法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『NHKスペシャル』戦慄の記録 インパール

やや放送枠を拡大した1時間15分で、日本軍の愚劣さの象徴として知られているインパール作戦をとりあげる。
NHKスペシャル | 戦慄の記録インパール

これまでインドとミャンマーの国境地帯は戦後長く未踏の地だったが、今回、両政府との長年の交渉の末に現地取材が可能となった。さらに、新たに見つかった一次資料や作戦を指揮した将官の肉声テープなどから「陸軍史上最悪」とされる作戦の全貌が浮かび上がってきた。

そもそも日本軍にとっても意味はなく、現地司令官を活躍させるためという「人情論」で認可された侵攻作戦。どのような立場であっても高評価することは困難だ。
もちろんNHKもふくめて過去から何度となく批判的に報じられてきた。同じ『NHKスペシャル』で1993年にとりあげた回などはインターネットで無料配信されている。
[NHKスペシャル]ドキュメント太平洋戦争 第4集 責任なき戦場 ~ビルマ・インパール~|番組|NHK 戦争証言アーカイブス
だが今回が無意味だったとは思わない。末端の人々によりそい、心をゆさぶらせるドキュメンタリーとして、高い完成度を見せていた。


今回の特色は、実際に現地で取材し、さまざまな証言や遺物を撮影したことにある。
困難な道のりや激しい雨季の情景を過去に重ね、名簿の記録から戦死した時と場所を地図に刻みながら、それでも番組が完全に歴史を再現することはできない。インパール作戦による戦死者や傷病者の数は、もはや推計するしかないのだ。現地の被害を推計することは、さらに困難に違いない。
それでも、学問的な知見を大きく変えるような新発見こそなくとも、被害をこうむった現地人のまなざしによって、ただ日本軍が壊滅しただけではない問題が浮かびあがってくる。
牛を徴発され、食べ物を失って困った村人。日本兵の十字架を立てて、幽霊が出る逸話を語る村人。遺骨のありかを伝承する村人。遺族のために遺品を保管している村人。空爆に巻きこまれた村人。日本兵が機関銃のかわりに木を叩いて音を出していたという村人。敗走した日本軍を手当てしていた村人……登場する証言者は抑制された表情で、静かに歴史を語っていく。


先述したように、インパールへの侵攻作戦は東亜解放の題目とは関係なかった。そして戦後の調書において、認可したはずの大本営は責任を否認して、すべてを現地軍に転嫁した。
大日本帝国が建前としていた東亜解放の大義は、すくなくともインパール作戦には適用できないと日本軍自身が決めたのだ。負うべき責任から逃げるために。
対する牟田口中将も上層部に責任を転嫁。戦後に親交をもった英国軍幹部から高評価されたことに気をよくして、天寿をまっとうした。現地を支配から解放したかったなら、戦後も英国を批判しそうなものだが、そうしなかったらしい。