[社説]Web3を経済成長につなげよう
インターネットの新しい形である「Web3(ウェブスリー)」が注目されている。一部の企業ではなく個人がデータを利活用するのが従来との違いだ。社会のあり方も変える可能性があり期待感は大きい。新たな技術革新をわが国の経済成長につなげたい。
ネットが身近になったのは約30年前のことだ。1993年にスイスの欧州合同原子核研究機関(CERN)がワールドワイドウェブを無償公開したことで、ウェブ(クモの巣)のように広がるネット空間ができあがった。
中央集権から分散型へ
ウェブでは元来、誰もが自由に情報を発信できるが、当初はパソコンでページを見るというのが一般的な使われ方となった。
第2世代のWeb2.0という言葉が登場したのが2000年代半ば。代表格がSNSだ。米国でツイッターなどが生まれ、ネットは見るだけのものから個人も発信して交流する場へと進化した。
いずれも覇権を握ったのは米国だ。プラットフォーマーと呼ばれる企業が個人データを管理する中央集権的なビジネスを築いた。
日本企業は後手に回ってきたが、Web3は過去30年間のゲームのルールを一変させる可能性を持つ。まずは世界に飛躍する日本企業の出現に期待したい。
Web3の定義はまだ定まらない部分があるが、ほぼ共通するのが分散型台帳のブロックチェーンを基盤とする点だ。データが特定企業のサーバーではなく無数の個人のコンピューターに分散して保存・管理される技術だ。暗号技術によって履歴を鎖(チェーン)のようにつなげていき、データの改ざんが事実上不可能となる。
この技術が広がったことによってプラットフォーマーにデータを委ねるのではなく、個人が管理・所有することが可能になった。ネットがIT(情報技術)大手による中央集権型の支配構造から分散型に変容すると目される。
Web3は社会のあり方も変えうる。例えば、働き方だ。会社に代わる組織といわれるのがDAO(分散型自律組織)だ。
DAOでは事業やミッションごとにネット上に人が集まる。そこに参加するためブロックチェーン上に記録されるデジタル資産のトークンを購入したり、報酬として受け取ったりする。雇用契約に基づく会社とは性質が異なり、副業を前提とする働き方を促す。
ブロックチェーンに基づく技術では、例えばNFT(非代替性トークン)はデータに唯一性を与え、映像や音楽、暗号資産の証明書のような働きをする。簡単にコピーされて無料で流通していたデータにも新たな価値が生まれる。世界に通用するアニメなどコンテンツを生み出す日本企業にとってはチャンスとなるはずだ。
ほかにも巨大仮想空間のメタバース、取引所や金融機関を経由しない分散型金融のDeFi、ゲームと金融を組み合わせたGameFiなど、新しいビジネス形態も続々と生まれつつある。
日本の「失われた30年」はITで出遅れた時代と重なる。これらの新しいビジネスで活躍するスタートアップを育て、日本経済の再興につなげたい。
ただ、Web3で日本が世界に先んじているかといえば、今のところはそうではない。米国では3月、バイデン大統領がデジタル資産技術の開発・促進を求める一方で消費者などを保護する大統領令に署名した。ワイオミング州はDAOに法人格を認めた。
リスクと向き合う必要
一方の日本では企業が期末ごとに暗号資産の評価益への課税が義務付けられるなど税制や規制面で改善すべき点が指摘される。Web3は6月に閣議決定された「骨太の方針」や「新しい資本主義」の実行計画にも盛り込まれたが、政府には規制緩和など早急な環境整備に取り組んでもらいたい。
リスクとも向き合う必要がある。国家の管理が及ばない暗号資産は価値の乱高下が激しい。マネーロンダリング(資金洗浄)の温床になりやすく、NFTをかたる詐欺事件も起きている。
会社と比べて市場などからの監視の目が行き届きにくいDAOが犯罪などの暴走を起こす可能性もある。投資家や消費者を保護する仕組み作りが必要だ。DAOのあり方を含めてWeb3では国際的な制度整備も課題となる。日本は積極的に関わるべきだ。
新しい技術には矛盾がつきものだ。だからといって目を背けるべきではない。未知の問題を解決しながら社会に取り入れて成長につなげることが求められている。