「んー…やっぱり、アクア君の髪の色に合わせて服装は一色に統率したほうがいいよね。
アクア君の髪の色は白に近い水色だから…薄い色に合わせるか、反対に黒系の色に合わせるか…」
今、僕の目の前は、大量と言っていい程の、女物の服で溢れかえっている。
和洋中…世界の女物の服装は見てるだけで、僕の心をお腹いっぱいにするには、充分の破壊力を持っていた。
僕はこの女装大会にあって、至って地味な、それこそ街中で普通に歩いている女の子のような格好で責める予定だった。
それなのに、何だ?あの豪華そうなドレスは?
何だ?あのチャイナ服は?
何だ?あのセーラー服は?
何だ?あのバニーガールは??
あの衣装達の何処が地味目なんだよォ!
どれもこれも、普通の女装レベルの代物じゃねェ!
何だ!?ナイトオブセブンである僕に、本格的に晒し者になれって事かァァ!
嫌だ!絶対に嫌だァァ!
こんな恥ずかしい女装姿を女生徒に見せてしまったら、僕の愛と淫欲の学園性活が益々遠のいてしまうわァァ!
僕の愛と淫欲の学園生殖を守るためには、この妙にやる気満々なシャーリーを止めなくては…!
先ほどは、よくわからないシャーリーの気迫に押されてしまった。
しかし、冷静に考えて見れば、シャーリーは極普通の一般的な萌え女子生徒だ。
そんな一般萌え女子なシャーリーに、戦場を渡り歩いてきたこのナイトオブセブンたる、僕が気迫で押される筈が無い。
きっとさっきのは錯覚だ。
うん。錯覚オーイエーって奴だ。
そうと判断したからには、ここで僕の意見を押し通すのみだ!
「あ、あの…シャーリー?」
「なーに?アクア君?」
衣装選びに夢中なシャーリーの背後から声を掛ける。
僕の呼びかけに、シャーリーは衣装に目を通しながら、振り向きもせず応えてきた。
チャンスだ。
よし!一気に攻めるぞ!
シャーリー!
このナイトオブセブンである、僕の攻撃を凌げるものなら凌いで見せよ!
「僕の衣装の事なんだけど…別に僕は優勝を狙ってなんか居ないから、もっと地味目な服でいいよ。
それにどうせ、この大会はルルーシュが優勝するんだ…し…?」
ここまで話して、シャーリーの様子がおかしい事に気付いた。
シャーリーは僕に背を向けて衣装を選んでいる。
唯それだけである。
しかし何故だろう?
その背中からは殺人的なプレッシャーを発している様な気がするのだ。
ドドドドドドドドドドド!!と言う、奇妙な圧迫感を感じる。
知らず知らずに、掌に汗が溜まるのを感じる。
という体全身が汗で濡れていた。
今のシャーリーならば、実はスタンド使いでした、と言われても信じてしまいそうな勢いだ。
「シャ…シャーリーさん?」
思わずさん付けでシャーリーの名前を呼ぶ。
お前どんだけチキンなんだよ、と言われそうな僕の弱腰ぷりだが、逆にシャーリー様と言わなかった僕を褒めて欲しい。
それほどまでに、今のシャーリーから感じるプレッシャーは凄まじいのだ!BIO以上のプレッシャーを放っているよ!多分!
そして僕の呼びかけに、ゆっくりと振り返るシャーリー様。
そしてその目を見た時―――僕は服従を決意した。
窮鼠猫を噛む。
追い詰められた鼠は、狩猟者である猫をも逆襲するという言葉があるが、それは本当に稀な事だ。
現実は厳しいものである。
鼠が猫に狩られるように。
蛇が蛙を睨みつけるように。
空条上太郎がチョーカッコいいように。
現実と言うのはそんなものだ。
そしてシャーリーの目は、僕に現実と言うものを教えるには充分な凄みを纏っていた。
そのシャーリーの決意に満ちた瞳に、敬意を表して僕は彼女に服従を誓ったのだ。
誤解しないでくよ?
決して、ビビッて服従したわけではない。
決して、やばい。何か服従しないと殺されるかもしれない。なんて思ったわけじゃない。
決して、ちょwマジシャーリーやばすwテラヤバスwwwなんて思ったわけではない。
「アクア君…今、何て言ったの?」
「勝利の栄光を君に!」
物凄い視線で僕を貫いてきた、シャーリー様の問いかけに、僕は敬礼をしながら、答える。
気分は赤い彗星さんだ。
僕の返答を聞いたシャーリー様は、満足したように、一度頷いてから再び衣装選びを再開したのであった。
さよなら。僕のプライド。
ようこそ。新たな女装な世界。
これぞ新世界。
ドヴォルダークって感じな世界だ。
あんまりな覚悟を決めた僕に木枯らしの風が吹いた気がした。
室内なのに。
以下は音声のみのダイジェストでお楽しみください。
「さーてと、大体決まったし、始めましょうか!
先ずは化粧ね!
ファンデーションをうまーく塗して…やだ!アクア君!
アクア君は男の子なのに、何でこんなに化粧の乗りがいいの!?」
「…さぁ?
化粧の乗りがいいなんて生まれて初めて言われたよ…」
「なーんか、微妙に納得できないなぁ…
あ!動いちゃ駄目だからね!アクア君!」
「むず痒くて仕方がないんだけど…」
「シャーリー。
このヒール、踵が高くて凄く歩きにくいんだけど…」
「我慢!女の子は、自分を少しでも魅力的に見てもらうために、色んな努力をしてるんだから!
アクア君も女の子を目指すんだったら、我慢しなさい!」
「いや…目指す気はないんだが…」
「次は無駄毛の処理ね!
アクア君無駄毛剃るよー」
「いや!
この世界の人類の98パーセントはすね毛無いですから!」
「ぐおぉぉぉぉぉぉ…!
シャ、シャーリー…コルセット…す、少し…緩めてくれ。
きつ過ぎる!」
「我慢しなさい!
女の子は好きな人に、少しでも可愛く見てくれるように、血の滲むような努力をしてるんだから!
アクア君も女の子だったら、少しは我慢しなさい!」
「いや…!僕、女の子じゃなくて、男の子…!
って、ぬォォォォォォォ!?
緩めて!お願いだから緩めて!」
「我慢しろ!
無駄な事喋ってる暇があるなら、息吐いて!」
「シャーリー…!?
性格変わってる!?
あぎャァァァァァ!
そして僕の体型も変わる!」
「体型変わるためにやってるんだから、それでいいのよ!
さあ、もっともっと絞るわよ!」
「絞るって…!?
締めるじゃなくて絞るって!?
僕の扱い雑巾レベル!?
って、あーーーーーーーーー!」
「よーし!
この調子で絞るわよぉ!」
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・・・・・・
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・・・
・・
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何時如何なる時でも、時間は平等に流れる。
シャーリーをパートナーにして女装大会の準備をしている、僕達にも準備時間である2時間は、もう少しで終わろうとしていた。
今の状況は、ほぼ女装が完了した僕を、シャーリーが最終チェックをしているのだ。
メイクの出来栄え、衣装がちゃんと僕に合ってるかどうか。
シャーリー先生のチェックをちゃんと通る事ができれば、僕の女装は完成となる。
つ、疲れた…。
女の格好をするという事は、こんなにも重労働だったのか。
女性の人は、こんな事をしているのだから、大変だ。
あまりの大変さに、普段僕の心の奥底に閉まってある、僕の本性が表に出てしまった。
僕は今、この世に男として生まれてよかったと、心の底から思っているよ。
「んー…よし!OK!
これでアクア君も何処に出しても恥ずかしくない、女の子よ」
その言葉に僕は安堵の溜息を吐く。
シャーリー様からのOKサインにより、僕の女装は完成した。
あの地獄のような女装準備から開放されたのである。
しかし今の僕の気分は最悪って物である。
頭に載せたティアラが重く感じる。
剥き出しの肩が寒い。
コルセットにより絞り込まれた腹が痛い。
スカートがでかくて、自分ひとりでは碌に動けない状況。
まったくもって、女装は大変だ。
と言うか、何で僕が女装しているんだろうか?
皆この大会の趣旨を忘れてるかもしれないけど、今回の大会の趣旨は、ナイトオブセブンの歓迎なんだよ?
つまりは僕の歓迎なのに、何故僕が見世物になっているのだろうか?
しかも女装姿なんて、今世紀最大の恥を晒してまで。
こういう役目はルルーシュで良いのではないのではなかろうか。
やばい。
改めて考えてきたら、涙が出そうになってきた。
顔を下に向け、泣きそうになるのを堪える。
泣くな。
今泣いたら化粧が崩れて、また化粧地獄に戻ってしまうぞ!
涙を堪えるんだ!僕!
「どうしたの?アクア君」
シャーリーの訝しげな声に、ただ首を振ってなんでもないと伝える。
僕の首の動きに従って緩やかに揺れるベール。
どうして僕の頭にこんなひらひらなベールが存在するのであろう。
鬱になってきた。
「んもー。
アクア君ったらさっきから虚ろな目で、俯いてばっかり!
せっかくこんなに綺麗なったんだから、そんなに俯かないでよ!
ほら鏡見て見てみなよ!
とっても綺麗だよ!」
無理やりちっくに顔を上に上げられた僕は、自らの女装姿と言う、一生見たくなかった光景を見るハメになってしまう。
そして僕は衝撃を受ける事になる。
姿見の鏡に映った僕の姿は―――これ以上ないほどの、見事な女装姿であった。
僕の色素の薄い髪に合わせられた衣装は、真っ白な純白のウェディングドレス。
肩口と背中を露出させ、胸元を覆うタイプのドレスであり、清楚の中に何処か色気を感じるものがある。
僕の髪の色に併せた、付け毛を後頭部に付ける事によって、腰まで届きそうな長い髪にする。
そしてその長髪をアップにして結う事によって、チラリズムに見えるうなじがまたやばい。
メイクも僕に合わせた素晴らしい物で、男である僕の顔がどっからどう見ても、女の顔にしか見えない。
ウェデングスドレスを着た僕は、何処からどう見ても、今から愛しい人と愛の誓いを交わす女性だ。
というか、ぶっちゃけ。
ふ…ふつくしい………。
「………アクア君?
どうしたの?今度は固まっちゃって」
自分に酔いしれているという、荒業を繰り広げていた僕を現実へと連れ戻したのは、訝しげなシャーリーの声であった。
その声を聞いた瞬間。
僕の魂は慟哭を上げた。
って、はぁぁ!?
僕は何て事を考えてるんじゃァァァ!?
よりにもよって、自分に萌えるだなんてェェェェ!?
ナルシスだ!ナルシシズムだ!
ナルシスアクアだァァァ!
しかも女装した姿で萌えるなんてェェェェ!?
何が、ふ…ふつくしい………だよ!
しっかりしろォォォォ!しっかりしてくれェェェェ!本当に頼むからしっかりしてくれェェ!僕ゥゥゥ!
シャーリーの言葉で僕は現実へと帰ってきて…嘆いた。
そりゃもう、嘆いて嘆いて嘆きまくったのだ。
僕が生れ落ちて17年経ったが、こんなに嘆いたのは初めてと言ってもいい嘆きっぷりだ。
だってそうだろう?
僕は正真正銘の男だ。
実の姉に欲情してしまうような悲しい男ではあるが、男である僕が女の格好をした挙句に、自らの女装姿を見て萌えてしまったのだ。
何たる神への陵辱!もはや神々の黄昏を越える勢いだ!
このまま僕の人生、一歩間違ってしまったらゲイバーに就職しているかもしれないのだ!
嫌だァァァァ!
ラウンズからオカマさんになるなんて、北極から南極に異動するような勢いだァァァ!
異動するにも程があるってもんなんだよォォォ!
認めたくネェェェ!
今僕の胸の中で湧き出た感情は絶対に認められネェェェ!
認めてしまったら僕の世界が終わってしまうゥゥゥ!
粉砕☆!極砕☆!大喝采☆!!
並に僕の世界が終わってしまうよォォォォ!
「…今度は頭抱えて本当にどうしたの?
まあ、もう時間も無いし、控え室に向かうわよ!
アクア君!」
苦悩する僕は、謎パワーによってその勢いを増したシャーリーに引きずられてしまった。
シャーリーに引きずられている間、僕は唯こう思った。
誰かこの状況から僕を助けてください…と。
マジヘルプミー。