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すばらしき映画人 東映前会長岡田裕介と吉永小百合


第8回
映画は死なず 実録的東映残俠伝

─五代目社長 多田憲之が見た東映半世紀─

文=多田 憲之(東映株式会社 代表取締役会長)

ただ のりゆき
1949年北海道生まれ。72年中央大学法学部卒業、同年4月東映株式会社入社、北海道支社に赴任。97年北海道支社長就任。28年間の北海道勤務を経て、2000年に岡田裕介氏に乞われて東京勤務、映画宣伝部長として着任。14年には5代目として代表取締役社長に就任し20年の退任と同時に取締役相談役就任。21年6月、現職の代表取締役会長に就く。

企画協力&写真・画像提供:東映株式会社


 岡田裕介が亡くなったのは、2020年11月18日。その日の夕方まで、いつものように仕事をしていたから、訃報はキツネにつままれたような話だった。早いもので、今年は三回忌だなと思っていると、岡田裕介との数々の仕事がよみがえってきた。

岡田裕介氏

 初めて面と向き合ったのは、1984年、彼のプロデュース作品、吉永小百合主演の映画『天国の駅 HEAVEN STATION』の宣伝のために、吉永小百合と一緒に、キャンペーンに来札したときだった。今だと大名行列になるだろうが、その当時は会社の幹部クラスは、キャンペーンなどにつき合うことがなく、岡田と吉永小百合と2人だけでやってきた。岡田裕介は当時、フリーのプロデューサーだった。私としては、吉永小百合に会えるというので、ただ嬉しかった。吉永小百合の美しさにポーッとなっていた。サッポロビール園で一緒にジンギスカンを食べたのは、忘れられない思い出だ。

 東映と岡田裕介との関わりは彼がプロデュースした高倉健主演で、吉永小百合が初めて東映映画に出演した(79年のアニメーション映画『龍の子太郎』で声の出演はしている)80年の『動乱』が最初だった。だが実は75年に、岡田が喜八プロダクションのプロデューサーとして初めて制作し、俳優としても出演していた『吶喊』(岡本喜八監督)で北海道支社とは、すでに関わりがあった。配給は、日本アート・シアター・ギルド(ATG)だったが、北海道では、その頃、ATGの作品の専門館もなく、どこにも売れないような状況だった。当時、配給で言えば、東映は圧倒的に力を持っていて、北海道での上映に関しては、ATGに依頼される形で北海道支社が、その他のATG作品も含めてブッキングの手助けをしたという縁があった。私が実際のキャンペーンの手伝いをしたのは『動乱』が最初だった。吉永小百合が東映の映画に出るというだけで、社内でも大歓声があがっていた。観衆の期待度も高かったが、東映でも絶対当てるという意気込みにはすごいものがあった。この作品をきっかけに、吉永小百合は多くの東映作品に出演することになる。

 プロデューサー岡田裕介と頻繁に仕事をするようになった頃、私は営業課長と宣伝課長を兼任するようになっていて、キャンペーンなどで、しょっちゅう会っていた。86年の『玄海つれづれ節』の頃は、まだ宣伝課長ではないが、88年の『華の乱』(深作欣二監督)の頃から宣伝課長として親しく接するようになっていった。『華の乱』は、88年に岡田が東映に入社する直前、フリーのプロデューサーとして手がけた最後の作品だった。

華の乱
与謝野晶子の視点から、大正時代に社会運動、芸術運動、そして愛に命を燃やした男と女の群像を描いた1988年公開の深作欣二監督『華の乱』。主役の与謝野晶子を吉永小百合が演じた他、晶子の師であり、夫となる与謝野寛に緒形拳、晶子が惹かれていく白樺派の作家有島武郎に松田優作、女優松井須磨子に松坂慶子、近代演劇の第一人者島村抱月に蟹江敬三、アナーキスト大杉栄に風間杜夫、女性社会運動家の伊藤野枝に石田えり、婦人公論記者の波多野秋子に池上季実子、晶子の親友であり恋のライバルで、有島武郎と心中する山川登美子に中田喜子と、豪華な顔ぶれがそろった。吉永と優作は、シリーズ第3部となる84年のテレビドラマ「新 夢千代日記」でも共演している。ちなみに、プロデューサーの岡田裕介は、俳優として「夢千代日記」に出演していた。第1回日刊スポーツ映画大賞では、作品賞と主演女優賞(吉永)に輝いた。
©東映

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