前編記事『健さんは絶句、監督は骨折…映画『南極物語』のヤバすぎる撮影秘話』では、撮影前から過酷で壮絶だった映画『南極物語』の裏側の見てきた。本記事では、最後まで波乱万丈だった名作の撮影現場に迫る。
800頭と「面接」した
長谷川 タロ、ジロなどの犬たちの撮影も、そこで行われたんですよね。
大林 その通りです。実際の南極観測に同行したのは樺太犬なのですが、当時、日本で樺太犬は絶滅しかかっていました。だから、映画では北極圏のイヌイットが飼っているエスキモー犬を使っています。惟二さんとドッグトレーナーが北極圏中を探し回り、約800頭と「面接」しました。なんとかタロとジロに似た犬を見つけたのです。
角谷 撮影までの間、犬の間で上下関係を決めるためか、壮絶な戦いがあったそうです。喧嘩して耳を引きちぎられそうになった犬もいました。
長谷川 映画の中でのボス的存在はリキですが、実際のボスもリキだったのですか。
角谷 その通りです。計22頭の犬を調達したのですが、みんなで一頭一頭の性格を見極めていました。こうして、映画に出演する15頭を厳選していったのです。
意外に思われるかもしれませんが、演技の調教は一切しておりません。自由な動きをカメラに収め、編集で芝居を作ろうというのが、蔵原監督の方針でした。ですから、犬たちの撮影だけで120時間くらいカメラを回しています。
倒れるシーンは麻酔薬を使用
長谷川 劇中には、犬が力尽きて倒れるシーンや、首輪から脱出するシーンがあります。あれも、演技指導をしていないというのですか。
角谷 犬を自由にさせているだけでは撮れないショットもあります。たとえば倒れるシーンは麻酔薬を使いました。首輪抜けのシーンは、まず犬の腹を空かせておくんです。それから首輪をつけて、近くに餌を置いて撮影しました。
ちなみに、首輪の鎖をアザラシにくわえられて犬が海中に引きずり込まれるシーンはスタジオのプールで撮影しています。水中に潜ったスタッフが鎖を引っ張ったのです。
大林 いまなら問題になるかもしれません。「犬は何頭死んだんだ?」とよく周囲から聞かれました。
角谷 もちろん一頭も死んでいません。人命や犬命を損なうことも、大きな事故もなかった、それが本当に何よりでした。
でも、危ないことはたくさんありました。実は、高倉さんは2度遭難しかけています。