2022.04.18

今年登場する新しい数え方「クエタ」や「ロント」は誰がどう決めた?

候補が限定される厳しい命名条件とは?
臼田 孝 プロフィール

接頭語の「厳しい条件」とは?

接頭語の場合はまず、倍数(大きい数)と約数(小さい数)をセットにして、わかりやすく示す必要があります。

今回新たに追加される4つの接頭語も、「クエタ(quetta)」と「クエクト(quecto)」、「ロナ(ronna)」と「ロント(ronto)」がセットになっています。

また、倍数の接頭語は末尾を「a」にして記号は大文字表記にすること(quetta=Q、ronna=R)、約数の接頭語は末尾を「o」にして記号は小文字表記にすること(quecto=q、ronto=r)、などの原則(制約)があります。

しかし、これらをまんべんなく満足し、かつ、短くて簡潔な言葉を選ぶのは容易ではありません。

紛らわしい言葉もNG

加えて、言語の違いによる誤解が生じないか、不適切な言葉を連想させないか、といった事情も考慮する必要があります。

たとえば、100分の1を示す「センチ(centi)」は、センチ・メートル(cm)などの単位でおなじみですが、もしこれが「セン」という音であったならどうでしょう?

私たち日本人にとっては「千」と紛らわしく、さまざまな数量表現の場面で多大な混乱をもたらしたに違いありません。

また、英語の「billion」は10億(10の9乗)を表しますが、古語では1兆(10の12乗)を表すことがあるため、billionを連想させる接頭語は誤解を招く可能性があります。

長い専門用語であれば、いくらでも命名できますが、シンプルで短い音、さらにそれが他の意味には使われていない、という条件が課されると、名付け親が苦労することが容易に想像されます。

【写真】さまざまな制約で苦労するさまざまな条件が課されるため、名付け親も苦労する photo by gettyimages

なぜ「Q」と「R」が選ばれたのか?

さらには、省略記号(メガ=M、ギガ=Gなど)に使えるアルファベットにも限りがあります。既存の単位(メートル=m、アンペア=A、ニュートン=Nなど)ですでに用いられている記号は、使用することができないからです。

実際のところ、大文字・小文字ともに使えるのは、「Q」と「R」だけです(アルファベット以外ではマイクロの「μ」が使われていますが、コンピュータで扱える文字コードを考えると混乱を招きかねません)。

こうして選ばれたのが、この秋に開催されるメートル条約総会で審議される4つの接頭語、10の30乗を示す「クエタ(quetta)」、27乗を示す「ロナ(ronna)」、逆にマイナス27乗を表す「ロント(ronto)」、そしてマイナス30乗を示す「クエクト(quecto)」というわけです。

なお、10の30乗については当初、「クエカ(quecca)」が提案されていたようですが(https://www.science.org/content/article/you-know-kilo-mega-and-giga-metric-system-ready-ronna-and-queccaを参照)、その後、ある言語において別の意味を想起させるという理由から、「クエタ(quetta)」に落ち着いたようです(このようなことが起こるのも、情報技術の激変で、ウェブでなんでも検索できるようになったからかもしれません)。

【写真】使えるのは、「Q」と「R」だけ大文字・小文字ともに使えるのは、「Q」と「R」だけだった photo by gettyimages

メートル条約総会は11月に開催されます。これら4つの接頭語が無事に承認され、新たな接頭語の命名を祝福したいですね。

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