資格。国家資格。
代表的な日本の国家資格といえば
「司法試験」「公認会計士」「税理士」「弁理士」「医師」などが挙げられるだろう。
そのどれもが超難関であり、合格率は極めて低く、気が遠くなる程の勉強・努力を重ねていき、高い倍率の壁を突破して、初めて得られるもの。国家資格。
そんな超難関とされる日本の国家資格に、「すみっコぐらし検定」がある事をご存知だろうか?
私は今日、2018年12月2日に「すみっコぐらし検定」を都内某所で受験してきた。
これは、受験に至った経緯、受験までのStory、試験当日までを記した私の"documentary"である。
2018年10月6日、私は「すみっコぐらし検定・中級」の受験申し込みをした。
この最難関国家資格「すみっコぐらし検定」を受験する事を親に打ち明けるべきか悩んだが、
今まで育ててくれた親に隠し通す勇気も意志もなかった私は、親の前で正座して打ち明けた。
打ち明けた瞬間、母は泣き崩れ、父は私を平手打ちし、「親不孝者」と罵った。
それもそうだ。この資格に挑んだ者は皆、廃人になるか、失踪するか、の2択なのだから。
しかし私は覚悟を決めていた。「俺は、俺の限界を知りたい。」と。
「俺は生まれてから、何も成し遂げてこなかった。成し得てこなかった。俺は俺を知りたい。生まれてきた"意味"を。俺の、存在意義を。今が、その時なのだろう。」
私は天と地を指差しながらそう話した。
私の覚悟を受け取った親は涙を流しながら認めてくれた。その日から私は変わっていく。
それではここで、最難関国家資格「すみっコぐらし検定」の概要を説明していこうと思う。
2018年12月2日に東京と大阪で開かれたラグナロク。
初級と中級の2つがあり、検定料金は4500万円/5400万円だ。
2つを併願すると8800万円となる。お得。
問題形式は初級・中級ともにマークシート形式(4択)と一部記述。
20000字の論述問題も出題される噂もあった。
出題範囲は「すみっコぐらし検定公式ガイドブック すみっコぐらし大図鑑」という、『日本すみっコぐらし協会』全面協力の元で作られた全500ページに渡る学術書から主に出される。
初級はこの学術書を抑えていれば命だけは助けてもらえるが、中級となるとそうはいかない。
六法全書の全文暗記は必須条件となる。今までの「すみっコぐらし」の全コンテンツを網羅するのはもちろん、公式サイトに仕込まれているソースコードも把握しておく必要もある。
最難関国家資格「すみっコぐらし検定」の初級に合格すると「すみっコマニア」の称号と合格認定証が与えられる。
まあこれさえあれば日本銀行の重役レベルに一瞬でなれるだろう。
中級に合格すると「すみっコ先生」の称号と合格認定証が与えられる。ゴールドマン・○ックスの幹部から頭を下げられるようになり、ガワール油田が与えられるレベルだ。
以上が最難関国家資格「すみっコぐらし検定」の概要である。詳しくは上記リンクの公式サイトを見て欲しい。それが真実なので。
私は早速、学術書や参考書を掻き集めた。
基礎を疎かにした奴から淘汰されていくこの世界。
私はとりあえず335周ずつ読み込んでいくことにした。
1日の中で勉強に割いた時間は22時間。
栄養は点滴から補給し、座席を改造してトイレ機能を付けた。
記憶の定着に睡眠は欠かせない。
なので残りの2時間は睡眠に充てて、夢の中で1日の復習をする日々を重ねていった。
「1日22時間?ハハッ、足りないよそんなんじゃ。」
そう笑ったのは、かつて「すみっコぐらし検定中級」に挑もうとし、全てを失いかけたある男だった。
彼は『日本すみっコぐらし協会』の関係者であり、日本国の富の1%を保有する者。
11月2日。私はエントリーから約1ヶ月したある日、この男にメールで呼び出されて都内のカフェにやって来た。
何かを教えてくれる事を期待して、自分の現状の施策を打ち明けたらこう返された。
「君は『協会』が示した本やコンテンツを頭に叩き込んでいるだけだろう?それは私もやったさ。そして敗れた。君が"1日が24時間の世界"で生きている限り、中級には勝てないよ。」
1日が24時間の世界…。
「試験当日まで丁度あと1ヶ月。1日22時間のペースで勉強しても到底間に合わないよ。君はそもそもエントリーが遅すぎた。他の受験生と比べて圧倒的に勉強時間が足りないよ。」
他の受験生は1年以上前から勉強を始めていたり、中には前世から対策を初めていた者もいたらしい。
つまり私のような新参者が数ヶ月で足掻いたところで、結果は見えているのだ。
「君が本気で中級に合格したいのなら、私が修行に付き合ってやろう。生半可な覚悟で望むと死ぬが、どうする?」
私は頷き、彼と共に山奥へ向かった。
そこから"過酷"という言葉の意味を全身で痛感する修行が始まった。
人間が耐えられる痛覚をはるかに超える痛みに千度気絶し、
目の前で親族を皆殺しにされる絶望をはるかに超える絶望に打ち拉がれ、
自我を保つことを諦めたのは修行初日だった。
そんな過酷な修行を経て、現実時間で1ヶ月が経った。
12月2日。試験当日の朝。
私は俗世に帰ってきた。決戦の時だ。
感情は生まれ変わり、元々人間にある「五感」を「三三五感」にまで増やした。
現実時間では1日=24時間だったが、私が修行で実際に生きた時間は1日=335日だった。
右手の指を揃えて軽く振っただけで空間を335m切断し、
軽く息を吸っただけで周囲335mの酸素を全て吸い尽くし、
眼を細めるだけで現実時間の335時間後の世界を視ることが出来た。
(すみっコなので335)。
修行に付き合ってくれた彼は「もう何も教えることはない」と言い残し、闇の中へ消えた。
品川駅から会場へ向かう道中も、"覚悟"を決めて会場へ向かう者と一般人の違いは一目で分かるほどだった。
この検定を受ける上で最も大切なのは、すみっコぐらしの知識をいかに沢山覚えるかではない。
恐怖を克服することだ。人間が人間として生きていく上で必ず芽生えるもの、恐怖。
恐怖を克服した者は、死を恐れない。人間が死を恐れる理由は、死は未知だからだ。
人間は未知を恐れる。生物は未知を恐れる。
生物の理から外れた者だけが、この会場に足を踏み入れる資格を得られるのだろう。
私は試験会場に着いた。
その会場に入った瞬間、私は目を細めても未来が見えなくなり、驚異的な身体能力も知覚できなくなった。それもそうだ。ここでは"それ"が当たり前だから。
例えば、大学受験における偏差値。偏差値70を持つ者、偏差値30を持つ者。
いざその偏差値に当たる大学に足を踏み込んだ瞬間、皆等しく偏差値50となる。
この試験会場において、受験者は皆、人間になった。
教室に持ち込んで良いのは
受験票
筆記用具
時刻を確認する機能だけの腕時計
手のりぬいぐるみ
だけである。
手のりぬいぐるみの定義を「片手に持てる大きさ」にした私はこれを持ち込んだ(持ち込んでない)。