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弁護士コラム

2022年03月10日
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法的手段をとる、という言葉は脅迫罪になる? 成立要件を詳しく解説

法的手段をとる、という言葉は脅迫罪になる? 成立要件を詳しく解説
法的手段をとる、という言葉は脅迫罪になる? 成立要件を詳しく解説

令和3年9月、インターネット上で動画配信などをしていた少女に対して、前年の8月や9月に「明日ナイフで何度もさしまくる」「明日、家にトラックで突っ込む」といった書き込みをした20代の男が脅迫の容疑で逮捕される事件がありました。

ネット上の悪質な書き込みは社会問題となっており、上述したような行為が脅迫などの犯罪として逮捕される例も多発しています。そして、「法的手段をとります」といった、表面上は正当な権利を行使する旨を伝えているだけの行為でも、脅迫罪が成立する場合があるのです。

本コラムでは、脅迫罪の成立要件や刑罰の内容、類似の犯罪との違いなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、脅迫罪とは

脅迫罪は、刑法第222条に規定されている犯罪です。
相手または相手の親族の生命、身体、自由、名誉、財産に対し害を加える旨を告知して(害悪の告知という)脅迫することで成立します。
以下では、脅迫罪の成立要件について、詳しく解説します。

  1. (1)生命、身体、自由、名誉、財産に向けられたものであること

    脅迫罪は「生命、身体、自由、名誉、財産」の5種類の利益に対して害悪を告知することで成立する犯罪です。逆にいうと、これら以外の利益について害悪の告知をしても、原則として脅迫罪は成立しないのです。
    それぞれの利益について「害悪を告知すること」の具体的な事例は、下記の通りになります。

    • 生命:「殺すぞ」「お前の妻の命はない」など
    • 身体:「ぶっとばす」「痛い目にあわせてやる」など
    • 自由:「ここに閉じ込めてやる」「お前の子どもをさらってやる」など
    • 名誉:「お前の隠していることをネットで公表してやる」「会社中に言いふらしてやる」など
    • 財産:「お前の車に火をつけてやる」「ペットを痛めつけてやる」など
  2. (2)害悪の告知があること

    原則として、「害悪の告知」がなければ脅迫罪は成立しません。

    害悪の告知があったかどうかは相手との関係性や年齢差、体格差、脅迫行為があった場所、時間帯などさまざまな状況をふまえ、客観的に判断されます。
    例えば、同じ文言であっても「仲のよい友人とふざけあっている最中に出た言葉」であるのか「トラブルを抱えている相手に対して、厳しい口調で言った言葉」であるのかによって、害悪の告知と見なされるかどうかが変わる場合があります。

    また、「実際に被害者が恐怖を感じたかどうか」は、脅迫罪の成否に影響しません

  3. (3)本人または親族を対象としていること

    脅迫罪の対象となるのは、脅迫する相手本人、またはその親族です。相手の友人や恋人、生徒などに対する害悪の告知をしても脅迫罪は成立しません。

    なお、法律上、ペット動物は「モノ」扱いであるため、本人の飼っているペットの身体や生命に対する害悪の告知は、「本人の財産に対する害悪の告知」となりますので、脅迫罪が成立します。

    また、自然人ではない法人は対象外ですが、法人に属する個人やその親族に向けられた害悪の告知であれば脅迫罪が成立する場合があります

  4. (4)脅迫罪の時効

    公訴時効とは、一定の期間が経過することにより検察官が起訴できなくなる制度のことです。脅迫罪の公訴時効は3年です。具体的には、脅迫行為があってから3年が経過すると刑事責任を追及されなくなります。

    時効は個々の行為に対してそれぞれ個別に起算されます。例えば、「8月に1回、9月にも1回、脅迫した」といったケースでは、各行為の時効成立日が異なる点に注意してください。

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2、脅迫罪の証拠|電話・メール・ネット投稿も対象?

「脅迫罪」と聞くと、対面で相手を脅す場面がイメージしやすいかもしれません。しかし、脅迫罪の成立要件では「脅迫を伝える方法」は問われないため、対面以外の方法で脅しても、脅迫罪は成立するのです。
電話やメール、文書などによる脅迫のほか、インターネット上で特定の個人やその親族を脅すような内容の投稿をした場合も該当します

脅迫行為は密室やプライベートなやり取りの中で行われるケースが典型的ですが、いくら外部から容易に確認できない方法だったとしても、証拠があれば刑事訴追される可能性があります。

脅迫罪の証拠としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 対面で脅迫した際の会話や電話の内容を録音した音声
  • 脅迫文書やメール、LINEなどのメッセージ履歴
  • SNSやブログ、ネット掲示板などの投稿、またはその投稿画面のスクリーンショット
  • 「脅迫しているところを見た」という第三者の目撃証言
  • 脅迫している様子を撮影した動画、防犯カメラの映像
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3、脅迫罪の刑罰

脅迫罪の刑罰は「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」です。
脅迫罪はいわば「人を脅して、恐がらせる犯罪」であって、身体や財産など目に見えるかたちでの被害を生じさせたわけではありません。そのため「軽い犯罪だ」と考える人もいるかもしれませんが、懲役刑もあり得る犯罪だと認識しておくべきです。

裁判ののちに実際に言い渡される量刑は、法定刑の範囲で裁判官が決定します。
脅迫罪の裁判は公開の法廷による正式裁判が開かれる場合と、書面のみで審理される略式裁判になる場合があります。
行為様態がそれほど悪質ではなく、かつ罪を認めて反省しているケースでは、略式裁判となり、罰金刑で済む可能性も高くなります。

なお、脅迫罪は「非親告罪」です。
非親告罪とは、被害者の刑事告訴がなくても検察官が起訴できる犯罪のことです。したがって、被害者が刑事告訴していない状況であっても、検察官に起訴されて、刑事裁判で有罪になるおそれがあるのです。
特にインターネット上で行う脅迫行為は第三者の目に触れやすく、被害者以外の人により警察に通報される可能性が高いことを認識しておいてください。

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4、脅迫罪における最高裁判例三つ

脅迫罪で有罪になった判例を三つ紹介します。

  1. (1)ビラの内容が脅迫にあたるとした事例

    【昭和32(あ)68 最高裁判所 昭和34年7月24日】
    佐賀県本部警察部隊長の官舎近くに備え付けられたごみ箱に「○○に告ぐ、三月貴様は勤労者、農民を仮装敵として演習を行ったが勝つ自信があるか、独立を欲する国民の敵となり身を滅ぼすより民族と己のために即時現職を退陣せよ」と記載したビラを貼り付けた行為について、脅迫罪が成立するとされた事例です。

    裁判所は、表現の自由は絶対無制限のものではなく公共の福祉に反する限度において制約を受けるものであり、脅迫罪における害悪の告知が明白に現在の危険を内包している必要もないとして、脅迫罪の成立を認めました。

  2. (2)対立する相手に出火見舞いのハガキを送った事例

    【昭和34(あ)1812 最高裁判所 昭和35年3月18日】
    対立する派閥の中心人物の自宅に「出火御見舞申上げます、火の元に御用心」といった趣旨の郵便ハガキを送った行為が、脅迫罪にあたるとされた事例です。

    弁護人は、「一般人がこのような内容のハガキを受け取っても、放火される危険があると畏怖の念を抱くことはない」としたうえで、「ハガキを送った事実があっても、脅迫罪は成立しない」と主張しました。

    しかし、裁判所は、二つの派の抗争が熾烈(しれつ)になっている時期に、現実に出火もないのに出火見舞いのハガキが送られてくれば、「火をつけられるのではないか」と畏怖するのが通常であるとして、脅迫罪の成立を認めたのです。

  3. (3)警察を介して害悪を告知した事例

    【昭和25(れ)981 最高裁判所 昭和26年7月24日】
    青年団が小学校で映画を上映するのをやめないため、警察署に対して「若い者30名程つれて小学校にフイルムを沒収に行く」旨を通知した行為が、警察を介した害悪の告知にあたり脅迫罪が成立するとされた事例です。

    裁判所は、被告人が上記の通知内容を警察から青年団に告知されることは十分認識しており故意があったこと、脅迫罪における害悪の告知は被害者に対して直接になす必要はなく、脅迫の意思をもって害悪を行うことを知らせる手段を施し、被害者が「害悪を被るかもしれない」と知れば足りることなどを理由にして、脅迫罪の成立を認めました。

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5、脅迫罪と「強要罪」「恐喝罪」の違い

脅迫罪とよく似た犯罪として、「強要罪」「恐喝罪」があります。
それぞれの罪と脅迫罪との違いについて、解説します。

  1. (1)強要罪と恐喝罪の成立要件

    強要罪は、本人または親族の生命、身体、自由、名誉、財産に害を加える旨の告知をして脅迫し、または暴行を用い、人に義務のないことをさせるか、権利の行使を妨害すると成立する犯罪です(刑法第223条)。

    恐喝罪は、相手の反抗を抑圧しない程度の脅迫や暴行を用いて恐喝し、財物を交付させ、あるいは財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた場合に成立します(同第249条)。

  2. (2)脅迫罪と強要罪・恐喝罪は何が違うのか?

    強要罪と恐喝罪のそれぞれの成立要件にも「脅迫」が含まれますが、脅迫罪は脅迫すること自体が犯罪であるのに対し、強要罪や恐喝罪の脅迫は目的を達成させるための手段にすぎません。

    それぞれの法定系は、下記の通りになります

    • 脅迫罪……2年以下の懲役または30万円以下の罰金
    • 強要罪……3年以下の懲役
    • 恐喝罪……10年以下の懲役


    強要罪や恐喝罪は、脅迫罪よりも懲役の上限が長いうえに罰金刑の規定がないため、有罪になれば。執行猶予がつかない限りは刑務所に収監されます。

    さらに、脅迫罪は脅迫した時点で成立し、未遂罪がないのに対し、強要罪と恐喝罪には未遂罪があります。
    脅迫したものの相手が義務のないことをしなければ強要未遂罪、相手が財産を差し出さなかった場合は恐喝未遂罪となるのです(刑法第223条3項、同第250条)。

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6、「法的手段をとる!」は脅迫にあたるのか?

相手がした違法な行為や不当な行為に対して、法的手段で解決を図ることは、「正当な権利の行使」とされます。

例えば相手から誹謗(ひぼう)中傷を受けた、お金を貸したのに期日までに返済してもらえないといったケースでは、法的手段を検討することは当然の行為と考えられます。
そのため「法的手段をとる」や「法的措置を検討する」などと伝えただけで、脅迫罪が成立することはありません。
また、法的手段を検討しておりその旨を告知したものの、諸事情から結果的には法的手段に出なかった場合も、正当な権利の行使を告知しただけなので脅迫罪にはあたらないのです。

しかし、真実の追究が目的ではなく、実際に権利を行使するつもりもないのに、相手を怖がらせる目的で「法的手段をとる」といった発言をした場合には、脅迫罪が成立する可能性があるのです

「法的手段をとる」という発言以外にも、「警察に通報する」「裁判を提起する」「告訴する」「不正を告発する」などの発言や行動も、同様に、脅迫罪が成立する可能性があります。
また、相手の行為に違法性や不当性がないことが明らかなのに、因縁をつけて「法的手段をとる」と述べた場合も、適法な行為とはいえません。したがって、単なる脅しの言葉と捉えられて脅迫罪が成立するおそれがあります。

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7、脅迫罪の捜査が開始されるケース

脅迫罪の捜査が開始されるケースとしては、まずは警察が事件を現認した場合が考えられます。

具体的には、路上でトラブルの相手に「ぶっ殺すぞ」などと叫んでいたため目撃者に通報された、脅迫の現場にたまたま警察官が居合わせたといった場合です。
また、ネット上の書き込みで執拗(しつよう)に脅迫を繰り返している場合などは、警察のサイバーパトロールによって発覚して、捜査が開始される可能性もあります。脅迫罪は非親告罪であるため、被害者が何らかのアクションを起こさなくても、捜査が開始される危険は存在するのです。

ただし、脅迫罪は秘密裏に行われやすい犯罪です。非親告罪とはいえ、被害者のアクションがなければそもそも犯罪事実が発覚せず、捜査が開始されないケースが多いともいえます。具体的には、被害者やその家族からの通報、被害届の提出によって警察が事件を認知してから、捜査が開始されることが多いです。被害者が刑事告訴して受理された場合も、警察には捜査義務が発生するため、必ず捜査が開始されることになります。

脅迫罪による捜査が開始されると、警察から任意の取り調べを受けることになるでしょう。
いきなり逮捕される危険はそれほど高くありませんが、執拗な殺人予告のように悪質性が高いケースであれば、逮捕されるおそれもあります。

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8、脅迫してしまった場合にとるべき対応

脅迫罪は被害者がいる犯罪であるため、被害者に対して真摯(しんし)な謝罪を行い、許してもらうことが重要です。
被害者に謝罪と賠償を尽くして示談が成立すれば、検察官が不起訴処分とする可能性が高まります
不起訴処分になれば刑罰を受けることがなく、前科がついてしまう事態も避けられます。万が一起訴された場合も裁判官が有利な事情として扱われ、執行猶予がつく可能性もあるのです。
また、事件が発覚する前であれば、被害届の提出や刑事告訴をしない旨の内容を含めて示談を締結することで、警察による捜査や逮捕を回避できる可能性があります。

しかし、脅迫罪の被害者は脅迫をした相手に恐怖心や処罰感情を抱いているケースが多いため、加害者が示談交渉を直接に打診しても、拒否される可能性は高いです。むやみに被害者と接触すれば、さらなる脅迫行為があったと被害者に思われてしまい、事態がよくない方向へ進むおそれもあります。したがって、示談交渉は弁護士に一任することをおすすめします。
公平中立な第三者の立場である弁護士からの働きかけであれば、被害者の恐怖心や警戒心がやわらぎ、示談に応じてもらいやすくなるでしょう

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9、まとめ

脅迫罪は相手やその親族に対する害悪の告知をすることで成立します。
相手による違法な行為や不当な行為への対抗策として法的手段を検討しているのなら、その旨を告知しても脅迫罪にはあたりません。
しかし、単に相手を怖がらせる意図で告知した場合は脅迫罪にあたる可能性があるのです。

「自分のした行為が脅迫罪にあたるか知りたい」「脅迫行為をしてしまったので問題解決を図りたい」といったお悩みをお持ちであれば、まずは、弁護士にまでご相談ください。
ベリーベスト法律事務所では刑事事件専門チームを構成しており、脅迫事件の解決実績も豊富です。まずは、お気軽にご相談ください。

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監修者
萩原 達也
弁護士会:
第一東京弁護士会
登録番号:
29985

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※本コラムは公開日当時の内容です。
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