山上徹也容疑者の全ツイートを計量分析して見えた、その孤独な政治的世界

伊藤 昌亮 プロフィール

結果を概観しておこう。まず表2は、語の「出現度」を示している。テーマに該当する頻出語のうち、10回以上出現するものを挙げてある。意外に思われるかもしれないが、「安倍」「統一教会」などの語よりも上位に、「憲法」「女」「差別」などの語が来ていることがわかる。

次に図1は、まず各テーマの出現率、つまり「言及度」を示している。また、各テーマと2つの感情との共起の確率、つまりあるテーマに関わる語とある感情に関わる語とが同じツイートの中に出現する確率から、各テーマが否定的な感情とどれだけ強く結び付いているか、いわばその「憎悪度」「嘲笑度」を示している(ジャッカード係数と呼ばれる値で、0が最も弱く、1が最も強い)。

ここからは、どのテーマがどれだけ多く語られているか、また、どれだけ否定的に語られているかがわかるだろう。たとえば言及度が非常に高いのは、[韓国・北朝鮮][ジェンダー]などだ。一方で[統一教会][家族]などは、言及度は低いが、憎悪度は非常に高い。また、嘲笑度が最も高いのは[左派・リベラル]だ。

 

さらに表3は、テーマ間の共起の確率、つまりあるテーマに関わる語と別のテーマに関わる語とが同じツイートの中に出現する確率から、2つのテーマがどれだけ一緒に語られているか、つまりその「関連度」を示している(やはりジャッカード係数で、0が最も弱く、1が最も強い)。関連度が高いところは、0.1以上ならオレンジで、0.05以上0.1未満なら黄色でマークしてある。

ここからは、それぞれのテーマがどんな話題とともに、どんな文脈で語られているかがわかるだろう。たとえば[ジェンダー]は[格差社会]との関連で、[統一教会]は[韓国・北朝鮮][家族][安倍]との関連で語られることが多い。一方で[安倍]はさまざまな文脈で、[皇室]はほぼ独立して語られている。

ネトウヨにならざるをえなかったネトウヨ

ではこれらのデータをもとに、山上容疑者の政治的傾向を探っていこう。言及度が高いテーマから順次見ていこう。

まず最も高いのは[韓国・北朝鮮]だ。このテーマは[中国][アメリカ]との関連度が高いことから、米中関係を軸とする外交問題という枠組みの中で語られていることがまずわかる。かつて海上自衛隊に勤務していたというその経歴からも窺えるように、彼は外交・防衛問題への関心が強く、そうした見地からの言及が多い。

一方でこのテーマは、[差別・ヘイト][統一教会]との関連度も高い。また、このテーマに関わる語で「韓国」などの一般的な語に次いで出現度が高いのは、「慰安婦」「朝鮮学校」「在日」「植民地」「徴用工」などだ。さらに一種の差別語である「朝鮮進駐軍」なども使われている。これらの語を多用しながら彼は、自らの私的な事情を踏まえた議論を展開している。

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