【8月13日付編集日記】盆の入り

 

 妻子と別れた40代の主人公は、子どもの頃に交通事故で亡くなった両親と生まれ育った東京・浅草で出会う。事故当時のままの、自分より年若い姿に戸惑いながら親子としての交流を重ねていく。謎の女性も加わり、主人公は不思議な時間を過ごす

 ▼山田太一さんの小説「異人たちとの夏」。大林宣彦監督による映画ではいわき市ゆかりの秋吉久美子さんと、片岡鶴太郎さんが主人公の両親を演じた。原作で主人公と父がキャッチボールするため外に出ると、お盆休みで通りの店は閉まっていた

 ▼きょうは盆の入り。あの世から帰ってくる先祖の霊と方々から集まってくる家族。高速道路を埋め尽くす車の列と、お土産などを両手に抱えて鉄道のホームにごった返す人の波が、つい何年か前まで夏の風物詩だった

 ▼新型コロナウイルスによる移動制限がなくなり、これまで帰省を控えていた人々も今年は戻って来ているだろうか。久しぶりに見る顔があれば、先祖も家族もうれしいはず

 ▼線香に火を付けて墓前にたたずむと、今の自分を先祖はどう見ているのだろう―と考えることがある。思い出話に花を咲かせつつ、亡き人の声も想像してみる。そんな時間を過ごせるのもお盆ならではだ。