[4b-27] ご覧のスポンサーども
『皆様、頑張っているジャレー君を応援したいとは思いませんか?
この大勝負、見ているだけでは惜しいと思いませんか?
そぉんな皆様のために特別メニューをご用意致しました!』
休憩室のジャレーを映し出していた、スクリーンの表示が切り替わった。
『パンパカパーン!!
貧弱な彼でもワンチャン魔王に勝てそうな装備の数々! ……うん? それは言いすぎかな?
さらに、脆弱な肉体を守るための追加の護符もご用意しております!』
投影された幻像は……武器、盾、鎧に冒険道具の数々。
売り出しの告知チラシみたいに、カラフルで衝撃的な演出を付けて、『商品』が紹介されていた。
『会場の皆様が、今宵の余興の
小切手記入スペースはこちら!』
芝居がかった身振りでキョウコは、ホールの隅のスペースを指す。
選挙の投票台みたいな三方を覆われた机が、いつの間にか準備されていた。
投票用紙ではなく白紙の小切手が置かれている。
つまり。
ジャレーを助けたければ、このパーティーの参加者たちが金を払って、ジャレーのための装備を買えという話だ。
もちろん誰も動かなかった。
他人事だからではなく、事態が斜め上に展開して頭が付いて行かないからだ。
『……なお、意図的に申し遅れましたが、このパーティー会場の模様とジャレー君の活躍は、共和国中にお届けしております!』
「はあ!?」
「何!?」
キョウコの言葉を聞いて、参加者たちがどよめき、色めき立った。
スクリーンの表示がまたも切り替わる。
光の洪水みたいな夜景が、鳥瞰視点で映し出された。
無機質な巨影として夜闇にそびえるビル群が、数え切れないほどの魔力灯照明によって輝いているのだ。幻像の中に特徴的な建物を見出せば、ここがステルウェッド・シティだと気付くのは容易だろう。
おそらくは、飛行するゴーレムの視界をそのまま幻像として映し出している。
眼下の広場は、無数の街灯と看板照明によって、真昼のように明るい。
そこに、ぎっしりと人が詰めかけていた。まるで冬至祭りの夜の大騒ぎだが、群衆はプレゼント交換をしに出てきたわけではなさそうだった。
広場にはビルの三階くらいまでありそうな、超巨大スクリーンが掲げられていた。
そしてそこに映し出されているのは……絢爛に飾られたパーティー会場だ。
『ご覧ください、この人だかり!
ステルウェッド・シティは「風の広場」に……ええと、だいたい一万人くらい集まってます?
これと同じ事が、各地の大都市の広場にて起こっておりますので、まあ少なく見積もって十万人はこの余興を見ておりますね』
十万人に見られている。
そう言われても、ほとんどの者はピンと来ないだろう。十万人が集まっている場所など、目の当たりにした経験はそうそう無いだろうから。
それでも警戒心が強い者は、先程のダンスの時に配られた仮面で顔を隠すなどしていた。
『お集まりの皆様! これだけの共和国市民たちの前で、見殺しの汚名を被りますか!?
ジャレー・ウィズダムは別にいいとして、トウカグラの人々や警察官も捕まってるんです。ジャレー君が倒れたら全員死ぬんです。
いやぁ、皆さん、貧乏人どもが何人死んでも気にしないって面構えしてらっしゃいますけどね! 顧客たる善良な市民諸君は考えが違うことでしょう!』
酷くねじくれた状況だった。
冷静に考えるなら、街の人々や警備に当たっていた警察官を危機に晒しているのはシエル=テイラ亡国で、パーティーの参加者たちは無関係だ。
だがもし、ここで座視していたら、世間の怒りがどちらへ向かうか。
ここ最近、シエル=テイラ亡国はせっせと楽しい事件を起こして、無責任な世間の人々の好感度を稼いでいる。もはや彼女らは、皆を楽しませるトリックスターだ。一方パーティーの参加者の多くは、金だけではなく嫉妬と怨嗟も稼いでいる新興の金持ちたち。
パーティーの参加者たちが金さえ出せば、万事丸く収まって、死人が出ることもなく、今宵の事件は楽しい余興のまま終わる……
それが世人の求める結末だ。
嫌な予感のせいか、誰もが落ち着かぬ様子で、ざわざわと囁き合っていた。
そんな中でもキョウコは、周囲の様子など一切頓着せぬ様子で、底抜けに明るい司会進行を続ける。
『さあ最初の商品はこちら! 対ゴーレム兵装として連邦では一般的な、電撃拳銃です!
弾丸別売りなんてケチなことは申しません、内部機構破壊用の電撃弾も12発の出血大サービス!
お値段はたったの大金貨200枚です!』
「大金貨200枚!?」
「悪魔だってそんなぼったくりはしないぞ!」
家が買える金額だった。
誰がどう考えてもおかしい値段設定に、驚き呆れた声が上がる。
『お高い? そうかも知れませんね。
ですが
会場の模様が共和国中に中継されていることは先程申し上げました通り!
そんな皆様の前で! 皆様の商会をご紹介する機会を! プレゼント致しましょう!』
キョウコが何を言っているか、即座に理解した者は少なかった。
皆、必死で頭を働かせて、状況分析をしようとしていた。今どうすれば、自分は損をせずに済むのか。あるいは、どうすれば利益を得られるのか、と。
これは、興業化された身代金目的立てこもりだ。
人質は街一つ。そして、儲け話に釣られて集まった者たちの社会的信用だった。先程キョウコは十万人と言ったが、この大騒ぎを思えば情報は更に広まって、最終的にどれほどの人が今宵の出来事を知る事になるか。
『皆様、よぉくお考えください。
これはジャレー君と、捕まった人々の命のお値段。
それに、イベント運営費の補填としては安いくらいですし? 何より皆様には、共和国中に名前を売る機会をプレゼントするのですよ? 投資としてのコスパをよくよくお考えください』
「私が買おう」
立ちすくむパーティー参加者たちの中から、進み出る者が一人あった。
若く野心的な雰囲気の男だ。
『はぁい、お買い上げありがとうございます!
ではでは壇上にいらしてください、10万人の前で宣伝をどうぞ!』
ざわめく人々の間を堂々と歩き、その男はキョウコの傍らに立った。
大きな水晶玉が運ばれてきて、台座に載せられ、二人と対峙した。
『ウォッホン! 我がセイロウ商会はステルウェッド・シティに本拠を構える、隷用魔物の管理販売業。
主として家畜化されたスライムによる下水処理を得意としている! 既にモルマ・シティ、エト・シティの公共システムに採用され、さらに家庭用処理槽も近日公開予定だ!
我が商会の優位性は徹底した管理システムにある! 下水スライムが増えすぎて脱走? その度に市民に被害が出て冒険者に駆除させるって? ナンセンス! 旧態依然としたシステムでやっているからそうなる! 管理されるべき低俗な魔物に仕事の邪魔をさせてどうする!
独自の暴走抑止機構を備えた、我が商会のスライム式下水処理槽! ご興味を持たれた方には是非、実物をご確認頂きたい! いつでも商会本部にてお待ちしております!』
若き商会長は、虚空を捏ね回すような手つきを見せながら、朗々と水晶玉に向かってセールストークをぶちまけた。
そこに人が居るわけでもないのに、まるでそこに顧客が存在するかのように。
目の色を変えたのは一人ではなかった。
なるほど、こうやればいいのかと、合点がいった様子で。
『はい、ありがとうございましたー!
ではこちらでお支払いを』
一通り喋らせると、キョウコは流れるような所作で、彼をホールの隅に連行していく。
「おい、本当にタダになるんだろうな」
「はいはい間違い無く。
ホールは未だにざわめいており、二人の囁きが聞き咎められることはなかった。
『さあ次の商品は、こちら!
ミスリル製の軽量大盾だ! ゴーレムたちの猛攻に晒されれば使い捨てとなりましょうが、剣も、魔法も、浮気がバレたときの奥様からの訴状も、何もかも防いでくれる優れもの! 買うのが半年遅かったねジャレー君!
お値段は大金貨250枚と致しましょう』
「買うぞ!」
「俺だ! ……俺の方が先だぞ!」
次の『商品』に対しては、購入希望者が即座に、しかも複数現れた。
要は実演販売と同じだ。買ったら何が起こるのか、目の前で実際に見せてやれば、買ってみる気になろうというもの。
『おやおや? 希望者多数ですね! 良きかな良きかな。
では簡易オークションにて落札者を決定させていただきます!
宣伝の機会はまだまだありますが……無限ではありません。そんなに何度も戦っていてはジャレー君、負ける前から挽肉になってしまいますからね!
どこで本気を出してお財布の紐を緩めるか、皆様、是非とも賢き戦略的ご決断を!』
じわりと、熱気の満ちる前兆らしきものが、展望ホールの空気をよぎった。
戸惑い恐れるばかりだったパーティー参加者の間に、別の感情が芽生え始めていた。
商品が買われ、購入者が蕩々と宣伝をして、それが幾度か繰り返される。
そうして買い物が終わったとき、ジャレーは亀の甲羅みたいな装甲板を重ねた鎧を着て、大きな盾と拳銃を持ち、腰には剣と二種の杖。たすき掛けのベルトにもマジックアイテムを備えた状態だった。
『お陰様で最大限の重武装! これで勝てなきゃハエにも勝てないぞっ!
それでは戦闘開始! 勝利は君にあり!』
銅鑼の音が街に鳴り響いた。
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