―昨年6月、矢崎グループを再編し、ガス機器・電線・環境システム、計装の4事業を統合し、「矢崎エナジーシステム」を発足させました。手応えは。
半年間、あいさつのためお客さまを回って、いろいろお話をうかがい、新会社になって良かった、進むべき方向が間違っていなかったと確信しました。
当時を振り返ってみると、矢崎グループの事業の大部分は、私も携わっていたことがある自動車関連であり、そのOEMのやり方がグループ全体でも正しいやり方と思われるようになっていました。しかし、今回、新会社になった事業は、矢崎ブランドで直接お客さまに販売する仕事であり、自分たちが前に出ていく必要があります。本来、部分最適であるはずのOEMの流儀が全体最適ではなく、新会社では、前に出てブランド力を高めることが全体最適につながります。
―具体的にどんなことをやっていますか。
「脱コモディティ化」「YAZAKIへの原点回帰」という2つのスローガンを掲げました。前者は価格以外の差別化です。お客さまのところに行って、ニーズを探す「聴く力」が大切になります。以前から、開発部門は規模も大きく充実していましたが、今後は、どんな商品を創るのかを探る企画部門を充実させたいと考えています。
後者は、矢崎の強みを徹底的に生かすことです。矢崎の強みは、全国の都市ガスやLPガスを供給されているガス事業者さまからの信頼です。技術は買えても、信頼は買えません。
―重点政策、特に4事業のシナジー発揮の施策をどう進めますか。
商品力の向上、健全な職場環境、営業力強化、効率化の追求、海外展開の5つの施策を進めていますが、その中で、商品力の向上を最優先させています。お客さまに「新会社になって良かった」と言われるためには、シナジーによってお客さまに喜んでいただける商品を提供するのが一番です。
これまで、4事業は、それぞれ開発、工場(生産)、営業という縦軸で完結していましたが、これからは、開発、工場、営業の部門ごとに横軸を通していきます。現在、横軸ごとに会議体を作り、議論を始めたところです。
例えば開発部門だと、電線は電気や押し出し技術に強い、ガスはセンサーに強い、空調は熱に強い。もちろん、自分たちの技術を中心に考えるプロダクトアウトではなく、お客さまの要望を解決するマーケットインを基本に、まず、お互いを知ることから始めています。
工場部門だと、事業ごとに異なる繁忙期を、人の融通で補うこともできます。営業は、売掛・買掛業務の共通化・標準化を進めます。これらの効率化は、付加価値を生む営業部門の強化や、きちんと休日を取れる健全な職場環境につながると考えています。
それから、自動車産業の一員である矢崎は、長年、TPS(トヨタ生産方式)を学んできました。これをガス機器などに応用していくことも、シナジーの1つです。当社では、TPSを応用したNYS(ニュー・ヤザキ・システム)を、営業まで含めて、積極的に進めていきたいと考えています。
一般的に、品質、在庫、リードタイムが指標になりますが、ガス業界では、在庫があることが、震災等を考えるとプラスになることもあります。「在庫管理」のほかに「欠品管理」という指標を設けるなど、その分野に応じて進めていきます。
―矢崎エナジーシステムの総合力を生かした提案活動として、どんなことを進めていますか。
まず、デジタルタコグラフや車両管理システムを持つ計装事業とガス機器事業のシナジーによる提案をしていきます。LPガス事業者さまは容器配送をされている物流事業者でもあり、都市ガス事業者さまもたくさんの車両を持っています。タコグラフやドライブレコーダーの活用で、燃料削減、安全管理、事故防止、効率化ができます。
また、環境システム事業の太陽熱と、ガス給湯器など他のエネルギー機器との組み合わせも考えています。
―3・11以降、日本のエネルギー政策は原子力主体の電力政策から、抜本的な見直しが進められています。スマートエネルギー社会への移行も叫ばれています。どのように取り組みますか。
スマートエネルギーが、HEMSとかスマートグリッドとか電気中心に語られすぎる風潮があります。当社は、電力(電線事業)、都市ガス、LPガス、再生可能エネルギーなど多様なエネルギー源に関わっており、これらをつなげ、エネルギー利用全体をスマート化していくのが矢崎の仕事だと考えています。
熱と電気の両方をアウトプットできるガスは可能性が広がるエネルギーです。再生可能エネルギーでも、太陽光だけではなく太陽熱も重要です。太陽熱とガス給湯器を組み合わせたバルコニー設置型「SOLAMO」のパネルは当社が協力させていただいています。
超音波メーターで集めたデジタルデータの活用、ガス警報器・COセンサーなどの保安機器、廃熱利用の空調機器なども手がけています。
今後も、都市ガス事業者さまやLPガス事業者さまと、しっかりコミュニケーションを取っていきたいと思います。
(聞き手・今井 伸)
◇矢崎エナジーシステム
1929年(昭和4)、創業者矢崎貞美氏が自動車用電線(ワイヤーハーネス)販売を開始、41年「矢崎電線工業」設立、63年「矢崎総業」に社名変更。この間、自動車用メーター、コネクタ、計装機器、空調機器、太陽熱利用機器、ガス機器などに多角化。12年6月に電線・ガス機器など4事業を統合し「矢崎エナジーシステム」設立。
◇やざき・こう
1971年生まれ。94年慶應義塾大学法学部を卒業し、矢崎総業入社。アメリカ矢崎、沼津製作所、矢崎ヨーロッパなどの勤務を経て、07年取締役物流室長。09年取締役電線本部長。12年6月矢崎エナジーシステム社長に就任。