見た目と使い心地の両面からデザイン。
東京制作部は、ゲームソフトを企画・制作している東京の開発の拠点という位置づけの部署です。部署内にはプロデューサー、ディレクター、プログラマー、デザイナー、サウンド担当などのスタッフがいて、私はデザイナーの一人として、UI(ユーザーインターフェース)(※)を担当しています。メッセージやボタン、アイコンといった平面的な絵をデザインするだけでなく、タッチ機能などのゲームの使い心地の部分をつくる仕事をしています。
※ユーザーインターフェース:ユーザーとゲーム機との接点となる、ボタンやアイコンなどのベーシックな機能。
「UIって何だ?」からスタート。
入社時は京都の本社にいました。まずニンテンドー3DSの『とびだせ どうぶつの森』のUIデザインを担当しました。ところが、新入社員研修中に少し触れたものの、実は当時、UIについてはあまり理解できていませんでした。まさか自分が担当になるとは思っていなかったので、「UIって何だ?」からスタートしました。最初は何をしたらいいかわからないまま、がむしゃらにゲーム中に使われるバッジのアイコンをつくっていました。そのうち徐々にアイコンだけでなく、「画面を1つ仕上げて欲しい」と依頼される仕事の幅が広くなってくるにつれ、「この画面を見てお客様がどう思うか」とお客様の目線で考えるということを意識するようになりました。たとえば、ゲーム上で家具を買うためのカタログをつくることになったとき、お客様がどういう画面なら欲しいものが見つけやすいか、どういう操作なら購入しやすいかを考えて画面やボタンをデザインしていきました。また自分なりのアイデアを形にしたこともあります。プレイヤーが集めた魚や虫などの情報が見られる図鑑です。
当初は、下画面に生き物の名前一覧が表示され、選ぶと上画面に生き物の3Dモデルが現れるというようなものが提案されていたのですが、「自分で集めた生き物がアイコンで並んでいたら楽しいだろうな」と考え、仕組みを変更することを提案したんです。実現化するまでには困難もありましたが、コレクション感を味わえる「絵」ができたと思っています。
つくり方から検討した初めての経験。
次にかかわったニンテンドー3DSの『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』では、ゲームにUIを表示していく仕組みづくりから担当することになりました。このときは、制作の過程で毎日構成が変わるダンジョンを効率よく自動的にマップ化する方法や、メッセージを1文字ずつ表示していく表現などをプログラマーと組み立てていきました。スケジュールに基づいて「何をどれくらいつくるか」「どういうつくり方をするか」を考えることができた初めての取り組みにもなりました。このプロジェクトは、定期的にモニターをして意見をもらいながら仕上げていきました。ダンジョンを攻略するときにはマップがないと実際にゲームをしたときのイメージを得られないので、最初に着手しました。ここでつくり込みすぎると、後からの意見の反映や仕様変更、デザインの密度のバランスが崩れてしまうので、どんなゲームになるのかイメージできる最低限のバランスを考えながら調整していきます。具体的には、マップを作るときは、ここは壁、床、奈落なのか、どれくらいの広さか、アイコンは視認できるかなどを仮素材で作り一通り簡単に遊べるところまで実装してもらいました。また、プログラマーと相談することが増えたのも、新しい経験の一つです。途中で東京制作部に異動することになり最後まで制作にかかわることはできませんでしたが、ほかの職種のスタッフとの連携の大切さを実感したプロジェクトでもありました。
ゲームの楽しさを左右するシーケンス。
東京に移ってすぐ参加したプロジェクトが、Wii Uの『スーパーマリオ3Dワールド』です。私はシーケンスの組み立てを担当しました。ここでいうシーケンスとは、ユーザーがプレイする際の一連のサイクルを指します。たとえば、タイトルが出てきて、次にキャラクターを選び、ステージを選び、遊んでクリアするといったゲームの流れです。このシーケンスを考えるに当たり、いかにテンポ良く進めるか、いかにプレイヤーが気持ちよく楽しめるかを意識しました。検討事項は多岐にわたり、「タイトル画面に決定ボタンとしてゲーム中で一番よく使うことになる基本ボタンを配置して、手のポジションを遊びやすいコントローラーの持ち方に自然に誘導する」「キャラクターを選ぶ画面では、遊べるキャラクターを一目でわかるようにする、一人で遊ぶ場合と複数で遊ぶ場合、そのときに使うコントローラーの種類を特に意識せずに選べるようにする、ボタン配置が異なるWiiリモコンやWii U GamePadでそれぞれどう扱うかわかりやすく示す」など、プランナーやプログラマーと相談しながら細かく設定する必要がありました。決定音やキャンセル音をはじめ、サウンドをつける場所と音のイメージを考えたこともあります。
全体の設計が終わったら一連のサイクルをつなげてみて、実際に自分で遊んでみることで「ここはこう変えた方がスムーズにいく」というポイントを見つけては、またプログラマーと相談して改善していきます。一連のサイクルをつなげるまでがピラミッドの土台だとしたら、細かな部分を見直してつくる作業はその上に一つずつ石を積み上げていくようなもの。本当に地道な仕事でしたが、それだけに達成感もひとしおです。
失敗から学んだ、全体を見渡す大切さ。
『スーパーマリオ3Dワールド』ではゲーム全体を把握する立場になったので、たとえば「絵」づくりをする際は、動きが重くなりすぎないようにゲームの読み込み速度を意識して、どれくらいつくり込むかを決めないといけませんでした。また、全体のバランスとしてそれぞれの「絵」が均等に見えるように仕上げることも必要です。たとえば、タイトルロゴだけものすごくこだわっても、後が同じようにできなければ商品にはなりません。「この部分はこれ以上つくり込まない!」という判断が必要になります。
それから、新しい経験ばかりだったこともあり、思わぬ箇所をポロッととりこぼして、対応に奔走したこともありました。BGMが入るのを失念してデモシーンを構成してしまい、後から気づいてつなぎ合わせたものの、そう簡単にぴったり合うわけもなく、あのときは焦りました。早い段階で摺り合わせるべき仕事だったのに、目の前の作業に追われてしまって忘れていたのが最大の原因です。自分の作業がゲームづくりのどこに関わっているか、全体を見渡す大切さとともに、独りよがりではなく周りの人とコミュニケーションしながら進めていく姿勢が大切だと痛感しました。
世界に発信することを想定したデザイン設計。
『スーパーマリオ3Dワールド』では、ローカライズ作業(多言語対応)にも携わりました。最近の任天堂ゲームソフトは世界で同時期に発売することが多いので、テキストに関わる部分をデザインする際に、それを念頭においたデザインを心がけることもUIデザイナーの大事な仕事になっています。たとえば日本語なら10文字1列で収まる言葉が、スペイン語に訳すと複数行になることがあります。任意のテキストを入力するときも、文字幅が違うので、たとえばアルファベットの“I”が多いときは文字がたくさん入り、“W”が多いときは少ししか入りません。こうした場合、より幅の大きい“W”を基準にテキスト幅を設定するなど、あらゆる可能性を想定しても成立するウィンドウなどのレイアウトを検討していきました。ときには文字自体の要不要を見直したり、翻訳チームに戻して文章を短くしてもらったり、日本語のニュアンスをほかの言語でも伝える検討をしたりと、状況に応じた調整作業も多かったです。
誰もが自由にアイデアを出せる良い環境。
入社前は、デザイナーとはキャラクターを描いたり画面をデザインしたりすることにほとんどの時間を割く仕事というイメージがありましたが、実際には他職種とやりとりをする時間が多いと知りました。お客様にどう感じてもらえるかを考え、みんなでアイデアを出し合ってより良いものをつくっていくための検討時間です。それが、自分の芸術作品をつくることとの違いです。東京制作部では、アイデアを誰もが自由に提案できる雰囲気があり、面白いアイデアは職種に関わらず採用してもらえます。一つの課題に対してアイデアを持ち寄るミーティングも行っていて、みんなで付箋を貼って選考して、それを試作して検証する期間も設けています。面白いことを形にしようとする強い情熱を感じます。もちろん私も常に面白いことを考えている一人です。どんなアイデアが遊びづくりに活きてくるかわからないので、最近はとにかく面白いネタを仲間と模索しています。