司法書士試験には択一式試験と記述式試験があります。
この二つは、それぞれ求められる能力が異なります。
司法書士試験学習者には、案外この違いを理解することなく学習を続けている方が多いように思われます。
択一式試験と記述式試験それぞれに求められる能力は具体的にどのようなものでしょうか?
その能力を身に着けるためには、どのような勉強法が効果的なのでしょうか?
本コラムでは勉強法のポイントについて考察します。
目次
司法書士試験の難しさとは?
司法書士試験の特徴は、科目の多さにあります。
民法、不動産登記法、商法会社法、商業登記法(一般的に「主要4科目」と言います。)に加え、民事訴訟法、供託法などのその他7科目(一般的に「マイナー科目」と言います。)の計11科目を学ぶことになります。
科目により出題問題数が異なりますが、基本的には捨て科目をつくらずに、全科目を満遍なく学習することが求められます。
司法書士試験には、5肢択一の「択一式試験」と実務の模擬体験といえる「記述式試験」があります(筆記試験合格者を対象に口述試験が行われ、口述試験を突破してはじめて司法書士試験合格となります。口述試験は受験さえすれば不合格とはならないため、筆記試験=司法書士試験と考えるのが一般的です)。
択一式試験は午前・午後、各35問で構成され、上記11科目が出題されます。
記述式試験は、不動産登記法1問、商業登記法1問が出題されます。
択一式、記述式のそれぞれに「基準点」と呼ばれる最低限取らなければならない点数が設けられています。
基準点を超え、かつ合計の点数が合格点に達した者が筆記試験合格となります。
具体的にいいますと、午前の択一式試験、午後の択一式試験、双方の基準点を超えた者のみを対象に記述式試験の採点が行なわれます。
そして、記述式試験の基準点も超え、全体として合格点に達した者を筆記試験の合格者として扱います。
司法書士試験に合格するために必要とされる時間は、目安として3,000時間(法律初学者の場合)と言われており、択一式試験、記述式試験それぞれにおいて、以下の能力が必要とされます。
択一式試験に必要とされるもの・・・正確な知識、法的思考力
記述式試験に必要とされるもの・・・スピード、判断能力
合格する為の択一式の勉強法のポイント
学習をはじめたら、まず目標とするのは択一式試験の基準点を突破する実力を身に着けることです。
択一式の基準点を超えなければ記述式の採点はされませんし、記述式問題を解くためには択一式で学習する知識が基となりますから、まずは択一式の点数を伸ばすための学習をする必要があります。
以下、択一式試験の点数を伸ばすために必要なことについて記載します。
①テキストを読み込み,内容を理解する
司法書士試験が難関試験である理由は、その膨大な情報量にあります。
科目が11科目もあり、合格するためには択一式試験において8割以上の正答が求められることを考えますと、定着させなければならない知識量の膨大さが想像できるのではないでしょうか。
その押さえなければならない知識が集約されているものがテキストです。
テキストを用意せずに、いきなり過去問を解こうとしても解くことは困難です。
過去問には解説が掲載されていますが、前提となる知識がない状態では、解説の内容を理解することも難しいことでしょう。
また、メイン科目の登記法では登記先例について学習しますが、登記先例には膨大な量があります。
専門書を基に、試験に出題されそうな登記先例を自力で取捨選択するのは困難ですし、効率が良くありません。
まずはテキストを読み、内容を理解することに努めましょう(講座を受講している場合は、講義を視聴することでテキストの内容を効率よく理解することができます)。
②平成以降の過去問を可能なかぎり繰り返す
毎年本試験は新問が出題されるのだから、過去問をやる必要は無いという方がいます。
また、最近の司法書士試験は過去問だけでは合格できないとも言われます。
しかし、合格者の中で、過去問をやらなかったという人は皆無といって良いでしょう。
合格するために過去問の攻略は不可欠です。
私自身、受験経験を振り返ってみますと、やはり過去問をやったことが最も効果的な学習であったと思います。
過去問といいますと、「何年分やったら良いですか?」という質問を必ず受けます。
司法書士試験の過去問は、古いものは昭和50年代からあるため、少しでも量を減らしたくなる気持ちも分かります。
これについては、過去問は入手できるものはすべて解いた方が良いと考えます。
もう少し詳述しますと、年代が古い問題であるほど、近年の出題傾向とは異なる形式のものが多いため、優先順位は下がります。
しかし、どの範囲から出題されたのかは確認する必要があります。
問題を解きはしないまでも、せめて読むことはしておいた方が良いでしょう。
具体的にいえば、平成以降の約30年分の過去問はしっかりと解く、それより前の過去問は目は通しておく、といったイメージになります。
過去問は可能な限り繰り返しする必要があります。
解き方には、一度間違えた問題だけを繰り返し解く方法と、すべての問題を繰り返し解く方法があります。
正解はありませんが、私はすべての問題を繰り返し解く方法を取りました。
一度正解した問題というのは、講義を視聴し終えたばかりの分野であったり、たまたま記憶に定着していた時に解いた問題であることが多く、その後も確実に正解することができるとは限らないからです。
過去30年分の過去問を90%以上正答することができるまでになれば、択一式の点数はある程度見込めるはずです。
③暗記すべきものは暗記する
私を含め、暗記が苦手な方は多いです。
暗記するということは生理的に苦しいことですから、むしろ得意という方の方が少数かと思われます。
しかし、試験を突破する上では暗記は欠かせません。
すべての問題を法的思考力を駆使して解くことができれば良いのですが、実際には難しいとお考えください。
思考力は、いざ問題に直面するとブレるものです。
一方、暗記した知識はブレません。いつでも同じ解答を導きます。
つまり、暗記すべきものは暗記をした方が点数が安定するのです。
もちろん、テキストの内容全てを暗記することは到底できません。
そこは暗記すべきものを選別する必要がありますが、択一式の点数を安定させるためには暗記は避けては通れないとお考えください。
合格する為の記述式の勉強法のポイント
記述式試験で求められるものは何よりもスピードです。
択一式試験は、問題文を読み,考えて正誤を判断します。
一方、記述式試験は,問題文を読み,即判断する能力が求められます。
これには前提として正確な知識が必要とされますから、択一式の学習が記述式においても不可欠であることは言うまでもありません(つまり,択一式の学習があっての記述式です)。
択一式については先に触れていますので、ここでは記述式試験独自の学習方法について記載します。
①まずはひな形が書けるようにする
記述式試験を突破するために、最初に求められることはひな形が書けることです。
記述式試験は実務の模擬体験です。
依頼された登記の申請書を正確に書くことが求められます。
また、スピードも求められます。
試験に合格するためには、ひな形を思い出して書いているようでは遅いです。
合格者は考える前に手が動くと言われています。
そのように形容されるほどにひな形を習得しなければ合格は難しいとお考えください。
ひな形を習得する上で役に立つのが『ひな形集』です。
市販もされていますので、独学の方であっても入手することができます。
まずはひな形集を使って、毎日ひな形を書くことから始めましょう。
②習うより慣れ、可能な限りの演習をこなす
「記述は習うより慣れろ」と言われます。
基本的な解き方を学んだ後は、とにかく自分で問題を解いてみることが最も効果的です。
記述式の実力は、こなした問題演習の量に比例します。
特に択一式の基準点を突破する実力を身に着けた後は、できるだけ毎日問題を解くようにしましょう。
私の実体験を少しお伝えします。
合格した年の前年に転勤が決まり、片道30分の新幹線通勤となりました。
私はこの30分間を記述式問題を解く時間に充てることにしました(行き:不動産登記,帰り:商業登記)。
問題の難易度にもよりますが、はじめの頃は30分間で問題を解き切ることは難しく,検討の途中で終わっていたのですが、これを毎日続けた結果、1年後には30分間で申請書の下書きまでできるようになりました。
今振り返ってみても、これがあったからこそ合格したと思います。
記述式問題は可能な限りの演習をこなし、実力を向上させましょう。
アガルートなら合格のポイントを抑えた講義が受けられる
先にも書きましたように司法書士試験は範囲が広く、情報量が膨大である故に難関な試験です。
そのため、効率よく学習をする必要があります。
効率の良い学習とは、優先順位を考慮して学習をするということです。
しかし、独学で学習を進める場合には、何を規準に優先順位を付けるのかの判断が難しいところです。
アガルートの講座は、その点を考慮し、優先順位を付けたメリハリのある講義を提供しています。
まず優先して押さえるべき知識(A論点)を時間をかけて説明し、その後で細かい知識(B論点、C論点)を押さえるように促します。
また、記述式対策の講座も充実しています。
記述式は択一式以上に独力で解法をマスターするのは難しく、基本となるやり方を教えてもらわなければ、問題に対してどうアプローチしたら良いのかが分かりません。
アガルートの記述式対策講座は、初学者が無理なくステップアップすることができるよう、レベル分けした講座を提供しています。
まとめ
司法書士試験に合格するためには、択一式試験、記述式試験双方において合格点を取る能力が求められます。
二つは互いに関連性が高いものですが、上記のとおり、対策としてはそれぞれ独自のものが求められます。
まずはそれぞれの試験において、どのような能力が求められるのかを理解してください。
その上で、必要な学習を行なってください。
もちろん、一度にすべてができるようになることはありません。
合格者は皆、時間をかけて一つ一つ課題をクリアし、徐々にステップアップし,合格まで辿り着いています。
一度にすべてのことを行なおうとするのではなく、ある程度の長期的計画を立てて臨んでいただければと思います。
本コラムが司法書士資格に関心がある皆様のお役に立てていれば幸いです。
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