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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第1章 幼年期

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第一話「もしかして:異世界」

 目覚めると、金髪の若い女性が俺をのぞき込んでいた。

 美少女……いや美女と言って良いだろう。

 

(誰だ?)


 隣には、同じくまだ年若い茶髪の男性がいて、ぎこちない笑みを俺に向けている。

 強そうでワガママそうな男だ。筋肉が凄い。

 茶髪でワガママそうとか、

 そういうDQNっぽいのは見た瞬間に拒否反応が出るはずなのだが、

 不思議と嫌悪感はなかった。

 恐らく、彼の髪が染めたものではないからだろう。

 綺麗な茶髪だった。


「―――・・――・・・・」

 

 女性が俺を見て、にっこり笑って何かを言った。

 何を言っているのだろうか。

 なんだかボンヤリして聞き取りにくいし、全然わからない。

 もしかして、日本語じゃないのか?


「――――・・・・・―――・・・」

 

 男の方も、ゆるい顔で返事を返す。

 いやほんと、何言ってるのかわからない。


「――・・――・・・」


 どこからか、三人目の声が聞こえる。

 姿は見えない。


「あー、うあー」


 体を起こして、ここはどこで、あなた方は誰かを聞こうとした。

 引きこもってたとはいえ、別にコミュ障ってわけじゃないから、

 それぐらいは出来ると思った。

 のだが、口から出てきたのは、うめき声ともあえぎ声とも判別のつかない音だった。

 

 体も動かない。

 指先や腕が動く感触はあるのだが、上半身が起こせない。


(もしかして、事故の後遺症で……?)


 嫌な予感が脳裏を掠める。

 あれだけの大事故だったのだ、何日も意識不明で、今ようやく目覚めたにちがいない。

 全身打撲、内臓破裂、脊髄損傷、半身麻痺って所だろうか。

 後遺症も残るだろう。

 言葉がわからないのは、日本では助けられる医者がいなかったとか、そんな感じだろうか。


「・・・・・―――・・・―――」


 男が心配そうな顔を俺に向け、何かを言う。


「――・・・・―――」


 なんだろう。後遺症のことだろうか。


 それにしても、入院費用は誰が払ったのだろうか。

 まさか、俺を追い出した兄弟たちが?

 いや、そんなまさかだ。奴らが払ったとは思えない。

 むしろ奴らは、俺なんて死んだほうがいいと思っているだろう。

 葬式ぐらいはやってくれるかもしれないが、

 俺をのけものに遺産を三人で山分けするような守銭奴だ。

 葬式代だってケチるだろうし、入院なんてしたら見て見ぬふりをするに違いない。


 じゃあ、誰が……?


 ああそうだ、一人だけ引っ張りだすことに成功していたから、

 彼が命の恩人として俺を助けてくれたのかも………。


「・・・―――・・・・・・」


 と、思ったら男に抱き上げられた。


 マジかよ、体重百キロ超の俺をこうも簡単に……。

 いや、何十日も寝たきりだったのかもしれないし、体重は落ちているか。

 あれだけの事故だ。手足が欠損してる可能性も高い。

 死んだと思って目が覚めたら達磨。


(生き地獄だなぁ……)



 物心ついた初日。

 俺はそんな事を考えていたのだった。



---



 一ヶ月の月日が流れた。



 どうやら俺は生まれ変わったらしい。

 その事実が、ようやく飲み込めた。


 俺は赤ん坊だった。

 抱き上げられて、頭を支えてもらい自分の体が視界にはいることで、ようやくそれを確認した。

 どうして前世の記憶が残っているのかわからないが、残っていて困る事もない。

 記憶を残しての生まれ変わり。

 誰もが一度はそういう妄想をする。

 まさか、その妄想が現実になるとは思わなかったが……。


 目が覚めてから最初に見た男女が、俺の両親であるらしい。

 年齢は二十代前半といった所だろうか。

 前世の俺よりも明らかに年下だ。

 34歳の俺から見れば、若造といってもいい。

 そんな歳で子供を作るとは、まったく妬ましい。

 

 最初から気付いてはいたが、どうやらここは日本ではないらしい。

 言語も違うし、両親の顔立ちも日本人ではない、服装もなんだか民族衣装っぽい。


 家電製品らしきものも見当たらない(メイド服きた人が雑巾で掃除してた)し、食器や家具なんかも粗末な木製だ。先進国でないだろう。

 明かりも電球ではなく、ロウソクやカンテラを中心に使っている。

 もっとも、彼らが特別に貧乏で電気代も払えないという可能性もある。


 ……もしかして、その可能性は高いのか?

 メイドっぽい人がいるから、てっきりそれなりに金があるのかと思ったが、

 彼女が、父か母の姉妹と考えれば、なにもおかしい事はない。家の掃除ぐらいするだろう。


 確かにやり直したいとは思ったが、電気代も支払えないほど貧乏な家に生まれるとは……。



 でも、ただで美女の母乳を吸えるのは最高だ。

 体が成長していないせいか、

 それとも相手が母親であるせいか、

 まったく興奮はしなかったが……。



---

 

 

 半年の月日が流れた。



 半年も両親の会話を聞いていると、言語もそれなりに理解できるようになってきた。

 英語の成績はあまりよくなかったのだが、やはり自国語に埋もれていると習得が遅れるというのは本当らしい。

 それとも、この身体の頭の出来がいいのだろうか。

 まだ年齢が若いせいか、物覚えが異常にいい気がする。



 この頃になると、俺もハイハイぐらいは出来るようになった。

 移動できるというのは素晴らしい事だ。

 身体が動くという事にこれほど感謝したことはない。


「眼を放すとすぐにどこかにいっちゃうの」

「元気でいいじゃないか。

 生まれてすぐの頃は全然泣かなくて心配したもんだ」

「今も泣かないのよねぇ」


 両親はそんな風に言っていた。

 さすがに腹が減った程度でビービー泣くような歳じゃない。

 もっとも、シモの方は我慢してもいずれ漏らすので、遠慮せずぶっ放させてもらっているが。



 ハイハイとはいえ、移動できるようになると、色んな事がわかってきた。


 まず、この家は、裕福だ。

 建物は木造の二階建てで、部屋数は五以上。メイドさんを一人雇っている。

 メイドさんは最初は俺の叔母さんかとも思ったが、明らかに顔立ちが違った。


 立地条件は、田舎だ。

 窓から見た景色からは、のどかな田園風景が見えた。

 他の家はまばらで、一面の小麦畑の中に、2~3軒見える程度。

 かなりの田舎だ。

 電柱や街灯の類は見えない。近くに発電所が無いのかもしれない。

 外国では地面の下に電線を埋めると聞いたことがあるが、

 ならこの家で電気を使っていないのはおかしい。

 

(さすがに田舎すぎるなぁ。

 文明の波に揉まれてきた俺にはちょっと……

 生まれ変わってもパソコンぐらい触りたいじゃん)




 などと思っていたのは、ある日の昼下がりまでだ。


 することが無いのでのどかな田園風景でも見ようと思った俺は、

 いつも通り椅子によじ登り、窓の外を見てギョッとした。


 父親が庭で剣を振り回していたからだ。


(ちょ、え? 何やってんの?)


 いい年してそんなの振り回しちゃうようなのが俺の親父なわけ?

 中二病なわけ?


(あ、やべ……)


 驚いた拍子に椅子から滑った。

 未熟な手は椅子を掴んでも身体を支えることが出来ず、重い後頭部から地面へと落ちていく。


「キャア!」


 どしんと落ちた瞬間、悲鳴が聞こえた。

 見れば、母親が洗濯物を取り落とし、口に手を当てて真っ青な顔で俺を見下ろしていた。


「ルディ! 大丈夫なの!?」


 母親は慌てて駆け寄ってきて、俺を抱き上げた。

 視線が絡むと、安堵した顔になって胸をなでおろした。


「……ほっ、大丈夫そうね」


(頭を打ったときは、あんまり動かさないほうがいいんだぜ、奥さん)


 と心の中で注意してやる。

 あの慌てようを見るに、そうとう危ない落ち方をしたのだろう。

 後頭部からいったしな、アホになったかもしれん。あんま変わらんか。

 てか、後頭部がズキズキする。

 まあ、一応は椅子に掴まろうとしたし、勢いは無かった。

 母親があまり慌てていない所を見ると、血は出ていないようだ。

 たんこぶ程度だろう。


 母親は注意深く俺の頭を見ていた。

 傷でもあったら一大事だと言わんばかりの表情をしている。

 そして最後に、俺の頭に手を当てて、


「念のため………

 神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん

 『ヒーリング』」


 吹きそうになった。

 おいおい、これがこの国の「イタイのイタイのとんでけ」かよ。

 それとも、剣を振り回す父親に続いて母親の方も中二病か?

 戦士と僧侶で結婚しましたってか?


 と、思ったのもつかの間。

 母親の手が淡く光ったと思った瞬間、一瞬で痛みが消えた。

 

(………え?)


「さ、これで大丈夫よ。

 母さん、これでも昔はちょっとは名の知れた冒険者だったんだから」


 剣、戦士、冒険者、ヒーリング、詠唱、僧侶。

 そんな単語がぐるぐると俺の中を回っていた。

 なんだ、いまの。

 何したの?


「どうした?」


 母親の悲鳴を聞きつけて、窓の外から父親が顔をのぞかせた。

 剣を振り回していたせいか、汗をかいていた。


「聞いてあなた、ルディったら、椅子の上になんかよじ登って……今日は危うく大怪我する所だったのよ」

「まぁまぁ、男の子はそれぐらい元気でなくっちゃ」

 

 ちょっとばかしヒステリックな母親と、それを鷹揚に流す父親。

 よく見る光景だ。

 だが、今回は後頭部から落ちたせいだろう、母親も譲らなかった。


「あのねあなた、この子はまだ生まれてから一年も経ってないんですよ。もっと心配してあげて!」

「そうは言ったってな。

 子供は落ちたり転んだりするものさ。そうやって丈夫になっていくものじゃないか。

 それに、怪我をしたなら、そのたびにおまえが治せばいい」

「でも、あんまり大怪我をされて治せなかったらと考えると心配で……」

「大丈夫だよ」


 父親はそう言って、母親と俺を一緒に抱きしめた。

 母親の顔が赤く染まる。


「最初は泣かなくて心配だったけど、こんなにヤンチャなら、大丈夫さ……」


 父親は母親にチュっとキスをした。

 おうおう、見せつけてくれるねお二人さん、ヒューヒュー。


 その後、二人は俺を隣の部屋で寝かせると、

 上の階へ移動して、俺の弟か妹を作る作業へと入っていった。

 二階に行ってもギシギシアンアン聞こえるから分かるんだよ、リア充め……。



(しかし、魔法か……)

  

 それから、俺は両親やお手伝いさんの会話に注意深く耳を傾けるようになった。

 すると、聞く単語に聞きなれないものが多い事に気付いた。

 特に、国の名前や領土の名前、地方の名前。

 固有名詞は聞いたことのないものしかなかった。

 もしかするとここは………。

 いや、もう断定していいだろう。


 ここは地球ではなく、別の世界だ。


 剣と魔法の異世界だ。




 ………うん。

 悪くない。

 年甲斐もなくワクワクする。

 そんな世界に記憶を持って転生できたのだ。

 これでワクワクしないやつはニートになんかならない。

 

 よし、決めた。


 俺はこの世界で本気で生きていこう。

 もう、二度と後悔はしないように。

 全力で。

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