★★★★ 2022年7月27日(水) 大阪ステーションシティシネマ6
外国の大状況の中での自国民の小状況の物語ってことで、かつてのアメリカ映画「アルゴ」が思い出された。あれは、イラン革命の中で人質となったアメリカ大使館員たちの救出劇であったが、我田引水的な汎アメリカ視点が拭えなかった。
今作もソマリア内戦勃発時の韓国・北朝鮮大使館員たちの脱出劇なのだが、内戦時の首都モガディシュの混乱が予想以上に活写されていて、寄る辺のない小市民たちが只管に生き残る為に道を模索するという小ドラマに違和感がない。こういう企画が通り、これだけのレベルで撮り上げる韓国映画の力量と熱量は最早我が日本が太刀打ちできるもんじゃないと不甲斐ない思いです。
韓国映画の不朽不滅のネタである南北間の果てしない認識の乖離と相剋。でも元々は同じ国民であるという哀しいまでの民族同一性。韓国大使館に逃げ込んだ北の人々がささやかな夕餉を共にするシーンが素晴らしい。
ソマリア内戦が単なる背景と化しても、この南北間の切羽詰まったドラマのもたらすエモーションは政治ドラマとして充分な重心があると思いました。
【ネタバレです】
一行は、イタリア大使館の援助でケニア行きの飛行機に搭乗することができた。空港が近づいて各々の出迎えが見える。激烈な逃避行を共にした彼らには同志的な一体感が生じていたが、それを機外に持ち出すことは許されない。機内で別れを告げて互いに視線を交わすことのない南北の人々。深い詠嘆が余韻をもたらす素晴らしいラストだと思いました。