Prot.no.SC−JP22-12
2022年8月1日
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内閣総理大臣 岸田 文雄 様
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わたしたちは安倍元首相の「国葬」に反対します。
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2022年7月8日、安倍晋三元総理大臣が参院選応援演説中に銃撃を受けて亡くなりました。日本カトリック正義と平和協議会は不慮の死を遂げた安倍元首相に心から哀悼の意を表します。また政治家に対する暴力はいかなる理由があろうと、議会制民主主義の原則を否定する行為であり、極めて遺憾です。
しかしながら、岸田文雄総理大臣が安倍元首相の「国葬」(国葬儀)を7月22日に閣議決定したことに対し、わたしたちは抗議します。
岸田首相は、安倍元首相の「国葬」を「民主主義を断固として守り抜く」ためとしています。しかし戦前の「国葬令」は1947年12月31日に失効しています。唯一の例外である1967年の吉田茂氏の「国葬」に際しても、内閣法制局は「法的根拠が明確でない」と答弁しています。今回、政府は内閣府設置法4条にある「国の儀式」という記述を根拠にしていますが、「国葬令」の失効によってすでに廃止されている「国葬」を、「国の儀式」に含める解釈には無理があります。「国葬」を、国権の最高機関である国会での審議を経ずに決定することは、民主主義の根幹を揺るがすことだと言わざるを得ません。
そもそも「国葬」は、歴史的に天皇主権の国家体制と深く結びついていました。明治から1945年まで、「国葬」は天皇より国家に功労のあった「功臣」に賜るものとして執り行われ、人々の弔意を誘導することで国家統合をはかる政治的な目的があったことは否定できません。その時代、天皇制と表裏一体の国家神道への奉拝に従わない宗教者は、厳しく弾圧されました。「国葬」がこうした過去に連なることを、わたしたちはまず危惧します。
「国葬」は、国家が主催し、国費をもって実施する葬儀であり、国家から功績が評価された偉人への弔意を、国民皆に強いるものです。人の死を悼み弔うという個人の内面的な営みに、国家が介入することは許されません。その意味で「国葬」は、憲法19条で保障された「思想及び良心の自由」に矛盾します。
安倍元首相は、教育基本法を改定し、特定秘密保護法、共謀罪など、人間の内心の自由を侵害する法律を強行に成立させました。安倍政権下で成立した安保法制は、集団的自衛権を認める点で、その合憲性が疑われています。また、森友学園、加計学園、桜を見る会、世界平和統一家庭連合(旧統一協会)とのつながりなど、安倍元首相は真相解明が必要な数多くの問題を残しています。安倍元首相の人物評価は、二分されています。このような現状で「国葬」を強行すれば、国民を分断することになりかねません。
以上の理由から、わたしたち日本カトリック正義と平和協議会は、安倍元首相の「国葬」に強く反対いたします。
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日本カトリック正義と平和協議会
会長 ウェイン・バーント
担当司教 エドガル・ガクタン
協議会一同
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