この歌詞の「永遠」の「ん」を、長く伸ばして歌っている。
音圧を引き上げながら、はっきりと聞こえる音量で。
彼女がしっかりと鼻腔共鳴を使って歌っていることがわかる。
麗美の独特な鼻声は、この鼻腔共鳴によると思える。
これほどはっきり「ん」を歌い上げた流行歌は、都はるみの「アンコ椿は恋の花」くらいか。
(この記述を見たら、麗美(REMEDIOS)本人は苦笑するだろう、と思うが。)
言語の特徴から、日本人は鼻腔共鳴を使いづらいといわれている。
デビュー時のプロモーションビデオの冒頭、彼女は英語で母親と電話を通じた口論を演じている。
独特の鼻にかかったその声は、米国のテレビドラマのティーンエイジャーの声、そのままだった。
のちに、「夢はおいてませんか?」の中で、彼女は閉まりかけるシャッターに対して、wait! と英語で呼びかけるが、その声はデビュー当時とほとんど同じだった。
インタビュー時の声もほぼ同じで、彼女の歌声は話しているときの声とほとんど変わらない。
驚くべきことだと思う。
前回書いた通り、彼女はほとんどの音程を声質を変えないまま歌っている。
しかもそれを、地声のまま行っている。
広い音程を安定した声質で歌うために、声楽家は発声法(アーティキュレーション)の訓練を受け、地声と裏声(ファルセット)の調合を習得する。声楽のあの特有の歌い方には、そうした地声と裏声の調合の結果で、それには鼻腔共鳴が重要になる、という説明を、声楽科の教師から直接に聞いた。
しかしそれを、麗美は地声のままで、当たり前のように行っていた。
あの、甘えたような、少女らしい、恥ずかしげに話しかける声そのままで、語り掛けるように歌っていた。
松任谷夫妻は、この類稀な才能に気づいていたと思える。
実際、コロムビア時代の麗美の歌声は、全体を通してとても安定していた。
Sixty Recordsに移籍してから、「Shot Gun」などでファルセットを用いていたことを考えると、Vocalistらしく歌いたい麗美と、Vocaloidを求めた松任谷夫妻との間で、方向性の違いがあったのかもしれない。
追記
とはいえ、このあとの記事にあるように、麗美はそれぞれの時期、それぞれの曲で、発声をいろいろと変化させている。
麗美時代に限ってみても、「国際線」のように特徴的な歌い方をすることがあった。
しかし、それぞれの曲ごとでは、首尾一貫して安定した発声をしていて、ファルセットのような表現は稀だったと思う。
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