山上徹也容疑者の全ツイートを計量分析して見えた、その孤独な政治的世界

安倍晋三元首相が銃撃されてからおよそ1ヵ月が経った。容疑者・山上徹也の犯行動機や彼が抱えていた屈折については、供述内容などから断片的に伝わってきてはいるが、まとまった像はなかなか見えてこない。

以下では、成蹊大学の伊藤昌亮教授が、山上容疑者のものとされるツイートを定性的・定量的な手法で分析、容疑者が持っていた独特の政治的傾向を探った(文中敬称略)。

〔PHOTO〕iStock
 

調査の概略

本論では、安倍晋三元首相銃撃事件を起こした山上徹也容疑者のものとされるツイートの分析から、その政治的傾向を探ってみたい。彼はどんな立場から何を見、何に憤り、自らが生きる政治的世界をどう捉えていたのだろうか。

まず調査の概略を記しておこう。対象としたのは、Togetterにアーカイブされている彼自身のすべてのツイート、1147件だ。リツイートは含まず、引用リツイートについては当人のコメント部分だけを含むものとした。

それらを対象に、「テキストマイニング」と呼ばれる量的方法に、「グラウンデッドセオリーアプローチ(GTA)」と呼ばれる質的方法を組み合わせ、「内容分析」を行った。両者を併用することで、複雑な意味を解釈しながら、その構成を定量的に測定することが可能となる。

まずGTAの手順で各ツイートにラベルを付けながら、彼が何を問題にしているのかという観点から、「テーマ」を表す14のカテゴリを抽出した([統一教会][家族][安倍][自民党][左派・リベラル][憲法・安保][アメリカ][中国][韓国・北朝鮮][格差社会][ジェンダー][差別・ヘイト][コロナ][皇室])。また、とくに否定的な感情に注目し、「感情」を表す2つのカテゴリを抽出した([憎悪][嘲笑])。

次に、テキストマイニングツールのKHcoderを用い、ツイートの中でよく使われている語を抽出した。そのうえで、3回以上出現するすべての語を対象に、上記のカテゴリから設定した「コード」に、関連する語を割り振っていった。

つまりわかりやすく言えば、ツイートの中でよく使われている語を14の「テーマ」と2つの「感情」に分類し、どの「テーマ」がどれだけ多く語られているか、また、どんな「感情」とともに語られているか、さらにほかのどの「テーマ」と一緒に語られているか、などを分析できるようにしたということだ。

表1は、各コードに登録した語(コーディングルール)を示している(語の順番は出現数の順)。なお、これらのテーマに該当するツイートは全体の66%に当たる。彼の主要な関心がそこに示されていると考えてよいだろう。

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