日本大百科全書(ニッポニカ)「超音波」の解説
超音波
ちょうおんぱ
ultrasonic wave
周波数が16キロヘルツ以上の、可聴範囲を超えた音波を超音波という。普通の音波と同様に音響学の諸法則に従うが、周波数が大きく、強さが普通の音波より著しく大きい。また、波長が短いため、方向性のある音波のビームを得ることができる。パルス技術を用いて、音速や吸収の正確な測定が可能である。これらの特徴のために、普通の音波にはみられないいろいろな現象が現れる。媒体は、空気よりも液体、固体であることが多い。
[奥田雄一]
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超音波の発生、検出には、電気エネルギーを音響エネルギーに変換する変換器を用いる。変換器は、圧電性、磁歪(じわい)性のもののほかに、圧電性半導体を用いたものがとくに高周波で使われている。また、圧電性の重合高分子膜(たとえばPVDF=ポリフッ化ビニリデン)もよく使われている。圧電性電気音響変換素子の代表例は、水晶振動子である。水晶の結晶から一定方位に切り出した板、または棒に高周波電圧を加えて、その基本振動数(数百キロヘルツから約25メガヘルツ)の奇数倍の高調波(基本振動数の整数倍の周波数の波)を利用することで、超音波を発生することができる。
ニッケル、フェライトのような磁歪効果を示す材料に、バイアスをかけると、圧電効果と同様の効果を示す。これを利用して主として数キロヘルツから、100キロヘルツの比較的低周波の超音波の発生が可能である。これは、インピーダンスが低く、壊れにくいので、工業的応用に広く使われている。半導体を用いる変換器に抵抗層変換素子がある。これは、圧電性半導体の板の表面または内部に薄くて高抵抗の圧電性物質の膜を貼(は)ってつくる。厚さが薄くてすむため、広帯域まで低損失で送ることのできる超高周波超音波の発生器として使用できる。
また1ギガヘルツ以上のマイクロ波超音波の発生、検出も可能になっている。変換素子として水晶の薄片のかわりに、音波の波長とは無関係の長さをもった水晶棒を用いて、この端面で超音波を励起する方法や、試料に蒸着した強磁性体薄膜の磁歪振動を用いてマイクロ波を発生させる方法が実用化されている。このほかに、水晶、サファイアなどの物質に、Qスイッチレーザーによって発生した強い光を当てると、強いコヒーレントな(干渉性をもつ)マイクロ波超音波をつくりうることが発見され、注目を浴びている。
[奥田雄一]
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(1)魚群探知機 超音波利用の歴史は、1916年にランジュバンが超音波ソナーを開発して潜水艦を探知したことに始まる。その後、測深器として実用化され、魚群探知機として広く応用されるようになった。
(2)超音波探傷器 超音波による非破壊検査で、固体材料の内部の欠陥を発見できる。1937年にソコロフS. Y. Sokolov(1897―1957)が、鋳物の傷、ひびをみつけたのが最初で、鉄道車両の車軸の検査などに広く実用化されている。
(3)超音波加工 超音波は周波数が高いため、変位振幅が小さくても、強度や、粒子加速度を大きくとれる。液体中に浮かぶ固体粒子が超音波により振動して、他の固体面に衝突したときに生じる破壊作用を利用すれば、ガラス、宝石、ゲルマニウム、超硬合金の加工が可能になる。アルミニウム、ニオブのようにはんだ溶接がむずかしい金属でも、はんだ付けが可能になる(超音波はんだ)。そのほか、超音波加湿、超音波洗浄、超音波乾燥などがある。
(4)超音波の医学への応用 1942年にデュシックK. T. Dussik(1908―1968)が医学分野に超音波を導入し、脳腫瘍(しゅよう)の診断を行ったのが最初で、エレクトロニクスの発達に伴って、X線CT、マイクロウェーブ画像、NMRイメージングなどと同様に、その医学への応用は目覚ましい。超音波診断の特徴は、非観血的検査であり、無苦痛であり、X線被曝(ひばく)の危険性がまったくないことである。しかも、その場で画像モニターができる。したがって産科領域でとくに有効で、胎動のモニター、胎児の心拍のモニター、子宮癌(がん)の検査など、X線が使用できない領域での診断に威力を発揮している。そのほか、膵臓(すいぞう)、肝臓、腎臓(じんぞう)、脳、眼球などの腫瘍の検査、心臓の弁の動きの検査など、幅広く使われている。
[奥田雄一]
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ヒトの聴覚は会話に用いられる音声(ほぼ200~6000ヘルツの間)に対応し、よく用いられる1000~3000ヘルツの間でもっとも感度が高くなる。また、可聴範囲の上限は個人差が大きく、1万6000~4万ヘルツに至るといわれるが、年をとるにしたがって低下する。多くの哺乳(ほにゅう)類はヒトより高い音を聞くことができる。イヌの可聴範囲の上限は8万ヘルツといわれ、ヒトには聞こえない高い音の笛(ゴールトン・ホイッスル)に反応する。コウモリは、通常、周波数が2万~10万ヘルツ、持続時間は数ミリ秒またはそれ以下という短い叫び声を毎秒10~20回発し、その反響を聞くことによって、暗黒中でも空中の障害物の位置を知ってそれを避けたり、カのような小さな餌(えさ)をとらえたりする。この反響定位は、イルカが水中で魚をとらえたり障害物を避けたりするのにも使われている。イルカの用いる音の周波数は17万ヘルツに及ぶという。周波数のより高い音は、より小さい物体からの反響が得られるので、反響定位には超音波を用いるのが有利である。ネコなど多くの動物が、ヒトよりも高い周波数の音を聞くことができる。しかしネズミは、ネコに聞こえる音よりも、さらに高い周波数の叫び声で、仲間に危険を知らせるといわれている。ヤガ科のガの後胸部にある鼓膜器官には閾値の異なる2個の神経細胞がある。この細胞は、コウモリの叫び声に対応するほぼ2万ヘルツの音にとくに鋭敏に反応し、コウモリが30メートルほど近づくとガは進路を変え、コウモリが標的の位置を知覚できる7メートル以内に入れば、ガは左右のはねを閉じて地上に落ちる逃避反応をおこす。またヒトリガの仲間には、後肢の付け根付近にある特別の器官(ティンバル・オルガン)から超音波を発生させるものがある。この音を聞かせると、コウモリは餌を追跡する行動を中断して逃げるので、このガの発生する音は一種の警戒音として働いているものと考えられている。
[村上 彰]
『五十嵐寿一編『実験物理学講座9 音響と振動』(1968・共立出版)』▽『小橋豊著『基礎物理学選書 音と音波』(1969・裳華房)』▽『日本電子機械工業会編『超音波工学』(1993・コロナ社)』▽『本多敬介著『超音波の世界 未来に何をもたらすか』(1994・日本放送出版協会)』▽『富川義朗編著『超音波エレクトロニクス振動論――基礎と応用』(1998・朝倉書店)』▽『川端昭編著、一ノ瀬昇・高橋貞行著『やさしい超音波工学――拡がる新応用の開拓』(1998・工業調査会)』▽『超音波便覧編集委員会編『超音波便覧』(1999・丸善)』▽『『3次元超音波入門』(1999・医学図書出版)』▽『吉川茂・藤田肇著『基礎音響学――振動・波動・音波』(2002・講談社)』▽『『超音波利用技術集成――ソノケミストリーの環境・医療応用から最新のセンシン』(2005・エヌ・ティー・エス)』▽『超音波工業会他編『超音波用語事典』(2005・工業調査会)』