Jordan の閉曲線定理の証明

平面内に「まる」を描くと、平面は「まる」の内側と外側という二つの領域に分かれるというのは経験的に誰もが知っていることです。これを厳密な数学の定理にしたものが Jordan の閉曲線定理です。Jordan の閉曲線定理は、平面 \mathbb{R}^2 の部分集合 J が円周と同相であるならば、補集合 \mathbb{R}^2\setminus J はちょうど二個の連結成分をもち、そのどちらの境界も J に一致する、ということを主張します。この定理の証明は、「直観的には明らかであるが、厳密な証明は難しい」と言われることが多く、数学の専門家でも証明を読んだことがないという人が少なくないようです。

今回の PDF ファイルでは、Maehara の論文 “The Jordan curve theorem via the Brouwer fixed point theorem” に基づいて、Jordan の閉曲線定理の比較的分かりやすい(と思われる)証明を紹介します。論文のタイトルからわかるように、この証明には Brouwer の不動点定理(の 2 次元の場合)を使います。位相空間論のほかの予備知識が必要ないように、Brouwer の不動点定理についても証明を与えています。Brouwer の不動点定理をすでに知っている人は、その証明を飛ばして途中の §3 から読むことができます。

Jordan の閉曲線定理の証明~位相空間論だけを予備知識として~

連分数展開による無理数空間と自然数列の空間の同相性の証明

無理数全体の空間 \mathbb{R}\setminus\mathbb{Q} と、可算離散空間の可算積 \mathbb{N}^\mathbb{N} は、0と1の間にある無理数が一意的な連分数展開をもつという事実に基づいて証明することができます。このことは、以前に公開した 位相空間論における反例と線形順序 の PDF の 8~9 ページでもふれましたが、そこでは「写像の構成をよく見て示すことができる」として、詳細は述べませんでした。今回の PDF では詳細な証明を述べたいと思います。読むにあたって連分数についての予備知識は必要ありません。

PDF「連分数展開による無理数空間と自然数列の空間の同相性の証明」

4次元空間で結び目をほどく

数学的な意味での結び目とは、円周 S^1 の 3 次元 Euclid 空間 \mathbb{R}^3 への埋め込みのことです。二つの結び目は、「\mathbb{R}^3 の中で連続的に動かすことで移り合う」とき、同じ結び目であるとみなされます(このことは「アイソトピー」という概念により正確に定義されます)。3 次元空間の中で 1 次元の円周を動かすことには大きな制約が伴い、その結果、多種多様な結び目が存在します。

ここで、3 次元空間内に収まっていた結び目 f\colon S^1\to\mathbb{R}^3 を、より広い 4 次元空間の中で動かせると考えてみます。これは数学的には、写像 \iota\colon \mathbb{R}^3\to\mathbb{R}^4\iota(x,y,z)=(x,y,z,0) で定義したとして、f の代わりに \iota\circ f\colon S^1\to\mathbb{R}^4 を考えることに相当します。すると、移動の自由度が増すため、元々互いに移り合うことのなかった結び目同士が互いに移り合うことができます。実際、結び目が紐でできていると思えば、第 4 の座標軸を使って紐どうしが互いにすり抜けるかのような動きが可能となり、3 次元空間内のどんな二つの結び目も、4 次元空間内で動かすことによって移り合うことができます。

いま太字で述べたことは、いかにも絵での説明との相性がよく、厳密な証明になじまないようにも思えます。しかし実際には、今回の PDF で説明するように、絵の助けも必要とせず、きちんと定式化した上で位相空間論の範囲に収まる手法で証明できます。ここで主に必要となる事柄は、実数値関数に対する Tietze の拡張定理(今回の PDF の定理2.7)と、アイソトピーの一点コンパクト化への拡張(同命題2.3)です。後者は一見明らかなようで証明にかなり手数を要することが筆者にとって意外でした。

PDF「4次元空間で結び目をほどく」

Hilbert立方体の等質性

Hilbert 立方体とは、単位閉区間 I=[0,1] を可算無限個直積して得られる直積空間 I^\mathbb{N} のことです。これは「無限次元の立方体」というべきものですが、有限次元の立方体 I^n にはない性質があります。

位相空間 X が等質であるとは、任意の x, y\in X に対して同相写像 h\colon X\to Xh(x)=y となるものが存在することをいいます。有限次元の立方体 I^n は等質ではありません。実際、立方体の内部 (0,1)^n の点を境界 \partial I^n=I^n\setminus (0,1)^n の点にうつすような同相写像 I^n\to I^n は存在しません(これは、n=1, 2, 3 の場合を考えれば図形的にもっともらしいですが、ホモロジー論から証明できます)。

これに対して、Hilbert 立方体 I^\mathbb{N} は等質です。一見、Hilbert 立方体にも「内部」(0,1)^\mathbb{N} と「境界」I^\mathbb{N}\setminus (0,1)^\mathbb{N} があるように見えてしまいますが、そう定義したとしても「内部」の点を「境界」の点にうつす同相写像 I^\mathbb{N}\to I^\mathbb{N} が存在してしまいます。

今回の PDF では、Hilbert 立方体が等質であることの証明を目標とします。そのためには、上のような同相写像の存在を示すことが必要になりますが、それに用いられる手法が最大の見どころです。

PDF「Hilbert 立方体の等質性」

射影空間のHausdorff性

実射影空間 \mathbb{R}P^n や複素射影空間 \mathbb{C}P^n が可微分多様体であることを示すためには、それらが Hausdorff 空間であることを示さなければなりません。しかし、この証明には意外に手こずるものです。ここでは、商空間が Hausdorff となる十分条件についてのちょっとした一般論を準備することによって、具体的な考察を最小限にとどめて射影空間の Hausdorff 性を証明することを試みます。

今回の PDF ファイルは、位相についての必要事項をいままでよりも詳しく説明したつもりです。予備知識のある読者の方は、最後の節から読み始めてもよいかもしれません。

PDF「射影空間の Hausdorff 性」

2次元多様体を三角形分割する

今回は、前に公開した PLトポロジーの基礎 のPDFファイルで示された結果を利用して、任意の(境界をもってもよい)2 次元位相多様体が三角形分割をもつことを証明します。可能な限り、証明中に不明瞭な点がないように注意したつもりですが、ご意見があればお願いします。

PDF「2 次元多様体を三角形分割する」

単位閉区間と円周の位相的特徴づけ

単位閉区間と円周については、次のような特徴づけが知られています。

定理A. X を 2 点以上の点からなるコンパクト・連結・距離化可能な空間とする。このとき、X が単位閉区間 [0,1] と同相であるためには、X\setminus\{p\} が連結であるような点 p\in X の個数が 2 個以下であることが必要十分である。

定理B. Xを 2 点以上の点からなるコンパクト・連結・距離化可能な空間とする。このとき、X が円周 S^1=\{(x,y)\,|\,x^2+y^2=1\} と同相であるためには、任意の異なる p, q\in X に対して X\setminus\{p, q\} が連結でないことが必要十分である。

これらの定理は、1916 年から 1920 年にかけて証明されたもので、前に扱ったカントール集合と有理数空間の特徴づけ(カントール集合については 1910 年、有理数空間については 1920 年)とともに、点集合論トポロジーの黎明期の結果に挙げることができます。これらは次元論が本格的にはじまる直前の時代の結果ということになるようです。

今回は上の定理 A, B の証明について紹介します。

PDF「単位閉区間と円周の位相的特徴づけ」

全射な曲線と単射な曲線

正方形を埋めつくすことで知られる Peano 曲線は、単位閉区間 I=[0,1] から正方形 I^2 への全射な連続写像です。このような曲線の発見は、次元論PDFでもふれた通り、次元の概念をゆるがす一つの出来事でした。今回のPDFでは、単位閉区間の連続像として表される (Hausdorff) 空間のクラスを特徴づける次の古典的な定理を紹介します。

定理A (Hahn-Mazurkiewicz の定理). Hausdorff 空間 X に対して、全射な連続写像 f\colon [0,1]\to X が存在するためには、 X が局所連結かつ連結でコンパクトな距離化可能空間であることが必要十分である。

この定理により、n 次元立方体 I^n や無限次元の Hilbert 立方体 I^\omega などが単位閉区間の連続像であることがすぐにわかります。その一方で、上の定理は、そのような連続像として表される空間には、連結性・コンパクト性のほかに「局所連結性」という制約があることを示しています。たとえば、下は「ワルシャワの円」という名で知られる局所連結でない空間ですが、これは決して単位閉区間の連続像で表すことができません。

上の定理Aは、空間に全射な曲線をつくる定理でした。今回紹介するもう一つの定理Bは、空間に単射な曲線をつくる定理です。

定理B. 弧状連結な Hausdorff 空間 X の任意の異なる二点 a,b\in X に対して、ある単射な連続写像 f\colon [0,1]\to Xf(0)=a,\, f(1)=b となるものが存在する。

この定理は、定理Aの証明と共通のテクニックを使って示すことができます。

最後の「余談」では、定理Aの証明に用いた局所連結性についての知識の簡単な応用として、ワルシャワの円のすべてのホモトピー群が自明であることなどを示します。

PDF「全射な曲線と単射な曲線」

カントール集合と有理数空間の位相的特徴づけ

今回は、次の二つの定理を証明します。

定理 A. (Brouwer) 完全不連結で孤立点をもたず空でないコンパクト距離空間は、カントール集合と同相である。

定理 B. (Sierpiński) 可算無限個の点からなり孤立点をもたない距離空間は、有理数全体の空間 \mathbb{Q} と同相である。

具体的な位相空間を、いくつかの簡単な位相的性質の組み合わせによって特徴づける定理には比較的簡単なものから、非常に難しいものまであります。「コンパクトで境界のない単連結な 3 次元多様体は 3 次元球面と同相である」というポアンカレ予想も、そのような定理の一種であるといえます。ここでは、最も簡単な部類に入ると思われる二つの古典的な特徴づけ定理を取り上げました。

PDF「カントール集合と有理数空間の特徴づけ」

一点コンパクト化上の距離

距離空間 (X,d) が局所コンパクトであるときには、一点コンパクト化 X^+=X\cup\{\infty\} が存在します。さらに X が可分である場合は、一点コンパクト化は距離化可能となりますが、X 上のもともとの距離 d からきまる自然な(位相に合致した)距離をもつわけではありません。それでも d とある程度よい関係にある距離を X^+ 上に構成できると好都合なことがあります。一点コンパクト化は元の空間を「縮めて」から無限遠点 \infty を付加する操作であると考えると、X 上で不等式 d^+\leq d を満たすような X^+ 上の距離 d^+ が存在すると期待できます。この辺について PDF に書いてみました。

PDF「一点コンパクト化上の距離について」