過去91回の選抜大会で無安打無得点試合(ノーヒットノーラン)を達成した投手は12人。春は投手が比較的有利とされているが、夏の甲子園の101回で22人(23回)を大きく下回る。
第1号は広島商の灰山元治だ。1930年夏の甲子園でチームを優勝に導いた右腕は、翌31年の2回戦で坂出商(香川)と対戦。速球と2種類のカーブがさえ、「打たれる気はしなかった。無安打は後で知った」。9奪三振、3四球の内容で大会初の快挙を達成し、勢いづいて夏春連覇も達成。大会前には素足で日本刀の上に乗って精神修養に励み、後に「優勝は真剣刃渡りのおかげ。怖かったが肝が据わった」と振り返った。
94年の1回戦では、島根・江の川(現石見智翠館)が屈辱を味わった。石川・金沢の右腕中野真博の緩急をつけた投球に翻弄(ほんろう)され、大会史上2度目の完全試合を許した。
実力と運を兼ね備えなければ実現できないノーヒッター。夏の達成者には王貞治(東京・早実)や工藤公康(愛知・名古屋電気=現愛工大名電)松坂大輔(神奈川・横浜)ら名選手が並ぶのに対し、春はプロ球界で大成した選手は少ない。237勝を挙げた野口二郎(愛知・中京商=現中京大中京)と、今も米球界で活躍するダルビッシュ有(宮城・東北)が際立つ。灰山は戦前のプロ野球で打者としてプレーし、50年の広島球団創設1年目には2軍コーチを務めた。
打力の向上や投手の分業制で難度は増し、達成は2004年のダルビッシュが最後。16年のブランクはこれまでで最も長い。好投手が多い今大会、久々のノーヒッターが実現するか。(加納優)