四ツ辻の屍霊魔術師
雅彩ラヰカ/絵を描くのが好きな字書き
四ツ辻の屍霊魔術師
私に謝ることなどないし、懺悔すべきこともない。ただ、断罪されて然るべきだとは自覚している。
君たちの正義は随分と偏っていて、ある種のエンターテイメントでしかないような、ほんの少し突けば割れるような薄氷をぺたぺた組み合わせたものでしかないが、だからこそ私はこう言わせてもらう。
私には祈りも、葬儀も必要ない。形骸化したくだらぬ文言で、私の死を汚してほしくはない。これは私が残す、最期の作品。そして、君達への問いかけだ。
さあ、早く撃ちたまえ。
×
一八七八年
私には妻と娘がいる。いや、いた。
アフガンでは英国インド領に軍団が集結しており、首都カブールへの攻撃を計画しているというが、ロンドンにいる私にはあまり関係のないことのように思えた。
うすぐらい実験室で、私は筆を手に一葉の手紙をしたためる。それは私がこれから行うことへの覚悟であると同時に、きっとすぐに終わる新しい日常への門出を祝うもので、そして遺書でもあるものだ。
簡素な文言になっている自覚はある。けれどもそれでいい。私は小説家ではないし、画家でもない。けれど芸術家だ。無論、音楽だって奏でられないし、演劇も無理だが——。
机に仕舞い込んだそれを、魔術式を描いてロックする。規模が小さいので、その費用対効果として術の期間を長く伸ばせる。もちろん机を強引に叩き割るという不作法極まりない真似をすれば、簡単に取り出せるが。
やっと会える。
私は帰り支度を進め、夕日が空を焼くはずの、蒸気と魔力と霊魂の粒子に覆われた空を窓越しに見てからマスクとゴーグルをした。
見慣れた集合住宅の一室に戻った私はマスクなどを外して、煤などから肌を守るコートを脱いで椅子に引っ掛ける。部屋の奥にある小さな寝室は私の手で改築され、そこに二つの冷却充填式の棺桶があった。指輪を押し当てると中の冷気が漏れて、かこ、と蓋が外れる。
病で永遠の眠りについた娘と、娘の死に耐えきれず首を吊った妻。私は二人を抱きしめてキスをして、微笑んだ。
——私だって莫迦ではない。そんなことをしたとて、とっくに霧散した彼女たちという情報が戻ることなどない。あくまで人形劇。けれど、それにでも縋らなくては、死んでも死に切れないではないか。
私は絨毯を剥ぎ取って、床に刻んだ魔術式の上に彼女たちを寝かせる。必要な材料は全て、別の冷却棺桶内で保存してあった。この日のために集めたヒトの血、とだけ言っておこう。
魔力という、死後ヒトから抜ける魂が霧散した際に生じるそれはさまざまな場所で結晶化し、魔石となる。これらを用いることで私たちは魔術を行使し、英国は一大帝国としての立場を築いた。
私は口に、悪魔の言葉を乗せる。悪魔の歌声であり、人の愚かしさを嗤うようなものだ。
私の人生においてもっとも大きな罪は、これから行う禁術ではない。娘を救えなかったことと、妻を支えてやれなかったことだ。そんな二人に仮初の霊魂を与えるこの行いが、二人を犠牲にして作った時間で築いたものだとおもうと随分と皮肉である。
帰っておいでとは言わない。
彼女たちはもう、どこかの魔石になっているのだろうから。
×
妻と娘が偽りの魂を与えられて一ヶ月。腐敗する肉体の新鮮さを保つため、女性と女児を殺さざるを得なかった私はとうとう捕まった。
連続猟奇殺人、そして死者蘇生という禁忌。死霊魔術は決して使ってはならず、研究も禁止されているものだ。
楽しかった。一切喋らない、ヒトとはいえない作り物の肉体との人形芝居だが……それでも私の心は満たされていた。最期に私は、二人の肉体に火をつけて、本当の意味で解放してやれたのだから。妻子を、そしてそこに宿った数えきれない魂のかけらたちを。
そして、私はライフルを構えた五人の処刑人に言う。
私が最期に、目を閉ざされた中で見たものは、苦しむ娘の顔と、泣き喚いて震えて、死んだ娘を抱きしめて死を覚悟した妻の悲壮な顔だった。
——同じように苦しむことはできない。私の中に神はいない。天国も地獄もありはしない。私は審判の日まで、ただただ宙吊りになっている四ツ辻を彷徨い続けることになるのだろうから。
四ツ辻の屍霊魔術師 雅彩ラヰカ/絵を描くのが好きな字書き @9V009150Raika
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