本物の行方
ある意味ファザコンの本領発揮
証拠とは、本物の首だ。
何故こんなまどろっこしいことをしたかは分からない。でも、何か理由があるはずです。
禁忌と言われるくらいなのだから、大っぴらに研究できないものだと思われます。
出来たとしても、莫大な費用や犠牲、そして倫理的問題があるでしょう。研究というのは、基本としてお金・施設・人員が多く必要となります――生命に関わるものは特にそう。
「弟に教えぬのか?」
わたくしが会場に事実を伝えに行かないことにフォルトゥナ公爵は意外そう。
もちろん、キシュタリアにずっと黙っているつもりはないです。
「会場の沙汰が終われば、伝えます。あの子はラティッチェ公爵になったのです。聞く権利はあります。そして、アルマンダイン公爵とフリングス公爵を動かすほどの証拠を突き止め、焚きつけた。これは事実です」
今、この首は偽物だと暴露しても混乱の坩堝にしかならないでしょう。
心無い人は自分も気づかなかったことを棚に上げ、キシュタリアを非難するはずです。
同時に犯人に余計な情報と時間を与えることになります。
「そーだね。死体を盗るのもそうだけど、ホムンクルスなんてもっと想定外だよ。ホムンクルス関連はサンディスでは当然だけど各国でも禁書だ。一般的には存在すら伝わっていないはずだ。ぎりぎり合成獣が知られているくらいかな」
死体を盗み、それを素材にして模造品を作る。狂気の沙汰ですわ。
既に滅びた古代の魔導王朝では割とポピュラーだったそうですが、それは長年の積み重ねがあって厳密なルール内での製造だったそうです。
「動物ならともかく、人間を作ったっていうのが特に不味い。最悪、教会や神殿が出てきて宗教戦争勃発も起こりかねない。
アイツらの考えだと、ヒトを作るのを許されたのは神だけだ。生命が番う生殖は自然の摂理だけど、生命創造は神の領域って考えだからね。神を侮辱したって切れ散らかすよ」
どこの世界も宗教ガチ勢は面倒くさいようですわ。
わたくしは前世、八百万の神様がいるお国の出身でした。無宗教のような多宗教のようなちゃんぽん文化ですわよね。
クリスマスを祝って一週間もしないで初詣に行くのが標準の文化ですもの。近年(前世死期基準)ではハロウィンやイースターも押し寄せてきていましたわ……。
そもそもバレンタインだって聖職者の命日だったはずなのに、製菓会社の商業戦略によってチョコレートのやり取りする日になっていますし。
「内密に進めるしかないな」
断言するフォルトゥナ公爵に、ヴァニア卿も頷きます。
「殿下にスクロールで契約を結ばせた奴とは別に、魔法使いや黒幕がいるってことだね」
「別人ですの?」
「レベルが違い過ぎる。アイツの使っていたスクロールは難しくない。やり方さえ知っていれば、素人でもできるよ。ホムンクルスの製造は別格。ボクでも専門外だから無理」
我が国が誇る王宮魔術師であるヴァニア卿が断言します。
彼がホムンクルスという存在を主当たることができたのは、その身分だから知識があったのです。
そんな彼ですら、無理と断言するほど難しい技術……闇が深そうですわね。
わたくしは前世の知識があったから、魔法だから割と何でもありとあてずっぽうで発言をしてしまいました。
今回は吉と出ましたが、発言には気を付けなくては。
「マクシミリアン親子が罪に問われることは変わらん。アルベルティーナを脅迫していたのは事実だ。……だが、杜撰なあれらとは違い、その黒幕とやらは厄介そうだな」
色々とダメダメなところが丸出しだったマクシミリアン親子。
自分の欲に忠実で、見栄っ張りで傲慢で……扱い易そうな人間です。
派手に振る舞っていましたし、陽動や目隠しにするには丁度いい駒なのは想像できます。完全なる捨て駒要因ですが。
「あの馬鹿親子は利用されていたことすら気づいていなんじゃない?」
あり得ますわね。自分が公爵家と王家に連なると疑っていませんでした。
「いったい誰が、いつ作ったのでしょうか」
お父様の首を作るタイミングはそう多くはないはず。
お父様が死んだあとはゼファール叔父様とヴァニア卿が検分した時点では本物でしょう。国葬の最中も、聖水晶の棺の中で安置されていました。献花で何人もの人が目にしたはず。
偽首はこの特殊な魔溶液から出すと急激な劣化が始まる――聖水晶とは保存の性質が違います。棺の中がこの液体で満たされていたら可能でしょうけれど、透明な棺にそんなことはできないです。
「国葬後、ラティッチェの霊廟に納められるまでにすり替えが行われたのだろう。首もそうだが、体の行方も気になるな」
「あー、バラバラにされているかもねぇ。魔王閣下、タッパあるし持ち運ぶのに目立ちそう」
ヴァニア卿の言葉にわたくしは青ざめ、咎めるように睨むフォルトゥナ公爵。
「そんな……っ!」
「でも、下手に損壊させたら価値は下がるし、丸ごと誰かが保存している可能性もあるよ。秘密裏に調査は必須だねぇ」
価値って……いえ、確かにそうですわね。お父様はモノではないと言いたいところですが、黒幕にとってはそうなのでしょう。
もともと首と胴体は離れていたから、仕方がないとしてそれ以上に何か分断されていたらわたくし正気を保っていられるでしょうか……。
「フリングス公爵やアルマンダイン公爵が何かしら掴んでいる可能性があるだろう」
キシュタリアの協力者となってくれたお二方。
ラティッチェの霊廟と、マクシミリアン侯爵本家に乗り込みましたのよね……。
キシュタリアではなく、他家の当主二人が行くことによって公平性と事の重大さを認知させてもいるのでしょう。
「あのお二人……お父様と同年代? いえ、少し年上でわたくしよりもお父様とのお付き合いが長いはずですのにお気づきにならなかったのかしら?」
「殿下みたいなウルトラマニアックと一緒にされても困るよ。遠目で、しかも瓶詰の時点で気づくのが普通じゃないんだってば」
わたくしディスられているような? 確かにわたくしは重度のお父様フリークですが。
「できれば、秘密裡にお父様を取り戻したかったですわ」
「それは……難しいだろう。高位貴族が被害に遭ったのだ。裁判も行われるだろうし、いつかは衆目に晒される。奴らの罪を詳らかにするためには、グレイルは被害者であり物証そのものだ」
裁判の証拠の一つとして並ぶお父様の首(仮)。嫌ですわ。偽物だと分かっていても嫌!
想像するだけでも不愉快です。
「お父様を晒し者にするようで、気が引けます」
「今回、あれだけ貴族が目にしたんだ。その中には陛下だっているし大丈夫だよ。 四大公爵家の内、三人からの突き上げもあるし下手に出し惜しみしてズルズルさせるよりいいんじゃない? 一発ドカンってやったのはそのためだと思うよ?」
マクシミリアン親子の仕出かしは、近年稀に見る最悪な悪事です。
今までの余罪を徹底的に洗われるでしょう。その行きつく先は一つでも、これだけの事件を起こしたのですから、普段はなあなあで済まされる部分まで突き回されます。
彼らを庇う唯一の盾である貴族という立場も無くなるのだから誰も手助けしないでしょう。
「取り敢えず、閣下の首については精査名目でボクが預かっておくよ。信用できる相手には伝えた方がいい」
「お願い致します」
手を出すヴァニア卿に、瓶を差し出す。
彼が受け取ったのを確認すると、わたくしの中でぷつんと何か途切れる。脚からスーッと力が抜けて体が傾ぎかけた。
「アルベルティーナ!?」
あ、緊張の糸が切れました。
不味い。力が入らない。頭がくらくらする。血の気が、意識が。
会場に戻らなきゃいけないのに――まだ、全てを見届けていないのに。
読んでいただきありがとうございました。
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