――絶滅映像作品の収集に命を懸ける男・天野ミチヒロが、ツッコミどころ満載の封印映画をメッタ斬り!
『暗号名 黒猫(コードネーム ブラックキャット)を追え!』
1987年製作、2008年公開・プロダクションU
監督/井上梅次、岩清水昌弘
脚本/河田徹(井上梅次の変名)
出演/柴俊夫、榎木孝明、本郷功次郎ほか
「スパイ防止法」の制定を立案した自民党議員たちの後押しで、1987年に製作されたという『暗号名 黒猫(コードネーム ブラックキャット)を追え!』は、出版・言論・報道の自由を侵害する「スパイ防止法」のプロパガンダ映画であるとして、各地で上映反対運動が起きた。
さらに製作費の資金源が、法外な値段の壺や印鑑などを売りさばく「霊感商法」で社会問題化していた統一教会(世界基督教統一神霊協会)系の反共産主義政治団体「国際勝共連合」だったことから、全国の劇場が上映を拒否。作品が商業ベースに乗ることは叶わず、「スパイ防止法」も廃案に終わった。
だが、キャスティングにはビッグネームがずらりと並び、監督も巨匠だ。お蔵入りを惜しむ多くの映画マニアが反応し、公開に向けて映画関係者が動いた。統一教会員がチケットを売り歩いた小規模な上映会や、「スパイ防止法制定促進国民会議」のホームページで直売される手製DVDなどでコツコツと資金を回収していたところ、2008年に東京渋谷のシネマヴェーラが企画した「カルト映画特集」で初公開が実現したのだ。
監督・脚本は、売り出し中の石原裕次郎が主演の『嵐を呼ぶ男』(57年)、三島由紀夫原作戯曲『黒蜥蜴』(62年)から、「必殺シリーズ」「ハングマンシリーズ」といった長寿テレビ番組まで、多作で知られる井上梅次。愛弟子・岩清水昌弘との共同演出だった。
また、夫人で宝塚出身の大女優・月丘夢路がジャニー喜多川と親交があったため、近藤真彦主演で『嵐を呼ぶ男』(83年)をリメイクするなど、1980年代のジャニーズアイドルによる主演映画をいくつか演出した。一方、夫人が統一協会系の商品「一和高麗人参茶」のテレビCMに出演していたため、その関係が取り沙汰されたが、月丘本人は「ローマカトリック信者です」と否定している。ちなみに、『暗号名 黒猫を追え!』には月丘夢路の実妹・月丘千秋が出演している。
音楽は、山口百恵とピンク・レディーのほとんどのヒット曲から、アニメソングとしては名曲の誉れ高い『デビルマン』のエンディング「今日もどこかでデビルマン」に至るまで、主に1970年代にヒットを連発した名作曲家・都倉俊一。わかりやすいモチーフのメロディによる劇伴(BGM)が作品を盛り上げた。
警視庁外事課の野々村警視(柴俊夫)は、ソ連に限りなく似たB連邦と、北朝鮮に限りなく似た北方共和国の防諜活動を任務とし、「黒猫」というコードネームのスパイを追っていた。一方、野々村の大学ラグビー部時代のチームメイト・大田黒(高岡健二)は、同じラグビー部OBのジャーナリスト・高松(国広富之)のコネで、ボランティアで参加している平和運動の資金提供をB連邦から受けていた。ちなみにラグビー部の主将役は内藤剛志。
野々村はカメラ店主・島田(伊吹剛)をマークするが、その妻・みどり(音無真喜子)は高松の妹だった。やがて監視中の島田が国外逃亡を図り、野々村らは巡視船とヘリで追跡するが逃げられてしまう。そこへB連邦スパイ・コルノフビッチが亡命し、同国のスパイ機密を暴露する。その情報を元に野々村がアジトに踏み込むと、そこにいたのは……。
とまあ、大学時代のラグビー部OB内や親族内で敵味方に分かれるような、国際的な公安にしては狭い範囲での攻防戦(笑)が繰り広げられ、ここでの刑事さんたちは『太陽にほえろ!』みたいには上手く検挙はできなかった。だが問題はそこではない。
映画マニア・ドラママニアの中には、ひとつの作品に対して、こんな楽しみ方をしている輩(オタク)が多い。例えば、和製スター・ウォーズとしてカルトな『惑星大戦争』(77年)のキャスティングを見れば、「『仕置人』の沖雅也、『助け人』の宮内洋、『からくり人』の森田健作、『仕置屋稼業』の新克利……わ、歴代の殺し屋が集結している!」と「必殺シリーズ」を連想して大はしゃぎする。
また、刑事ドラマの名作『特捜最前線』を見れば、「『仮面ライダー』の藤岡弘、、『仮面ライダーストロンガー』の荒木しげる、『秘密戦隊ゴレンジャー』『ファイヤーマン』の誠直也、『マイティジャック』の二谷英明。お、『ガメラ』『大魔神』の本郷功次郎もいる……こりゃあ『特撮最前線』だ!」と大喜びする。そういったオタク視点からすると、この作品は恐ろしく「揃っている」のだ。まず刑事役だけで挙げると、
柴俊夫……『シルバー仮面』『シルバー仮面ジャイアント』主役。
真夏竜……『ウルトラマンレオ』主役。
三ツ木清隆……『光速エスパー』『白獅子仮面』主役。『特捜最前線』刑事役。
荒木しげる……『仮面ライダーストロンガー』主役。『特捜最前線』刑事役。
本郷功次郎……『ガメラ』シリーズ、『大魔神』シリーズの常連。『特捜最前線』刑事役
山村聰……『ノストラダムスの大予言』『ゴジラVSキングギドラ』で総理大臣役、『必殺』シリーズ『ハングマン』シリーズでは元締め役。
ここの外事課には変身ヒーローと腕利き刑事が勢揃いし、警視総監(山村聰)までお偉いキャリア最強の部署なのだ(劇中ではさほどでもなかったが……)。さらに柴俊夫の父親役は『ゴジラ』シリーズほか東宝特撮の常連・久保明だし、スパイ側にも『Gメン’75』の伊吹剛、『ウルトラセブン』のモロボシダンこと森次晃嗣! これは特撮マニア、刑事ドラママニアなら見たくなるでしょう? 彼らの絡みを見ているだけでも楽しい作品だ。できれば一般流通に載せられる形でソフト化してもらいたいものだが、いろいろと難しいのかな……。
(天野ミチヒロ)
※イメージ画像:『暗号名 黒猫(コードネーム ブラックキャット)を追え!』
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