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電子書籍は頒布か販売か? TRPG事務局が語る、版元に迫られる二次創作への対応

「安心して二次創作ができるように」各社が重視したガイドラインの軸

──複数社で協議をするにあたって、調整は難航しましたか?

梶原 もともと各社が独自のガイドラインを公表していたこともあって、割と早い段階で大枠の合意がとれていました。

その中でも、「あくまでもユーザーを萎縮させないこと」「ユーザーが安心して二次創作活動できること」の2点をとにかく揺るがせないようにしましょうというのは、参加した全社の中で軸になっています。

──20万円以上の売り上げが見込まれる場合はSPLLへの申請が必要となっていますが、金額に関してはどのように議論をされていったのでしょうか?

梶原 当初は、10万円以下なら無料、それ以上であればSPLLの申請が必要で、売り上げが30万を超えるようであれば別途個別の契約を必要とする案もあったりしたのですが、それだとさすがに幅が狭すぎるということで現状の金額設定に落ち着きました。

この金額も含めて、事務局として発表しているものは、状況に合わせて適宜調整をしていく予定です

──ガイドラインでは、版元が二次創作物を事前に審査することはないとされていましたが、SPLLに申請した作品に対しても審査は行われないのでしょうか?

梶原 そうです。ガイドラインは創作物の内容を確認したり、検閲したりするものではありません。許諾だけを与えるものですので、二次創作活動をされる方に不自由がないようにと思っています。

──そうなると、ユーザー側としては、現在頒布しているコンテンツに変更を加える必要はあるのでしょうか?

梶原  12月以降に頒布をはじめるものに関しては、SPLLに則った形でロイヤリティを頂戴することになります。それ以前に頒布されているものについては、申請などは不要です。

── SPLLとは別に、売り上げが70万円を超える場合は別途ライセンスが必要とされていますが、こちらの窓口もTRPGライツ事務局が担当するということでしょうか?

梶原 そうですね、事務局サイトに記載されている作品の二次創作物ということであれば、私たちが担当します。

もし、企業として各社の提供するタイトルと何かタイアップなどを行いたい場合は、個別の版元さんとお話いただくのがいいと思います

──関連して、現状動画配信の箇所がまだ策定中ですが、調整の目途などはありますか?

梶原 動画配信についてはまだ相談中なので、もう少しお待ちいただければと思います。

スーパーチャットやメンバーシップなどへのロイヤリティも含めて、形態や事情もそれぞれのプラットフォームで異なるとても複雑な部分ですので、慎重に議論を進めています

──SPLLによるライセンス料は、原著作物にあたるルールブックの原著者さんへの還元が行われるのでしょうか?

梶原 お支払いいただいたライセンス料から事務局の手数料を差し引いて、四半期毎に数字をまとめ、版元にお渡しします。その版元から原著作者さんへ還元をしていただくのが基本の形になっています。

──現在、SPLLにはどれぐらいの数の申請が来ていますか?

梶原 現状、40件を超えるぐらいです。ユーザーさんも様子を見ている部分もあるとは思いますが、この程度であれば十分対処可能な範囲ですね。

なぜ、ガイドラインは一部調整中のまま発表されたのか

──ガイドラインの内容について、発表時には電子書籍に関する部分などが調整中のままでした。その段階で発表されたのには、何か理由があったのでしょうか? 梶原 ガイドラインは当初、8月に発表される予定だったんです。それが、調整が難航した部分もあり年を越してしまいそうだったので、若干拙速であるかもしれないけども、ある程度数字面がまとまったところで発表し、必要に応じて調整しようという形になりました

──何か明確に、ここで発表しておかなければならないという感じだったわけじゃないのですね。

梶原 そうですね。電子書籍については、一度は全面的に禁止にして、状況を見て調整しようという話もあって、議論が続いていました。そんな中、同人誌などの電子販売を行うDLsiteさんからTRPGの電子書籍を扱いたいという相談がありまして。

発表時点ではまだDLsiteさんとの調整が完全に終わっておらず、あのような形での発表となったのですが、現在はロイヤリティ配分などの仕組みが定まったことでDLsiteさんでの頒布ができるようになりました。

BOOTHさんとも調整は完了していまして、今後も提携プラットフォームは増えていく予定です。

──ガイドライン中の二次創作の定義に「原著作物から取得した知見を利用」という表現があり、ユーザー間ではその解釈で議論が起こっていました。事務局としては、具体的にどういったことを想定されているのでしょうか?

梶原 TRPGにはルールやデータ、シナリオやイラストなどで様々なクリエイターが携わっていますし、それぞれの要素に発生する権利の帰属先は、各タイトルや出版社ごとに異なっています

個別ケースを全て列挙してもかえって混乱のもととなってしまうので、抽象的な表現ではありますが、「これはTRPGをもとにした二次創作物ですよ」という場合にはルールを守ってほしいということで「知見」としています。

──柔軟に対応できるようにあいまいな表現を使用されたんですね。逆に、禁止されていることとしては、具体的にどういったものがありますか?

梶原 我々としては、ルールブックの記述をそのまま載せたり、「ルールブックがなくても、その二次創作物でゲームが遊べる」状態はやめてほしいと思っています。

ただ、そのラインについては公式が無闇に提示してしまうとかえって悪用されてしまうこともあるので、どうしても「常識の範囲内で活動を行ってほしい」というような言い方にはなってしまいますね

──ガイドラインの禁止事項には、「公序良俗に反する表現」という文言もありました。こちらもかなり抽象的な表現となるため、二次創作者の萎縮をまねくのではないかという懸念も指摘されています。

梶原  TRPGは、ルールもシナリオも、時代や文化の背景が多岐にわたるカルチャーです。最終的には版元および原著作者に判断していただくことになりますが、事務局としては、「公序良俗」という言葉で必要以上に内容を制限したり、創作の範囲を狭めるつもりはありません

ただし、TRPGの二次創作物が社会的な問題を引き起こすなどすれば、二次創作活動だけでなくTRPGというジャンルそのものを揺るがしかねません。もし、作成しようとしている二次創作物に「公序良俗」という言葉に引っかかりを覚えるような内容が含まれる場合は、それを広く一般に公開するべきなのかいったん立ち止まって考えてみる。

あるいは、そういう内容を目にしたくないと考えている人が避けられるように、わかりやすく注意書きをするなどすれば、トラブルは起きづらくなるかと思います。

──また、「ネタバレへの配慮」は二次創作物の内容にも踏み込んだものだと思います。この条項には、どのような意図があったんでしょうか?

梶原  TRPGは何度でも遊べますが、初見時の楽しさと驚きは大事にしてほしいということですね。シナリオはゲームの中核でもありますから。

──事務局としては、シナリオのストーリーにTRPGの面白さが宿っていると考えている?

梶原 必ずしもシナリオだけに宿るわけではないと思っています。実際、同じシナリオを何度も遊んでいるというユーザーもいらっしゃいます。ですが、リプレイ動画などで既存のシナリオを遊ぶ場合、冒頭でネタバレの注意喚起をすることは一般的だったと思いますし、既存のシナリオをリプレイなどの二次創作で扱ってもよいか、その際にネタバレは許されるのか、というユーザーからのお問い合わせも多かったので、意図があって記載したというよりは、ユーザーからの要望があったために記載した、という認識です。

──シナリオ以外の部分で、TRPGにはどのような面白さがあると思いますか?

梶原 例えば、RPGの元祖である『Dungeons & Dragons』には、連作のシナリオを前提に、キャラクターのレベルアップや新しい武器・魔法の入手でキャラが強くなっていくという楽しみがあります。そういった楽しみがあるから、『D&D』が輸入されてきた当時は、ネタバレが少々あろうとも全然構わなかった

それがだんだん、みんなでストーリーを楽しむ方向が模索された結果、コンベンション(※3)のような一期一会の場で、ドラマ性の高い単発のシナリオを楽しむという遊び方が提示されていきました。今の主流は、シナリオの中で自分のキャラクターがどんな位置にいるのか考えて振る舞い、愛着を持って物語に絡んでいくようなものが多くなったように感じています

※3 公式やコミュニティが開催する、TRPGで遊ぶ交流会のこと。その場に集まった見ず知らずの人と共に遊ぶことが多く、場によっては初心者の体験会も兼ねていることがあるため、単発のシナリオが遊ばれることが多い。

『ダンジョンズ&ドラゴンズ プレイヤーズ・ハンドブック第5版』/画像はAmazonから

梶原 「ネタバレへの配慮」を盛り込んだのには、そういった「初見の驚き」を担保してほしいという意図があります。

──TRPG関係の配信や動画などを制作することが「ネタバレ」というガイドラインに抵触してしまうのではという心配をしている人も見受けられました。動画などの投稿は問題ないのでしょうか。

梶原 冒頭での注意喚起をしてくだされば大丈夫です。公序良俗の話と同じで、最初の段階で心構えができるようにしてくれていれば、そんなにトラブルも起きない話だと思います。

自分の分身たるキャラクターをどんな風につくって、どうストーリーに絡ませていくのかというのが、TRPGの一番の面白い部分なので、その感動が不意打ちの「ネタバレ」で奪われるような状態は避けてほしいということです

盛り上がるTRPGシーンとその過去・未来

──業界を牽引する6社が共同でガイドラインを出されましたが、こういった共同声明や事業は今回が初めてだったのでしょうか?

梶原 いえ、そんなことはないんです。ずっと昔には「ゲーム出版懇話会」という団体が「ジャパンゲームコンベンション(JGC)」というイベントをやっていて、その時代から各社とお付き合いがあります。

現在でも、事務局に参加する各社などが共同で、毎年熱海のホテルを貸し切ってのイベント「TRPGフェスティバル」を開催しています。そういった縁もあって、なんだかんだで、TPRG各社さんとは30年ぐらいの付き合いがありますね。 ──(編集小林)個人的には、現在のブームは、かつて『ロードス島戦記』がメディアミックスの歴史を切り拓いた時代のように、TRPGがカルチャーに影響力を持つことができるような勢いを持っているのではないかと思っております。長くTRPGに携わられてきた梶原さんとしては、現在のブームと今後のTRPGをどう見られているのでしょうか?

梶原 TRPGライツ事務局は非常に大きな組織だと勘違いされているところがありますが、各社の出先機関みたいなところなので、何か業界の方針を決定するような組織ではない、ということはお伝えしておきたいです。

そのうえで、これは完全に個人的な意見ですが、かつて『ロードス島戦記』が登場し、TRPGが盛り上がっていた時代は、ライトノベルが若者に浸透していく最中で、その流れを後押しもしつつ、一緒に登っていったんですよね

その点では、今の『クトゥルフ神話TRPG』のブームは、ニコニコ動画やYouTubeという動画配信文化が根付いていくなかで、同じように、新しい文化と時代の流れに乗っているように見えます。形を変えつつも、新しい文化と密接につながっていくことで、さらに盛り上がっていけるだろうと思っています。
 
──そういった時代の変化に対しては、TRPGライツ事務局としてはどう対処されていかれますか?

梶原 事務局としても、変化に対して対応しないわけにもいかないし、状況に即した形で変化していくのが理想です。そこはできるだけユーザーのことを考えつつ、各社で協議をしていきながらやっていきたいところですね。

──最後にTRPGファンに一言いただいてもいいでしょうか?

梶原 なにか物語をつくってみたいと思っても、技術やモチベーションがなければ難しいし、自分以外の人を集めるのは難しいですよね。

ですが、TRPGでは、性別も、人間という種族の枠すらも超えて、自由に自分たちだけの物語をつくることができます。それは、このTRPGというツールの非常に優れた部分です。

配信を見てはじめたという人の中には、オンラインセッションしかしたことがないというユーザーさんも多くなっているかと思います。オンラインは、映像や音楽やイラストをふんだんに使ったセッションができますが、オフラインで相手の顔を見ながら盛り上がる感覚は、オンラインとはまた違った趣があります。

オンラインでしか遊んだことがないという人たちにも、みんなで卓を囲んでワイワイ遊ぶ体験もしてもらい、様々な形で楽しんでもらいたいですね

動画・配信文化と交わり広がるTRPGカルチャー

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