暗躍する請負人の憂鬱    作:トラジマ探偵社

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第27話

 何も遮蔽物が存在しない互いのモノリスと選手が遠目で確認できる『草原ステージ』で決勝戦が始まろうとしていた。

 

 草原ステージで戦う前提で作戦を考えていたから、これはちょうどいいのだろうけど、こちらに都合よく場所が決められているのは作為的なものを感じる。特例措置した代償というヤツだろうとでも思えばイイんだろうが、こちらの事前に考えた作戦がリークされていることに戦慄する。

 

 そんなことは頭の片隅にでも置いといて、一高の吉田と西城レオンハルトの格好について考察する。吉田はローブを着込み、西城レオンハルトはマントを羽織っていた。何らかの魔法的作用が働く仕様なのだろうが、変に目立っているのは言うまでもない。

 

 司波達也はローブやマントの類いは着ていない。CADを2つ持っているだけ。一条と撃ち合いする腹積もりだろうから、動きやすさを重視したのだろう。他二人に関し、考えられる中で最も警戒すべき対象は吉祥寺真紅郎だろうし、恐らく『不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)』の対策だな。俺のことは全く眼中にないようで、なんだか悲しくなるようなならないような微妙な気分だ。意識はしてるんだろうが、どんな戦い方するか分からないから対策の取りようがないという感じかな。

 

 そこへ、試合開始の合図が鳴り響く。

 

 速攻で一条は空気弾を放ち、司波達也が『術式解体』で魔法式を消し飛ばしたのを皮切りに撃ち合いが開始された。

 

 作戦は単純明快。一条が司波達也と撃ち合い、吉祥寺が吉田と西城レオンハルトを相手取り、俺は自陣で待機する。個々人の力に任せた作戦と呼べるか怪しい作戦だ。

 

 一条が魔法を撃ちながら進撃を開始。距離を詰めれば、それだけ相手をハッキリ視認できるので手数も増やせるんだけど、それなら協力して手数を増やせばいいだろう。それに術式破砕は消耗が大きいデメリットが存在し、使わせ続ければ遅かれ早かれガス欠を起こすのは目に見えていると思うのだが、一条からの『手出し無用』の要望におとなしく従う。

 

「打ち合わせ通り、僕も行ってくるよ」

「いってらっしゃい」

 

 一高側の分担は司波達也が攻撃、西城レオンハルトが防衛、吉田が遊撃といったところだろう。で、今はその役割分担もモノリス防衛も捨てて司波達也が一条を担当、他二人で吉祥寺を担当するようだ。

 

 一条は魔法による撃ち合いに高揚し、ご満悦の様子。司波達也に一定距離まで近づいた後は、近づかれないように牽制しながらの射撃戦を開始。どうにか距離を詰めて接近戦に持ち込みたい司波達也は、前傾姿勢でダッシュする。充分速い部類に入るのだが、音速じゃないから常人の範疇だな。メスゴリラが異常なだけで、普通の人間だろう。

 

 吉祥寺の方は見事に苦戦してた。彼の扱う『不可視の弾丸』は視認できなければ発動できない欠点があり、硬化したマントが盾となられると発動できず、そこへ刀身が飛んできて辛くも避けるが、突風が起きて飛ばされる。

 

 流石にフォローしなきゃマズイだろうと思ったが、一条が司波達也との撃ち合いをほっぽり出して吉祥寺のフォローをしたので不幸中の幸いというヤツだろう。

 

 そして、致命的な隙を晒した一条は、司波達也に接近を赦してしまった。

 

 一条は遠距離からの攻撃を得意とし、接近されることはあまりない。初めて接近を赦し、佐渡でトラウマになるような事があったのだろうと思われ、本能的に恐怖を抱いてしまった彼は空気弾をレギュレーションを超えて撃ってしまった。それも十六発。マジか……。

 

 誰の目にも明らかな明確な違反行為をしてしまったことに『三高失格』の4文字が出てくる。大会委員の介入で試合中止だろうと思ったら、なんと続行判定。介入は無し。司波達也は『術式解体』で自分の身を守るしかなく、十六発の内の十四発まで撃ち落とすも、残り二発はどうしようもなかった。

 

 利用してしまった手前、このまま死なれると困るところだが、何らかの防御手段を講じると三高の生徒たちから大バッシングを受けるだろう。それに公の場で十師族の魔法力を超えて注目を浴びるのは好ましくない。

 

 心苦しいが、ここは見なかったことにして司波達也が空気弾を喰らうのを傍観する。ああ、反則負けだわ。

 

 なんて思った次の瞬間──―サイオンが煌めく。刹那の瞬間に魔法が発動したのだが、恐らく誰も感知できていない。傍目には、レギュレーション違反の攻撃を受けて動けないハズの司波達也が起き上がったのだ。

 

 そして、一条の顔の横へ右手を突き出していた。

 

 フィンガースナップの動作だ。動揺から反応が遅れた一条に逃れる術は無い。

 

 ──―パチン! 

 

 指を鳴らして発生した音を増幅させる魔法が使われ、凄まじい爆音が鳴り響く。一条はその場に崩れ落ち、司波達也は片膝をついた。

 

「相打ちか」

 

 思わず呟いてしまったが、誰も聞いてないだろう。

 

 互いに本気を出せず、手加減した上での勝負であったが、なにはともあれ一条は司波達也に敗北した。動けなくなってくれたので手間が減った。

 

 後は吉田と西城レオンハルトだが、西城レオンハルトは一条の攻撃をモロに受けたハズで気絶……まではしてないようだ。

 

 なんだかハブられている気がしなくもなく、吉田は息も絶え絶えだが起き上がる。魔法を発動させる。

 

 一条が倒されたことに動揺しまくりの吉祥寺は対処に遅れを生じさせてしまっている。一般魔法師と同レベルと世間に認識させるには、どのみち注目されるのは仕方ないとして最小限にしておきたいから、吉祥寺に倒れられると困る。

 

 そう判断してCADを向けて障壁魔法で吉祥寺を守ろうとしたのだが、飛来してきた刀身に肩を打たれて照準が狂って魔法を外してしまった。

 

 雷に打たれて吉祥寺は戦闘不能。俺は邪魔されて計算が狂ったのもあるが、傷口が開いたのもあって苛立ちが募る。後で縫合するか、今ここで止血するかの選択なんだが……とりあえず、こんな奴らに負けるとか癪でしかない。

 

 でも、戦闘に突入して更に傷が開くのは辛い。わざと負けるようにしたら、あの鈍器でブッ叩かれて余計に血が流れる。嫌だったらヘルメットを脱げば解決するが、今度は三高の面々に戦犯扱いされて学校生活に響く。善戦して負けても戦犯扱いされることに変わりないから、最良は吉祥寺が倒される前に倒れておけばよかったんだな。それで吉祥寺をハッキングして勝たせればよかったんだ。

 

 他人を信用し過ぎた。魔法師を信用して信頼した結果、しくじりを赦してしまった。

 

 麻酔が切れて燃えるような痛みが熱を上げ始め、打たれた肩にじんわりと熱くなってくる。

 

 疲労困憊の吉田とまだ余力のある西城レオンハルトに対し、こっちは病院のベッドにいるのが相応しい怪我人。よし、全力防御しつつ戦おう。

 

 吉田の魔法は『干渉装甲』を展開し、西城レオンハルトの物理攻撃には『対物障壁』で対応。回避したら傷口が広がるので動けない。精神干渉で痛覚遮断したいけど、精神干渉系に適正あるのを謎の超推理が発動して四葉と関係あるように疑われるので使えない。泣きたくなるような激痛に苦しみながら戦わなければならないのだが、誰がこんなドMが喜びそうなハードモードにしたんだよ。俺だよチクショウ! 

 

「その程度の攻撃で……!」

 

 先ずは疲労困憊の吉田に空気弾を撃つ。何重にも分身して幻影を見せられるが、丸ごと照準して撃ってしまえば関係ない。

 

「ぐぁっ」

 

 どれかが当たって吉田はダウン。残すは鈍器持ち。

 

 質量体を当てられても、障壁を貫くことは出来ないことは分かったから、後はひたすら気絶するまで空気弾を当てるのみだ。相手は一条の攻撃をくらっても起き上がってきたから、相当頑丈だと思われる。

 

 ──―刀身が飛んでくる。

 

 対物障壁を展開し、防御しようとする。

 

 ──―魔法式が消し飛んだ。

 

「ちぃっ!」

 

 動けなくなってろよ、このゾンビ野郎! 

 

 スローモーションとなって向かってくる質量体。防御は間に合わない。新たな魔法式を構築したところで無効化されるなら、やれることは限られる。

 

 飛来した刀身が鳩尾に命中。意識が飛びそうになるのを歯を食いしばって繋ぎ止め、刀身を掴む。

 

 この鈍器CADは刀身を二つに分けて、分離した部分と柄に残った部分の相対位置を硬化魔法によって固定する仕組みになっているようで、刀身が延びているような状態だ。

 

 質量体と固定している部分の間は空洞で、魔法が終了する間際に戻ってくる仕組みだろう。

 

 魔法が終了する際、刀身が戻れないのであればどうなるかといえば……刀身は魔法的制御から外れることとなって手元に残って投げ捨てた。鈍器野郎から攻撃能力を奪ってやったのだ。

 

「マジかよ!」

「くたばれ、この鈍器野郎!」

 

 俺はもう一個の特化型CADを取り出し、それぞれ司波達也と西城レオンハルトに照準して引き金を引く。発動するのは圧縮した空気弾だ。

 

 大量のサイオンを消費する力技である術式解体は、そう何発も連射できるような代物じゃない。ひたすら撃ちまくって相手の対応力を超え、更に一発毎の消費を上げるために魔法式の強度を上げてしまえば良いだけの話だ。

 

片っ端から術式解体に集中して躱されたとしても、当たるまで弾幕を張り続けてやる。

 

「くっ……!」

「うぉぉっ!?」

 

鈍器野郎、沈黙。

 

残すは司波達也のみ。一条の二の舞は避けるため、手数が増えたのを良いことにドカドカ撃ちまくる。近づかれたら終わりだ。それ以外の魔法は遠距離から将輝を仕留められなかった時点で俺の無意識の情報強化を貫くことは出来ない。

 

そして、

 

『お兄様──―!!』

 

 悲鳴にも似た声が聞こえ、試合終了のブザーが聞こえたのを最後にそこから先は暗闇となった。

 

 

 

 


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