初めての仕事はスクリプトライター。
ニンテンドー3DSやWii Uのゲームソフトを開発する情報開発本部の制作部で、プランナーとしてゲームソフトの企画を中心に、多岐にわたる仕事をしています。制作部全体ではプランナーは50人以上いて、それぞれゲームタイトルごとのチームに所属しています。プランナー同士は、新しいネタを提供しあったり、互いのアイデアにアドバイスをしたりして連携しています。初めて携わったのは、『とびだせ どうぶつの森』に登場するどうぶつたちのセリフや手紙文を書くスクリプトライターの仕事でした。まずこれがプランナーの仕事であるということに驚きましたが、ゲームごとに異なるコンセプトや世界観を十分に理解した上で文章化しなければならないので、任天堂ではプランナーが担当することが多いと知りました。「このキャラクターなら、こんなことを言いそうだな」というセリフを考える必要があり、まずは『どうぶつの森』シリーズのゲームを体験して、世界観を理解することから始めました。勘をつかむまで先輩に何度も相談しながら進めたのを覚えています。季節ごとのイベントはこのゲームの重要なポイントなので、普段の生活でもハロウィンやクリスマスのパーティーを楽しんだり、節分の恵方巻きを食べてみたりなど、実際に体験することを大事にしました。キャラクターの性格をイメージしながら、体験するからこそ出てくるような細かいセリフのアイデアを探しました。
お客様目線を再認識したゲーム中のイベント企画。
『とびだせ どうぶつの森』では、花火大会のイベント企画を担当しました。より楽しいイベントにしたくて「自分で描いた絵がそのまま花火になったら面白そうだ」と考えたのですが、まったく新しい仕組みをつくる必要があったので「時間と手間がかかる」と自分なりに結論づけてしまい、時間のかからない、花火の色だけを変えられるプランを提案しました。ところがこのプランを出したとたん、妥協案であることを見抜いた上司の雷が落ちました。私はお客様の視点を忘れかけていたんです。
結局、自作の絵が夜空に打ち上がるプランで進めることになり、チームの作業量は増えましたが、最終的にお客様に喜んでいただける内容になって本当に嬉しかったです。任天堂はお客様に喜んでいただけるなら、時間と手間を惜しまず徹底的にこだわる会社。このとき、任天堂のものづくりに対する姿勢を身に染みて感じました。おかげで、それからは安心して(笑)とことんこだわれるようになりました。
カッコ良さを第一に工夫したリプレイカメラ。
次にプランナーとして担当したゲームタイトルがWii Uの『マリオカート8』です。プレイヤーが自分のプレイを振り返ることのできる「リプレイ」というモードがあるのですが、そのためのカメラの位置や角度、動きなどを考えました。Wii Uは描画能力が高いので、キャラクターの表情はもちろん、マシン、ヘルメット、帽子などの質感、マリオのひげが揺れるといったディテールまでリアルに表現されています。この特徴を活かして、よりカッコ良くプレイを再現したいと、ヨリやヒキ、画角、あおり、ターン、ロールなど、さまざまなカメラワークを取り入れて、細かくパラメーターを設定していきました。参考にしたのは映画や、F1などのモータースポーツです。スピード感を重視したかったので、固定カメラをマシンが追い越していくシーンを入れるなど、レース中継のテクニックを随所に応用させてもらいました。そのほか、投げた甲羅が相手に当たって割れるまでの一連の流れをカメラで追ったり、マリオがガッツポーズするところを映したりと、皆でいろいろアイデアを出しながら「マリオカートのためのカメラ」を形にしていきました。
『マリオカート8』公式サイトで動画がご覧いただけます
全員でものづくりをする風土の中で磨かれた専門性。
『マリオカート8』ではコース設計も担当しました。ファンの年齢層が幅広いので、小さな子どもたちから熱心なゲームファンまで楽しんでもらうことが大切です。そのため、初めて走る人には次は右カーブか左カーブか体感的にわかるよう、また何度も走っている人にはハイレベルなタイムアタックが楽しめるよう、バランスを見ながら3Dモデリングを進めていきました。プランナー自身で設計や調整のできるツールを用意して、手元で何度もコースをつくっては試しました。同じフロアにプロジェクトメンバーが揃っているため、少し進んだら先輩や仲間に見せて意見を聞き、修正してはまた意見を聞くことの繰り返し。未完成のものでも真剣に向き合ってアドバイスしてもらえるため、「なんとか意見を反映したコースにしたい」と前向きに頑張ることができました。お客様に自信をもって提供できるクオリティまで高めていけたのは、垣根なく話し合える環境と、全員で真剣にものづくりに取り組む風土のおかげだと思っています。
タイトルごとにプランナーの役割はさまざま。
プランナーの基本的な仕事は、「このアイデアを形にしよう!」と最初に声をあげること。方向性を見極めてアイデアを出すことです。さらに、考えたアイデアをディレクターやプログラマー、デザイナー、サウンドスタッフなど、プロジェクトメンバー全員に理解してもらうために仕様書をつくります。つくり方にルールはなく、伝えたい内容に応じてそのつど工夫しています。伝わるなら、絵だけでもいいし、一言でもいい。企画が決定したあとは、同じ目標に向けて全員で形にしていくだけです。緻密なアニメーションが完成したり、魅力的な音楽が加えられたり、想像を超えるものづくりができたときにプランナーとしてのやりがいを感じます。
そのほかにも、プランナーの仕事は多岐にわたります。プロジェクトごと、ゲームタイトルごとに役割も変わります。スクリプトライターやコース設計だけでなく、デバッグやモニタリングを担当するマリオクラブ(※)と開発とをつなぐ窓口として、デバッグ情報のやりとりをしたこともあります。マリオクラブの担当者からの質問に答えるため、担当以外のゲームタイトルの仕様や仕組みを把握したので、おかげで知識もいっきに増えました。
入社早々から多彩な仕事を任されてきて、プロジェクトごとに新しいことを知る楽しさがある反面、目標が高いだけに厳しさもあり、自分がやり遂げるべき責任の重さを感じます。目標が高いほど、課題が難しいほど、達成できたときの喜びは大きく、「この仕事に就けてよかった」と思います。
(※)マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。
限定せず、とにかく面白いものをどこまでも。
アイデアは机上ではなかなか浮かびません。私は普段から、「面白そう」「使えそう」というものをメモしておいて、プランニングの際にそれらを組み合わせて仕様書にまとめたりしています。また何気ない日常の風景も、意識して観察するようにしています。ビジュアルを見る目を養うとともに、そんなところからアイデアが湧くこともあるからです。
もちろん、すべてのアイデアをプランナーが出すわけではありません。プロジェクトが立ち上がると、プロジェクトメンバーなら誰でも自由に書き込めるアイデア募集の掲示板を部署内のWEB上に設置するチームが多いです。そこで出たアイデアを、プランナーがふくらませて仕様書に落とし込むこともあります。みんなで考えるから、アイデアは枯渇しないと思っています。
任天堂は、これまでいろいろ変化してきた会社です。これからも柔軟に変化していくと思っています。私は今ゲームをつくっていますが、それに限らず、とにかく「面白いもの」の制作に携わりたい。画期的なプロジェクトが立ち上がるときは、ぜひ手を挙げたいと思っています。