第1話 最高にクソったれで、最高の飼い主様
「爆弾を抱え敵に突っ込む歩行地雷程度にしか役に立たんお前のようなゴミに最高の食事と最高の教育、そして最高の軍事教練を与えた慈悲深く世界で最も美しい優等人種たる上官の前でとるべき姿勢は敬礼じゃないだろうが」
基地に詰めている少年兵――敵の拷問から抜け出してきて、ついでに目につく偵察隊へ攻撃を加えて相手の思惑をかき乱してきたハウンドの上官であり、飼い主でもある女は軍服を押し上げる胸を見せつけるように張り、手にした鞭で壁を叩く。
「どうすべきか、言ってみろ」
「食い殺すつもりで接する」
ハウンドは真顔でそう言った。決して上官に言っていい言葉ではないが、女は柔らかく微笑む。
「それでいい。……私は軍人が嫌いだ。だがバカ犬は好きだ。軍人を見ると殺したくなるが、バカ犬なら殴るくらいで済ませられる。……さて、敵拠点を襲撃するなどと大それたことを言った基地司令の突貫作戦がずっこけて二日。敵の部隊にこちらに押されている。既に歩兵が百名近く死傷する有様で、機甲兵器も十二パーセントを損耗している。当然、これじゃあ戦闘にはならない。今すぐにでも引き揚げようと……というより、既に撤退し始めている」
立体表示された地図には赤い
「殿をつとめろと言われた。だが私は劣ったサルの慰み者にはなりたくはない。ハウンド、お前だって飼い主を知らん男に汚されたくはないだろう」
「まあ、そうだけど」
「だよな。そうでなくてはおかしい。お前より優れている私がそんな目に遭うのはありえん。だろう? この美しい私が蹂躙されるなどあってはならんことだ。だから、お前が敵を皆殺しにしろ。そうすればいい。敵の中の旗といえる
「捕虜は?」
「いらん」
「降伏されたら?」
「白旗なんぞ赤く染めろ」
「もし肉の盾があったら?」
「踏み潰せ」
「民間の施設に逃げ込まれたら」
「白燐弾をぶち込んで燻り出してやれ。避難勧告を投げたのに無視する奴がいたんなら、そいつは命知らずか非国民のどちらかだ。要するに私の敵だ」
至極真面目にそういった上官に、ハウンドは反論せず頷いた。
「わかった。本当にいいんだな」
「ああ。私から顔を奪ったクソどもだ。奴らがどうなるかなど知ったことではない」
鼻から上が潰れ、歪な皮膚の、顔の上半分を爛れた膜で覆われた上官を見てハウンドは近づいていく。頭髪は手術で埋め込み、敵の血で染め上げたように真っ赤だ。直せるはずの目を直さず、歪な顔のまま振る舞う。けれど彼女はそれでもずっと自分が世界で一番美しいと自称するし、ハウンドもそうだと思っていた。
そんな、醜くも美しい顔を隠す髪をかき分けて、背伸びしてキスをする。
「僕が全部壊してくる。敵も、味方も、全部」
「私のために世界を滅ぼせ。私に恩を感じているのならば」
「尻尾も振るよ。あんたのためならね。クソったれで最高の、絶世の美女飼い主様」
戦塵のウォークライ 雅彩ラヰカ/絵を描くのが好きな字書き @9V009150Raika
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