コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

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第十四話 宴の後で①

 震動に倒れ込んだヴィクトルは、同じように倒れ伏した眼前の女を見据える。

 

 

 

「まったく、処刑の邪魔を。地下からと言う事は、ドロテアは逃げたかな?」

 

 

 

 嚮団員は兵士達も同様であり、かなりの震動であったが、それ以上に耳をついたのは敵襲を告げるサイレンだった。

 

 

 

「キングスレイ卿っ!! 敵襲ですっ!!」

 

「そんなの分かっている。何が来たの? どうせ騎士団だろうけど」

 

「は、おそらくは……目下確認中です」

 

「遅いっ」

 

 

 

 そして、数人の兵士が駆け込んで来てそれを告げるも、大方黒の騎士団の襲撃だろうが、暗がりの中の奇襲であり、哨戒などはすでに潰されたと言えるだろう。

 レジスタンスや日本解放戦線のお粗末な攻撃ならばそこまで徹底はされていないはずである。

 

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

 

 そんなことぐらい考えつかない指揮官にヴィクトルは苛立ちをぶつけるように銃を突きつけ、引き金を引くと、後ろで目を見開いた兵士達も同様に射殺してしまう。

 

 

 

「あーあ、入口を塞いじゃって。まあいいや、わざわざ襲撃してきた以上、長居は無用だね」

 

「嚮主様、クルシェフスキー卿はいかがいたしましょう?」

 

「そうだね。念を入れて、首を刎ねておこうか。コーネリアには騎士団の名で送りつけてやれば良いよ」

 

 

 

 八つ当たりを終え、満足げにほくそ笑んだヴィクトルは、床に倒れ伏しているモニカに視線を向けると、特に感情を込めること無く嚮団員に告げる。

 罪の押し付けは貴族達からも依頼されていることであり、例え嘘でも衝撃的な嘘になれば人は信じるもの。

 

 嘘を嫌うヴィクトルだからこそ、嘘の有効性は良く理解していた。

 しかし……。

 

 

 

「背中ががら空きです」

 

 

 

 ヴィクトルの“嘘”の実行には壁となる人間達が存在していた。

 

 

 

「うぐっ!?」

 

 

 

 音も無く、突如ヴィクトルの胸元を貫いた刃。なぜか、メイドキャップを付けた女性が背後にあり、躊躇うこと無く彼を刺し貫いたのである。

 そして、それに続けとばかりに闇から沸き出したかのように、前後左右から、滅多差しの如く彼の身体に刃が突き付けられ、剣先が方々へと伸びる。

 

 一瞬の間に、騎士団員―篠崎流忍術の伝承者達がヴィクトルの元に躍りかかり、彼を害したのである。

 だが、彼女達がそれを知覚できたのはそこまでのこと。次の瞬間には、ヴィクトルを突き刺した一人が首筋から鮮血を舞わせながら倒れ伏し、ヴィクトルは栗毛色の少年に抱えられて逃走を図っていたのだ。

 

 

 

「逃がさぬっ!!」

 

 

 

 部屋の入口にて、状況を見守っていたジェレミアがギアスを知覚し、それを封じるも、すでに一人は殺害されてしまっている。

 下手人の正体を分かっていた彼は、ギアスによる停止とそれの解除を繰り返しながらそれを追うも、基地外部に逃げ、駆け付けたKMFに飛び乗った両者を捕らえることはついに出来なかった。

 

 

 

「ルルーシュ様……、お許しをっ」

 

 

 

 だが、ジェレミアとしてもタダで逃がすわけにはいかなかった。

 

 KMFに救い出された安堵からか、少年はジェレミアに背を向けたまま安堵したのか、警戒をすっかり解いている。

 たしかに、並の兵士ならば安全距離であろう。だが、ジェレミア・ゴットバルトは、ナイトオブラウンズへの就任も打診された歴戦の勇士なのである。

 そして、手にした銃は、その栗毛色の髪を正確に狙い、そして、その引き金は引かれていた。

 ヴィクトルとともに少年がKMFのアーム部分に倒れ伏すのを見届けたジェレミアは、背後に駆け付けてきたブリタニア兵をにらみ付ける。

 

 

 

「悪逆の徒は討った。君たちは尚も彼に組するのかね?」

 

 

 

 鋭く視線を向けたジェレミアに、ブリタニア兵達は困惑する。彼等としては、目の前に居るのはラウンズ権限で一方的に断罪され、捕縛された総督代行であり、ジェレミア達はユーフェミア皇女の命にてタチカワ基地にて軟禁されている立場である。

 軟禁と言えば聞こえは悪いが、捕らえられた三名の身柄を保護する意図があったことは間違いない。

 とは言え、ヴィクトルの動きを掣肘できていないところがミソであり、ギアスや皇帝の威を盾にした彼がタチカワに来てしまった事は失態であろう。

 とは言え、彼等のような守兵達は命令に従っただけであり、ジェレミアとしてはこれを害すことには抵抗があった。

 

 

 

「何をしているっ!! そいつはナイトオブサーティーンを撃ったのだぞっ!! 早く引っ捕らえろっ!!」

 

 

 

 だが、困惑する兵士達の元に純血派の騎士が駆け付け、さらにKMFもスラッシュハーケンを用いて駆け付けてくる。

 

 

 

『代行閣下。いや、オレンジ卿。貴方もこれまでだな』

 

「キューエルか。ふむ、オレンジは我が忠義の証。だが、これまでとは?」

 

『知れたこと。代行閣下は黒の騎士団の襲撃に遭い、エルンスト卿、クルシェフスキー卿ともども殺害された。加えて、守兵の多くが巻き込まれるも、純血派とナイトオブサーティーンの活躍によって撃退された。それだけのことだ』

 

 

 

 基地外苑のテラスであり、入口には純血派の兵士が、外に向けてはKMFが囲み、ジェレミアと守備兵達は完全に包囲された形になる。

 キューエルの言い分を考えると、ジェレミアのみならず、話を聞いていた守兵も巻き添えと言うことであろう。

 はじめからこう言った絵を描いてヴィクトルと純血派はタチカワ基地にやってきたと思われるが、ジェレミアとしてはキューエルがそのような愚行に及ぶ事は信じられなかった。

 

 

 

「キューエル。誇り高い君がヴィクトルなどに組するとは思えなかったが」

 

『なんとでも言え。貴様等、日本侵攻軍がブリタニアに泥を塗ったという事実は変わらぬ』

 

「その咎はブリタニアが背負うべきものだ。君も軍人であるならな」

 

『貴様等の独断をブリタニアに押し付けるなっ!! ……もっとも、貴様等もまた押し付けられた側のようだがな』

 

 

 

 彼の言い分としては、『弔鐘の森事件』としてブリタニアそのものの汚点を生み出した事への苛立ちが先に立ち、冤罪といえど、その罪を償ってしまいたいという気持ちが先に立っている。

 それこそ、責任逃れでしか無いが、キューエル自身は純血派として日本人への融和などを認めるわけにもいかず、上手いことはぐらかすように政策を続けてきたジェレミアの排除は考え続けていたようでもある。

 

 だが、独断をブリタニアに押し付けるなと言う彼の言は、ジェレミア等の融和路線と同時にヴィクトルの一連の行動も含まれるだろう。

 そう言った意味では彼もまた巻き込まれた側と言える。だが、それでも彼は話しすぎた。

 

 

 

「そうか。だが、私にも志はある。冤罪を抱えたまま死んでやる筋合いは無い」

 

『この状況でそれを言うか? 名誉ある自決をする時間を与えたというのに』

 

「それより良いのかねキューエル。ゼロの放った矢が届くぞ!?」

 

『何っ!?』

 

 

 

 刹那、キューエルのKMFの背後に飛び上がった赤き影。

 その独特の意匠の腕が彼の機体を掴み掛かると、周囲の機体に対しても別の機体が躍りかかる。

 

 

 

『なんだっ!? こいつは、クソっ!! 貴様等、ジェレミアをっ!!』

 

 

 

 思いがけぬ奇襲に声を荒げるキューエル。

 

 指揮官として、ブリタニアを思うのであれば躊躇うこと無くジェレミアを撃っておくべきだったのだ。

 

 

 

「ぐはっ!?」

 

 

 

 だが、命令を受けて銃を向けようとした純血派兵士達もまた、咲世子とポラードに率いられた近衛騎士達が殺到して一瞬のうちにそれをなぎ倒す。

 

 

 そして……。

 

 

 

『弾けろっ!! ブリタニアっ!!』

 

 

 

 甲高い声とともに、光を放つ紅蓮の腕。それはやがて、キューエルの乗るサザーランドを異形へと変えていく。

 日本とインドが生み出した紅蓮弐式とその切り札「輻射波動」。その、人倫という観点から見れば非道としか言いようのない攻撃は、情け容赦も無く、“再び”キューエルへと襲いかかったのだ。

 

 

 

『こ、これはっ!? ジェレミアああぁぁっっっっ!!!!』

 

 

 

 そして、膨大な熱量によって限界に達した機体はキューエルの断末魔とともに爆発四散していった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 周囲に転がる死体と逃げ惑う日本人達。

 

 だが、鉄格子は固く、彼等を解き放つ術もドロテアには無い。襲いかかってきたブリタニア兵と一部のレジスタンスの数は膨大であったが、それらに後れを取ることも無く、死体の山が築き上げられるのみ。

 

 だが、結果としてそれがドロテアと付き従ったエリンの動きを抑圧する結果になった。

 当初は彼女達がブリタニア兵に蹂躙されれば良いと考えたのであろうが、結果は逆となり、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた嚮団員のギアス。

 おそらく、“対象の行動を抑制する”ギアスであったようだが、油断していた時ならばともかく、戦闘における高揚から逆に集中力が昂ぶっているドロテアに対してはただの足掻きでしか無い。

 結果、その使役に集中力を向けたことが災いし、ドロテアが隠し持っていた暗器によって額を貫かれた嚮団員。そして、それに動揺した純血派の兵士達も、隙を見て銃を奪ったエリンによって次々に射殺されていった。

 

 だが、窮鼠猫を噛むとも言うように、死を覚悟した兵士の一人が壁側へと走ると、先ほど壁を取り払った装置に取り付く。

 すぐにエリンに射殺された兵士だったが、すでに一つのレバーを作動側に引き、さらにそれをへし折るような形で絶命する。

 

 ほどなく、地下監房が震動すると、四方から水が流れ込み始めたのだ。

 

 当然、慌てふためく日本人達。監房の扉は電子制御されており、銃撃で破壊する事は困難な作りになっていたのだ。

 ドロテアとエリンもなんとか、鉄格子を破壊しようとそれに取り付くが、頑丈に設えられたそれは例えラウンズの腕力を持ってしても排除できるものでは無かった。

 迫り来る水の恐怖。

 多くがそれに動揺して声を上げたり、何とかあがこうとするなか、ドロテアは冷静に状況を見据えていたが、いかなラウンズといえど、神ならざる身。状況を変えるための手段を導き出すことは出来なかった。

 

 そして、水位は天井へと届き、なんとか呼吸しようと抗う日本人達の多くが力尽きる中、ドロテアとエリンは静かに水中で時を待ち、それからなんとか天井の格子に捕まって顔を出す。

 僅かに酸素を得ることは叶ったものの、水中に身体がある以上はいつか体力が尽きる。

 それにならった日本人達も同様であるし、水中である以上、鉄格子を破壊するのはさらに困難になっていたのだ。

 

 

 ――刹那、地下から届く僅かな震動をドロテアが感じとると、それは次第に大きくなっていく。

 

 彼女達は与り知らぬ事であったが、彼女達がなんとか呼吸を確保したその時、ちょうどジェレミアと咲世子が地下の様子を確認し、カレン達KMF部隊が地下水路に対して砲撃を開始していたのだ。

 

 ほどなく、激しい水流が地下監房全体を巻き込んでいく。当然、人の力で洪水に抗うことなど不可能であり、ドロテアとエリンもまた、その水流に身を任せる以外には無い。

 

 だが、彼女達の行き着く先には頑丈な鉄格子が存在する。

 

 鋼鉄のそれは、急流という水の恐るべき力の前では、遙かに強力な刃となって襲いかかる。

 それを察し、目を閉ざしたドロテアの意識が残っていたのはそこまでであった。

 

 

 そして、暗がりへと沈んでいた意識に光が灯ると、次第に脳裏に広がっていく。

 すると、顔を誰かが拭ってくれている感触をドロテアは自覚する。

 

 

 

「あ、ルルっ!!!」

 

 

 ゆっくりと目を見開いたドロテアの様子に、歓喜を込めて声を上げる少女。その栗色の髪に、ドロテアは見覚えがあった。

 

 

 

「…………シャーリー……、フェネットか?」

 

「あ、覚え居てくれたんですねっ!?」

 

「私に敗北を味わわせた女の名だ。忘れるわけがあるまい……ぐっ」

 

 

 

 身を起こそうとするも、身体が軋む。

 

 百名以上からは数えるのを忘れたぐらいに人を斬り、同様に斬られ、撃たれ、叩き伏せられた。

 銃創や裂傷から致命傷を避ける訓練は受けていたが、それでも水の底に沈んでいた時間を考えればダメージは残る。

 地下に流れ込んだ水は、幸いにも汚水では無かったが、浄水前の水であったようだ。日本の水は清浄である事は有名だったが、それでも無害というわけでは無い。

 

 

 

「無理はしないでください。身体中傷だらけだったんですから……」

 

「ふ、痛みがあると言う事は、生きていると言うことだ……モニカ、エリン」

 

 

 

 立ち上がろうとするドロテアをシャーリーが抑えるも、このぐらいのことで寝ているわけにはいかないと言う思いで身を起こしたドロテア。

 そんな彼女の視線の先には、呼吸器を付けられて寝かせられているモニカとエリンの姿があった。

 

 

 

「二人は?」

 

「エリンさんはドロテアさんに覆い被さるように倒れていたので。背中に大きな傷を負っています。モニカさんは本当に危篤で……胸元を撃たれていたんですが、奇跡的に」

 

「咄嗟に急所を外すように動いたのだろう。さすがはナイトオブラウンズだ」

 

 

 

 シャーリーが申し訳なさそうに口を開くと、それに続くように室内に入ってきた仮面の男。その背後には、ポラードら近衛騎士達が苦い顔をしながら扉を閉めている様子が見てとれた。

 

 

 

「ゼロ……。いえ、ルルーシュ殿下」

 

 

 

 仮面の男の登場に、ドロテアはなんとも言えぬ気持ちで彼の本当の名を口にする。その生存を知ると同時に、自身に突き付けられた真実。

 それを思い出させたのは彼の決断とジェレミアの力による。とは言え、ブリタニアに公然と反旗を翻した男に自分はどう相対するか、いまだにドロテアの中では決断できていなかった。

 

 

 

「呼び方は好きにするといい。しかし、いらぬ苦労を掛けさせてしまったな」

 

 

 

 そう言うと、ルルーシュは仮面を取り、ベッドに腰掛けた彼女と対面するように座る。

 席を外そうとしてシャーリーにも同席するように告げ、さらに話を続ける。

 

 

 

「全てはブリタニア内部の問題です。……結果として殿下を利する結果になりはしましたが」

 

「敵に対する諜略は戦の基本だからな。『謀多きが勝ち、少なきは負ける』と言う言葉は日本にもあるしな」

 

 

 

 ドロテア自身は、草壁の暴走に端を発したブリタニア内部の派閥抗争だと思っていたが、ルルーシュの言は日本側からの謀略を意味していた。

 

 

 

「私が記憶を取り戻せば、殿下に組するとお考えで?」

 

「そこまで簡単には考えていない。元々、お前とはそれほど親しくは無かったしな。いや、あの男の信奉者であるお前達のことを俺ははっきりと嫌っていた」

 

 

「しかし、その忠節が偽りのものであった」

 

「そう言う事だ。ノベヤマでの邂逅では、お前の精神を崩壊させてしまったかと思っていたが」

 

「正直なところ、自身の存在が何だったのか。自らの生き様を否定されたようにも思えました。ですが、仕える主は一族の仇であろうとも、ブリタニアを裏切ることは……」

 

 

 

 ドロテア自身、血の紋章事件に連座して一族は皆殺しに遭い、幼かった自分は助命されつつもシャルルに刃を向けている。

 命を助けられたことは感謝すべきかも知れなかったが、記憶を変えられ、仇に忠義を尽くし、自身と同じ目に遭う人間を量産していく。

 侵略の尖兵として生きてきた結果が、エルンスト家という新たな家族であり、ナイトオブラウンズという地位であり、弔鐘の森という汚名だった。

 いや、弔鐘の森だけでは無く、自分達の攻撃によってかの軍人達と同じように無残な最後を迎えた人間達を生み出してきたとも言える。

 だが、偽りの記憶とは言え、自分は祖国ブリタニアの為戦ってきたという自負もまたドロテアにはあった。汚名もまた、その自負の結末と考えれば納得せざるを得ないのかも知れなかった。

 

 とは言え、ブリタニアを捨て、反逆に身を投じた皇子の元へ馳せ参じるかと言えば、簡単に決断出来はしない。

 

 

 

「違うな。間違っているぞドロテア」

 

 

 

 だが、ルルーシュはドロテアの愛国心というものを別の角度で否定する。

 

 

 

「私もまた、ブリタニアそのものを憎んでいるつもりは無い。“ブリタニアをぶち壊す”と言う誓いをお前も聞いていたと言うが、シャーリーのように、俺の大切なものもまたブリタニアにはある」

 

「ですが、殿下の行動は」

 

「ブリタニアに対する反逆。だがな、ドロテア。ブリタニアとはなんだ?」

 

「ブリタニア? ……私にとっては皇帝陛下への忠義……だったのでしょうか?」

 

「お前にとってはそうなのだろう。だが、俺がぶち壊すと言うのは、シャルルブリタニア。あの男とその取り巻きどもが支配するブリタニアそのものだ。ブリタニアという国家そのものは、俺にとっての祖国に変わりは無い」

 

 

 

 ルルーシュ自身、詭弁を弄していると言う自覚はある。だが、一度は登極した身でもある。過去にあっては、自身の罪と親友への償いの為に全ての悪をその身に背負った。

 

 

 

「ブリタニアを滅ぼすわけでは無く、シャルル陛下とその体制を破壊すると言われますか」

 

「だからこそ、お前達に汚名を背負わせた。今でこそ、仮面にて正体を隠しているが、幹部達にはすでに正体を告げている。日本の解放とシャルルブリタニアの崩壊。これが、彼等の協力に対する俺の対価だ」

 

 

 

 体制破壊を口にするルルーシュに対して、日本人達が協力をするというのは筋が通るとドロテアは思う。

 レジスタンス達が国家としての覇権を求めるとは考えがたく、祖国の解放こそがその最終目的であろう。

 加えて、ルルーシュの登極を支援すれば、当然ルルーシュとすれば日本を蔑ろにする理由は無くなる。当然、恩義に対する対価として、恵国待遇などは求められるだろうが、行き過ぎた妥協を受け入れるようなたまでも無いだろう。

 

 

 

「彼女は?」

 

「私は、ルルからその正体と過去を明かされました。ただの学生だった私に出来ることは限られていると思いましたけど、でも、ずっとつらい目に遭ってきたルルの味方であってあげたいと思って」

 

「ふふ、ただの学生が私を破ったのか」

 

「あ、そ、それは必死だったので」

 

「いや、誇るが良いさ。殿下の味方でありたいと願う少女がラウンズを破った。……殿下、仲間とともにブリタニアを変える。これが貴方の目的と言うことですか?」

 

「そうとらえてもらって良い。かつて、俺に対して『正しき手段で中から変えるべきだ』と解いた者が居た。だからこそ、俺は俺のやり方で中から変える。皇族への正式復帰も考えたが、それでは内部抗争に終始してしまうだけだ」

 

 

 

 ルルーシュがナナリーとともに皇族に復帰したとしても、かつて自分が想定したような飼い殺しに甘んじるつもりは無いし、ナナリーもそこまで軟弱では無いと言う思いはルルーシュにはある。

 だが、それでは侵略国家として世界の悪意を背負い続けるブリタニアが残るだけである。

 

 そもそも、世界を俯瞰してみれば問題を抱えているのはブリタニアだけでは無い。かつて、自身が築き上げた合集国のように、世界の体制そのものを根底から変える。

 そういった大変革があって始めて、ブリタニアの改革はなる。中から変えるためにも、外からの力は必要なのだ。

 

 

 

「それが、殿下の思考する未来なのですね?」

 

「モニカっ!?」

 

 

 

 そこまで語ったルルーシュに対し、瞑目して自身の先を思考していたドロテアだったが、思わぬ人物の問い掛けに目を丸くする。

 すると、胸部に銃創を負い、危篤状態にあったと言うモニカが目を見開き、ルルーシュへと視線を向けていた。


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