPTにおける適切な情報提供がまだまだ充実していないのは大きな課題です。

国(厚生労働省)や日本医学会も、適切な情報提供のために様々な準備をしています。今回の指針の改訂で、母子手帳を渡す際などに行政からの情報提供も行われる方針となったのもその動きの一つでしょう。さらには専門性をもって様々な発信をしている専門家も増えてきています。

今回お話を伺ったお二人はTwitterなどでもNIPTについて発信しており、是非参考にして頂ければと願っています。

<参考文献>

  1. 日本医学会, 「NIPT等の出床前検査に関する情報提供及び施設(医療機関・検査分析機関)認証の指針」. 2022/3/16.
  2. 日本産科婦人科学会, 「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」. 2013/3/9.
  3. R.L.Nussbaum, R.R.McInnes & H.F.Willard. Thompson & Thompson Genetics in Medicine 8th edition. Elsevir. 2016.
  4. Wellesley, D, et al., Rare chromosome abnormalities, prevalence and prenatal diagnosis rates from population based congenital anomaly registers in Europe (2000-2006). Eur J of Hum Gen, 11 January 2012.
  5. 日本産婦人科学会, 「NIPT受検者のアンケート調査の結果について」. 2021/1/15.

【中村靖(なかむら・やすし)】 FMC東京クリニック院長 臨床遺伝専門医・指導医

1986年、順天堂大学医学部卒業。同大学講師・助教授(先任准教授)を経て、2009年よりボストン小児病院外科、2010年よりベルギーのルーベンカトリック大学産婦人科で臨床・研究に携わる。その後湘南藤沢徳洲会病院胎児科などを経て、2013年胎児クリニック東京を開設。2015年より現職。各種SNSやYouTube・ブログでの発信を行っている。

Twitter: @drsushi6 Facebook: F M C 東京クリニック

はてなブログ:FMC東京 院長室

YouTube: FMC東京クリニック 

【室月淳(むろつき・じゅん)】 宮城県立こども病院産科科長 臨床遺伝専門医・指導医

1986年、東北大学医学部卒業。1993~1996年カナダ・ウェスタンオンタリオ大学ローソン研究所留学。帰国後は東北地方のあちこちの病院での臨床と、東北大学・岩手医科大学・順天堂大学での基礎臨床研究のキャリアを経て、2009年より現職。2010年4月より東北大学大学院医学系研究科 先進発達医学講座胎児医学分野教授を併任。2011年3月17日には仙台で東日本大震災を被災し、その後沿岸部の気仙沼市立病院(岩手)と南相馬市立病院(福島)などでの支援を経験。

Twitter:@junmurot ウェブサイト「胎児骨系統疾患フォーラム


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