「八幡。約束通り予定空けてくれてるよね?」
「ああっ。後が怖いからな。
それでどうするんだ?」
「新作映画が上映開始するの。
前から楽しみにしてたんだ。明日はつきあってね。」
「あと眼鏡とヘアセットは必ず忘れないでね。
服装は前買ったやつね。」
「へいへい」
そう言えば波瑠加達も映画に行くって言ってたな。まぁ。上映時間も色々だし出会う事もないだろう。
深く考えずに了承した事を、俺は直に後悔する事になる。
……
「ふっふふ〜ん。お待たせ。今日は楽しみだね♪」
いつにも増して櫛田の機嫌がいい。
「上映時間にはまだ早いけど、もう映画館にいこっか。
ぎりぎりだと人も多くなるし、八幡もイヤでしょ」
悪い予感がする。いつも櫛田に振り回されて終わるのに今日はこちらを気遣ってくれている。そう感じながらも断る理由はない為、早めに映画館に入った。話題の作品らしく開始前には全ての席が埋まっていた。しばらくすると周りが暗くなり、俺達は粛々と映画を鑑賞した。
上映が終わり、映画館から出ようとした時、
俺達に声がかかる。
「あっ。きょーちゃんだ!おーい」
ヤ…ヤバイ…。そう思い櫛田の顔を見ると、いたずらが成功した子供のような笑みを浮かべていた。
こ…孔明の罠か
「波瑠加ちゃん達も映画見に来てたの?」
そこには俺を除いた綾小路メンバーが揃っていた。
「そうなんだ〜。
私達グループ作ったんだけど結成記念かな?
残念ながら1人欠席しちゃったけどね。」
汗が止まらん。
「は…八幡くん…もこれたらよかったのにね…」
(へ〜。八幡くんね〜)
だらだら
「仕方ないだろう。先約があったらしいからな」
「そうだな。
強制するのは、このグループの意義にも反する」
「…………」
清隆は不思議そうな目でこっちをみてくる。
「そうそう。ハチ君は残念だったけどね。」
(残念だね?ハチ君♪)
なんだ…浮気がばれた時って、こんななのか…。
いやいや、そもそも彼女いたことないが
「それより隣の男の子は誰かな〜。
きょーちゃんの彼氏??」
「え〜。違うよー。」
「怪しいなぁ〜。見た事ない男の子だけど、他のクラス?
それとも先輩なのかな?」
マジで言ってんのか?
「う〜ん…」
波瑠加はまじまじとこっちを見てくる。
「知的って感じで、かっこいいね〜。
きょーちゃんにお似合いだね♪」
「そ…そんな…お似合いだなんて…」
「おいっ。そのくらいにしておけ。
櫛田も困っているだろう」
そう言って波瑠加の首根っこを摑む。
ナイスだ。みやっち。今のうちに退散しよう。
「え〜。きょーちゃんが一人の男の子といるの始めて見たんだよ。色々聞きたいじゃん。」
「そうだ!私達これからお茶しようって言ってたんだけど
二人も一緒にどうかな?」
「え…え〜と」「迷惑だろ。」「………」
そうだ。みんな頑張れ!
「きょーちゃんなら大丈夫でしょ?
それに実はみんなも気になってるよね?」
櫛田の固有スキル「みんな仲良し」が発動する。
「う…うん。櫛田さんなら…」
「櫛田が迷惑でなければ問題ない」
「…………」
清隆なんかしゃべれ!
「こう言ってるけど、どうかな?」
波瑠加に聞かれて、意見を求めるように俺を見る櫛田。
(断って下さい。お願いします。何でもします。)
そうすると櫛田は可愛く小首を傾げると
(ダ〜メ♪)
「う〜ん。どうしようかな〜。
本当は秘密にしておきたいんだよっ」
おっ!?
「でも、このメンバーなら大丈夫かな?」
「き…桔梗!」
「そうだ!
私からのお願いも聞いてくれるなら
一緒してもいいかな」
「うんうん。きくきく!」
波瑠加は好奇心が勝ったのか深く考えず同意した。
「じゃあ、ここだと何だから移動しよっか♪」
…
俺達は少し広めの個室があるカフェを訪れた。みんなの注文が終わると早速波瑠加が切り出した。
「で?で?本当は二人付き合ってるの??」
「そんなんじゃないよ。たまに休日に遊んでるだけだよ。」
「そうは見えないけどな〜。
さっきもきょーちゃんの事、『桔梗』って呼んでたよ」
あっ。しまった。
「それに…何クラスの誰なのか紹介してよ〜」
「……………」
今日の清隆は使えんな。
「え〜。まだ気づかない??」
「「「??」」」皆一様に疑問顔だ。
そう言うと櫛田は少し乱暴に俺の髪をがしがしと乱した後、眼鏡を外した。
「じゃ〜ん」得意げな櫛田。
「う…嘘っ」「ハチ君なの?」「八幡だったのか?」
「なにすんだ。櫛田」
「八幡くんだ。」「ハチ君だね。」「八幡だな。」
唯一発言のない清隆は幽霊でもみたかのように目を見開いて驚いている。
「髪型セットして、眼鏡かけただけだ。
普通すぐにわかるだろ」
「「いやいや。無理」」
「言ったよね?比企谷くんの見た目は腐り目8割、アホ毛2割で構成されてるんだよっ。って、これでも信じられない?」
みんなが櫛田の意見に頷いている。
「八幡の先約って櫛田とだったのか。」
「でもでも、ハチ君ときょーちゃんが何で一緒だったの?」
「比企谷くんと私は同じ中学のクラスメイトだったんだよっ。どうしても女の子だけだと行きづらい所とかときどきお願いしてるんだ。目立ちたくないっていうから変装してもらってね。」
「以前、櫛田に聞いた事あるから中学のクラスメイトは本当みたいだ。ちなみに堀北も同じ中学らしい」
やっと綾小路が起動した。
「そうだったんだな。全く知らなかった」
「だよね。みやっち」
「なんで内緒にしてたの?」
「別に内緒ってわけでもないんだけどね。あまり言い触らしてもらいたくはないかな。」
「あと、私からのお願いなんだけど、たまにでいいから今みたいにみんなの集まりに参加させてもらえないかな?」
「きょーちゃんなら別に良いかな」
「わ…わたしも大丈夫です」
「別に断る理由もないからな、
たまにであればいいんじゃないか」
「俺もたまにであれば問題ない」
こ…こいつ…これが俺を売った狙いか?
「みんなありがとう♪」
「波瑠加ちゃんに愛里、明人くんに啓誠くん、清隆くんに八幡♪」
「これからよろしくね。私の事も桔梗でいいよっ」
普段八幡って呼ぶ大義名分も手に入れやがった……
これ以上は危険だ。
「今日はもういいだろ。帰るぞ。櫛田」
「桔梗」
「ちっ。帰るぞ。桔梗」
「うん♪じゃあ、みんな、また学校でね」
八幡と櫛田は先に店から出ていった。
……
「な…なんか色々驚いたな。」
「あぁ」
「八幡の変装。あんなの誰にも気づけないだろう」
「すっごい格好良くなってたしね。ね。愛里」
「う…うん」
「でも、きょーちゃんがねー。意外かな?」
「何の事だ?」
「男子には分からないかぁ」
「どういう事だ?」
「ハチ君に手を出すなって牽制だったでしょ?
私はきょーちゃんを敵にまわす勇気ないかな」
「そうだったか?」「わからん」
「女の子だけに分かるコミュニケーションかな」