出版社の販売するルールブックをもとにファンがシナリオを自作するなど二次創作も活発化。二次創作以外に、人気シナリオを原案に再構成した舞台やユーザー発のアニメ映画化プロジェクトも登場している。後者は先日、クラウドファンディングで1億円以上の支援を集めた(関連記事)。
10月には、業界を牽引するアークライト、新紀元社、KADOKAWA、グループSNE、ファーイースト・アミューズメント・リサーチ(F.E.A.R.)、冒険支援(冒険企画局)の6社が連名で、TRPGライツ事務局の発足と二次創作に関するガイドラインの策定を発表。
ガイドラインには、20万円以上の売り上げが見込まれる二次創作コンテンツの場合、有料ライセンスを申請する必要がある旨などが定められており、二次創作文化が花開いていた最中だったためユーザーたちの間で大きな話題を呼んだ。
現代のネットカルチャーとしてTRPGを追い続けてきたKAI-YOU(関連記事)では、TRPGライツ事務局にインタビューを行った。
今回は、TRPGライツ事務局を代表して、TRPG専門書籍『Role&Roll』の編集長もつとめるアークライトの梶原佳介さんに、策定の経緯や意図、調整中のままガイドラインが発表された理由などについて語ってもらっている。
取材・文:安倉儀たたた 編集:小林 優介
目次
電子書籍の二次創作物は「頒布」か「販売」か
──今回発表されたガイドラインは、グレーゾーンでありながら現在のTRPGブームの根幹でもある二次創作に切り込んだものだったため、発表当初はユーザーから賛否の声が上がり、議論に発展しました。どのような経緯でガイドラインの策定がはじめられたのでしょうか?梶原佳介(以下、梶原) ガイドラインが必要だという話は5、6年ぐらい前から出ていまして、実際の策定は2020年末になってはじまりました。
2011年ごろから、主にニコニコ動画で10代などの若い層を中心に『クトゥルフ神話TRPG』をプレイした様子を動画に起こしたリプレイ動画が流行っていました。動画を見た層が自分たちでも遊んでくれるようになったことでTRPGのユーザー数も増加したのですが、それに伴って、二次創作活動にもそれまでとは大きく違う変化が現れたんです。 梶原 動画が流行る前の同人誌は、グループSNEの『ソード・ワールドRPG』やF.E.A.R.の『アリアンロッドRPG』を題材とした、ト書きのようなリプレイ本が中心でした。
それが、ニコニコ動画でのブームを契機に、リプレイは本から動画で見るフェーズに変わって、同人誌ではシナリオ本が増えてきたんです。それに伴って、わたしたち出版社の出す公式のリプレイ本の売り上げにも影響が出てきました。
──(編集小林)売り上げが減ってきた、ということですよね。私も動画から入った世代ですが、確かに二次創作で購入するのは主にシナリオ本ですね。
梶原 『クトゥルフ神話TRPG』のシナリオは『Role&Roll』などに掲載されているものもありますが、定期的に遊ぶにはそれだけだと絶対数が少ないのでしょうね。ユーザーさんのニーズに寄せていく形で、二次創作でもシナリオが主流になっていきました。
そういった流れに伴って、TRPGを扱う各社に「二次創作をやっていいか、ダメなのか」という問い合わせが増えていったんです。
二次創作にまつわる権利関係は非常に難しい部分がありまして、版元としては、二次創作を一概に認めるわけにもいかないし、せっかく楽しまれているものを全部やめろというのも画一的すぎる。
また、最近では同人誌の頒布を電子書籍で行う流れも起きていて、それも問題になってきていました。紙であれば100部か200部ぐらいを刷って即売会で頒布して終わりでしたが、電子書籍となると無期限、無制限に売り続けていくことになります。
──無期限・無制限でとなると、確かに制作費をまかなうためのいわゆる同人な「頒布」か、商業的な「販売」かという解釈も分かれそうですね。
梶原 そういった状況があって、我々も二次創作ガイドラインをつくってスタンスを提示するべきだという話になり、TRPGライツ事務局が発足することになりました。
──ニコニコ動画などのTRPGリプレイが人気になる以前は、二次創作の権利関係が問題になることはなかったのでしょうか?
梶原 中にはいき過ぎてしまう人もいましたが、TRPGの業界も今ほど大きくなく、「こういうのはよくないよね」という暗黙の了解もあって、自然と解決するケースがほとんどでした。
──今は参入者もどんどん増えていますし、暗黙のルールは通じなさそうですね。
梶原 加えて、ユーザーさん同士でも、二次創作物に対して「それはやっていいのか」という揉めごとが起きやすくなったように感じます。そうなると「やっていい」というお墨付きが欲しくなるのでしょうが、問い合わせをいただいたところで私たちとしても公的にお墨付きは出せない、というジレンマがあったんですよね。
アメリカの『クトゥルフ神話TRPG』ファン文化から取り入れた「SPLL」
──具体的なガイドライン策定はどのように進んだのでしょうか。梶原 まずKADOKAWAさんと弊社(アークライト)で、『クトゥルフ神話TRPG』の権利をどう保全するかという話をしたところからはじまりました。『クトゥルフ神話TRPG』の国内における展開の権利は、弊社がケイオシアム(※1)さんと契約していまして、KADOKAWAさんには出版権を渡して販売を行ってもらっています。
※1 『クトゥルフ神話TRPG』を制作したアメリカの企業。
『新クトゥルフ神話TRPG』ルールブック/画像はAmazonから
※2 TRPGの二次創作にまつわるライセンス制度。国内向けのものは、電子出版物を有償で頒布する場合は売り上げの10%のライセンス料、電子出版物以外でも売り上げが20万円(税込み)以上となる場合には、申請し1作品あたり16,500円(税込み)のライセンス料を支払うことが必要となる。
──SPLLは、ケイオシアムの制度を取り入れたものだったんですね。
梶原 二次創作に関する議論が『クトゥルフ神話TRPG』の権利を保全することからはじまったので、大元であるケイオシアムのSPLLに全く関係なくガイドラインを策定するのは難しいだろうと判断しました。
とはいえアメリカと日本ではファン活動の風土も違います。ケイオシアムのSPLLには「無料」という概念がなく、国内に直接適用するのは難しかったんです。ですので、日本での二次創作活動にフィットするように調整したうえで組み込んでいます。
──TRPGライツ事務局のSPLLは、国内ユーザー向けにカスタマイズされているんですね。
梶原 ケイオシアムの方でも、日本の二次創作文化が独特だという認識を持ってくれていまして、弊社のハンドリングにある程度任せてくれたうえでお互いに調整を行っていきました。
そうしてできたSPLLをベースに、できるだけユーザーが萎縮せず安心して二次創作活動できるようなガイドラインをつくるべく、「初音ミク」などを展開されているクリプトン・フューチャー・メディアさんのような他社のガイドラインなども参考に、弊社で基礎案をつくりました。
当初はKADOKAWAさんと弊社だけで運用する予定だったのですが、F.E.A.R.さんが独自にガイドラインを出した際に、有償での電子販売を禁止したところ「電子媒体での無料配布も禁止」だと受け取られて炎上してしまったことがありまして、その件でF.E.A.R.さんとお話しするうちに、複数社で共通のガイドラインをつくることで、ユーザーも納得しやすい形に整えていくのがよいのではないかという方向にまとまりました。
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