置換積分(続き)

 次に、011+x2dxという積分を考えよう。この積分は、x=tanθθの意味は右の図を見よ)と置き換えて、dx=dθcos2θを使い、

0π211+tan2θdθcos2θdx=0π2dθ=π2
のように計算できる(1+tan2θ=1cos2θに注意)。図で、xを0からまで動かしたらθがどう変化するかをみれば、積分区間「x=0からx=」が「θ=0からθ=π2」と変わることがわかる。

 結果として、11+x2dx=dθという置換がされた。この置き換えの意味を図形で理解しておこう。次の図に、底辺1、高さxの直角三角形の高さをdxだけ大きくしたときの変化を示した。

 図に描き込まれた円の半径は1+x2であり、円の一部である中心角dθの扇型を考えると、その扇型の弧の長さは1+x2×dθである(扇型の弧の長さ)=(半径)×(中心角)。

 一方、直角三角形の相似を使うと、

:dx=1:1+x2
が成り立つから、(弧の長さ)=dx1+x2である。以上から、1+x2×dθ=dx1+x2が言えて、これからこの積分は角度の積分に書き直すことができて、
011+x2dx=0π2dθ=π2
と答えが出る。積分の上限がでない場合も同様に考えて、
0a11+x2dx=arctana
という式を出せる。たとえば0111+x2dx=π401311+x2dx=π6がわかる。ところで、11+x2|x|<1なら
11+x2=1x2+x4x6+x8x10+
と展開できるから、
0a11+x2dx=[xx33+x55x77+x99x1111+]0a
と考えることで、
arctana=aa33+a55a77+a99a1111+
とわかる。このaに1を代入するとarctan1=π4になる、というのがライプニッツも発見したというπの計算方法である実際計算してみると右辺がπ4になかなか近づかない。もともとの展開式がa<1で使える式だったので収束が遅いのは当然である。a=13の時に左辺がπ6になるという計算の方が収束が早い。他にもいろいろな計算方法が知られている。

上でdx1+x2=dθと置き換える部分の説明は、図で描くよりも「微分」という計算をした方がわかりやすい人も多いだろう。そう思った人は式の計算で理解しておけばよい。どっちであろうと、自分にわかりやすい方で理解すればよいのはもちろんである。

 問題により、そして(思考方法は人それぞれなので)個人により、「どう考えれば理解しやすいか」は違う。では「式で計算できればそれでよい」(または「図解できればそれでよい」)かというと、次に現れる問題があなたにとってどちらで理解しやすいかはわからないわけだから、いろんな方法で理解することを(少なくとも``数学修行''をしている間は)心がけておいた方がいいだろう。

 ときどきたくさん教えられてもわかんなくなるから、教える方法は一つにしてくださいという人がいるのだが、一つしか武器がない状態では太刀打ちできない強敵に出会う時のために、修行はしておこう。

 立ち向かう相手(自然現象)は強大なのだから持っている武器は多い方がよい。

三角関数を使った置換積分

 定積分を実行した時にやった置換積分を使うことで、複雑に見える関数の積分を実行することができる。たとえば、x=cosθとおくとその微分に関してはdx=sinθ±1x2dθ複号±のどちらを取るかは、今sinθcosθがどのような値を取っている領域で考えているのかを見て決めるべきである。dxdθの正負の関係は、角度によって違う。という置換ができる。これを整理するとdx1x2=±dθとなるので、1x2を含むような複雑な式が出てきた時は、これを使って積分をθの積分に変えることができる。たとえば\節{tikandeha}では

011x2dx=01(1x2)dx1x2=0π2sin2θdθ
という変形を行ったこの時は11x2dx=dθのように符号を選んだ(考えている領域ではxが増えるとθが減ったから)うえで積分の範囲をひっくり返した時にもう一度符号が出た。。同様に、
dx11x2=dθ=θ+C=arccosx+C
のような積分が可能である。x=cosθと置いて計算を始めたから、最後でθ=arccosxと戻した。実はこうできるかどうかはθの範囲による。

 ここで、x=sinθとおいても同様のことができるので、

dx11x2=arcsinx+C
という式を作ることができて、これも正しい。「sinでもcosでも正しいなんて変ではないか」と思うかもしれないが、sin(θ+π2)=cosθのような式があるから、角度を平行移動すればsincosになる(逆も同様)。つまり積分定数の違いでどちらになってもよい(同様に、sin(θ+π)=sinθのような式もあるので、
dx11x2=arcsinx+C
という式も、正しい(もちろん、正しく積分定数を調整するという前提のもとでである)。

 11+x2が出てくる積分はx=tanθと置くことで簡単化できる。というのは、dx=1cos2θdθ=(1+tan2θ)dθという変形から、11+x2dx=dθと変形していくことができるからである。これから、

dx11+x2=dθ=θ+C=arctanx+Cdxx1+x2=dθtanθ=log(cosθ)+C=12log(1cos2θ)1+tan2θ+C=12log(1+x2)+C
のように下の式は1+x2=tという置換積分でも計算可能。積分をしていくことができるこういうのはいちいち公式を覚えようとしなくてよい(「覚えよう」は禁句)から、「11x2dxがでてきたらx=sinθではどうか?」とか「11+x2が出てきたらx=tanθと置いてはどうか?」などと考えていくのがよい。

双曲線関数を使った置換積分

 では、たとえば11+x2dxが出てきたらどうしよう??---この形の積分が簡単になるような関数はあるだろうか?---そもそも、「11x2dxがでてきたらx=sinθ」という考えがうまくいったのは、x=sinθの微分がdx=cosθdθで、dx1x2=dθとなったからであった。そこで、x=f(θ)と置いたとき、f(θ)=1+x2になるような関数があればこの積分ができる。そういう関数として知られているのが、「双曲線関数」と呼ばれる関数群の一つであるsinhθである三角関数に似ているところがあるのでθという文字で変数を表しておくが、このθには「角度」という意味は全くない。sin,cosのテイラー展開では次数が上がるごとに符号が反転するが、以下のように符号が反転しない

sinhθ=θ+θ33!+θ55!+=n=0θ2n+1(2n+1)!coshθ=1+θ22!+θ44!+=n=0θ2n(2n)!
のような展開級数を作る。これらの関数が双曲線関数(sinhcosh三角関数のsinθcosθ=tanθと同様に、sinhθcoshθ=tanhθという関数もある。である正確な読み方はsinhは「ハイパボリックサイン」(または「サインハイパボリック」)、coshは「ハイパボリックコサイン」(または「コサインハイパボリック」)であるsinhを「しんち」、coshを「こっしゅ」などと読むこともある。。すぐにわかるように、
ddθcoshθ=sinhθ,  ddθsinhθ=coshθ
である(ここでも、三角関数にはあるマイナス符号がない)。
coshθ+sinhθ=1+θ+θ22!+θ33!+θ44!+=n=0θnn!=eθcoshθsinhθ=1θ+θ22!θ33!+θ44!=n=0(θ)nn!=eθ
のように足したり引いたりすることで指数関数になる。

  この式はオイラーの関係式eiθ=cosθ+isinθiがなくなった式であるとも言える。

 coshsinhのグラフは右のようになる。eθ×eθ=1から

(coshθ+sinhθ)eθ(coshθsinhθ)eθ=cosh2θsinh2θ=1
がわかる(cos2θ+sin2θ=1に似た式である)。

 また、逆に解くことで以下を得る。

coshθ=eθ+eθ2,sinhθ=eθeθ2

 x=coshθ,y=sinhθとしてグラフを描くと下のようになる。

 これが「双曲線関数」という名前の由来である。「双曲線」と言われると思い出すのはy=1x(いわゆる「反比例」の式とグラフ)の方かもしれない。Y=1XすなわちXY=1x2y2=1は、\ang{45}(π4ラジアン)回転させた関係にある。それX=x+y,Y=xyを代入することでこの二つの式が入れ替わるXY=x2y2ということからもわかる。

 さて、x=sinhθと置換した場合どうなるかを考えよう。微分してdx=coshθdθであるが、coshθ=1+sinh2θである(coshθは定義からして正にしかならないので、 の前に±はいらない)。よって、dx1+x2=dθという置き換えができて、11+x2の積分が可能になる。たとえば、

dx11+x2=arcsinh x+C
である(arcsinhsinhの逆関数)。

面積・体積と積分

円錐の体積

 円錐や角錐の体積は底面積をS、高さをhとすると、13Shで書ける。これを定積分を使って出そう。頂点を原点として、底面に垂直な方向の距離を考えて、その距離xとする(面に垂直な下向きの方向にx軸を取る)。xは下向きに取っているので、『高さ』とは逆になっていることに注意しよう。

 そして定積分の精神に従って、このxを微小区間に切り刻み、その一つの微小区間の幅(この円錐や角錐をビルと考えた時の「一階の高さ」である)をdxとする(座標xから座標x+dxまでを切り取って考える)。

 この一階の体積は、この階の底面積×dxである。面積はスケールの自乗に比例するから、底面積はS×x2h2である(図では円錐の場合を示したが、角錐であっても同様)から、

0hSx2h2dx=[Sx33h2]0h=Sh3
となる。分母の3はabx2dx=[x33]abから来たのである。

 ここで体積を計算した方法からすると、円錐や角錐の頂点が(底面に平行な方向に)移動したとしても体積が変わらない(つまり体積は底面積と高さだけで決まり、傾きにはよらない)ことが納得できる。これは円柱などの場合でも同じである。

球の体積

球も同様に微小な高さdxに分けて考える。

 今度はx=0は球の中心におくと、図に描いたように、各階の床は半径r2x2の円で、底面積π(r2x2)を持つ。これに高さdxを掛ければ一階分の体積が出るから、範囲r<x<rでこれを積分して、

rrπ(r2x2)dx=π[r2xx33]rr=π(r3r33(r3+r33))=4πr33
となる。

 同じ結果ではあるが、球を水平に切るのではなく、小さい球殻から大きい球殻へと(風船を膨らますように)足算する方法もある。球の表面積が4πr2であることを使って

0r4πx2dx=4π[x33]0r=4πr33
のように計算する方法もある。

曲線の長さ

 y=f(x)で表現されるグラフの線の長さを計算してみよう。微小な区間(x,y)から(x+dx,y+dy)の長さはdx2+dy2であるから、これを足していく。ここで、

dx2+dy2=1+(dydx)2dx
という変形をする。この微小区間の長さを足算していけばよい。xを独立変数、yを従属変数と考えることにすれば、これは普通の積分になっている。(a,f(a))から(b,f(b))に達する線の長さは
ab1+(dydx)2dx
という積分で得られる。

 少し難しい例で曲線の長さを出してみよう。硬貨を2枚机の上において、一方を固定してもう一方をその周りにぐるりと廻してみる(この時、硬貨と硬貨の接触点はすべらないようにする)。

 動かした方の硬貨が一周して元に戻ってきたとき、この硬貨の縁の一点(たとえば、図に赤で示した点、以下「移動点」と呼ぶ)はどれだけの距離を動いているだろうか??---図に示したように、この軌跡はハートマークのような形を描く(「カージオイド」と呼ばれている)。

 まずこの移動点の位置は(上図のように考えると)動かしている方の硬貨が元の位置からθだけ回ると、硬貨自体の回転はその2倍の角度だけ回転していることに注意。このことは、一周してくる間に2回、10円玉の向きが\ovalbox{10}になっていることからもわかる。

x=2rsinθrsin2θy=2rcosθrcos2θ
であるθが通常と違って、y軸のところでθ=0であることにも注意。縦に硬貨が並んだ状態を初期状態(θ=0)にしたかったので。から、θが微小変化したとしてx,yの微小変化は
dx=2r(cosθcos2θ)dθdy=2r(sinθsin2θ)dθ
であり、この微小部分の長さは(dxdθ)2+(dydθ)2dθで与えられるのでまずルートの中身を計算すると、
(dxdθ)2+(dydθ)2=4r2((cosθcos2θ)2+(sinθsin2θ)2)=4r2(22cosθcos2θ2sinθsin2θ)       cosθcos2θ+sinθsin2θ=cos(2θθ)=8r2(1cosθ)       1cosθ2=sin2θ2=16r2sin2θ2
となり、微小部分の長さが4r|sinθ2|dθ(絶対値に注意!)であることがわかる。sinθ20<θ<πでは正で、π<θ<2πでは負であることに注意して、これを定積分して、
02π4r|sinθ2|dθ=8r0πsinθ2dθ=8r[2cosθ2]0π=16r
が全体の長さである(円が関係するのに答えにはπが含まれないという、面白い結果が出る)。

 残念ながら授業はこの計算の途中で終わってしまいましたが、残りはフォローしておいてね。